とあるモブウマ娘の物語   作:トルポめぐろ

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第38話  モブウマ娘、先行する

 

 

 ガシャン!

 

 始まった!最内枠から飛び出した子と一緒に前へ出る。先頭争いはする必要はないが、外から被されてしまわないよう脚を使い先頭の子のすぐ後ろにつける。やがて外枠から先団に加わろうと何人かが切れ込んでくるが、無理はしない。2番手、3番手は譲って内側のポジションを保持。4番手で最初のコーナーへ向かった。

 

 よし、ここまでは順調。あとはこの位置を終盤までキープするのみだ。ペースによっては後方からまくってくる子も出てくるかもしれないが、今日は初めての先行策。ペースや周りの駆け引きは気にせず、 基本の形である好位キープから抜け出しに専念することになっている。 前で逃げる二人を見ながらも、それを無理して追いかけずバ群の先頭に位置取りレースを進める。

 

 3コーナーから4コーナーへ向かう。いつもはこのあたりで動きが激しくなりバ群が密集していくのだが、今日はそこまで大きな動きはない。 混雑しないのは好都合。内側のポジションを活かして抜け出しを図る。ここからラストスパートだ・・・!

 

 「うおおおおおおおおおお!!」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 「はっ、はっ・・・。」

 

 ゴールラインを駆け抜け、息を整える。4着・・・。好位の3番手から先頭を捉えることは出来ず、 同じく先行した子と後方から追い込んできた子に交わされた。結局、先頭で逃げた子と私を交わしたその二人の3人が後ろを引き離しての決着となった。私はそこから3バ身半離されて入線。また勝つことができなかった。しかし・・・

 

 「お疲れ様!悪くなかったぞ!」

 

 「ありがとうございます、トレーナーさん。」

 

 久しぶりの掲示板入り。初の先行策でのレースだったが、私は手応えを感じていた。

 

 「でも、なんだかいつもより疲れました・・・。」

 

 「ははっ。当たり前だ。初めて先行したんだし、何も考えず前目を追走していたんだからな。結構前半ペース速かったんだぞ、気づいてたか?」

 

 「!・・・いえ、全然・・・。」

 

 「やはりな・・・1着だったウマ娘はお前と一緒に好位追走しながら、お前の後ろにぴったりつけて風よけにしてた。スリップストリームってやつだ。」

 

 「まあ、逃げたウマ娘や追い込んできたウマ娘も強かったが・・・。今回はその辺の経験値の差が敗因だ。しかし、初めて先行したんだからしょうがない。むしろよく4着で踏ん張ったよ。」

 

 「なるほど・・・。経験値・・・。」

 

 「やっぱり先行したほうが合ってると思う。これからブラッシュアップしていけば勝てるはずだ・・・!」

 

 「はい!よろしくお願いします!」

 

 駆け引きや経験による引き出し、先行でのペースの読み・・・序盤から終盤まで脚を使える基礎能力・・・。まだまだ足りないところだらけだ。だが、今日のレースで道が見えた。これからは全力でその道を進んでいくだけだ・・・!

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 10月も半ばが見えてくると秋の G1 シーズンも本格化、学園へ取材に訪れる記者の数でもそれを実感する。

 

 「やっぱり今年もすごいね。あっちもこっちも記者の人。」

 

 「ええ。これからいくつもの大レースが控えている時期ですからね。」

 

 「ジャスタちゃん次は天皇賞だもんね。取材受けるの?」

 

 「私はそんなに注目されてませんからね。トレーナーさんのついでに一言くらい、ですかね・・・。」

 

 休日の午後、部室でジャスタちゃんと雑談する。彼女は先週の毎日王冠では惜しくも2着。逃げて無傷の5連勝を飾ったカレンブラックヒルさんにクビ差まで迫った。本人はあまり注目されていないと言っているが、シニア級相手のレースでも力を示した。カランブラックヒルさん、ダービー2着のフェノーメノさんとともにクラシック級ながら秋の天皇賞の注目ウマ娘なのは間違いない。

 

 「よーう!お前らこんなところで何してんだ?サボりか?」

 

 「いや、先週レース走ったばかりだからトレーニングはないよ・・・。」

 

 「シップこそなぜここに?」

 

 「アタシは休憩だぜ。ったく、次勝ったら二冠だかミカンだか知らねーけど最近トレーナーのやつ気合入りすぎてんぜー。」

 

