とあるモブウマ娘の物語   作:トルポめぐろ

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第31話  モブウマ娘、トレーニングを再開する

 

 

 「どうだ、調子は?」

 

 「はい!今のところ大丈夫そうです!」

 

 日本ダービーが終わり6月に入ると、私はトレーニングを再開していた。およそ2か月もの間休養に専念していたため動きはいまいちだが、走っていて力が入らなくなるようなことはなくなっていた。

 

 「しばらくはじっくり慣らしていこう。少しでも違和感があったら報告するんだぞ。」

 

 「はい!」

 

 今月チームのメンバーでレースがあるのはラトルスネークさんだけ。みんな休養中だったり休養空けだったりで、無理せずじっくりとやっている。NHKマイルカップからダービーに出走したジャスタちゃんは流石に疲労があるものの、バ体に異常はなく長期の休養は必要ないと判断された。ゴルシちゃんにいたっては相変わらずピンピンしている。

 しかし大舞台を駆け抜けた反動は大きいものだ。 ダービー後怪我がみつかったウマ娘や、怪我はなくとも疲労により長期の休養をすることになったウマ娘が多数いる。そうした状況もあってトレーナーさんも慎重を期して予定を組んでいるようだ。

 私も無理はせず、しかししっかり結果を出せるように段階を踏んでトレーニングをこなしていくことにしよう。

 

 『これならこの先なんぼでもやれる。』

 

 ゴルシちゃんが日本ダービーで敗れた後、今村さんが言っていた言葉だ。 結果は5着。3着争いをしたエースさんやトーセンホマレボシさんにわずかに及ばなかったものの、上り3ハロンは最速タイの33.8秒。 同じく最速タイで上がって4着だったエースさんとはスパート位置の差がそのまま着差になった。レースは完全前残りの展開で、後方から追い込んで前に迫れたのはこの二人だけだ。勝ったブリランテさんの評価が上がったのも事実だが、向かない展開で強さを見せたこの二人の評価も同時に上がっている。ブリランテさん、エースさん、ゴルシちゃん、フェノーメノさんがこのダービーで評価を上げたウマ娘たちだ。

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 「うん、うん。そうだね・・・うん。」

 

 自室に戻るとベルちゃんが誰かと通話していた。

 

 「でもよかったよー、重症じゃなくて・・・。うん。・・・・頑張ろうね!・・・じゃあ!」

 

 ここのところよく通話している姿を見る。きっとブリランテさんがダービーを制覇した影響なのだろう。ダービーの直後はドンナさんやヴィルシーナさんなどティアラ路線の同期や、トーセンラーさんやマルセリーナさんなど先輩門下生たちが集まって彼女を祝福していたようだ。

 ドンナさんは2つのティアラを手にし、ブリランテさんはダービーを獲った。これでクラシック6つの冠の内3つを門下生が手にしたことになる。 競った相手もエースさんやヴィルシーナさんなど同じ門下生たちで、去年の世代の主役になるという誓の通り大いに存在感を発揮している。

 

 「おかえり!ごめんね、ちょっとエースと話してて・・・。」

 

 「ただいま!ううん、気にしなくていいよ!」

 

 相手はエースさんだったようだ。彼女は先日足首に炎症が見つかり、治療に専念するため夏からの予定を白紙にすると発表があったばかりだ。

 

 「心配したけど治らない怪我じゃないみたい。秋には復帰して最後の一冠獲ってやるって意気込んでたよー。」

 

 「そっか・・・。」

 

 彼女らしい。ここまで皐月賞 ダービーともに好走し、展開が向かない中でも強さを見せている。惜しい結果が続いているが能力は疑いなく世代トップを争えるものだ。ブリランテさんやドンナさんにも決して見劣りしない。でも、それだからこそ結果が欲しいのだろう。秋の菊花賞は今まで以上に全力で獲りにくるはずだ。

 

 「それにブリランテは海外のレースに挑戦するんだって!」

 

 「え?海外?!」

 

 「うん!イギリスのキングジョージに登録するみたい!」

 

 「まじか・・・!」

 

 キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス。イギリスのアスコットレース場で行われるクラシック・シニア混合のG1レース。 距離は約2406mのクラシックディスタンスで、賞金もイギリスで開催されるレースで3番目に高い。 凱旋門賞などと並んでヨーロッパの中長距離路線を代表するレースの一つだ。 ブリランテさんが出走するとなると日本のウマ娘で5人目となる挑戦だ。ハーツクライさんの3着が最高で、未だ日本のウマ娘が勝利したことはない。

 

 「先生ですらヨーロッパのレースは勝てなかったし、その夢を継ぐためにも行ってくるって。」

 

 「なるほど・・・。」

 

 ヨーロッパで行われる中長距離のG1レースで勝利した日本のウマ娘は、99年フランスのサンクルー大賞を勝利したエルコンドルパサーさんただ一人のみ。数々の優駿たちが挑戦するも勝利をつかむことは出来ず、あの英雄ですら凱旋門賞で敗れた。もし勝利するようなことがあれば三冠制覇以上の偉業達成といえる。

 

 「すごいや・・・。ダービー獲ったっていうのに。」

 

 「挑戦できるのも結果を出した人の特権だからね。私も今度こそ結果を出せるようにしないと・・・!」

 

 ベルちゃんは菊花賞が目標だ。ダービーまで厳しいローテで走ったので、今は回復のため休養している。

 

 「ゆっくり休養して合宿からまたしっかりトレーニングするぞ〜!」

 

 「合宿かぁ・・・。うちのチームはどこいくんだろ。でも、私ももっと成長しないと・・・!」

 

 二人で気合を入れる。夏休みは授業がなく自由な時間が多く取れる。それを利用して休養にあてる者や、ブリランテさんのように海外を目指す者。秋に向けて合宿で鍛えなおしたり、はたまた実績や実戦経験を積むため夏開催のレースに出走したり・・・ それぞれに過ごすことになる。

 やっと私も回復し、トレーニングを再開できるようになったのだ。この期間で成長できるよう充実した時間を過ごしたい。ベルちゃんと談笑しながら、私は目前に迫った夏休みに思いをはせていた。

 

 

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