誤字指摘ありがとうございました。
いよいよクラシックの足音も聞こえてくる3月も近づいてきた頃、私は少しばかり焦りを感じていた。 先月チームに重賞タイトルをもたらしたゴルシちゃんに続こうと1勝クラスのレースに出走したが、上のクラスの壁に跳ね返され 9着に終わった。そんな私を尻目に友人たちの活躍が続いている。
まず2月の最終週にジャスタちゃんが G3 アーリントンカップで優勝。 チームに二つ目の重賞タイトルをもたらした。 最後方から大外を回りながらも、 雨の影響の残るバ場ながら上がり3ハロン 34.2秒のすさまじい切れ味で勝ち切った。
さらに、その翌日のすみれステークスではベルちゃんが快勝。 雨の影響が残っている2200mのレースではあったが、4番手から上がり 34 秒台の脚を繰り出した。もちろんチームのメンバーみんなが結果を出している訳ではないが、 どうしても同期の活躍は意識してしまう。
「うーん・・・。」
自室で敗戦したレースの映像を見返す。 スタートはまずまず、 内寄りのウマ娘たちが先行争いして空いたスペースに入り込む。 ここまでは前走と同じ動きができていた。 しかしやはり上のクラス、みんな多少外を回ってでもポジションを取りに来る。 内の方を陣取ることに成功して安心していた私はどんどん追い抜かれていき、 気がつけば最後方になっていた。
まずい、なんとかポジションを上げなければ・・・と考えていたその時、一人のウマ娘が中団からまくって行き始めた。 私もそれにつられるようにまくってポジションを押し上げる。 最終コーナーで中団前目にまで押し上げたが、直線では後ろから差しに来たウマ娘たちに次々と交わされ沈んでしまった。
ガチャ
「ただいまー。・・・ってあれ?この前のレースの映像見返してるの?」
「あっ、ベルちゃんおかえり! そうなんだよねー。」
そうこうしているとベルちゃんが帰ってきた。私は次のレースが控えているので軽めの調整中心だが、 ベルちゃんは皐月賞に向けて時間いっぱいびっしりとトレーニングを積んでいるところだ。
「やっぱりまくったのがいけなかったのかなー。 でも私の前にまくっていった子が1着だったしなぁ・・・。」
いつものようにベルちゃんに意見を求める。チームに所属する前、選抜レースを走っていた頃からそうだった。
「うーん・・・でも私でもあそこでまくっていくかなぁ・・・。瞬発力勝負じゃ分が悪いし、コーナーでまくると大きく外回されちゃうからね。 坂があるとはいえ 1800mならスタミナは持つと思うし。」
「そうだよね・・・。 結局位置取りが後ろ過ぎたのか・・・。」
「うん!やっぱり位置取りは大事だよ。 でも上のクラスになるとそれをなかなか上手くさせてもらえないんだけどね・・・。」
「でもベルちゃんこの前は綺麗に先行して勝ってたじゃん!」
「ふっふー!かなり練習したからね!」
「おー・・・! ベルちゃん、 そこんところちょっと教えてよー。」
「もちろんいいよ! まずねー・・・」
ベルちゃんの講義を受ける。 チームにはアスカ先輩のようにスタート後の位置取りが上手いウマ娘もいるが、先輩は元々上手で脚質も私とは全く違うタイプだ。私と同じようなタイプで、スタートや位置どりが苦手だったが克服したようなウマ娘が居れば多いに参考になったのだが・・・。(一応ゴルシちゃんが近いタイプで、この前の共同通信杯でそこを克服したような走りを見せていたが・・・。彼女に聞いても具体的なアドバイスは返って来そうにもないので。)
その点、ベルちゃんと私は実力の差はあれどほぼ同じようなタイプだ。それゆえにベルちゃんがやって上手くいったことは私にも有効なことが多いし、逆もまたしかりだ。 私たちは成長できたことや発見を交換しあうことで、お互いに成長できる。 それにベルちゃんはとても良い子だ。私は同室相手に恵まれたのだ、感謝しなければ。
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3月半ばのある日、私は中京レース場のダートを走っていた。 再び1勝クラスへ挑戦だ。今日のレースは1800m 左回り、G1チャンピオンズカップと同条件だ。私の番号は10番、 真ん中のあたりの枠からのスタートだった。
ベルちゃんとの自主トレの効果もあり、好スタートを切った私は中団後方につけていく。前回は最後方になってしまったのが大きな敗因だった。 その反省から多少脚を使ってでもポジションを取りに行く覚悟だったが、幸い前走よりスローな流れになりスムーズに位置取ることができた。その後レース中盤までは無理せず位置をキープしながら、バ場状態を確認する。 稍重の発表の通り晴れてはいるが砂が乾ききってはおらず、足元が固まって走りやすい状態となっている。
中盤の坂を上りきり、下り坂に入る。 徐々に全体のペースが上がっていくがまだだ動かない。 直線に入るとまた坂が待っているからだ。 ここは焦らず脚を溜めるべきだ。
最終コーナー。 下り坂なのでスピードを出すと、京都と同じように大きく外に振られやすくなる。ここでは直線に向く際の進路を見据えつつ、ロスなく回ることを意識し直線勝負に備える。
「はああああっ!!」
直線に向くとスパートをかける。 あと 400m、 その初めの200mは急坂だ。 前まではかなり離れている、 この坂で前のウマ娘たちを消耗させるためにもなるべく詰め寄りたい・・・! 残り 200mを切ると上り坂で消耗した先行勢が垂れてくる。そこに中団からのウマ娘たちが襲い掛かる。 私も目の前で一足先に抜け出したウマ娘をめがけて全力で踏み込む。
行けっ・・・!差せっ・・・!
