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4月15日、ついにこの日がやってきた。 G1 皐月賞。クラシック三冠路線の最初のレース。一年ぶりに中山レース場に戻っての開催だ。時にはぶつかることはあれど、基本的にはそれぞれのレースを選択してきた世代の猛者たちが一堂に会する。この世代では誰が一番強いのか・・・私たちの世代は例年に増して有望株が多く、意見が割れている。有識者は各々に様々な理由をつけて語るが、今日ここでひとつ大きな結果が示されることになる。
「ゴルシちゃん、頑張ってね・・・!」
「シップ、集中していけよ。」
「頑張ってください、シップ。」
「・・・おう。」
みんなそれぞれ激励の言葉をかける。 しかし何だか当の本人はテンションが低く、いつもの勢いがない。 普段はうるさいくらいなだけに落ち着いていると逆に心配だ。
「ゴルシちゃん、 4月の仇を討つんでしょ?」
「あん?」
「ほら、 4月開催なのに 『皐月』 賞っていうのはおかしいって言ってたじゃん?4月が忘れられてかわいそうだーって、勝って卯月賞にしてやるんだーって。」
「はあ?おいおい知らねーのか?もともと皐月賞は5月に開催されてたんだぜ? だから別に変じゃねーよ。ったくー、意味わかんねーことばっか言ってんなよな!」
「えぇ・・・。」
こ、こいつ・・・
ワアアアアアアーーー!!!
ものすごい歓声があがる。 本バ場入場が始まったのだ。 やはりクラシックの舞台、これまでのレースとは全然違う。去年みんなで菊花賞を見に行った時を思い出すようだ。
続々と私たちの横を出走するウマ娘たちが通ってゆく。 ブリランテさん、エースさん、そしてベルちゃんも気合入っている。みんな集中している様子だ。
「うーし!じゃあテキトーに頑張ってくっかぁ!」
そう言ってゴルシちゃんもターフへ向かう。私たちも移動しなければ。
・・・・・・・・・・・・・・・・
スタンドでは相変わらず歓声が飛んでいる。 ターフでは本バ場入場が終わり、返しウマが行われているところだった。
「うーん・・・稍重まで回復したって発表だけどかなりバ場は悪そうね・・・。」
「ああ。内側は不良で外側は良に近い・・・ってくらいには内と外で差があるな。 今日行われたレースを見ても、内と外では走っているウマ娘の伸び方が全然違う。」
アスカ先輩やトレーナーさんの言う通り、返しウマで走る場所によっては泥のようなものが飛んでいる。前もって行われたレースでは外を回ったウマ娘の勝率が良かった。 バ場の状態はレースが行われていくにつれどんどんと荒れていき、どんどんとその傾向が加速している。 もはや直前のレースではみんなが外へ行きたがり、普段とは全く違った駆け引きが行われていた。
「こうなってくると内枠のウマ娘たちは少し不利かもしれませんね・・。 外から被されてしまったら荒れた内側を延々と走ることになってしまいます。」
「そうね・・・。だから内枠の子たちは被されないようにスタートから行くしかない・・・!」
「そういった意味ではシップは外目の枠なので良かったと言えるかも知れませんね。」
本来は内枠の方が有利と言われているが、このバ場状態だ。 やはりオッズも外枠の方が有利と見てか、大外 18 枠のグランデッツァさんが1番人気だ。 2番人気のワールドエースさんと3番人気のブリランテさん、それにベルちゃんも真ん中あたりの枠。ゴルシちゃんは4番人気で、外目の14枠だ。
「今日は位置取りが全てかもな。 外を回りすぎてもみんな外を目指すからロスが大きくなる。なるべく外過ぎず内過ぎず、状態のいいところを走りたいが・・・。」
「・・・となると後ろから行くウマ娘は不利ですね。前のウマ娘にポジションをとられ、大きく外を回っていくしかなくなります・・・。」
なるほど。 中山レース場は最終直線も短い分、 最終コーナーでの距離ロスは致命的になりかねない。 そういった点では、スタートが苦手で直戦で追い込むエースさんにとっては不利な条件なのかもしれない。
「もちろんみんなそれを分かっているだろうから、積極的にポジションをとりに行って先行争いは熾烈になるはず。それでも、シップが共同通信杯のように走れれば勝てるはずだ・・・!」
確かに共同通信杯の走りはケチのつけようがない走りだった。 位置取りは完璧、 スパートかけるタイミングも完璧。 そして直線での脚の伸びも目を見張るものがあった。今回もあの時のように先行すればバ場のいいところを通れるだろうし、最後までしっかり伸びてくるはず。そうなると後ろのウマ娘外を回され届かない・・・そんな展開になる。
これはもしや、いけるのかもしれない・・・! だんだんと私の中でも期待感が高まってきた。
やがて会場内にファンファーレが鳴り響きゲートインが始まっていく。フルゲート18人、そしてG1クラシックの歓声と雰囲気。 ほぼ全てが初めて体験するものだ。みんなきっと緊張していることだろう。
「さあ頼むぞ・・・。」
赤色の勝負服に身を包んだゴルシちゃんもゲートへ入っていく。見守るトレーナーさんが期待と祈りを込めたような声でつぶやく。 何にしてもスタートが肝心だ。さあ・・・。
ガシャン!!
