とあるモブウマ娘の物語   作:トルポめぐろ

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 誤字指摘ありがとうございました。


第39話  モブウマ娘と菊花賞

 

 

 10月後半、秋の京都レース場。一年ぶりにこのレース、菊花賞を見に来た。去年同様今年も多くの人が詰めかけている。クラシック三冠路線最後のレース。皐月賞ウマ娘とダービーウマ娘の対決になると言われていたが・・・

 屈腱炎。またしてもこの怪我だ。エースさん、アダムスピークさん、トーセンホマレボシさんに続いてブリランテさんまでも・・・。当然、菊花賞は回避することとなりゴルシちゃんの一強ムード。オッズも1.4倍の圧倒的1番人気に推されている。

 

 ベルちゃん、大丈夫かな・・・。電話をくれた時はすごく動揺していた。なんとかなだめながら会話したものの、私も驚きとショックで冷静ではなかった。気持ちを立て直してレースに集中できるといいが・・・

 

 「トレーナーさん、作戦は・・・?」

 

 「運良く1枠引けたからな。じっくり内目を回って直線まで脚を溜める。後は囲まれて前が詰まることだけは気を付けるように言った。まあ、王道だな。」

 

 「なるほど・・・確かに実力通りな行けば勝てるレースですからね。変なことせず王道の作戦で行くのがベストでしょう。」

 

 菊花賞は京都外回り3000mで行われる。クラシック最長の距離を誇り、トゥインクルシリーズのG1レースでも春の天皇賞に次いで2番目の長距離レースだ。最も強いウマ娘が勝つ、そう言われる通り底力が問われるレース。それに、京都レース場には道中の向こう正面に急坂がある。向こう正面という位置が絶妙で、坂を登った後3コーナーから最終コーナーに向かって下り坂が続く。かつてライスシャワーさんなど名ステイヤー達はこの坂を利用し勝利を掴んだ。淀の坂を味方に付けた者が勝つ。そういった駆け引きも問われるレースだ。

 

 ♪〜〜〜

 

 ワアアアアアアアアアア

 

 ファンファーレが鳴りゲートインが始まっていく。ゴルシちゃんは1枠1番、最初にゲートに収まっていく。今日は全員にマークされる形になる。1枠は距離ロスなく走れる分、上手くポジションを取れないと包まれる危険性も高くなる。これまでのレースより自由には走れないかもしれない。

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 ー図式はまさに1対17。圧倒的な人気を背にゴールドシップ、いざ出航!第73回菊花賞です!

 

 ガシャン!

 

 ゲートが開きウマ娘たちが一斉に飛び出していく。ゴルシちゃんも出遅れなく出ることができたようだ。・・・っておい

 

 ーさあ先行争いですが・・・早くもゴールドシップが下がっていく。一番後ろまで下げるのでしょうか・・・

 

 「おいおい・・・」

 

 他のウマ娘たちが先行争いをする中、ゴルシちゃんがずるずると下がっていく。トレーナーさんも不安そうな声を上げる。

 

 ー第3コーナー坂の頂上から下りにかかってゴールドシップ、殿です。

 

 場内にざわめきが起こる。1周目、最初のコーナーでバ群から2、3バ身離れて追走している。確かにこれなら包まれたりしないだろうが・・・。

 

 ー先頭はビービージャパンです。そして2番手にコスモオオゾラ、3番手からトリップが行って4番手タガノビックバン・・・・

 

 1周目のホームストレッチに差し掛かり再び歓声が上がる。ゴルシちゃんは下がって来たダノンジェラートさんを交わしバ群に取り付いて行ったが、以前最後方の位置。

 

 ーさあバックストレッチにさしかかります。

 

 向こう正面では坂が待っている。その前に少しでも有利なポジションを確保したい。徐々にバ群が密集していき、中団が混雑してくる。ベルちゃんも中団後方で囲まれないよう少し外めに出している。

 

 「・・・!ペースが少し緩んできてますね。」

 

 「ああ・・・ここから坂だからな。ここを越えて3コーナーから動きが激しくなるぞ・・・!」

 

 向こう正面、淀の坂・・・。ゆっくり登っていくのがセオリー。先ほどまで動いていたウマ娘たちもここでは動きを控える。みんながこの後、坂を越えてから訪れる展開に考えを巡らせる。

 

 ー!おーっと行ったか?!行ったかゴールドシップ!?

 

 「!!」

 

 「おいまじか・・・!」

 

 ー行った行った!ゴールドシップ!一気に先行グループまで行った!これは予定通りか?!

 

 動きが落ち着いたバ群の隊列が大きく乱れる。とんでもない早仕掛けだ。バ群の最後方から一気に先団グループまで芦毛をなびかせ押し上げる。マークしながら中団を走っていたウマ娘達は虚を突かれた形になり、慌てて押し上げていく。

 

 ー早くもロングスパートだ!一番外からゴールドシップ!ゴールドシップが先頭にかわろうとしている!

