「タイムが伸びない・・・・・。」
教官指導の後自主トレしつつ、たまにエリートたちに揉まれる。そんな日々が2週間続き、以前より負荷のあげたトレーニングもこなせるようになってきた。しかし、タイムが伸びない。
「ベルちゃん、もう一本お願い。」
「え?もうだいぶ走ったよ?大丈夫?」
「大丈夫。ラストにするからお願い・・・!」
無理をしているのは分かっている。でもこの2週間でタイムがほとんど伸びていないのは私だけだった。天才たちはやればやるだけぐんぐん伸びる。才能のないモブは天才たちより遥かに多くの努力をしなければ話にならないのだ。
心配そうなベルちゃんを押し切り、私はふらつく足にムチを打ちながら位置についた。
・・・・・・・・・・
翌日、私は保健室にいた。白いシーツの敷かれたベッドで白い天井を眺めている。朝起きたら体が怠く、歩くのがふらつく私をベルちゃんが保健室へ担ぎ込んでくれたのだ。
疲労から来る発熱だと診断され、熱が下がるまで寝ているよう指示された。担ぎ込まれてからずっと寝ていたが夕方になるとだいぶ良くなってきて、ベルちゃんはじめ心配してくれた友人にメッセージを返したりしていた。しかしそれも終わるとやがてすることもなくなり、暇を持て余している。早くトレーニングしたいが寝ているよう指示された以上は大人しくしているしかなかった。
トレーニングに遅れが出ちゃうなぁ・・・。
「おや?だいぶ回復したように見えるねぇ。」
ふと奥の部屋から診察してくれた先生が出てきて話しかけてくる。クラシックを制覇したウマ娘でありながら都内の一流大学で講師を務め、その傍ら母校であるトレセン学園で非常勤の保険医として勤務しているらしい。・・・光のない目がちょっと怖い。
「熱は下がったようだねぇ。もう自室へ戻っても構わないが念のため明日もトレーニングを控えることをお勧めするよ。」
「はい。ありがとうございます・・・。」
「幸い脚部に炎症などは見られなかったがウマ娘の脚は消耗品みたいなものだからねぇ。気をつけたまえよ。」
「はい。お世話になりました・・・。」
「ーああ、もしそういった限界の挑戦したいようならいつでも来たまえ。私が特製のトレーニングメニューを組んでやろう。君の体格、筋肉のつき方からすると・・・・」
「っ!?ありがとうございましたぁ!!」
なんかやばい方向に話が行きそうだったので急いで保健室を出る。・・・あれは絶対なんかやばい実験とか研究とかしてるタイプの人だ。
ドンッ
「わっ!?ご、ごめんなさいっ・・・って」
「おう。思ったより元気そうだな。」
「ワールドエースさん!なんでここに?」
保健室を出ると黒いメンコが特徴的なウマ娘とぶつかった。彼女はワールドエースさん。例の英雄門下生の一人で、自主トレにも参加してくれたこともあった。
「ベルのやつが野暮用で行けないって様子見てくるよう頼まれてな。それとこいつも渡してくれってよ。」
そういって何冊かのノートを手渡される。ベルちゃんのノートだ。
「これ、今日の授業のノート・・・?!ありがとう、ベルちゃん。」
「後であったてから言ってやれ。けど気をつけな、ベルのやつ教科ごとにノート作ってやがるくせに数学のノートに国語の板書取ったりしやがる。」
「あはは・・・それでよく自分で困ってるよ。」
「おっと、同室相手には余計なお世話だったな。」
「ううん。それに持ってきてくれてありがとう。」
「言ったろ、頼まれただけだって。それに・・・用事のついでだ。」
エースさんは私とベルちゃんと同じクラスだ。口調はぶっきらぼうな感じだが根は優しい子であるのはこれまでの付き合いで分かっている。
「なあ、そんなことよりどうだったんだ?保健室。」
「え?」
「今季からあのアグネスタキオンが来てるらしいじゃんかよ。何か怪しい研究のために学園に戻ってきたって噂だぜ。」
「あはは・・・ちゃんと診察はしてもらえたし、まあ大丈夫だよ。」
・・・危なかったけど。
「夜に怪しい黄緑色の光が保健室のあたりから漏れてるのを見たってやつもいるらしいからなぁ。」
なにそれこわい。
「まあいずれにしても今回は大したことなかったみてーだが気を付けろよ。無茶しすぎてデビュー前に走れなくなったら目も当てられねえからな。」
「・・・うん。」
「ブリランテなんかはもうチーム決めてデビューも秒読みってとこらしいが、アタシはゆっくりやるさ。目標はあくまで来年のクラシック三冠だからな。」
ブリランテさん、もうそこまで・・・流石だなぁ。
「じゃあアタシはこの辺りで失礼するぜ。せいぜい養生しな。」
「うん。ありがとう、エースさん。」
やっぱりエースさんもクラシック三冠が目標なんだ・・・。ベルちゃんもブリランテさんもそうだって言ってたな。
クラシック三冠とトリプルティアラ。クラシック級芝路線の花形であり、世代の頂点を決めるレース。ウマ娘たちの憧れでそこを目標にトレセン学園へ入学する者も多い。しかし、そのゲートへの入り口はものすごく狭い。レースに身を投じるウマ娘は1世代あたり大体6000人、その中から各レース18人ずつしか出走することはできない。そんなレースを彼女たちは本気で獲ろうとしている。
私の目標はなんだろうか。クラシックは出走もできないだろう。重賞は?いやいやそもそもオープンに上がれるの?オープンウマ娘なんて全体の5%くらいしかいないのに?私はそこまで勝ち上がれるの?そもそも芝路線でいくの?それともダートで走る?もっと実力をつけなきゃ、努力しなくちゃ。
無理してはいけないと言うけれど考えれば考えるほど焦りは深く、強くなっていく。
校舎の出入口でエースさんと別れ、そんなことをぐるぐると考えながら歩いていると中庭へ出た。この時間はトレーニングへ向かうウマ娘がほとんどなため人通りは少なく、ウマ娘が一人だけベンチに座っているのが見えるのみである。
・・・そういえば喉が渇いたな。
ウマ娘が座っているベンチの前に自販機を見つける。その中からスポーツドリンクを探していると、ふとその隣の商品が目に入った。
「ロイヤルビタージュース ギャラクシー味」
・・・・なんだこれ。誰が買うんだよこんなの・・・。そんなことを思いながらスポーツドリンクのボタンを押す。
ガタン
「ロイヤルビタージュース ギャラクシー味」
は??????????
出てきたのは謎のジュースだった。え?押し間違えた?なんで?商品入れ替えの時入れ間違えたのか?え?
「うおおおおおおおおお!!キターーーーーーーーッッ!!!!」
「!!?」
状況が飲み込めず立ち尽くしていると突然、ベンチに座っていたウマ娘が飛び上がり迫ってきた。