主なチームメンバー
タピルージュ・・・高等部2年 ダート2勝クラス
ロッソネロ・・・高等部2年 芝2勝クラス
アスカトップレディ・・・高等部1年 芝OPクラス
シルクシュナイダー・・・中等部3年 ダート3勝クラス
ラトルスネーク・・・中等部3年 OP入りしていたが5月に繋靭帯炎で休養中
ゴールドシップ・・・ゴルシ
ジャスタウェイ・・・芦毛フェチ
「ええ?引退!??」
「はい。放課後に部室で引退式を行うそうですので。」
12月も後半に入ってしばらくしたある日、休み時間にジャスタちゃんが私のクラスを訪れていた。何とチームの先輩、タピルージュさんが引退するというのだ。
「でも何で・・・。日曜日のレースも走ってたのに・・・。」
「私も詳しくは分かりませんが、ここ最近勝てていなかったこともあって決心したのかも・・・。」
「・・・・・。」
「・・・では放課後に。」
「ああ、うん・・・。」
先日の日曜日では小倉でアスカ先輩がG3愛知杯に、阪神ダート2勝クラスにタピルージュ先輩が出走した。残念ながらどちらも勝つことはできなかったが、それにしても驚きだ。タピルージュ先輩は高等部2年生でチーム内最高学年の一人だ。私が知らないだけで引退の話は出ていたのかも知れないが、よく声をかけてもらったりしていたので引退となると寂しく感じる。
・・・・・・・・・・・
「・・・・というわけで、タピルージュが引退することになった。彼女は設立間もない頃からうちを支えてくれていた一人だ。彼女がいなくては今のチームはない。彼女の頑張りにはトレーナー一同心から感謝している。」
放課後の引退式。トレーナーさんを含めチームのメンバーが勢揃いし、簡単な食事も用意されていた。そんな中でチーフトレーナーさんの挨拶が続いている。
「・・・とまあ彼女の活躍を振り返っていくと、とても思い出深いものばかりで寂しくなるな。来年度からは学園を離れ、大学への進学を目指していくとのことだ。」
基本的にトレセン学園はレースで走るウマ娘のみが生徒として在籍できることになっている。引退したウマ娘は学園を離れ、希望する進路によってまちまちだが、一般の学校に編入したりする。例外は生徒会のメンバーであったりG1を勝利するなどの目覚ましい活躍をしたウマ娘で、その場合は引退後も学園に籍を置くことが許されている。
「さて俺の話はここまでにして、次は本人から一言頂こうと思う。」
チーフトレーナーさんの話が終わると、鹿毛に黒いメンコのウマ娘が前に出てきた。引退するタピルージュ先輩だ。
「突然で驚いた子もいると思いますが、引退することにしました。ずっとレースで結果が出せなくて、その頃からずっと考えていたんだけど決断することにしました。重賞どころかオープンに上がることもできなかったけど、いい競走生活だったと思います。もちろん悔しい思いも沢山したし、正直それは今もあります。けど十分満足しています。このチームで皆んなと走れて幸せでした。学園を離れるのは寂しいけれど、新しい目標に向かって頑張ります!今までありがとうございました!」
<うぅ〜。先輩〜・・・!
<タピー!
先輩が一礼すると拍手と惜しむ声があがる。関わりのあったメンバーの中には泣いている子も見られるが、引退する先輩の表情は晴れやかだった。
・・・・・・・・・・
「浮かない顔ですね。まあ寂しいのは当然ですが・・・。」
あの後みんなで先輩を胴上げしたり、用意された食事を楽しんだりして解散となった。後片付けを手伝い、ゴミ捨てから戻って一人黄昏ているとジャスタちゃんが話しかけてきた。
「・・・いや、なんか考えちゃって。」
「?」
「先輩、満足だって言ってた。・・・満足な引退ってどんなのだろうって思って。」
「それは・・・。難しい問題ですね。」
先輩の言葉が気になっていた。当然ああいった場で満足していないなんて言わないだろうけど、私には先輩は心からそう思っているように見えた。
「私たちは満足して引退できるのかな・・・?」
「・・・分かりませんが、そのためには結果を出していかねばなりません。私たちはこれからの身、頑張っていきましょう。」
「・・・うん。」
<お〜い!誰か助けてくれよぉ〜!もう雑巾掛けは沢山だぜ〜
<うるさい!自分で汚したんだから綺麗にしろ!