 「はは・・・。」

 

 それは無理もない。クラシック二冠とったウマ娘は三冠ウマ娘も含めてこれまでに24人しかいないのだ。もし達成すればほぼ確実に最優秀クラシック級ウマ娘に表彰されるだろうし、チームランクもトップ層に食い込むことになるだろう。

 

 「おや、もうこんな時間・・・そろそろ始まりますね。」

 

 「あっ!ほんとだ!えーと、リモコンは・・・。」

 

 「ん?なんだ?まろやか羅刹ごはんでも見んのか?」

 

 急いでテレビをつける。今日は日曜日、見るのはもちろん・・・

 

 「なんだよレースじゃねえか。なんかおもしれーのでもやんのか?」

 

 「秋華賞だよ!秋華賞!」

 

 「あ?しゅーかしょー?」

 

 そう、秋華賞。クラシック級ティアラ路線最後のレース。ゴルシちゃんはピンと来ていない様子だが、毎年注目度の高いG1レースだ。テレビではちょうど返しウマが行われているところだった。

 

 <ワアアアアアア

 

 ドンナさんが出てくる。テレビを見ている側からも分かるほど大きな歓声が響く。向けられた彼女も驚いている様子があり、やはり相当な人数が会場へ見に来ているのだろう。

 

 「オッズも1.3倍。ジェンティルドンナさん、何と言っても彼女が今日の主役ですね。」

 

 「勝てばトリプルティアラ達成かぁ・・・。」

 

 ライバルはやはりここまで3連続でワンツーフィニッシュを演じてきたヴィルシーナさんだろう。彼女は2番人気。

ゲートインが進む。ドンナさんが歴史的瞬間を作るのか、それともヴィルシーナさんはじめライバルが意地を見せるのか・・・。私たちはテレビにかじりつくように見入っていた。

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 <ジェンティルドンナ、ヴィルシーナ全く並んでゴールイン!!

 

 大接戦だった。最後の直線はまさに一騎打ち、二人でバ体を合わせ一進一退の攻防繰り広げた。

 

 「どっちだ・・・?」

 

 「わかりません・・・」

 

 リプレイ映像で見ても微妙で分からない、写真判定だ。ヴィルシーナさんは流石の意地を見せた。3回も突き放されて負けたのだ、よほど悔しかったに違いない。もう負けられない、負けたくない。最後の直線でジェンティルドンナさんとバ体を合わせに行く姿にはそんな気持ちが表れていた。

 

 <ドッ!

 

 再び歓声が上がる。写真判定の結果が出たのだ。勝ったのは・・・ドンナさん。ハナ差数センチ、そのくらいの差だった。

 

 「すごい、ほんとにやっちゃったよトリプルティアラ・・・。」

 

 「最終コーナーではちょっと手応え悪そうだったんですが・・・見事です。」

 

 今日はヴィルシーナさんが逃げて行ったが、中盤でチェリーメドゥーサさんが後方から一気にまくり先頭へ。そのままどんどん引き離し、まるで大逃げしているかのような展開に。最終コーナーでは彼女を追いかけ全体のペースが上がる中、ドンナさんはポジションを上げられずざわめきが起こった。

 直線半ばでもチェリーメドゥーサさんは粘っていたが2番手からヴィルシーナさん、ようやくエンジンのかかったドンナさんが猛追。 最後は二人が完全に抜け出した。トリッキーな作戦で展開が乱れるもやはりドンナさんの強さ、ヴィルシーナさんの意地が光ったレースだった。

 

 「くう〜、痺れた!菊花賞も負けてられないね、ゴルシちゃん!」

 

 「・・・。」

 

 「・・・ゴルシちゃん?」

 

 「う、うおおおおお!激熱じゃねーかッ!!おい!こうしちゃいられねぇ、アタシらも走りに行くぞ!!」

 

 「え?ちょっ・・・」

 

 「シップ!?」

 

 突然私とジャスタちゃんを掴んで外へ飛び出そうとする。抵抗するも全く歯が立たず引きずられていく。

 

 「ちょ、ちょっと私達休養中なんだけど・・・!」

 

 「うるせー!あんなレース見せられてじっとしてられっか!」

 

 「いやその気持ちは分かるけど巻き込む必要ないでしょ!」

 

