誤字指摘ありがとうございました。
ガシャン!
「いけーっ!」
「頑張れーっ!」
街中はクリスマス一色の12月24日。私たちは阪神レース場に来ていた。目の前のターフではゴルシちゃんの出走するG3ラジオNIKKEI杯が始まっていた。チームの初重賞制覇がかかる一戦、今回も多くのチームメンバーが応援に駆けつけている。また、このレースに先んじて行われた未勝利戦でベルちゃんが見事勝利をおさめていた。やはり能力は抜けていて、後方スタートから3コーナー過ぎから捲り大外を回されながらも押し切った。駆け引きで遅れをとったり、不利がなければこのクラスでは負けないのだ。
目の前のレースではゴルシちゃんが例のごとく出遅れて後方を追走している。やはり素質のあるウマ娘が揃った一戦、焦ってかかる者はおらず落ち着いたペースで流れている。
ー3.4コーナー中間点、後方からゴールドシップがぐんと動いていきました!
ゴルシちゃんが動いた!後方2番手から外を回りぐんぐん押し上げる。しかしコーナーは内側のが圧倒的に有利だ。大外を回されて押し上げるのも中団まで。直線に向いていく。
ー抜け出してくるかグランデッツァ!さらに外トリップ、これらの叩き合い!内狭いスペースを狙ってアダムスピークも追い込んで、再びゴールドシップも脚を使って坂を登ってくる!
前回ゴルシちゃんに勝ったグランデッツァさん、このレース一番人気のトリップさんやアダムスピークさんなど人気勢が競り合う。
「頑張れー!!」
「差せ差せー!!」
ーグランデッツァ抜けました!グランデッツァ、その内からアダムスピーク!アダムスピークが交わし去った!アダムスピークゴールイン!
「あぁ〜・・・。」
終始内を回って脚を溜めていたアダムスピークさんが、最初に抜け出したグランデッツァさんを差し切った。ゴルシちゃんもゴール手前で更にひと伸びするも、グランデッツァさんを差し切るのが精一杯。再びの重賞2着という結果に終わった。やはり重賞の壁は分厚く、チーム初重賞制覇はならなかったがこれでゴルシちゃんは重賞連続2着。十分すごい結果だ。
「くぅ〜!あとちょっとだな!」
「ゴルシちゃんお疲れ!」
「おう!熱いレースだったぜ・・・!」
レースから戻ってきたゴルシちゃんを迎える。みんなは惜しかったねと声をかけているが、走った本人は満足そうだ。悔しがる様子はあまりない。
「惜しかったな、シップ。ライブの衣装は控え室に用意してあるから、早めに着替えて準備しておけよ。」
「うぃーす。」
敗戦時は励ましてくれるトレーナーさんもゴルシちゃんのそんな様子を見てか、あまり話をせずにどこかへ行ってしまった。
「・・・・。」
「ゴルシちゃん?控え室行こうよ。」
「ん?ああ、その前にジュース買いに行こうぜ!ちょっと面白いもん見つけたんだよ!」
「ちょ・・・待ってよー!」
走り出してしまったゴルシちゃんを追いかける。レースを走ったばかりだというのに元気一杯だ。
・・・・・・・・・・・・
「はあ・・・やっと追いついた・・・!」
辿り着いたのは人気のない所で、ゴルシちゃんは自販機の前に立っていた。。
「おう、これ見てみろよ!」
「え?なになに・・・ってこれは!?」
『ロイヤルビタージュース Wild Ocean味』
「まさか・・・新フレーバー?!」
「試してみよーぜ!」
あのジュースに新フレーバーが登場していたとは・・・!どんな味なのか、これは試さない訳には行かない・・・!早速お金を投入し購入する。自販機から取り出し、いざ・・・・!
ガンッ
<くそっ・・・!
