誤字指摘ありがとうございました。
晴天の下の新潟レース場、大分回復したがバ場はまだ雨の影響が残っている。ダート2500m、稍重の発表。
あの菊花賞から一週間、私は学園へ戻らず新潟へ来て調整をしてきた。クラシック2冠の達成。レース後のインタビューや取材の申し込みが殺到しバタバタだった。その影響でトレーナーさんは遅れての合流だったが、幸い私は前走から間隔が空いていないので軽めの調整のみで問題はなかった。
「今日は9人立て、枠も良い。先行するには好条件が揃っている。まあ、ちょっと距離は長いが・・・十分やれるはずだ。」
「はい!頑張ります!」
私は4枠4番、今日も先行策でいく。人数も少なく混雑しないし、距離も長いので紛れの可能性も少ない。おそらく実力勝負になる、その中でどれだけやれるか。
ガシャン!!
「!」
スタート直後、両隣の3番、5番の子が先頭争いする。私も好スタートを決め、二人についていく。やがて5番の子がハナを取り切って先頭へ、私は3番の子と並んで2番手集団へ控える。ダートの2500mは平坦な新潟レース場とはいえかなりスタミナを要する。序盤は無理はしない、好位を取れたから十分だ。ペースが緩やかになっていくが、それに合わせてゆったりと最初のコーナーを回る。
「・・・!」
1周目の直線、1人のウマ娘が後ろから迫ってくる。それにつられて上がって来たのか、真後ろのウマ娘たちの足音が近くなってくる。しかしここは我慢だ、前との距離は開いていない。ペースをキープして向正面を走る。
「ふっ・・・!」
第3コーナー、2番手で並んでいた子達が仕掛け始める。私も合わせてスパートを掛ける。
「・・・!」
しかし、先頭の子もスパートを開始。余裕を残しての逃げだった、前を詰めきれない。
「はああああああ!!」
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「そんな複雑そうな顔するな。着差こそあったが作戦変更して2戦目で2着。勝ちは見えて来てるぞ。」
「・・・。」
ウイニングライブも終わり、トレーナーさんの車に乗ってホテルに向かう。2着・・・確かに結果は出てるし手応えはあった。久しぶりにライトを受けるポジションでのライブも楽しかった。しかし、1着の子からは10バ身離されての入線。最終コーナーで先頭を捕まえに行ったが逆に離されてしまった。まだまだだ・・・。
「次走はどうする?ちょっと期間開けるか?」
「・・・いえ、なるべく早く走りたいです。大丈夫なら・・・。」
勝てはしてないものの、いい流れのまま次へ行きたい。疲れは当然あるが、それよりも勝ちたい気持ちが大きい。走りたい、走って勝ちたい。
「・・・そうか。じゃあ来月だ。一番早くてな。」
「!!」
「ただ、少しでも違和感があったら報告しろよ。トレーニング中じゃなくてもだ。今異常がなくても無理はさせられないからな。」
「・・・ありがとうございます。」
休養明けてからほぼ2週置き出走している。通常ならば一旦休養するローテーションだ。しかし、トレーナーさんは私の気持ちを汲んでくれている。もちろん今村さんにオーケーを貰ってのことだが、私を信じてくれているのだろう。
「まあ、とりあえずしばらくは休むことに専念しろ。」
「はい。」
<ピコーン
「・・・!」
何かの通知を受け取りスマホが振動する。レース前はなるべく集中するために切っていた。そのためいつもレース後には色々とチェックすることがたまってしまう。
メール、メッセージ、ニュースetc・・・順々にチェックしていく。ほんとはレース直後はあまり良くないんだけど、トゥインクルシリーズ関連のニュースもチェックする。菊花賞ゴールドシップ特集、ゴールドシップ、ジェンティルドンナの次走は・・・まあ、1勝クラスのレースのニュースなんて出回ってないか・・・。
「!!」
『ダービーウマ娘、ディープブリランテ引退』
・・・え?引退・・・?嘘でしょ・・・?そんな・・・。
