「ベルちゃん、ありがとう。」
「ううん!私も勉強になったよ〜!」
10月も間近に迫ってきいている頃、私は恒例のベルちゃんとの自主トレを行っていた。まあ、トレーニングと言ってもベルちゃんはG2 神戸新聞杯を走ったばかり、私もレースを控えているので負荷がかかるようなことはやらない。
「でも、やっぱり最後は気持ちの問題なのか・・・。」
「そう! 結局位置取り争いは譲らない気持ちがないと!でもスタートは改善されつつあるんだし、きっとうまくできるようになると思うよ!」
「うん・・・!もう決めたんだし頑張るよ!」
先行してみよう。前走の後トレーナーさんから提案されたことだ。今までは後方から追い込む形のレースをしてきた。それはスタートがよくなかったり、位置取り争いが苦手であったことから仕方なくやっていたことでもあるが、好走した例もあってその作戦で走っていた。しかし、1勝クラスでは壁にあたって結果を出せなかった。どうすれば結果をだせるようになるか・・・そうやってトレーナーさんが考えたのが先行策だった。
もともと私は瞬発力に優れたタイプではない。コーナリングはベルちゃんとの自主トレやエアグルーヴさんの指導もあってかなり上達してきたが、それでも大外を回りながら後方から差し切るような芸当はとても無理だ。だが、後方からのレースでは必然的に外を回されることが多くなる。
瞬発力のなさを補うにはコースロス少なく走り、 効率よく距離を稼ぐ必要がある。 そのためには前目に位置取ってレースを進めるほうが好ましい。 スタートも改善傾向にある今、やってみる価値はある・・・とトレーナーさんは言っていた。
正直うまくやる自信はない。だが、これまでのやり方では結果を出せていない事実がある。変わらなければいけないのだ。
「頑張ってね!レース見に行くよ!」
「えぇ?ベルちゃん菊花賞の調整あるでしょ? 嬉しいけど無理しなくていいよ・・・。」
「大丈夫!次のレース6日でしょ?疲労が残ってる中でやっても意味ないって言われてトレーニング開始は7日からだから行けるよ!」
「なるほど・・・。」
神戸新聞杯は阪神レース場で行われる 2400mのレース。距離こそダービーと同じだが、阪神レース場にはゴール手前に急坂がありよりタフさやパワーが求められるレースだ。当然、そんなレースを走り切ったあとはけっこうな疲労が残るだろう。
出走したメンバーはベルちゃんにゴルシちゃん、メイショウカドマツさんなどここまでクラシックを走ってきたウマ娘に加え、ユウキソルジャーさんやマウントシャスタさん、ロードアクレイムさんなど夏に実力をつけて菊花賞への権利を獲りに来たウマ娘たちが揃った。特にマウントシャスタさんはクラシック級ながら宝塚記念に出走した上、 5着と好走し一気に注目を集めた。オッズも英雄門下生であることもあって2.3倍のゴルシちゃんに次ぐ 2.8倍で2番人気に支持された。3番人気のヒストリカルさんは7倍であったのでゴルシちゃんに並んでの評価を受けていたことが分かる。
レースではゴルシちゃんは中団後方 12 番手につけマウントシャスタさんはその前 9 番手、ベルちゃんは7番手の追走で始まった。緩みのないペースで流れ、バ場が良いこともあって終盤では後ろのウマ娘たちが前を呑み込んでいった。直線入り口ではバ群が密集し混戦模様となったが、最後の急坂にさしかかると一気にゴルシちゃんが抜け出し、後方から追い込んできたロードアクレイムさんに2バ身差以上つけてのゴール。中盤から徐々にポジションを上げ、上り3ハロンを最速で駆け抜けた。
マウントシャスタさんなどライバル視されたウマ娘もいたが、 最後の坂で余力のなくなった先行勢を競り落とし、誰よりも速い上りを叩き出して後方の追撃も切り捨てる・・・さすがG1ウマ娘、一人だけ力が違った。
「神戸新聞杯は最後脚上がっちゃったから、菊花賞ではもっとペース配分注意しないと・・・!」
ベルちゃんは中団から最終コーナーでは前にとりつく勢いだったが、直線では伸びずに10着に終わっていた。レース後、ダービーまでの疲労が抜けきっていないとのコメントが彼女のトレーナーからはあった。確かにベルちゃん本来の走りではなかったし、ダービーまでかなりきついローテで走ったのだからその影響が残っていても不思議ではない。そういったことも考慮して、今はギリギリまで休養に充てているのだろう。
今回の結果を受けてゴルシちゃんは菊花賞の最有力候補になった。対抗であげられているのはダービーを制したブリランテさんだが、もともと折り合いに難があったタイプなのと海外遠征帰りで不安視する声もある。また、ダービー2着の後にセントライト記念を制したフェノーメノさんは菊花賞ではなく秋の天皇賞へ向かうとの発表があった。このままならおそらくゴルシちゃんが1番人気になるだろう。
しかし、菊花賞の舞台は京都。阪神とはまた異なる特徴のあるコースだ。トーセンラーさんなど門下生は京都を得意としているウマ娘が多い。ベルちゃんも京都レース場はきさらぎ賞3着、京都新聞杯 2着と得意にしている。おそらく教室で習ったことが活かしやすいのだろう。
ゴルシちゃん、ブリランテさん・・・どちらが2冠目を手にするのか。はたまた思わぬ伏兵が登場するのか・・・。世間の風潮通り、菊花賞の動向も気になるが・・・
「よーし、頑張るぞ!勝って菊花賞見に行くからね!」
「頑張って!」
まずは自分のことだ。新しい作戦で挑む以上、いつもより入念な準備が必要になる。やれることはすべて、何でもやるくらいのつもりでいかなくては・・・!