会場の視線が集中し、静まり返ったタイミングでゲートが開く。 私たちの世代の皐月賞が始まったのだ。
「あっ!!」
うわ出遅れた!
スタート直後の競り合いで負け、外から逃げウマ娘が切り込んできたのもあり前を塞がれてしまった。 進路を確保するため大外に回っていくが、みんな最内は避けて走っていてる。その為通常よりバ群が外目に位置していて、さらにその外からではとてもポジションを上げられない。結局、 最初のコーナーは殿で突入することになった。共同通信杯の時のようにいけば・・・という私たちの期待は早くも砕け散ってしまった。
「まずい・・・。」
余分に大外を回ったあげく最後方、私の負けパターンでもあるがこれは最悪の形だ・・・。 トレーナーさんも唇を噛んで苦い顔をしている。
他のウマ娘たちを見てみると、メイショウカドマツさんと外から切り込んできたゼロスさんが逃げている。その2バ身ほど後ろにブリランテさんが先行集団の先頭に位置して、ベルちゃんはちょうど中団のあたり。ワールドエースさんはいつものように後方。1番人気だったグランデッツァさんは流石に大外枠からでは前へ行けないか、エースさんと同じように後方待機を選択している。
「・・・・・・。」
みんな固唾を飲んでハラハラしているのが分かる。トレーナーさんは唇を噛んだままだ。
レースでは逃げる2人が飛ばして7バ身近くリードをとっている。ブリランテさんは最初こそ前にいっていたものの、ポジションを確保してからは無理をせず離れて追走している。多少順位の入れ替わりはあれど、全体的には縦長の展開になってレースは進んでいく。
「59.1・・・!!?」
1000mの通過タイムが59秒1・・・!!このバ場を考えるとかなり速いペースだ。ゼロスさんがメイショウカドマツさんを交わして先頭に立ち、3コーナーを回っていく。グランデッツァさんやエースさん、ゴルシちゃんはまだ最後方だ。
中山レース場の内回りはコーナーとコーナーの間に直線がほとんどない。3コーナーを回るとそのままカーブが続き、すぐに4コーナーへ入って行くような形だ。逃げるゼロスさんは果敢に内側を突いて行くが、その他のウマ娘たちはバ場の真ん中から外に出して行く。
ワアアアアアアア!!
勝負の最終直線へ向かうコーナーの出口、みんな外よりを回ったのもあり後方のエースさん、グランデッツァさんは先行勢や差し勢のさらに外へ行く。通常のレースでは考えられない光景にスタンドが湧き上がる。
やはりバ場は外側の方が走りやすいのだろう。大きくロスをしているはずの外を回ったウマ娘たちの方が返って手応えが良さそうだ。先頭集団まではまだ距離があるが、ここから状態の良い足元を活かして差し切れるか・・・。
一方、前の方では内を突いたゼロスさんが失速していき、メイショウカドマツさんが再び先頭へ躍り出ようと差を詰めて行く。バ場の真ん中を通った先行・差し勢か、それとも大外を回った人気勢が差し切るのか・・・。このレースの決着はその2つの争いに委ねられるかに思えた。
「あっ!!」
「あれ?!!」
会場中がその2つの勢力の争いに注目して見守り、レースが残り200m地点に差し掛かろうという頃・・・突然、先頭集団の中に芦毛のウマ娘が現れた。