ガシャン!
!!みんな速い!
ゲートが開いてスタートした瞬間、既に隣のウマ娘たちは私の前に出ていた。
あっ!
遅れを取り戻す前に、外からウマ娘たちが切れ込んでくる。進路を塞がれてしまった!これでは前には行けない・・・!結局、離れた最後方での追走になってしまった。
落ち着け、まだ始まったばかりだ。今日は稍重の2000m。かかってしまうとスタミナが切れてしまう可能性が高い。大丈夫だ、選抜レースと同じような感じだった。落ち着いて行こう・・・。
中盤から終盤にかけて少しずつポジションを上げ、一人かわしてバ群にとりついていく。そして最終コーナー、早速抜け出しを図っている子の姿も見える。ここからが勝負だ・・・!
!!スペースがない!
スパートをかけようとするも、直線目前で前を塞がれてしまう。これでは外を回るしかない。
「・・・っはあああああああ!!」
全力で踏み込み加速していく。しかし遅すぎた、もう前方のウマ娘たちは加速しきっていて追いつけない・・・!
・・・うぅ。くそぉ・・・・。
何とか一人交わすのが精一杯。先頭から大差の7着。3秒も離されての入線。・・・惨敗だった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「お疲れ様。」
「トレーナーさん・・・。」
迎えてくれたトレーナーさんはそれ以上何も言わず、労うように私の肩を叩くのみだった。この時の私には、中途半端な慰めの言葉をかけられるよりありがたかった。
「さて、どこか傷んだり違和感を感じるようなところはないか?」
控室に戻ると私を椅子に座らせ、トレーナーさんが問いかける。
「・・・ないです。大丈夫です。」
「そうか。確かに見たところ異常はなさそうだ。念のために後で今村さんには診てもらうよ。」
「はい・・・。」
「飲み物はここにあるからな。ウイニングライブまでに少し飲んでおけよ。」
「はい。・・・ありがとうございます。」
何故だかトレーナーさんは一向にレースについて触れてこない。
「・・・あの、すみません。トレーニング教えて頂いた成果を出したかったんですけど・・・。こんな結果で・・・。」
「いや、いい。レースの反省は後にしよう。まだ自分の中でも整理できてないでしょ?それからでいい。それよりまだウイニングライブが控えてる。切り替えてと言っても簡単じゃないだろうが、とりあえずはそこに集中しよう。」
「・・・・・。」
「じゃあ、時間近くなったらまた来るから。おじさんが着替え中にいたらまずいからね。」
そう言って軽く微笑んでトレーナーさんは控室から出て行った。私も笑顔を返したかったが、出来ていたかどうか・・・。
ウイニングライブ・・・。とてもこんな気分で歌って踊れる気がしない。勝った者にとってはそれは素晴らしい晴れ舞台だが、惨敗した者にとってはもはや拷問だ。とはいえ出ないわけにもいかない。憂鬱な気持ちでシャワーを浴び、衣装に着替える。負けた子はみんなこんな気持ちなのだろうか。心から笑って踊るたった一人の勝者の後ろで、こんな気持ちを噛み殺しながら笑顔を貼り付て踊る敗者たち。ウイニングライブとは何とも残酷なシステムだ。
♪〜〜
着替えも終わり、そんなことを考え座っていると着信がきた。ベルちゃんからだ。
「もしもし・・・ベルちゃん?」
「もしもし?ライブ前にごめんね〜。時間大丈夫?」
「うん。まだちょっとあるから・・・。」
彼女も先日未勝利戦に出走していた。お互い調整に集中するため、話して決めたわけではないがお互い連絡は控えていた。
「デビュー戦、中継で見てたよ。お疲れ様。」
「ありがとう。この通り散々だったけどね、はは・・・。ベルちゃんの言った通り全然違ったよ・・・。」
「そっか、やっぱり違うよね・・・・・。」
「うん・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・私も負けちゃった。」
「・・・うん。私も中継で見てたよ。本当は連絡したかったけど、ベルちゃんが私の調整のために気を使ってくれてたの分かってたから・・・。」
「あはは・・・。ありがとね。なんか逆に気を使わせちゃったかな・・・。」
「ううん。そんなことないよ。」
