とあるモブウマ娘の物語   作:トルポめぐろ

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第10話  モブウマ娘、チームに加入する

 

 

 「よし、自己紹介は済んだな。」

 

 選抜レースが行われた翌日、早速チームのメンバーとの顔合わせが行われた。私はたどたどしいながらも、なんとか自己紹介を終えてほっと一息つく。

 

 「それじゃあ、次はうちのチームについて紹介しよう。私がチーフトレーナーの須川。そして彼がサブトレーナーの北山君だ。あの日、君をここへ連れてきてくれた人だね。昨年から専属トレーナーを卒業し、トレーニング全般で私を補佐してくれている。シップのこともよく見てくれているよ。」

 

 「改めてよろしく。」

 

 「よろしくお願いします!」

 

 一般的に新人のトレーナーはサブトレーナーとしてチームに所属し、雑務をこなしながら基本を学んでいく。やがて慣れてきたら一人のウマ娘と一対一の専属トレーナーとなり実戦経験を積む。そこからチーム全体の指導を行えるようになるまでには、かなりの経験が必要になると聞いた。この若さでそこを卒業しているとは、このサブトレーナーさんはよほど優秀なトレーナーなのだろう。・・・ゴルシちゃんにはかなり手を焼かされているようだが。

 

 「そしてこちらがベテラントレーナーである今村さんだ。もともと所属していたチームが解散になり、引退しようとされていたところを無理言ってうちに来て頂いた。ウマ娘の健康管理・ケアのスペシャリストで、うちでもそこをメインに担当してもらっている。」

 

 「よろしく。」

 

 「よろしくお願いします!」

 

 確かに白髪の混じった頭髪といい、チーフよりも年上に見える。けどなんだか優しそうな人だ。ウマ娘の競走生活には怪我がつきものというが、そういった面でも健康管理の担当がベテランだと安心感がある。

 

 「うちはまだ設立して3年目でチームランクはまだまだ低いが、重賞に出走できるメンバーも増えてきている。特に今年は有望な新人が加入してくれたのもあって、重賞制覇も期待できる。君は今のところ大きな目標は掲げられていないとのことだけど、それもきっと走るうちに出てくるだろう。まずは1勝することに向かってみんなと支え合い、頑張って欲しい。これからよろしく!」

 

 「はい!皆さんよろしくお願いします!」

 

 パチパチパチ・・・

 

 <よろしくー

 

 <頑張ろうねー

 

 集まってくれたチームのメンバーたちに頭を下げると、拍手と共に歓迎の声が聞こえてくる。暖かく迎えてくれているようで安心するとともに、胸が熱くなる。

 

 

 

 ・・・・・・・

 

 

 解散になりみんながトレーニングへ向かった中、私は部室に残りトレーナーさんから今後について聞かされる。

 

 「今日は模擬レース走ってすぐだからトレーニングは控えようか。明日から軽めに始めて、基礎的なトレーニングをやっていこう。」

 

 「はい!」

 

 「あとはその様子を見てデビューの予定を立てていこうと思う。」

 

 「!」

 

 デビュー!そうか、これでチーム所属になったからデビューできるんだ・・・!これでやっと、ようやくスタートラインだ・・・!

 

 「それで、どうする?今日はもう帰って休んでもいいけど、トレーニング見学してく?」

 

 「・・・!ぜひお願いします!」

 

 「じゃあ向かおうか。・・・シップもいつまでもそこでサボってないで行くよ。追加のドリンク運んできなさいね。」

 

 「!?」

 

 トレーナーさんがそう言ってソファーの後ろへ回ると、そこにはゴルシちゃんが隠れていた。一体何してるんだ君は・・・。

 

 「・・・サボってるわけじゃねえ!うら若き乙女と中年オヤジを密室で二人きりにするわけにはいかねえからな!」

 

 えぇ・・・。

 

 「ウマ娘相手にどうこうできるわけないだろ。ほら、今村さんも待ってるから。」

 

 「・・・・・分かったよ。行けばいいんだろ。」

 

 あのゴルシちゃんが言うことに従っている・・・!流石はチーフトレーナーだ。

 

 「ゴルシちゃん、運ぶの手伝うよ。」

 

 

 ・・・・・・・・

 

 

 練習場へ向かうと二人のサブトレーナーの下、チームの面々がトレーニングを行なっていた。全体で行うメニューはもう済んだらしく、各々のトレーニングをこなしている。

 

 「いよーう!おっちゃん、久しぶりだな!まーた白髪増えたんじゃねえか?」

 

 「さっきまで部室で顔あわせてたやろ、シップ。変な事ばっか言っとらんで早うウォームアップしてきいや。」

 

 早速ゴルシちゃんが今村トレーナーに絡んでいたが、こちらもベテラン。慣れた様子で対応していた。私はというと見ているだけではなんなので、休憩に入るメンバーにドリンクやタオルを手渡して交流を図ることにした。

 

 「早速手伝っているなんて偉いわね。」

 