 「ああ、美しい芦毛がこんな近くに・・・!」

 

 相変わらず理不尽なパワーだ。私たちを引きずりながら部室のドアを蹴り破り外へ出る。あーあ、後で直すの大変なんだぞ・・・

 

 「おら!いくぜッ!不沈艦抜びょ・・・」

 

 このまま引きずり回される覚悟を決めた時、突然ゴルシちゃんの動きが停止する。不思議に思い顔を上げてみると・・・。

 

 「ゴ〜ル〜シ〜〜!見つけたぞ〜!!」

 

 「げ、北山ちゃん・・・。」

 

 そこには怒り心頭といった様子の北山サブトレーナーが立っていた。

 

 「お前ウォーミングアップ中に姿消しやがって・・・!お前がこの時間がいいっていうからわざわざトレーニングの時間ずらしてやったんだぞ!」

 

 ・・・どうやら休憩ではなくサボりで部室へ来ていたようだ。

 

 「あ?そうだっけか?まあそんなプンプンすんなよ。」

 

 「ほら、トレーニングに戻るぞ!お前来週菊花賞なんだから・・・」

 

 「おう!任せろ!ミカンだかカニ缶だか知れねーがこのゴルシ様がぶんどってやるぜ!!だから・・・こいつらは任せた!」

 

 「あっ」

 

 「うわっ!」

 

 ゴルシちゃんは私達をサブトレーナーさんへ投げつけると颯爽と走り去っていく。

 

 「・・・あれはもう今日は戻ってきませんね・・・。」

 

 「あはは・・・。」

 

 「・・・はぁ〜・・・。」

 

 「・・・心中お察しします、サブトレーナーさん。部室のドアの修理手伝いますよ。」

 

 「ああ・・・。すまんな・・・。」

 

 やる気がないときはトレーニングしないが、やる気があってもトレーニングするとは限らないから困る。ひと夏超えてのクラシック級の後半。デビューから経験を積み重ね、大きく成長を見せる時期だ。ジャスタちゃんやドンナさんなど、身近な例を見てもみんなトレーニングを積み重ね成長している。もちろん私も・・・。しかし、ゴルシちゃんはずっとこんな感じな気がする。まあ、もともともポテンシャルが高いので問題ないのかもしれないが・・・

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 『菊花賞特集!今年もメジロの血を持つウマ娘か!?』 

 

 『菊花賞直前予想!メジロを継ぐ新星か英雄の弟子か!?』

 

 う〜む、相変わらず大げさなタイトルだ。菊花賞まであと3日に迫った午後、トレーニングを終えた私は自室で雑誌を読む。ベルちゃんはもう京都へ向かっていて私一人きりだ。

 出走登録も進んでいて、それに応じた現時点でのオッズも各所で報じられている。やはりゴルシちゃんが1番人気、ブリランテさんが2番人気だ。エースさんが怪我でおらず、ダービーで強さをみせたフェノーメノさんも天皇賞へ向かったため、すでに冠を手にしている二人の争いになると言われている。

 確かに他のメンバーを見るとこれまでクラシックで活躍してきた子の姿がない。 グランデッツァさんもエースさんと同じく屈腱炎で休養、ダービー3着のトーセンホマレボシさんに至っては引退してしまった。 私から見てもこの中ではゴルシちゃんとブリランテさんが抜けているように見える。

 秋華賞はドンナさんとヴィルシーナさんのマッチレースだった。菊花賞もゴルシちゃんとブリランテさんとで同じような展開になるのかもしれない。正直どちらが強いかなんて分からないが、きっといいレースになるだろう。

 

 <♪〜〜

 

 そんなことを考えていると電話が鳴った。ベルちゃんからだ。

 

 「もしもし?」

 

 「あ!もしもし?あの、 あの・・・大変なの!私、どうしたらいいか・・・」

 

 なんだかひどく動揺している。何かあったのか。

 

 「ベルちゃん落ち着いて・・・!一体どうしたの?」

 

 「うん・・・。あの・・・ブリランテのトレーナーさんからさっき連絡があって・・・」

 

 「え?・・・屈腱炎・・・?」

 

 

 

 

 






 凱旋門賞へ挑戦された馬とジョッキー、陣営の皆さん、お疲れ様でした。体調を整えまた活躍を見せてください。


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