「がんばってね!」
「ありがとうございます、アスカ先輩。行ってきます!」
「スタート、練習通りにな!」
「はい!」
新年に入った1月も終わろうという時期。私はアスカ先輩とトレーナーさんに見送られ、東京レース場のターフに立っていた。今日は初勝利を目指し二度目の未勝利戦だ。前回ダートの未勝利戦へ出走し、6着ではあったものの上がり最速を記録するなど手応えのある内容だった。それを踏まえて今回もダートで行くことが決まり、さらに距離が伸びた方が良いだろうとのことで2100mのレースを選択した。
前2走ではスタートで出負けして、それが外を回される原因となってしまっていた。アスカ先輩をはじめ、スタートの上手い先輩に協力してもらったりしながらこの1ヶ月はそこを重点的にトレーニングしてきた。手伝ってくれた先輩達の為にも今日は結果を出したい。今回出走する面々に続いて返しウマを行ないスタート地点へ向かう。
年末の有馬記念では三冠をとったオルフェーヴルさんが引退を発表したブエナビスタさんやエイシンフラッシュさん、ルーラーシップさんなどの実力者達を抑えて優勝。クラシック期4冠を達成。年度代表ウマ娘に選出された。巷では現役最強ウマ娘の世代交代だなどと言われている。今年は私たちの世代がクラシックを走る番だ。私自身はそんな大きなレースに出れるとは思えないが、それでも自分たちの世代が話題になると頑張らなければ・・・!という気持ちになる。
今日のバ場は稍重。しかし砂が固まっている感じはなく、むしろ余計に足を取られる感じのするコンディションだ。これで2100m・・・なかなかタフなレースになるだろう。しかし、多少脚を使ってでもスタートはしっかり決めたい。ゲートに入り深呼吸する。さあ、集中だ・・・!
ガシャン!!
「!!」
ゲートが開き、スタートが切られる。出遅れはしなかったもののダッシュ力の差か、隣のウマ娘に前に出られてしまう。進路は塞がれたが、慌てるな・・・。トレーニングでこの程度は想定済みだ。先行していく内枠のウマ娘たちによってできた内側のスペースに滑り込む。これでしっかりとバ群にとりついていくことに成功、中団から後方に位置取る。
一旦落ち着いたペースで進むも、3コーナーあたりから再び動きが出て前方のバ群が凝縮されていく。まだだ、ここで動いたら外を回されることになる。私は外から進路を塞がれないよう注意しつつ、なるべくロスのない位置取りでコーナーを回る。さあ、最終直線だ・・・!
直線に向くと外に出て進路を確保。スパートを仕掛ける。
「はあああっー!!!」
中団から混み合っている3番手集団を抜き去り、抜け出して先頭を争っている二人に近づく。もう前の二人はいっぱいになってもおかしくない。行ける!差せ・・・!
「うおおおおーっ!!」
「くっ・・・!」
最後の粘りを見せるも私の方が脚は溜まっている。並ばずに一気に抜き去り視界が開けた。そのまま速度を上げ、ゴールを突き抜ける。やった・・・!
<おおー
<やったーー!!
<よーーし!
歓声の中から応援してくれていた先輩たちの声が聞こえる。私の初勝利の瞬間だった。
・・・・・・・・・・・・・
「やったな!」
「おめでとー!!すごい直線一気!」
「ありがとうございます・・・!トレーナーさん、先輩・・・!」
ターフから地下バ道に戻り、トレーナーやアスカ先輩達に迎えられる。
「おいおいまだ泣くのは早いぞ?」
「トレーナーさん、しょうがないですよ!初勝利なんだから・・・!うふふ。」
「うぅ・・・。皆さんのおかげです・・・。ほんとに・・・。」
「そんなことないよ!頑張ったんだもん誇って良いよ!私も明日頑張らなきゃ!」
「アスカ先輩・・・。」
「ふふ。その感謝の気持ちはウイニングライブでぶつけてこい。今日はセンターだぞ?胸を張って行けよ!」
そうだ、この後センターで踊るんだ・・・。今まではバックダンサーでしか無かったけど、今日は私がライトを浴びるんだ。
「・・・はい!」
ウイニングライブ。この時期の未勝利戦は注目度も高くなく、お客さんもそんなに多くない。だけど、私は今日この日を一生忘れないだろう。レースに勝利してセンターで踊る。大きな目標も見つけられていない私だけど、この瞬間の為に走りたくなるような・・・そんな風に思えるほど胸がいっぱいになった。
・・・・・・・・・・・・・・・
「おめでとー!!」
「ありがとうベルちゃん!」
寮に戻った私はベルちゃんに熱烈にお祝いされていた。
「ほんと凄かったよー!あえてコーナーで我慢して直線にかけるとか思い切ったね!」
「あはは、コーナーで外回しても加速できるような技術はないからね・・・。でもあの本のおかげでコーナーの立ち回りはうまく行ったかも!」
「うん!無理せずロスしないコーナリングだったね!二人で頑張ってよかったよー!」
ベルちゃんの言う通り、最終コーナーでのコーナリングと駆け引きをテーマに行なっていた自主トレの成果が出ていた。もちろんチームでのスタートの特訓や、基礎能力の向上も大きな勝因ではある。しかしそれでもあの最終コーナーでの立ち回りが出来なかったら勝ちきれなかったろうと思う。二人で頑張った成果を出せた。それを実感できて嬉しかった。明日からは休養だ、奮発して買ってきたお菓子を遠慮なく平らげる。
「私も気合入ったよ!」
「あれ?ベルちゃんの次走って・・・?」
「きさらぎ賞だよ!トレーナーさんが一発重賞行ってみようって!」
「きさらぎ賞・・・!」
G3きさらぎ賞。京都芝1800mで行われるクラシック級限定の重賞だ。去年はベルちゃん達の先輩であるトーセンラーさんが制している。他にもネオユニヴァースさんやスペシャルウィークさんなど数々の名ウマ娘たちがクラシックへのステップレースとして出走している。うちのチームでもジャスタちゃんが出走予定だと言っていた。
「でもエースも出るらしいから厳しい戦いになりそう・・・。」
「え?!エースさんも?」
ワールドエースさんは去年の12月にデビュー、そこで圧勝し新たな世代の話題をさらっていた。先日の若駒ステークスではスローで逃げたゼロスさんを捉えられず2着に終わったが、それでも素質の高さは折り紙付きだ。
「そう!エースは強いからねー。でも私もやれるだけやるつもり!」
二人とも1月のシンザン記念で勝利したドンナさんやブリランテさんに続き、初の重賞制覇を目指している。それにチーム初重賞を狙うジャスタちゃんも加わることになる。誰が勝ってもおかしくないメンバーだ。これは私たちの世代のクラシックを占うレースになるかもしれない。さらにもう一週先の共同通信杯ではブリランテさんやこの前のラジオNIKKEI杯を勝ったアダムスピークさん、それにゴルシちゃんも出走を予定している。
クラシック本番に向け調整が本格化し、レースに世代の強者たちが出揃ってくる。世代の頂点を決める、そんな戦いの足音が聴こえ始めていた。