とあるモブウマ娘の物語   作:トルポめぐろ

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第13話  モブウマ娘、東スポ杯を見る

 

 

 11月19日土曜日。生憎の雨が降る中、私たちチームは東京レース場にやってきていた。

 

 「やっぱりかなりバ場が悪そうね。この時期のジュニア級の子たちにはかなり過酷なレースになりそう。」

 

 そう語るのはつい先程到着したアスカ先輩だ。他にもチームメンバーの大多数がなんとか予定を調整し、応援に来ている。通常、特に仲の良いチームメイトのレース以外は各自の調整を優先するものだが、今日はなんせチーム初の重賞勝利がかかっているのだ。行方不明になりがちなゴルシちゃんも今日は来ている。

 

 「本来1800mはジャスタにぴったりの距離ですが、このバ場だとどうなるか・・・。」

 

 「怪我だけはせんようにな・・・。」

 

 サブトレーナーさん達も心配するように今日のバ場はかなり悪い。URAの発表でも不良バ場となっている。すでに行われたレースを見てもその影響は大きく、重いバ場に脚をとられて直線半ばで力尽きるウマ娘が多く見られた。パンパンの良バ場とは違い、力がないと勝てないバ場だ。

 

 ザワッ

 

 返しウマが始まり、客席から歓声が上がる。こんな天気でもそれなりにお客さんが来ているのはやはり、ブリランテさんが出走するからであろう。デビュー前から有力視されていて、デビュー戦でも快勝。このレースでも一番人気に推されている。当の本人は初の重賞ということで少し緊張気味な様子だ。

 対するジャスタちゃんは三番人気。既に重賞に出走した経験があるからか、パドックから一貫して落ち着いた様子だ。

 

 「ブリランテ頑張れーー!」

 

 少し離れた客席にベルちゃんとエースさんの姿が見える。こちらに気がつくと手を振ってくれた。

 

 やがて返しウマが終わり、ファンファーレを挟んでゲートインが始まる。二人とも外のいい枠に入った。こうした重いバ場になると外枠の方が有利だ。コースの内側は先に行われたレースによって大抵酷く荒れており、内枠ほどスタートからその荒れた道を走らされることになるからだ。

 

 「・・・・・・・。」

 

 なんだか今日はゴルシちゃんが異様に大人しい・・・。いつもの感じだと水たまりなんかを見つけて、何かいねーか見に行こうぜ!とか言って私を引きずって行きそうなものなのに・・・。何か悪いものでも食べたか・・・?

 

 ガシャン!

 

-スタートしました!少しバラついたスタートになりました。

 

 そんなことを気にしているうちにレースは始まった。確かにバラついたスタートだが、二人は出遅れなどはなく出れたようだ。

 

ーさあ誰がいくか・・・。二番手にディープブリランテが上がっていきます。

 

 外枠だったブリランテさんが強引に前に出た。掛かり気味に先頭に取り付いていく。一方、ジャスタちゃんは無理せず中団から前を伺っている。

 

 「よし、いいポジションだ・・・!」

 

  中盤に入りペースが落ち着くとジャスタちゃんは位置を少しずつ上げて、先頭から四番手につけていた。

 

 「ここから直線に備えてどれだけ余力を残せるか・・・!下手に動いちゃだめ・・・!」

 

 アスカ先輩の言う通りだった。仕掛けに行く子はおらず、動きのないままレースは終盤、最終コーナーから直線へ入っていく。

 

ーさあ各ウマ娘、内を空けて・・・先頭はディープブリランテに代わるか!

 

 みんな荒れた内側避けながらスパートしていく。ブリランテさんが二番手から抜けてくる、それを追うように中団に控えていたウマ娘たちも脚を伸ばす。ジャスタちゃんも四番手からスパート開始だ。

 

 「がんばれー!!」

 

 「いけー!!」

 

 みんなの声援が飛ぶ。東京の直線は長く、これから坂が待っている。最後の踏ん張り所だ・・・!

