とあるモブウマ娘の物語   作:トルポめぐろ

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誤字指摘ありがとうございました。


第14話  モブウマ娘、小倉へ行く

 

 

 「小倉に行こう。」

 

 「え?」

 

 12月に入ってすぐのある日、唐突にトレーナーさんから小倉行きを打診された。

 

 「明日阪神でロッソとシルクのレースがあるからな。ちょっと早いけど、どうせいくなら一緒に行った方がいい。」

 

 「・・・すみません話が読めません。」

 

 明日阪神レース場でチーム最高学年のロッソネロ先輩と、再びのオープン入りを目指している私たちの一つ上のシルクシュナイダー先輩が出走するレースが行われる。トレーナーさんが見にいくのはわかるが、なぜ私も・・・?

 

 「ああ、すまない。話の順番がおかしかったね。実は君のデビュー戦が決まったんだ。来週日曜、小倉で芝の2000mね。」

 

 「!? ほんとですか!?」

 

 デビュー!!ついに来た!

 

 「それで一旦こちらに戻るのもあれだからね。君について来てもらえばスムーズだと思ってね。」

 

 「なるほど!分かりました!頑張ります!」

 

 「はは、まあ気負わずに雰囲気を味わうつもりで行こう。」

 

 ついに、ついに来たのだ。この時が。この1週間、トレーニングで強めにしごかれていたけどそう言うことだったのか・・・!

 

 「明日朝出発するから今日中に準備しときなよ。」

 

 「はい!お疲れ様でした!明日よろしくお願いします!」

 

 

 

 

 デビューだ・・・!デビューだ・・・!!

 

 緊張感よりデビューできる嬉しさが勝ち、ウキウキで帰路につく。多分、通りすがりの人からも私が浮かれているのが分かってしまうくらいだったと思う。

 

 そうだ、あのジュース買っておこう。向こうで売ってるか分かんないし!

 

 愛飲している例のジュースを買いに中庭へ寄っていくと、その帰り道に意外な人物と遭遇した。

 

 「あ!」

 

 「む、貴様は・・・!」

 

 「エアグルーヴ教官、お疲れ様です!」

 

 「ああ、久しぶりだな。」

 

 私が1年生の時、教官として担当してくれていたエアグルーヴさんだ。オークスや天皇賞を制覇し年度代表ウマ娘にも選出された伝説級のウマ娘でありながら、引退後はトレーナーとして何人かの担当をしつつ、教官としての指導も行っている。現在担当しているルーラーシップさんも既にG2を2つ獲っているなど、指導者としても一流の超がつく有名人である。

 

 「少し前にチームに入ったそうだな。あのままいつまでも燻っているようなら私がまた叩き直してやるところだったぞ。」

 

 「あはは、おかげさまでなんとか・・・!そうだ、デビューも決まったんですよ!」

 

 「! そうか・・・トゥインクルシリーズは甘くはないだろうが、励めよ。」

 

 「ありがとうございます!」

 

 「ところで・・・その大量に買い込んでいる飲み物は・・・?」

 

 「ああこれ美味しいんですよ!飲めば飲むほどってやつです!ゴルシちゃんは口に合わなかった見たいですけど・・・。遠征するのでストックに、と思って!」

 

 「そ、そうか・・・。」

 

 あれ?心なしか表情が引きつってらっしゃるような・・・?

 

 「そういえばゴールドシップと同じチームだったな・・・。」

 

 「そうなんです。加入できたのもゴルシちゃんが誘ってくれたのがきっかけなので、感謝してます。」

 

 「そうか。やつに誘われて、か・・・。」

 

 「エアグルーヴさんはゴルシちゃんのことご存じなんですか・・・?一年生の時、一緒のグループにはいませんでしたよね?」

 

 「ああ・・・。やつは色々と特別でな・・・。」

 

 「特別?」

 

 「いや、こちらの話だ。貴様が気にすることではない。・・・だが奴に会ったら校庭をボーリングする許可だの、プールを拡張して生物を放つ許可だのを生徒会への要望として提出しても無駄だと伝えておいてくれ。」

 

 「あはは・・・分かりました、伝えておきます!」

 

 エアグルーヴさんは学生の頃、生徒会役員としても活躍したことで有名だ。前会長だったダイワスカーレットさんや、現会長のブエナビスタさんにも頼られることが多いのだろう。・・・てかなんだよそのハジけた要望は。

 

 「ではな。デビュー戦、頑張れよ。貴様のトレーナーは優秀だが相談できないこともあるだろう。何かあればいつでも連絡して来い。」

 

 「はい!ありがとうございます!」

 

 エアグルーヴさんと別れ、今度こそ帰路へつく。圧倒的な実績と凛とした佇まい、それに厳しいながらもしっかり一人一人を見てくれる器量。まさにできる女性の理想像のような人だ。憧れるウマ娘が多いのも当然だ。

 ・・・それにしてもそんな人に特別と言わしめるゴルシちゃんは流石というか何というか・・・。

 

 

  

 

 ・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 2週間後、私は小倉レース場にいた。

 

 先日ジャパンカップが行われた東京レース場や菊花賞や天皇賞(春)が行われる京都レース場、皐月賞や有馬記念の中山レース場、宝塚記念や桜花賞などが行われる阪神レース場は4大主場と呼ばれている。その他のレース場はいわゆるローカルレース場と呼ばれているが、この小倉レース場もその一つだ。ここでは執り行われるG1レースがないのでテレビ等でも見かけることは少なく、私も今回デビュー戦で走るにあたり初めて訪れた。そんなローカルなレース場だけれども、入ってみると意外と広く、芝の状態も良かった。早めに到着しての調整だったが、概ね順調にすすんだ感触はある。

 先週阪神レース場で行われた2勝クラスのレースでは、チームから二人の先輩が出走した。ロッソネロさんも最後方の辺りから追い込んだが5着まで、見事中団から伸びていったシルクシュナイダーさんが勝利した。シュナイダーさんはこれで昇格となり、あと一つ勝てばクラシック期以来のオープン入りとなる。

 

 そんな先輩たちに続くために、今日これからデビュー戦に臨むのだ。パドックでは初々しいルーキーたちに温かい声援が送られている。私も6番人気だったがしっかりとそんな声援を浴び、頑張ろうと気合が入る。バ場入りの際にはトレーナーさんが背中を叩いて送り出してくれ、少しだけ緊張が和らいだ。

 私は7枠7番。9人立てだったので外めの枠となったが、枠による有利不利なんてデビュー戦では微々たるものだ。みんな確固たる作戦なんてないのだ。とにかく自分の力を出し切ることに集中するべきだ。

 最後の子がゲートに収る。さあ、いよいよこれまでの成果を発揮する時だ。

 

 ガシャン!

 

 私のデビュー戦が、始まった。

 

 

 

 

 

 

  

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