ウイニングライブ。全てのレースが終了後、その日出走したウマ娘たちによって行われるライブイベント。高い人気を誇り、これを目当てにレース場に足を運ぶ人も多い。自分の応援した子がセンターを勝ち取るためにレースを走り、そして見事勝ち取ってセンターで輝くところまでをその日のうちに見ることができる。クラスやレースによって曲が異なるので、長く応援しているファンにはついにあの子があの曲を・・・なんていう感動もあるそうだ。
もっとも、それはあくまで勝てるウマ娘の話である。私は今日もそうしたセンターで輝くウマ娘の後ろでライブをこなす。もちろん手は抜かないが、注目されている感じはない。まあ、あまり注目されてもそれはそれで困るのだが。
ワアアアアアア
曲が終わり、拍手と歓声が上がる。 私たちはそんな客席にむかって一礼し、舞台裏へ引き上げる。ライブは分刻みのタイムスケジュールが組まれ進行している。楽屋は狭く、次の出番の子たちと入れ替わるとそのまた後に控える子たちのために部屋を空けなければならない。ライブの余韻に浸る余裕もなく荷物をまとめて楽屋から出る。
「お疲れ様。」
トレーナーさんが迎えてくれる。私に気を使ってか会話は少なめだ。
「トレーナーさん・・・その・・・。」
「?・・・!ああ、行ってこい。 荷物は車に運んでおくよ。」
「すみません・・・。」
車へ向かう道中、なんとなくいたたまれなくなった私はトイレの前にさしかかった所で立ち止まる。トレーナーさんは私の目線によるアピールで察してくれた。
「あら」
そうして少し一人になりたくてトイレに向かったのだが、先客がいた。
「ドンナさん・・・」
「お疲れ様。出番終わったのね。」
「うん・・・。」
ドンナさんは今日のライブのトリでセンターを務める。まだ時間に余裕はあるが、おそらく早めに準備を済ませているのだろう。
「入らないの?」
「うん、ちょっと一人になりたかっただけだから・・・」
「そう。」
しまったと思った 今の言い方では邪魔者扱いしているみたいじゃないか。 しかし、ドンナさんは気にも留めていない様子で洗面台に向かい手を洗っている。
「ドンナさん、今日もすごかったよ。トリプルティアラ、見えてきたね。」
「ええ、まあ当然ね。とはいえ本番は今日ほど楽に勝たせてはくれないでしょうけど。」
慌てて話題を取り繕う。ドンナさんは桜花賞、オークスと連勝し2つのティアラを手にしている。次の秋華賞に勝てばトリプルティアラ達成だ。
トリプルティアラを達成したウマ娘はクラシック三冠を制覇したウマ娘より少ない。メジロラモーヌさん、スティルインラブさん、それと一昨年のアパパネさんの3人のみだ。 あんなに強かったブエナビスタさんやダイワスカーレットさんでさえ達成できなかった。特に今年はドンナさんとヴィルシーナさんのマッチレース。今日のレースもそうだが、ヴィルシーナさんは桜花賞もオークスもドンナさんの2着に敗れている。今度こそはと死に物狂いで秋華賞を獲りに来るだろう。でも・・・
「でもドンナさん、勝つんでしょ・・・?」
彼女はそう思っている。 楽には勝てない・・・そう言っているものの、その声色には不安や焦りは全く感じない。
「当たり前でしょ?走る前から負けることを考えるなんてありえないわ。もちろん、相手をなめてるわけじゃない。きっとあの手この手で勝とうとしてくるでしょう。 でも、私はそのすべてを叩き潰して勝つ・・・!そう思っているだけよ。」
こちらを振り返ってそう答える。その力強さに満ちた目は、あの頃から変わっていなかった。 ああ、彼女はやっぱり強い。強く、太い芯がある。 エースさんに待ってるよ!・・・なんて言っておきながら、今にも折れそうになっている私とは・・・全然違う。
「いいなぁ・・・私はとても・・・」
「えっ?」
「あ・・・いや、何でもないっ・・・!」
そんな思いがつい口から出てしまい、焦ってごまかす。
「ちょっと、気になるじゃない。」
「い、いやほんと大したことじゃないから・・・あはは・・・」
何とか追及をかわそうとするが・・・
「・・・ねえ、それで私が納得すると思うわけ?そんな情けない顔して・・・。ごまかしても無駄なんだから。」
失敗した・・・!彼女に詰め寄られる。しかし・・・情けないか・・・
「・・・いや、ただ・・・ダメだなって思って・・・。 私なりにシミュレーションとか重ねて、レースでもその通りの展開になったのに掲示板にも乗れなくて・・・」
「・・・!」
「ドンナさんは相変わらず強くて、すごいレースをしてるけど・・・私はこんな走りしかできないなって・・・。」
「・・・」
「あの時、情けない走りはするなって言われてたのにね・・・あはは・・・」
つい心境を吐露してしまう。こんなこと今言われても困るだろうに・・・彼女はこの後にライブも控えているのだ、どうでもいいことで気を遣わせてはいけない。
「・・・ごめん!せっかく気にかけてくれたのに、 ライブ前にこんな話・・・!」
「・・・確かに、惨敗だったわね。」
「・・・!」
「でも、情けない走りだったとは思わないわ。」
「・・・え?」
「勝利を目指して全力で走る、 自分の準備してきたことをしっかり発揮して・・・。 ちっとも情けなくなんかなかったわ。」