 

 「はあああーっ!!」

 

 !?

 

ー抜けた!完全に抜けたディープブリランテ!!この重たいバ馬をものともせず2バ身、3バ身・・・!

 

 最後の坂とこの重たいバ馬のコンボでみんなが伸びあぐねる中、ただ一人ブリランテさんが突き抜ける。

 

ーディープブリランテ、ゴールイン!!圧勝でした!二番手以降は接戦、器の違いを見せつけました!連勝で重賞制覇です!

 

 つ、強い・・・・!

 

 敗れたウマ娘たちは汚れてしまうのにも関わらず、ぐちゃぐちゃのターフに倒れ込んだりしている。それだけ厳しいレースだったのだ。

 

 「・・・・・・・」

 

 チームのみんなも言葉を失っている。無理もない、それくらい強かったのだ。序盤かかっていたはずなのに最後一人だけつき抜けて伸びてきた。このバ場でそれができるとは、やはり強さが抜けていたと言わざるを得ない。

 

 <すげえ・・・

 

 <これは来年のクラシックの主役になるな・・・

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 「すみません。位置取りは良かったのですが、直線でいっぱいになってしまいました・・・。」

 

 「いや、今日は仕方ない。相手が強かったんだ、気にするな。」

 

 控室ではトレーナーさんとジャスタちゃんが話している。やはりかなり消耗した様子だ。

 

 「チームに重賞のタイトル、獲ってきたかったです・・・。」

 

 「いいさ、お前ならそのうち獲れる。それに、まだまだお前は成長途上なんだからな。これからだ。」

 

 「はい・・・。」

 

 「さあ、少し休んでウイニングライブに備えよう。激しいダンスは控えめにな。」

 

 「・・・・・・。」

 

 私は隣にいるゴルシちゃんの様子が気になった。トレーナーさんたちを見つめているようだが、一言も話さない。

 

 「ゴルシちゃん?なんかずっと元気ないけど、何かあったの?」

 

 「あ?ああ、なんかボーッとして力が出ねえんだ。ラマダンしてるせいかも知れねえ。」

 

 「は?ラマダンって断食するやつ?」

 

 「うぅ・・・。腹へってきたぜ・・・。」

 

 悪いもの食べたんじゃなくて、何も食べてなくて元気なかったのか・・・。

  

 「おい断食は止めろ。お前来月レースに出るだろ・・・!」

 

 ほんとになんで断食なんてしてんだ・・・・。

 

 「・・・・じゃあ食わせてくれ。」

 

 「は?」

 

 「じゃあトレーナーが食わせてくれよ。ゴルシちゃんの体調管理はトレーナーの仕事だろ?」

 

 「はあ?おいおい。」

 

 「よーし、決定!トレーナーのおごりで反省会すっぞ!!」

 

 ゴルシちゃんが謎理論でたかり始めた。が、それだ!!

 

 「おいちょっと待て・・・」

 

 「トレーナーさん!私、お肉が食べたいです!!」

 

 「は?」

 

 「私もそこで二人の意見を聞いてみたいです。ぜひお願いします。」

 

 「おいおいお前たち・・・。」

 

 「おいおい今日ジャスは頑張ったんだぞ〜?ご褒美もあげられない大人はダサくねぇかぁ〜??」

 

 「トレーナーさん!!私、お肉が!!食べたいです!!!」

 

 「はぁ〜・・・。分かったよ。ただし、程々にしろよ!ウマ娘3人でドカ食いされたらたまらんからな。」

 

 「やった〜!」

 

 こうしてゴルシちゃんのおかげで無料の焼肉を食べることに成功し、私たちは大いに楽しんだ。ジャスタちゃんも悔しさはあれど落ち込んではいない様子だった。(ゴルシちゃんの隣でその芦毛を至近距離で眺められて嬉しかったのかも知れない)最後トレーナーさんがお会計を見て青い顔をしていた気がするが・・・。まあ、それは今後レースで返していこう・・・。うん。

 

 

 

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