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「だああああああ!!」
学園にあるウッドチップの敷き詰められたコースを駆ける。ウッドチップコースは足への負担が少なく大きな負荷をかけられるため、トレーニングにはもってこいのコースだ。人気のためいつも使えるわけではないのだが、今日はトレーナーさんが予約して抑えてくれた。
「・・・!」
残り1ハロン、後ろから迫る足音がどんどん近づいてきている。もう少し、あと少し粘れ・・・!
「はああああっ!」
「あっ!」
全力で踏ん張るも、並ぶまもなくあっという間に交わされる。凄まじい脚だ。結構なハンデをもらってスタートしたが、スパートするとあっという間に追い抜かれ離された。
「はあ、はあ・・・。ジャスタちゃん強すぎ・・・。」
「ふう・・・ありがとうございます。」
彼女も休養から戻ってきて、私の次走の次の日に行われるG2毎日王冠に出走する予定でトレーニングを行っている。
「なんかひと夏超えてまた強くなったんじゃない?」
「ええ、合宿も含め自分でもいい成長ができたと思います。けど、ブラックヒルさんは強いですからね・・・。それにシニア級も相手になると考えると、はたしてどこまでやれるかという感じです。」
毎日王冠はクラシック、シニア混合の重賞レース。天皇賞秋を見据えてシニア級の猛者が集うレースだ。同期でも無敗でNHKマイルカップを制したカランブラックヒルさんが出走してくる。手ごわい相手ばかりだ。
「二人ともお疲れ様。使用時間があるからクールダウンしたら早めに引き上げよう。」
「はい。ありがとうございます。」
北村サブトレーナーからタオルとドリンクを受け取りクールダウンを始める。先行でレースに臨むならば最後、後ろからの追撃に対してどれだけ粘れるかが大事になってくる。しっかりポジションを確保し逃げのウマ娘をマークしつつ、ペースを見極めここぞで仕掛け最後まで粘る。総合的な能力が求められる王道ゆえに極めるのは難しい作戦だ。
前で粘るという意味では、ジャスタちゃんに追われる形で併走するのはいいトレーニングになる。正直全く歯が立たないが、この時期の1勝クラスでジャスタちゃん以上の末脚をもつウマ娘はいないだろう。彼女に追われる想定していれば本番は楽になるはずだ。
改めてこうした同期のチームメイトに恵まれたことを感謝する。こうして付き合ってくれたジャスタちゃんや色々と考えて手を尽くしてくれるトレーナーさんの為にも、次のレースでは結果を出したい。
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10月初週の京都レース場。晴天に恵まれて芝、ダートともに良バ場の発表だ。今日は6度目の挑戦となるクラシック級以上1勝クラス。 ダート 1900mのレースだ。 私は3枠3番、京都レース場は初めて走るが内枠を引くことができた。先行策を試すにはいい条件がそろった。
出走するウマ娘たちが続々とゲートに収まっていく。さあ、今日はいつもよりスタートが肝心だ。出遅れは許されない、一点集中だ。最後のウマ娘が収まり、係員たちが離れていく。くるぞ・・・・
ガシャン!!
凱旋門賞
アルピニスタ ◎
トルカータータッソ ○
オネスト ▲
タイトルホルダー △
ステイフーリッシュ ⭐︎
ヴァデニ ×
単勝・複勝 6,8,11,19 各1000円