ゴール目前、前で粘っていた一団を差し切る。
❶ 11
<1.1/2
❷ 10
<クビ
❸ 2
<1
❹ 14
<1.3/4
❺ 5
「・・・くぅ〜!!」
結果は2着。 2着争いには勝利したが、先に抜け出した子を捉えられなかった。
「うぅ〜掲示板に乗れなかったべ〜!!」
「!?」
掲示板を眺める私のすぐ横で悔しがるウマ娘・・・確か前走にも居た子だ。
「あっ!この前のレースでも一緒だったよね?今日はすごい追い込みだったよ!今回は私の負けだね。」
「うん。ありがとう・・・。」
こちらに気がつくと話しかけて来た。彼女も前走一緒だったのを覚えていたようだ。白い帽子を被った黒っぽい鹿毛のウマ娘で、水色のメンコとオレンジのリボンが可愛らしい。
「私、ホッコータルマエ!あなたとはこれで一勝一敗だね。」
「あはは、そういうことになるのかな・・・?」
確か彼女は前走4着。確かに二人の勝負という考え方をすればそうなる。
「同期のライバルとして、これからよろしくね!次は負けないから!」
「!!」
ライバル・・・!なんだかそんな存在を考えたこともなかった。思えば、今まで私の周りの同期は格上のウマ娘ばかりだったからな・・・。ライバル、対等な目線で凌ぎを削り合う存在。誰かからそんな風に言われたのは初めてだった。去っていく彼女を見つめながら、私は何だか不思議な感覚を覚えていた。
「お疲れ様。惜しかったな。 だが、いい走りだったぞ!」
「ありがとうございます・・・!」
地下バ道への入り口ではいつものようにトレーナーさんが迎えてくれる。 表情は明るい。 トレーナーさんとしても手ごたえを感じる内容だったのだろう。
「しっかり位置取りできたのがよかったな。 最後の直線はよく伸びてたし、上りは最速だろう。 それに長めのスパートだったが脚があがった様子もない。 もう少し距離が合ったら差し切ってたかもしれないな。」
「確かに。なかなかすごい坂でしたけど、途中で息が上がる感じはしなかったです。」
「もしかしたら坂のあるタフなコースが向いてるのかもしれないな・・・。」
中京レース場は中山レース場、京都レース場に次いで3番目に高低差のあるレース場だ。 最後の坂を上り切ってもまだゴールまで200mもある。 今回のように先行勢が垂れてくる展開の多いレース場だ。確かに私は積極的に先行するスタイルではないので、そういった後方有利になりやすいレース場の方が向いてるのかも知れない。
「トレーナーさん、私早く次のレース走りたいです!この感覚を忘れないうちに・・・!」
「そうか・・・。よし、考えておこう!」
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後日、次走は阪神レース場での1勝クラスに決定したことを告げられた。阪神レース場もゴール前に急坂のあるコースだ。1800mのレースだが、スタートとゴール前で二度急坂を登る事になる。タフなレースになるだろうが、今回のように前のウマ娘が垂れて来たところを差しに行きたいところだ・・・!
当日は4月頭。クラシックの始まる直前で世間の注目はそこに集まっているだろうが、チームに勢いをもたらす為にもぜひ結果を出したい。