誤字指摘ありがとうございました。
あれ??脚が重い・・・!思ったように動かない・・・!なんで・・・!?
もうスパートしなきゃいけないのに・・・!追いこさなきゃいけないのに!
ゴール前の急坂、 他のウマ娘たちもいっぱいになっている。ここで一気に追い込むはずだったのに、脚がいつものように動かない・・・。そんな状況に四苦八苦しているうちにゴールラインを駆け抜けていた。
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「ふぅん・・・確かに折れたりはしていないようだねぇ・・・。 それに目立った炎症もな
いようだ・・・。」
「やはりそうか・・・。」
4 月初頭、遠征から学園へ戻ってきた私はトレーナーさんに連れられ保健室へ来ていた。相変わらずアグネスタキオン先生は光のない目をしていて怖い。 しかしなぜか保健室には病院並みの機材が揃っていて、 それらを使いこなしてしっかり診察をやってくれた。
「ふぅん・・・まあタフなレースが続いたことによる疲労、といったところだろうね。」
「疲労ですか・・・。」
「ああ。 しばらくはトレーニングも控えることをおすすめするよ。」
「わかった。 そうしよう。 しばらくは休養だな。」
「・・・。」
脚が動かなかった。 手応えを掴んで出走した先日の阪神 1 勝クラス、12 着と大敗を喫した。 スタートは上手く出ることが出来たが、その後は終始後方のまま・・・。多少レースの間隔が詰まっていたことは分かっていた。 それでも掴んだ手応えを忘れないうちにと、 トレーナーさんに志願して走った。 課題である位置取りを克服するためにも、もっと実戦経験を積んでいかねばならない。 それなのに、こんなところで足踏みしなきゃいけないのか・・・。
「・・・ウマ娘はいつだって走りたいものだ。だが、目立った怪我がないからといって軽く見るのは危険だよ。」
「え?」
そんな私の気持ちを察してか、タキオン先生は私の方に向き直って言う。
「ウマ娘は突然パタッといい走りができなくなってしまうことがある。 骨折、筋肉や健の炎症などといった怪我をしていないのにも関わらずにね。 もちろん、 精神的な問題が原因となっている場合もある。 しかし、一方で全く原因の分からないような場合もあるのだよ。」
「・・・?」
「心身ともに健康で、すべて順調にレースで走っていたウマ娘が突然結果を出せなくなる。本人も周りも原因が分からない。 いつも通りの感覚、 フォームで走ってもなぜかスピードに乗っていかない。 どんな調整をしてもダメ。 まるで初めからそこで終わることが決まっていたかのように・・・走れなくなる。」
「・・・。」
ふとトレーナーさんの方を見ると眉をひそめ、曇った表情をしている。もしかしたらトレーナーさんには心当たりがあるのかもしれない・・・。
「一説によると蓄積した疲労が原因ではないかという。 ウマ娘それぞれにある種の限界値があり、少しずつ蓄積していった疲労がその値を超えてしまったと・・・。 以前、君にウマ娘の脚は消耗品だと言ったろう?まあ今回の君の場合はしっかりと休養すれば回復するだろうし、私もこの説を100%支持している訳ではないが・・・。いずれにせよ、まだまだ走りたいなら今は無理をしない方が賢明だね。」
「はい・・・。 分かりました・・・。」
「通常のトレーニングは俺が見ているからいいが、物足りないからって隠れて自主トレしたりするなよ。 定期的に今村さんに状態をチェックしてもらうからな。」
「うぅ・・・。」
やぱり自主トレもダメか・・・。
「おやおや、須川トレーナーも立派になったものだねぇ・・・。さすがは今年に入って早くも2つの重賞を制覇したチームを率いているトレーナーだ! 」
「おいおい、からかわないでくれよ・・・。」
「? お二人は知り合いなんですか?」
「私の同期の友人を担当していたトレーナーが彼でね。 まあ、その時はまだチームは率いずに専属でやっている状態だったが・・・。 彼女は元気かい?今でも連絡は取り合っているのだろう?」
「ああ・・・。よろしく言っておくよ。」
「よろしく頼むよ。なにせ彼女は私の数少ない友人の一人だったからねぇ。同じ脚部不安を抱えたもの同士仲良くやったものさ。」
「そうだったんですね・・・。」
なんだか意外なつながりだ。 確かに年齢を考えたらそう不自然でもないが・・・。
「さあ、 昔のことはいいだろ。 今日は助かったよタキオン先生。 また何かあったら世話になるかもしれない。」
「ああ。 いつでも歓迎するよ。 君も実験体に志願したくなったら遠慮せずに来たまえ。」
「あ、あはは・・・考えときます・・・。」
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怪我・・・。骨折、屈腱炎、ソエ・・・怪我と一口に言っても色々ある。酷いものでは競走能力喪失まであるし、レース中に骨折して転倒などすれば命に関わる大事故になる。レースに身を投じるウマ娘は大抵何かしらの故障を抱えていることが多く、命がけのスポーツであると取り上げられることもしばしばだ。下手すると命に関わるし、後遺症が残る場合も多い。だけどウマ娘はそれでも走りたいのだ。特に走る目的や目標を見つけられていない私でさえそう思う。
今週末には桜花賞が行われ、いよいよクラシックのレースが始まる。世間の注目もそちらに集まっているが、チームでは一つ上のラトルスネークさんが復帰してくる。ラトルスネークさんは去年の5月に繋靭帯炎を発症し、休養と治療入ってからほぼ一年ぶりだ。繋靭帯炎は完治しにくい故障で、レースを走るウマ娘にとっては致命的な怪我であると言われている。シンボリルドルフさんやメジロマックイーンさん、アドマイヤベガさんなどの歴史に名高い名ウマ娘たちもこの怪我により引退に追い込まれた。ラトルスネークさんは、先日の高松宮記念でカレンチャンさんに敗れるまで重賞2勝を含む5連勝していたロードカナロアさんに勝利したこともある。かなり素質のあるウマ娘なのでなんとか復帰したかったのだろう。
私は今回は疲労が溜まっていただけで怪我に繋がりはしなかったが、タキオン先生の言っていた通り無理しない方が良さそうだ。大怪我につながっては意味がない。
そんなことを考えながら部室へ向かうと、何やら見かけない人たちがいる。ウマ娘ではない。近くにいたアスカ先輩を捕まえて聞いてみる。
「何だか知らない人達がいますけど、どうかしたんですか?」
「ああ、取材に来た記者の人達だよ。ほら、もうクラシックのレースが始まるでしょ?」
「ああ〜!」
取材!!そうか、来る皐月賞ではゴルシちゃんが出走する予定だし、ジャスタちゃんもNHKマイルから日本ダービーに向かう可能性がある。そんな注目のウマ娘たちがいるのだ、チームに取材が来てもおかしくない。これからトレーニングの様子を見に行くのだろう、トレーナーさんに連れられて練習場へ向かっていく。
「いよいよ大一番だねー。悔いのないよう頑張って欲しいな・・・。」
「・・・。」
ベルちゃん、エースさん、ドンナさん、ブリランテさん、ゴルシちゃん・・・・・はよく分からないけど、みんなクラシックを目標に頑張って来ているのだ。獲れる冠はそれぞれ3つ、今年の世代は実力者が多く混戦になると言われている。みんな頑張って欲しい。私もしばらくがっつり走れなくとも、やれることはある。みんなの応援をしつつ、次のレースこそ勝てるようにしっかり準備をして行こう。