とあるモブウマ娘の物語   作:トルポめぐろ

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 誤字指摘ありがとうございました。


第29話  モブウマ娘の日本ダービー

 

 

 ワアアアアアアアアアアア!!

 

 「おしっ!行ってくるぜ!」

 

 「頑張ってね!」

 

 本バ場入場が始まり、 凄まじい歓声がこだまする東京レース場の地下道。 赤い勝負服に身を包んだゴルシちゃんをみんなで見送る。今日この日、日本ダービーが行われるのだ。クラシック世代の頂点を決める大一番を見届けようと、今年も超満員の観衆たちが押し寄せてきている。

 

 「ゴールドシップ、今日は皐月賞とは違って良バ場だ。それにコース取りで紛れの起きにくい府中、真っ向勝負といこうぜ。」

 

 「おう! お前に秘伝のゴルゴル流拳法7つ奥義の8つ目を見せてやるぜ・・・。」

 

 ワールドエースさんとゴルシちゃんが並んで返しウマへ向かう。やはりかなり気合が入っている様子だ。先週行われたオークスではジェンティルドンナさんが後方から次元の違う末脚を見せつけ、5バ身差つけて圧勝。2つめのティアラを手にした。 エースさんとしては同じ門下生として彼女の快進撃に負けてられないという気持ちが大きいだろう。

 ゴルシちゃんもエースさんが一番のライバルになると感じているようで、互いに意識し合っている様子だ。 オッズの方も1番人気がエースさんで2.5倍。 ゴルシちゃんは2番人気 3.1倍。 3番人気のブリランテさんは8.5倍でエースさんとゴルシちゃんで人気を分け合った形となっており、さながら一騎打ちのような雰囲気さえ出ている。

 

 「では私も行ってきます。」

 

 「ジャスタちゃん、 頑張ってね!」

 

 「NHKマイルのときよりバ場は向いているはずだ。一発狙ってこい!」

 

 続いてチーム 2人目の出走者であるジャスタちゃんを見送る。5月初めに行われた NHKマイルカップでは朝日杯を制したジュニア王者のアルフレードさん、年明けにビューしてから連勝を続けていたカレンブラックヒルさんらとの対戦となった。

 ジャスタちゃんはいつものように後方からレースを進め、上り最速タイで追い込んだが 6 着まで。スローな展開にして逃げたカランブラックヒルさんが2着のアルフレードさんに3バ身の差をつけ快勝した。

 敗れてはしまったが NHKマイルカップは間隔を空けてからのレースだったのでレース後の消耗も少なかった。そのため、本人の希望もありダービーへの出走が決まったのだ。 今日はパンパンの良バ場でかなり走りやすそうで、 瞬発力で勝負するジャスタちゃんには向いてそうだ。トレーナーさんの言う通りチャンスがあるかもしれない。

 他にも、ブリランテさんやグランデッツァさんなどの実力者たちも出走する。ベルちゃんは京都新聞杯で2着に入り、無事権利を獲得して今日を迎えている。さらにはトライアルの青葉賞を勝ってここへきたフェノーメノさんなど、皐月賞では見られなかったウマ娘の姿もある。

 クラシックの大一番、年間を通しても1、2を争う注目度のレース。 出走しない私でさえ緊張してきた。

 

 ザワザワ・・・

 

 スタンドへ行くと改めて人の多さに圧倒される。 去年の菊花賞もすごかったがそれ以上だ。

 

 「あっ! ちょっとあれ見て! 展望席・・・!」

 

 アスカ先輩に肩を叩かれ、彼女が指さした方を見る。来賓用の展望席だ。そこはガラス張りの大きな窓からターフ全体を見渡せるつくりになっており、ちょうどこちらからも中の様子が見える位置にある。

 

 「え? あれって・・・」

 

 ウマ娘らしき二人が窓際でターフにて行われている返しウマの様子を見ている。一人は黒いスーツに身を包んだ鹿毛のウマ娘、もう一人は黒を基調としたドレスチックな衣装を身にまとい立っている。

 

 「シンボリルドルフさんとメジロマックイーンさんだ・・・!」

 

 「ほ、本物・・・!?」

 

 トゥインクルシリーズで輝かしい実績を残し、引退後は顕彰ウマ娘として殿堂入り。両者とも今なお伝説として語られているウマ娘だ。

 かたや国内屈指の財力を持ちURA にも大きな影響力をもつ名門メジロ家の当主。 もう一方は若くして国政に進出、その堂々たる姿と掲げた理想が支持を集め国会議員に。今では大臣として入閣を果たし、次期総理候補であるとも言われている。レースの世界から離れた後でも二人の名は世間に轟いている。ここから見てもオーラがやばい。

 これからダービーを走る若い才能を見て、二人はあそこでどんな会話をしているのだろう。私などでは想像もつかないようなレベルの会話をしてそうだが、いずれにしてもそんな二人もわざわざここへ足を運んで見るレース。それが日本ダービーなのだ。

 

 <ワールドエース頼むぞー!

 

 <グランデッツァ勝ってくれー!

 

 <ゴールドシップ皐月賞の時より白いな!

 

 返しウマを行うウマ娘たちにスタンドからは様々な声援が飛んでいる。

 東京レース場は600mもある長い直線が特徴で、道幅も広く進路も取りやすことから直線勝負が得意なウマ娘が勝ちやすい。だがダービーは2400m。クラシックディスタンスとよばれるこの距離は、出走するほとんどのウマ娘が初めて経験する距離だ。それに高速バ場といわれる東京レース場だが、実は向こう正面と最終直線に高低差2mもの坂がありペース次第ではその距離も相まってかなりタフさも必要になってくる。

 

 「・・・・。」

 

 今回トレーナーさんは無言でターフを見つめている。レース前の報道陣へ対して自信はあるとのコメントをしていたが、やはりそれは嘘ではないのだろう。どっしり構えている。

 実際のところ、考えてみればゴルシちゃんにとってダービーは皐月賞よりも不安のない条件が揃っている。皆が不安になる長い距離も、パワーの要求される坂も彼女なら全く問題ない。スタートが苦手なため後ろから追い込む展開になりがちだが、幅が広く進路が取りやすいコースなので不安も少ない。さらに東京の長い直線での伸び脚がすごいことは共同通信杯で証明されている。

 枠も内目の6枠。 他の有力者は全員ゴルシちゃんより外枠に割り当てられた。内枠有利の傾向が強いダービーだ。ライバルより内枠で、かつスタートで包まれる心配のない・・・絶好の枠といえる。

や がて出走するすべてのウマ娘が返しウマを終え、ゲート裏へ集まる。場内が一気に静かになる。ついに始まるのだ、私たちの世代の日本ダービーが。

 

 

 

 

 

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