「!!シップが呼んでいます!行かねば・・・。失礼します!」
「うん・・・。」
行ってしまった・・・。凄まじい瞬発力だ。ゴルシちゃんは皆んなで食事し歓談してる最中、なぜか持っていたイカ墨をぶちまけて部室を汚してしまっい掃除中だ。見つかると巻き込まれかねないので、私はそそくさとその場を後にした。
・・・やはり結果なのだろうか。タピルージュさんはそれで満足したのだろうか?いや・・・。
寮に戻る前に中庭の自販機に寄っていつものジュースを買う。何となくベンチに座って考える。
私は自分が引退するとき、満足したと思えるのだろうか。良い結果を残せたら満足できるかも知れないが、出せなければ・・・?次ダートを走ってもいい結果が出るとは限らない。
先輩はレースに勝てなくて悔しい気持ちは今もあると言っていた。つまり、結果には満足していないのだ。でもその上で満足と言っていた。結果以外にも何かあるのだろうか。あるとしたらそれは何なのだろうか。私は・・・・。
ぐるぐると考える。答えは出ない。
「もしもし?」
「エアグルーヴさん、すみませんお忙しいところ・・・。」
いずれ分かるのかも知れない。けど答えが欲しくて、それを知っているであろう人に電話をかけていた。
「どうした、何かあったのか?」
「実は、ちょっと相談したいことが・・・。」
「何だ、言ってみろ。」
「エアグルーヴさんは引退される時、満足でしたか・・・?」
「は?」
「すみません、なんか満足な引退ってどういうことなんだろうって考えてしまって・・・。」
私はそう考えるに至った経緯を説明した。
「なるほどな・・・。引退する先輩の言葉にか・・・。」
「はい。満足して引退するにはやっぱり結果が必要なのでしょうか・・・?」
「そうだな・・・私の場合は母のようにオークスを獲ることができたし、天皇賞を勝ち年度代表ウマ娘の栄光にもあずかれた。ある程度の結果は残せたという自負はある。だが、それに満足して引退した訳ではない。」
「えっ・・・?」
「まだまだ勝ちたいレースはあったし勝ちたい相手もいたからな。だが能力のピークが過ぎたことは感じていたし、私の目標はレースを走ることの先にあった。その目標に近づくためにも次のステップに進むことを決断したんだ。」
「目標のため、ですか・・・。」
「そうだ。目標を見つけることが大事だ。走る目的と言ってもいい。後に満足できるかはそこにかかっている。その目標がレースで結果を残すことならば貴様のいう通り結果が必要になってくるが、必ずしもそれを目標にする者ばかりではない。」
「・・・!」
「結果を求める者、憧れを目指す者、強い相手と競い合いたい者、などそれぞれだ。それに目標達成といかずともそこに向かい、精一杯やり切ったのならば納得して引退できることもある。貴様の先輩がどのような目標や目的で走っていたのかはわからんが、きっと納得して引退できたのだろう。」
「なるほど・・・!」
エアグルーヴさんの話はしっくりきた。そうか、先輩は納得出来るまでやり切ったんだ。だから満足したと・・・そう言えたのだ。
「目標かぁ・・・。私はまだぱっと思いつくものがありません。いつも目の前のことに必死で・・・。」
「ふふ。今はそれでいい。まだデビューしたばかりなのだからな、そのうち見つけられればいい。なに、貴様なら見つけられるさ。」
「・・・はい!すみませんでした、長々と・・・!」
「いや、気にするな。またいつでも連絡してこい。ではな。」
「ありがとうございました!」
気がつけばもう結構な時間になっていた。目標、走る目的かぁ・・・。学園に入ってから毎日が必死で大きな目標など考えられていなかった。目の前のことを全力でやっていく気持ちは変わらないが、果たして見つけられるのだろうか。そのうち見つければいい。トレーナーさんも同じようなこと言ってたっけ。次のレースに勝てば見えてくるものがあるのだろうか・・・。とにかく今は色々考えても仕方ない、このことは心に留めつつ前に進んで行こう。