「ドンナさん・・・。」
「・・・でも! 今のあなたは情けないわ。」
「!!」
「思い通りにいったけどダメだった。 不利もなく、勝てると思ってたのに全く届かず負けた。ショックでしょう。けど、そんなの珍しいことじゃない。」
「・・・!」
「私もデビュー戦で負けた。絶対に勝てると思ってた。完璧に準備をしてきた。バ場状態もしっかり踏まえて走った。けど、届かなかった。2バ身以上もね・・・。実力不足を痛感したわ。でも、これはみんな経験することよ。経験した上でトレーニングしてるの。ヴィルシーナさんだってそうだろうし、ブリランテも・・・きっとエースだってそう。」
「完璧に準備して、想定通りレースを運んで負けたなら敗因は実力不足・・・。でもそれなら、実力を伸ばせばいい。限界まで鍛えて、正しい技術と知識を身に着ける・・・。それでより実力を伸ばせた者が勝つ!・・・簡単なことでしょ?悩む必要なんてないわ。」
「・・・!」
「だから、そんなことでショックを受けて悩んでいる今のあなたは・・・情けない。」
「!!」
「・・・そろそろ時間ね。それじゃあ私は失礼するわ。」
なんだか頭を殴られたような気分だ。返事を返すことのできない私を置いてドンナさんは廊下へ出て行った。実力不足、才能の違い・・・。私は分かっているつもりになっていた。 そのつもりで考えて、これでもかと対策を立ててレースに臨んだ。・・・けど私は分かっていなかった。その程度はみんなやっているのだ。
才能のない私が勝つために必要なのは準備と戦略を整えることだと思っていた。しかし、勝ち上がっていくウマ娘たちは、そこから更に実力を高めるためのトレーニングで追い込んでいく・・・。私より才能のあるウマ娘たちが私よりも高い視点で努力をしているのだ。勝てないのも当たり前だ。
〜♪〜♪
廊下に出るとライブの音楽が聞こえてくる。もう次辺りでドンナさんたちの出番かな・・・。大分トレーナーさんを待たせてしまっている。急いで駐車場への出口へ向かおう。
敗因が実力なら、実力を伸ばせばいい。移動中、考えれば考えるほどドンナさんが言った言葉が突き刺さる。私はそこの部分を限界まで追い込んできただろうか・・・?いや、今振り返っても怠けたトレーニングを積んできた覚えはない。しかし、視点が変われば見えてくるものも変わってくる。本当に限界までやったのだろうか・・・まだできることがあるのではないだろうか・・・
「あっ!」
「きゃっ!」
そんなことを考えながら走っていたため、横から現れたウマ娘にぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさい!・・・ってあ・・・。」
「あ、あなた・・・。」
「た、タルマエちゃん・・・。」
何の偶然か、レース後地下道で話したばかりの彼女と鉢合わせた。
「・・・怪我とか、ない?」
「うん・・・。大丈夫だけど・・・。」
「・・・・・・。」
き、気まずい・・・。 さっきあんな感じの会話になっただけに、お互いに言葉に詰まる。しかし、彼女は確実にさっきの会話のことを問いたげにしている。
「・・・あの、さっきのことだけど・・・。」
「!」
明らかに不釣り合いなのに私をライバルと呼んでくれた、そんな彼女に今の私がかけられる言葉は・・・
「私、がんばるよ。タルマエちゃんのライバルとして・・・なんてとても言えないけど、もっと強くなってみせるよ。」
「・・・!」
「じゃあ、私トレーナーさんを待たせてるから・・・。」
「うん・・・!はやく勝ち上がって来てよね・・・!ふふっ・・・。」
ありがとう。今日初めて表情が和らいだ彼女に、心の中でそんな言葉をかけながら背を向け走り出す。まだ足はこんなに動くじゃないか。やがて車の脇で待っているトレーナーさんを発見し、スピードを上げダッシュで近づく。
「トレーナーさんっ!」
「お、おお・・・!・・・遅かったな。」
「トレーナーさん、私を・・・私を勝てるウマ娘にしてくださいっ!」
「!」
「これまでよりもっともっとキツイトレーニングも頑張ります!なので、お願いします!!」
驚いているトレーナーさんに向かって頭を下げる。もっと強くなりたい・・・!まだ走るのをあきらめたくない・・・!そんな気持ちだった。
「ふっ・・・ああ、任せろ。 ちゃんと考えてあるよ・・・。」
「・・・! よろしくお願いします!」
トゥインクルシリーズでは天賦の才をもつ上に、人一倍努力しているウマ娘が走っているのだ。そんな中で私は才能では一歩も二歩も及ばない・・・ならば他のウマ娘の2倍、3倍の努力でその差を埋めるのだ・・・!
車の中でざっくりとおおまかな方針を聞く。私が情けなく折れそうになっていた間にも、トレーナーさんは私のためにしっかり考えてくれていた。私は周りに恵まれている。情けない私を叱咤する友達、ライバルと呼んでくれる同期、そしてトレーナーさん・・・。みんなの気持ちに応えたい。
折れそうだった私に再び芯が通る。さあ、これから新しい日々を始めるのだ。
スプリンターズS
メイケイエール ◎
シュネルマイスター ○
ナランフレグ △
ナムラクレア ▲
タイセイビジョン ⭐︎