「・・・昨日ドンナ未勝利戦勝ったって。」
「うん。でもドンナさんはそもそもデビュー戦で負けちゃったのが不思議なくらいだから・・・。」
「ふふ・・・。それでエースに散々いじられてたからメチャクチャ気合入ってたよ。」
「あはは・・・。なんか目に浮かぶよ。」
「エースももう万全で負けようがないってさ。もうチームの先輩も併走で負かしてるんだって。それにブリランテはもう重賞獲ってるし、みんなすごいよね・・・。」
「うん・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・弱いね、私たち。」
「・・・・!」
「皆んなすごくて、どんどん結果も出してるのに・・・。グスッ、ダメダメだよね・・・。」
「・・・・・・。」
「皆んなで同じトレーニングしてたのにね。何で・・・何で私たちだけ勝てないんだろう・・・。」
「・・・・っ!」
だめだ。涙が溢れる。堪えてたはずなのに。
「ベルちゃん、私っ悔しいよ・・・!ううっ・・・!」
「グスッ・・・うん。私も・・・!うう・・・悔しいよね・・・!あんなに一緒に頑張ったのに・・・!」
「ううぅ・・・!」
そこからは会話にならなかった。悔しかった。我慢してたものが溢れて、ひたすら泣きはらした。
コンコン
「俺だ。入っていいか?」
!!トレーナーさん・・・!時間を確認してみると、いつの間にかウイニングライブの時間が迫っていた。
「あ、はい!大丈夫です!・・・・ベルちゃんごめんね、もう時間になっちゃった・・・!」
「うん!・・・またね!」
慌てて通話を終了し、顔を拭う。
「なんだ、電話中だったのか。」
「あ、ルームメイトの子と少し・・・。あはは・・・。」
「そうか・・・。それよりもう20分前だ。」
「ああ、はい。・・・すみません。」
まずい・・・。完全に泣いてたのバレてるよな・・・。
「10分前にはステージ裏にいた方がいい。・・・だがその前に、」
「え?」
トレーナーさんがつかつかと近づいてきて、私の両肩を掴んで見つめてくる。
「お前、そんな顔でライブに出るつもりか?」
「え?あ、はい・・すみません。でも・・・。」
「・・・・。」
「うう・・・。」
トレーナーさんはうろたえる私を見ると、一つため息をしてから手を離した。
「・・・切り替えができないのはしょうがない。レースもライブも初めてなんだからな。」
「・・・・。」
「ウイニングライブが何のためにあるか知ってるか?」
「え?いや・・・何でしょう、お客さんを呼び込むためとか・・・?」
「ああ。まあ色々と目的はあるし、中にはそういった理由もあるのは確かだ。しかしな、俺はウイニングライブはその日応援してくれたお客さんに感謝を示すためのものであると思う。」
「・・・!」
「今日だって頑張れって応援してくれた人は居たろう?ライブでその人たちに感謝を届けるんだ。けどな、今の君の顔で感謝は伝わるか?」
「・・・!!」
パドックで浴びた声援を思い出す。私だけに向けたものではなかったろうけど、その声援に後押しされたのは確かだ。それに、私に投票してくれた人は少ないだろうが確実にいるのだ。
パンパン!
自分の顔を叩いて気合を入れる。何を考えてるんだ私は・・・!これじゃあダメだ・・・!
「よし・・・!トレーナーさん、ありがとうございます!」
「ふふ・・・。よし、行って来い!」
ウイニングライブでは勝った子がセンターで、入着した子がその脇を固める。着外の私たちはステージの隅でバックダンサーだ。ライトに照らされ、初々しさはあるものの華やかに踊る子はまるで主人公やヒロイン。それと対照的に後ろで背景のように踊る私。絵に描いたようなモブキャラだ。それでも、モブはモブなりに一生懸命踊る。ダンスはとても上手に踊れるものではないが、それでも応援してくれた人に感謝を伝えるべく全力で・・・・。
見ていた人に伝わったかは分からない。そもそも誰も私のことなんて見ていないかも知れない。それでも、精一杯のステージをした。
「お疲れ様。良かったぞ。」
「ありがとうございます、トレーナーさん・・・。」
「次は・・・勝ちたいです。」
「ああ・・・そうだな。」
こうして、私のデビュー戦は終わった。