チームに加入してからニ週間が経過した頃、私は順調に休養から明けて基礎トレーニングをこなし、次の段階に進もうという所まで来ていた。
「ジムでウエイトですか?」
「ああ、動きはだいたい見せてもらったからね。次は持ってる筋力を測ってみたい。どんな筋肉のつき方してるのかでまた変わってくるからね。」
はえー。流石はプロのトレーナーだ。自分がどんな筋力のつき方しているかなんて考えたこともなかった。
「俺はジャスタの調整を見ないといけないから、北山くんに測定してもらってくれ。もうアスカたちとジムに居るはずだから。」
「はい!分かりました!」
アスカ先輩は先々週に行われた、3勝クラスのユートピアステークスに見事勝利し休養に入っていた。その間も部室に顔を出してくれてはいたが、また一緒にトレーニング出来るかと思うと胸が高鳴る。
「ああ、それと・・・」
「はい!」
「シップがまた行方不明なんだけど、居場所心当たりない・・・?」
「・・・・・・。」
・・・・・・・・・・・・・・
「ふぎぎぎぎ・・・・」
「はいオッケー、これは完了ね。」
「うはぁーーっ・・・!キツい・・・・!」
ジムに到着するとアスカ先輩たちに迎えられたが、談笑するのもそこそこに筋力測定へと移された。さなざまな器具を使い、様々な箇所の筋力が測定されていく。今まで一度もやったことのないエクササイズの連続に、必死に食らいついていく。明日は確実に筋肉痛だなぁ・・・。
「よし、少し休憩したら次にいくよ。」
「ちょっとトレーナーさん、ペース速いんじゃない?新人ちゃんいびり?」
「いや、こんなもんだろ。お前も無駄口叩いてないで自分のトレーニングしろよ。」
「はーい。」
「あはは・・・。」
トレーナーさんにアスカ先輩が冗談まじりに話しかけている。デビューする前から北山さんが中心となって先輩を指導していたらしく、なかなか気安い間柄のようだ。
「はい、じゃあ次いくよ。これ上げてみよう。」
トレーナーさんがなかなかにゴツいバーベルを指差す。うわ、これ行けるのか・・・。
「うおおおお・・・!」
お、重い・・・!
「頑張れ!上がるぞ!」
トレーナーさんが応援してくれる。けど、重い・・・!
「そうだ頑張れ、気合入れろー!!お前の上腕三頭筋はそんなもんじゃねえだろッ!!」
「え?」
なんだか聞き覚えのある声に応援され、ふと聞こえたを向くとすごい勢いでゴルシちゃんが筋トレしている。行方不明じゃなかったのか・・・。
「うおおおファイヤーーッ!!ゴールドラーーーッシュ!!お前も筋肉を燃やせーッツ!!上腕三頭筋を信じろ!!」
いやこれスクワットだから上腕三頭筋関係ない・・・。というか重りの量やばくない?120kg以上あるでしょ、それ。
「ほれほれ、どうした?そんなもんか?お前の全力、見せてみろよ!」
とんでもない重さのバーベル担いだスクワットをしながら、左右に動いて煽ってくる。・・・ムカつくなその動き。
「くそぉ、やってやらあああ!」
気合を入れて一気に持ち上げる。やった!!
「よーし、よくやったー!お前の母ちゃんの僧帽筋も喜んでるぜ・・・!」
「はあ、はあ、ごめん今ツッコむ余裕ない・・・。」
「スクワット100kg、1回だけとはいえ立派だな。」
「あ、ありがとうございます・・・。」
トレーナーさんに褒められるが、目の前にもっとやばい化け物がいたせいでその凄さが分からない・・・。
「これで測定は終了だからしばらく休んでていいぞ。それから・・・」
「お?」
「ゴルシ、お前今日外で走るメニューのはずだろ!また部室にも来なかったみたいだし、今村さんがずっと探してたんだぞ!早く外の練習場行ってこい!」
「わりーわりー。でも今日はこれから第3宇宙の惑星首脳会談に出席しないといけねーから、それはまた今度な!バイビー!」
「あっ待てこのッ・・・くそ、こういう時だけ抜群のスタート決めやがって・・・。」
トレーナーさんの制止も虚しく、あっという間に逃げていってしまった。あれだけ激しいスクワットしてたのにおかしいだろ・・・。
「100kg1回で動けなくなってる自分が情け無くなっちゃいますね・・・。」
「いや、あいつは色々規格外だから気にしなくていいぞ。」
「そうよ!ゴルシちゃんはチームの筋力測定全ての最高記録者だもの。ジュニア級で100kg上げられただけで凄いよ!」
「そうなんですかね・・・。ありがとうございます。」
トレーナーさんとアスカ先輩がフォローしてくれる。それにしてもチームの記録全部持ってるとか、ゴルシちゃん・・、どんだけだよ・・・。
「ふあぁーっ!汗びっしり!」
「私もですー・・・。明日は確実に筋肉痛ですよー。」
アハハハ
トレーニングを終え、みんなで部室に戻り着替える。先輩達とも打ち解けてきて、雑談にも花が咲くようになっていた。
「いやでもいい記録出してたねー。今年の新人たちはすごいなぁ。」
鹿毛の背の高い先輩が話す。ダートで活躍している私たちの一つ上の学年のウマ娘、シルクシュナイダーさんだ。
「でも、ちょっと重いもの持ち上げられても速く走れる訳じゃないですからね。何かレースで活かせるんでしょうか?」
「ちょっと重いバ場とかで強いのかもよ?」
「いいなー、私重いバ場全然ダメだもん。」
アスカ先輩は確かにタフなバ場より高速バ場でこそ能力を発揮するウマ娘だ。先日勝ったユートピアステークスも高速バ場の東京レース場でのことだった。
・・・私の適性って何なんだろう。
今までの経験から、同期たちと比べて瞬発力があるとは思えない。皆んなの言う通りパワーが優れているならば、重バ場巧者なのだろうか。スタミナはどうだろうか。いくらパワーがあってもスタミナがなければそれを活かせない。・・・トレーナーさんはどう感じているのだろうか?
ーお先〜。
ーお疲れー!
気がつけばもう皆んな帰り支度を済ませ、続々と部室を後にしていた。
私も行かないと・・・!
脱いだジャージを雑に鞄に詰め込み、部室を出る。鍵は後ほどトレーナーさんが閉めてくれるはずだ。ベルちゃん、今日帰ってくるんだっけ?
「あの・・・!」
「!?」
部室を出てすぐ、誰かに呼び止められる。あれ、確かこの子って・・・・。
「突然すみません・・・!私、ジャスタウェイといいます。」