 

 「・・・!」

 

 最終直線、ゴルシちゃんが先頭で突入する。逃げていたビービージャパンさんは力尽きバ群に沈んでいく。

 

 ーマウントシャスタ!外からベールドインパクト、そしてその内側からスカイディグニティだ!

 

 スタミナの無くなった先行勢が沈んでいき、ベルちゃんを初め中団後方で脚を溜めていたウマ娘たちが伸びてくる。京都レース場はスピードを活かせる平坦な直線になっている。無茶なロングスパートをかけたゴルシちゃんより脚を溜めていた彼女らの方が有利か・・・!マウントシャスタさんが内から、スカイディグニティさんとベルちゃんが外から並びかけていく。

 

 ーベールドインパクトが外から来ている!しかし、先頭はゴールドシップだ!

 

 「・・・!」

 

 ベルちゃんが必死に追いすがる、しかし抜かせない・・・!それどころか再び加速して突き放す。

 

 ーゴールドシップ先頭だ!そして2番手にスカイディグニティだ!ゴールドシップだ!2冠達成ゴールドシップーー!!

 

 ワアアアアアアアアアアアアアアア

 

 ー栗毛の3冠から1年、今年は芦毛の2冠ウマ娘誕生です!

 

 京都レース場が大歓声に包まれる。圧倒的な人気に応え、見事菊花賞を制した。

 

 「はは・・・ったく・・・。なんてやつだ・・・。」

 

 トレーナーさんが座り込む。気持ちはわかる。1枠引いてスタート決めたのに最後方、そこからみんながポジション争いするのを眺めながらノロノロとバ群から離れた位置を追走。やがてひと段落して一息つき坂の上り、みんなが無理しないところでスパート。3000mのレースを走るウマ娘がやる作戦じゃない。

 

 「イエーイ!ピスピース!」

 

 「おいシップ!お前ほんと・・・ひやひやしたぞ・・・」

 

 ウイニングランを終え、ターフから戻ったゴルシちゃんを迎える。他のウマ娘たちは疲労困憊という様子だが、彼女は相変わらず元気一杯だ。

 

 「しかし、とんでもないレースしましたね。あんなところで仕掛けるとは。」

 

 「おう!トレーナーが囲まれなきゃ勝てるっつーから囲まれねーように走ったぜ!」

 

 「いや、確かにあれなら囲まれはしないだろうが・・・もっとこう・・・あるだろ・・・!」

 

 今日のレースは、本来ペースが緩むところでゴルシちゃんが動いたことで例年より緩みのない流れになった。前を行くウマ娘にとってはかなり厳しい展開で完全な前崩れ。スカイディグニティさんユウキソルジャーさん、ベルちゃん、ラニカイツヨシさん・・・中団から後方で脚を溜めていたウマ娘たちが掲示板を独占した。結果的には神戸新聞杯と同じく、ゴルシちゃんが圧倒的な力を見せつけたレースになった。

 

 「おい、トレーナー!ちゃんと用意してんだろ?!」

 

 「ああ祝勝会か・・・もちろん。クラシック2冠に相応しいのを予約しておいたぞ。」

 

 「うおおおお!ウニ、イカ!3種のマグロに海鮮丼!!」

 

 「やったー!」

 

 祝勝会!何もしていないのに美味しいものをたらふく食べることができる。こういう時はほんとにゴルシちゃん様々だな・・・。チームのみんなも盛り上がっている。しかし・・・

 

 「・・・。」

 

 少し離れたところにベルちゃんの姿が見える。彼女のトレーナーとチームメイトに励まされながら悔しそうに泣いている。

 今日のレースは中団後方から伸びてきて直線ではあわやという瞬間もあった。しかし残り200mから二の足を繰り出したゴルシちゃんには離され、最後は失速しユウキソルジャーさんとの3着争いにも僅かに敗れてしまった。でも、十分力を見せたレースだったように思う。

 ブリランテさんの怪我の件で揺らいでないか心配だったが、むしろ彼女の分も走るという気持ちが入っていた。その分悔しさも大きいであろうが十分今後につながる内容だったはずだ。

 

 ・・・帰ったら私からも励ましてあげよう。中途半端な慰めはいらないだろうがそこはこれまで一緒にやってきた仲だ。

 

 「先輩!いきますよー!」

 

 「あっ、うん!今行くよ!」

 

 そんなことを考えていると、ローブティサージュちゃんに呼ばれる。もうチームのみんなが地下道から引き上げようと移動している。今日はいつもよりお客さんが多い。はぐれたら大変だ、私は返事をすると慌てて追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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