「?」
缶の蓋を開けようとした時、近くで物音がした。近くに誰かいるようだ。何だか壁を叩いているような音がした。ゴルシちゃんと顔を見合わせ、二人で覗いてみる。
「くそっ、まただ・・・。」
「!!」
そこにはトレーナーさんの姿があった。珍しく感情的になっている様子でこちらには気付いてない。
「トレーナーさん・・・。」
何だか見てはいけないところを見てしまった気がして、この場から立ち去ろうと引き返す。
「・・・・。」
「ゴルシちゃん・・・?行こう?」
「ん?ああ、悪りぃ。ヘルシェイク矢野のこと考えてた。」
「いや、誰だよ・・・。ほら早く行こ?」
ゴルシちゃん手を引き控室へ戻る。あんなに悔しそうなトレーナーさんは初めて見た。ずっと重賞で惜しい結果が続いていたから今度こそという気持ちが強かったのだろう。今日のレースは年内最後のチャンスだった。重賞1つ制覇するだけでチームランクは飛躍的に上がる。学園からの補助金の配分もぐっと増えるだろう。そうすればよりチームの環境を充実させることができる。私は改めて重賞制覇の壁の高さ、それに賭けるトレーナーさんの思いの強さを感じていた。
・・・・・・・・・・・・・・・
その後、無事ウイニングライブを終えたゴルシちゃんを伴って私たちはホテルへ戻った。レース場を出る前にベルちゃんに会って話す時間も取れた。学園に戻ったら初勝利のお祝いだ。ホテルでは応援にきたメンバー達とちょっとした合宿気分で食事や露天風呂を楽しんだ。料金の高そうないいホテルで、勝った時にお祝いするつもりで奮発したのだろう。結果としては残念だったが、それでも費用は2着の賞金で十分お釣りが出るだろう。
消灯までの自由時間、入浴の際ゴルシちゃんと別々のグループにされて落ち込んでいるジャスタちゃんを誘って、数人のメンバーとゲームを始めていた。
「ジャスタちゃん、元気だしなよ〜。」
「大丈夫です、落ち込んではいません。むしろ刺激が強すぎるので助かったと言いますか、いやあの美しい芦毛が濡れたところを見たかったかと言えばそれはもちろん見たかったですが・・・。」
めっちゃ早口で喋るじゃん。
「ほれほら、次ジャスタちゃんの番だよ?集中しないと負けちゃうぞ〜?」
「むぅ。」
ドンッ!!
「ゴールドシップ様、参上!!」
「うわっ!?」
突然ドアが開いてゴルシちゃんが現れた。入浴はもう済んだのか、浴衣姿で頭のアレを外している。
「ちょっ?!ゴルシちゃん?!」
「借りてくぜ!」
部屋へ入るなり私を抱えて持ち上げる。何だかまたロクでもないことに巻き込まれる気がする。
「た、助けて・・・!ジャスタちゃん・・・!」
「ゆ、湯上りの芦毛・・・!う、美しい・・・・!」
あっ、ダメそうですねこれは。
「じゃあなー!」
<消灯までには戻ってきてねー。
ああ、先輩たちにも見捨てられてしまった・・・。こうなっては抵抗しても無駄なのだ。流石それをよく分かっている。
「ご、ゴルシちゃん、どこ行くの・・・?」
「まあちょっとそこまでな!ほらよ!」
担がれたまま廊下を進んでいき、ソファやテーブルなどが設置してある空間で解放される。
「見ろよ、なかなかいい眺めだろ?行き別れた妹の伊勢海老にも見せたかったぜ・・・・。」
傍らの大きな窓からは綺麗な夜景が一望できた。ゴルシちゃんはまたよく分からないことを言いながらも、しみじみとした様子でそれを眺めている。いつもかぶっているのを外しているのもあり、長い芦毛が綺麗に映えている。ほんと言動さえまともなら超がつく美人なんだけどなぁ・・・。
「なあ・・・お前ならソースのつもりで仕込んじまったけどいざって時に塩の気分になっちまったらどうする?」
「え?何?」
「焼きそばだよ。ソースで作る仕込みを済ませてたが、いざ作ろうとしたら塩が食べたい気分になっちまってたって時の話だ。ソースで仕込んだものは塩には使えねぇ。お前だったらどうする?」
「えぇ・・・??」
いやなんの話・・・?突然振られる謎の質問に困惑する。しかし、問いかけているゴルシちゃんは至って真剣な様子だ。
「・・・私ならそのままソースで作って食べちゃうよ。せっかく仕込んだもの無駄になっちゃうし・・・。」
「・・・・・。」
「それに、気分じゃないなーなんて思ってても食べてみたらそんなこと気にならなくなるかもよ?ゴルシちゃんの焼きそばならソースでも塩でも絶対美味しいしね!」
「・・・!!」
「・・・この話をするために連れてきたの?」
「ああ・・・。ふふふ・・・。なるほど食ってみたら意外とイケるかもってか?確かにやる前にグズグズ考えるなんてアタシらしくねぇな・・・!流石宇宙の舌を持つ女だ、おかげでスッキリしたぜ・・・!サンキューな!!」
「ああうん、どういたしまして・・・?」
「おーし!そうと決まれば早速作るぜ!!オラオラオラァ!!」
行ってしまった。一体なんだったのだのだろうか・・・。
その後部屋に戻り再びみんなとゲームを楽しんでいたが、ゴルシちゃんが大量の焼きそばを持って現れた。どこで作ったんだよそれ、まさか勝手にホテルの厨房使ったりしてないよな・・・?しかもソースじゃなくて塩だし。ソースで仕込んでたんじゃなかったのかよ。
ともあれ、夜食としてはちょうど良かったのでみんなで分け、パーティ気分で盛り上がった。・・・盛り上がりすぎてトレーナーさん達に怒られてしまったのはご愛敬だ。