 しばらくそうしていると、長い黒鹿毛が綺麗なウマ娘がやってきた。

 

 「お疲れ様です!ありがとうございます!これ、どうぞ!」

 

 そういってドリンクとタオルを手渡す。

 

 「ありがとう。あたしはアスカトップレディっていうの。高等部1年よ。よろしくね。」

 

 「よろしくお願いします!」

 

 「あたし、レースが近いから今日はもう上がりなんだ。よかったらちょっとお話ししない?」

 

 「あ、はい!」

 

 先輩はそういいながらベンチに座ると、私にも座るよう促す。

 

 「でもほんとにみんなの言う通り。」

 

 「えっ?」

 

 「実はね、ゴルシちゃんの友達らしいから変な子なんじゃないかってみんな噂してたの。でも実際に話してみたら普通な子じゃんってね。」

 

 「それは・・・ゴルシちゃんに比べたらみんな普通な子ですよ。」

 

 「あはは!それは確かにそうかも!」

 

 先輩と二人で笑い合う。きれいな人だったので緊張したが、話してみると親しみやすい柔らかさのある人だ。

 

 「・・・でも、ちょっと意外だったかも。」

 

 「?」

 

 「ゴルシちゃんてあまり他人と深く付き合っている様子なかったから。彼女って基本フレンドリーだけど、根本的には自分の世界を生きるタイプでしょ?」

 

 「・・・うーん、そうなんですかね?私にはよく分かりません・・・。」

 

 「ふふ。あなたに対しては何か特別なものがあったのかもね。」

 

 「・・・ゴルシちゃんの考えてることは全然分かりません。いっつも変なことばかり言ってるし・・・。」

 

 このチームに入れたきっかけはゴルシちゃんなので感謝はしている。だけどなぜ私を加入させたかったのか。・・・未だに分からない。

 

 「でも、走るとびっくりするほど凄いんだよね。あっさりOPも勝っちゃって、次は重賞制覇だってトレーナーさんたちみんな期待してるんだよ。」

 

 そう、ゴルシちゃんは強いのだ。ふと気になって彼女の過去レースを調べたが、デビュー戦はレコード勝ち。続いてOPであるコスモス賞も完勝し、G3札幌ジュニアステークスでは出遅れながら2着に入った。そこで勝ったウマ娘も世代トップレベルの実力といわれている子だ。出遅れて2着だったゴルシちゃんの能力もまた、そのレベルであることは疑いようがない。

 

 「でももう一人いるんだよ。あなたと同期で重賞勝つことを期待されている子が。」

 

 「え!?そうなんですか?」

 

 私が驚きの表情を浮かべていると、先輩は練習場の奥の方にあるトラックを指差した。

 

 「あそこで併走している鹿毛の子がいるでしょ?あの子がそのジャスタウェイちゃん。この前の新潟ジュニアステークスで2着に入って、今月の東スポ杯に向けて調整してるの。」

 

 「おぉ〜・・・。」

 

 確かに見ているとかなり負荷を高めたトレーニングを行なっているのが分かる。東スポ杯は再来週なので、そこに向け本格的に追い込みを掛けているのだろう。スパートをかけると併走している先輩を悠々と引き離していく。強い。間違いなく。

 ・・・しかしそんなに強い同期が同じチームに二人もいるとは。設立したばかりでチームランクはまだ低いと言っていたが、これは思ったより強いチームに入ってしまったのでは・・・?

 

 「あたしもずっと重賞勝つのを目標にやってきたけど、先を越されちゃうかも知れないなー。」

 

 「いやいや。・・・・・・私は重賞勝つのが目標!なんてとても言えないです。」

 

 重賞。条件戦を勝ち上がったごく一部のウマ娘のみが出走を許されるオープンクラスのレース。その中でも特に賞金・レベル共に高いG1・G2・G3の

レースたちのことをそう呼ぶ。もし一つでも勝つことができれば一生自慢できる。

 

 「私はまだデビューもしてないですけど、自分がそんな実力がないことは分かります。」

 

 「そんなこと・・・」

 

 「いえ、いいんです。でも実力がないからこそ、目の前の小さな目標をひとつひとつを乗り越えていこう。そう決めてるんです。」

 

 「・・・!」

 

 「ですからアスカ先輩、これからご指導やアドバイスよろしくお願いします!」

 

 「ふふ、こちらこそ。あたしで良ければどんどん頼ってね!」

 

 「はい!よーし、やるぞー!!」

 

 「・・・なんだかゴルシちゃんが惹かれたのも分かる気がするなぁ。」

 

 「えっ?」

 

 「なんでもない!ほら、もうすぐトレーニング終了の時間になるから、みんながドリンクもらいに押し寄せてくるよ!」

 

 「うわっ!やばい!!」

 

 慌ててドリンクとタオルを用意する。チームが強くても、同期たちが強くても関係ない。私のやることは目の前のことを一歩ずつだ。

 先輩が最後に呟いた言葉は聞き取れなかったが、このチームで頑張ろう。そんな風に思えた放課後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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