とあるモブウマ娘の物語   作:トルポめぐろ

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第28話  モブウマ娘のダービー前

 

 

  皐月賞に勝ったことによる影響は取材が増えたことだけではなかった。

 

 「よし、みんな居るな!」

 

 5月に入ったある日、チーフトレーナーさんの指示でメンバー全員が部室に集められた。

 

 「今日は新入部員を紹介しよう。 ジュニア期の有望株だぞ。 さあ、一言挨拶を・・・。」

 

 「初めまして! ジュニアクラスのローブティサージュと言います!よろしく願いします!」

 

 トレーナーさんに促され、一人のウマ娘がみんなの前に進み出て挨拶をする。 青毛に綺麗な流星が特徴的だ。ジュニア期ということは私たちの一つ下の世代だ。 ついに私たちにも後輩ができるのか・・・!

 

 「彼女はシップの皐月賞を見てうちに興味を持ってくれたそうだ。 先日の模擬レースでも素晴らしい走りをしていたし、シップやジャスタのように早期から活躍してくれると思う。俺は重賞も狙える逸材だと思っている。 みんなよろしく頼むぞ・・・!」

 

 <おお〜

 

 重賞を狙える逸材・・・!確かにジュニア期にしてはバ体が仕上がっている。もう本格化がすぐそこまで来ているのだろう。期待の新人の加入・・・。 やはりクラシックを制覇したのは、チームにとってもかなりの宣伝効果があったようだ。自分の走りを見た後輩がチームに来るなんて、 ゴルシちゃんも鼻が高いのではないか・・・。

 

 「・・・。」

 

 ・・・なんだその顔は。 やめろ、目を寄せるな。舌を出すな。

 

 「それでは軽くうちのチームについて紹介しておこう。 知っているかもしれないが―――

 

 私が加入した時のようにトレーナーさんがチームのこれまでの実績とメンバーを軽く紹介していく。 それが終わると、 トレーニングを見学していこうという流れになった。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 「うーん、後輩かぁ〜・・・。」

 

 「なんだか不思議な気持ちですね。 先輩として恥ずかしくないようにしなければ・・・なんて感じます。」

 

 「そうだ、 しっかりやれよ!特にゴルシ! お前の走りを見て来てくれたんだ、幻滅させるようなことするなよ!」

 

 「任せろ!サラートから二礼二拍手まで作法を叩きこんでやるぜ!!」

 

 「いや、走りを叩き込んでやれよ・・・。」

 

 「不安だ・・・。」

 

 「あはは・・・。」

 

 なんだかトレーナーさんたちの胃が心配になってきた。 これで名家の出身というのだからたちが悪い。

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 <お疲れさまー!

 

 <お疲れー!

 

 トレーニングが解散の時間となり、 私も部室に戻る。 一応休養中なため、トレーニングを手伝うことはあっても早めに切り上げていたが今はもう5月。ジャスタちゃんが出走するNHKマイルカップが目前に迫っている。 本番を想定した展開のシミュレーションや、 相手関係の分析などは人手が多い方がスムーズに行える。それに、ゴルシちゃんのダービーの調整や他のメンバーのトレーニングも並行してやらねばならない。 そうなるともう3人のトレーナーさんの手ではとても足りないのだ。

 

 「すまないな、こんなに手伝ってもらって・・・。」

 

 「いいんですよ! どうせ休養中ですし。それに、ジャスタちゃんのためですからね!」

 

 トレーナーさんともにドリンクや資料の片づけをする。 終わったのはすっかり日が暮れてからになってしまった。 寮までの帰り道にも人通りがない。

 

 ーはやく帰らないとご飯なくなっちゃうかも。

 

 少し急ぎ足でグラウンドの前を通ると、 まだ走っているウマ娘の姿が見えた。

 

 <落ち着けー!これくらい我慢できなけりゃ本番は無理だぞ!

 

 ブリランテさんだ・・・!彼女のトレーナーらしき人とまだトレーニングしている。どうやらゆっくり走って折り合いをつける練習をしているようだ。皐月賞ではあの展開の中3着に残した。 序盤にかかってしまっていたので、それがなければもっと粘れていたかもしれない。

 

 <ほら!また速くなってるぞ!2400mは長いんだ、かかったら終わりだぞ!!

 

 がらんとしたトラックにブリランテさんのトレーナーさんの声が響く。 共同通信杯に続き皐月賞でもゴルシちゃんに先着を許している。今度こそ勝ちたいのだ。ましてや次は日本ダービー、 気合が入るのも当たり前というものだ。

 改めて自分の世代がクラシックを戦っているのだという実感を覚えながら私は寮へ戻っていった。

 

 「ただいま〜!」

 

 「おかえりー!今日は遅かったね。」

 自室へ戻るとベルちゃんが迎えてくれる。 最近は私が迎える側だったのだが今日は逆だ。

 

 「NHKマイルに出る子がいるからね。 なるべく協力してあげたいんだー。」

 

 「あ!ジャスタウェイちゃんだよね! そっかー、もう今週末だもんね。私も頑張らないと!」

 

 「ベルちゃんは次ダービーだよね?」

 

 「ううん。その予定だったんだけど、ちょっと変更して京都新聞杯を挟んでからいくことにしたんだー。」

 

 「え?そうなの?」

 

 G2京都新聞杯。日本ダービーのトライアルとして設定されているレースだ。上位2人に日本ダービーへの優先出走権が与えられる。しかしNHKマイルカップの前日に行われ、ダービーまでの間隔は1月もない。そのため、近年ではダービーを控えるウマ娘たちは出走を避ける傾向にある。

 

 「実は私ダービーに出れるかけっこうギリギリなんだよねー。やっぱりオープン一つ勝っただけじゃ賞金足りなくて・・・。皐月賞でもっと頑張れたらよかったんだけど。」

 

 「なるほど・・・。」

 

 そうだ。 皐月賞に出れたからと言ってダービーにも出れるとは限らない。オープンを勝って、重賞で好走をしたベルちゃんですら場合によっては賞金で足切りにあってしまう。出走すること自体が狭き門なのだ。

 

 「ちょっとローテ的には厳しいものになっちゃうけど、頑張るよ!なんといっても日本ダービーだからね!」

 

 「ベルちゃん・・・。」

 

 そう言えばジャスタちゃんもNHKマイルカップの後はダービーに出るつもりだって言ってたな・・・。

 

 『ローテや距離が厳しいのは分かっています。でも何と言ってもダービーですからね。』

 

 日本ダービー。ウマ娘とそれに関わる人々にとっての憧れであり夢でもある。厳しい戦いになろうと、勝つ見込みが薄かろうともやっぱりその舞台に立ちたいと思わせる。そんな特別なレースなのだ。 きっと楽には勝てない。皐月賞よりもっと厳しいレースになる。そんな予感がした。

 

 

 

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