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翌日、午前中に府中へ戻った私は学園へは向かわず東京レース場に来ていた。ブリランテさん引退のニュース、ベルちゃんに確認はまだ取れていない。すぐにでもベルちゃんと会って話したいのだが、今日は秋の天皇賞が行われる。秋シニア三冠の初戦、芝2000mで行われるビッグレースだ。
メンバーはジャスタちゃん、毎日王冠を制したカレンブラックヒルさん、ダービー2着のフェノーメノさんがクラシック級での挑戦。先輩達は去年の覇者トーセンジョーダンさん、香港のG1クイーンエリザベスカップを制し、宝塚記念でも2着のルーラーシップさん、一昨年のダービーウマ娘エイシンフラッシュさんら一線級の猛者たちが集結した。
毎年注目度の高い必見のレース。私もよくテレビに齧り付いて見ていた。1番人気はフェノーメノさんが押され、2番人気はルーラーシップさん。カレンブラックヒルさんは3番人気、ジャスタちゃんは8番人気。やはりダービーで好走したフェノーメノさんの評価は高い。あの日のダービー・・・あんなにすごい走りをしていたブリランテさんが引退とは・・・信じられない。
ワアアアアアアアアア
ー57秒3!1000m57秒3で行きました!リードは10バ身、15バ身とって2番のシルポートが飛ばしています!
「!」
気がつけばレースも中盤、シルポートさんが凄まじい大逃げを打っている。離れたバ群はカレンブラックヒルさんが先頭に立っている。
ーさあ後続を置き去りにして、シルポート単独先頭で直線コースへ入りました!まだ15バ身くらい差がある。2番手にはカレンブラックヒル、そしてダイワファルコン!外から追い込んでくるフェノーメノ、フェノーメノ追い込んでくる!
後続勢もスパートを開始し猛然とシルポートさんに迫ってくる。ジャスタちゃんも外目をついて上がって来ている。大歓声のスタンド前、東京の長い直線も残り300mを切る。
ーさあ流石に苦しくなったシルポート!差を詰めてくるダイワファルコン、カレンブラックヒル!残り200を切った!最内から12番のエイシンフラッシュ!!フェノーメノ2番手!エイシンフラッシュ、ゴールイン!!ダービーウマ娘、エイシンフラッシュ!再びこの府中で輝きました!!
凄まじい末脚。混戦の中内を突いて強烈に突き抜ける姿は一昨年のダービー、驚異の上がり3ハロン32.7秒を記録した時のそのものだった。大歓声の中、スタンド展望席に向かって膝をついて礼をしている。そうか、今日は天皇・皇后両陛下が観に来られる展覧レースだった。綺麗に切り揃えられた黒髪に故郷ドイツ様式の勝負服。流石は毎年グッドルッキングウマ娘にノミネートされている彼女だ、とても絵になっている。
「完敗です・・・!フェノーメノさんとカレンブラックヒルさんをマークしましたが、届きませんでした・・・。」
「いや、G1でこれだけやれれば十分立派だ。」
ジャスタちゃんは0.5秒差の6着。毎日王冠の時と同じくカレンブラックヒルさんにクビ差届かなかった。しかし上位はルーラーシップさんやダークシャドウさんなど実力者ばかり。2着に入ったフェノーメノさんは凄いが、ジャスタちゃんもクラシック級としては十分過ぎる走りは見せた。
「よし!異常がないか見てもらって、またトレーニングして行こう!」
「はい・・・!」
ゴルシちゃんはクラシック2冠、ジャスタちゃんも先が期待できるレースができた。クラスは全然違うが私も手応えを掴みつつある。チームの雰囲気は確実に上向いている。
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「・・・ベルちゃんただいま。」
「・・・おかえり。」
ウイニングライブも見届け、興奮冷めやらない会場を後にし学園の寮へ戻った。もうすっかりあたりは真っ暗、申請出していたため問題はないが門限はとっくに過ぎている時間だ。
「ベルちゃん、あの・・・ブリランテさん引退って・・・」
「うん・・・。屈腱炎、すごく重症だったみたい。」
「・・・!」
「復帰目指してたんだけど、ドクターストップだって・・・。下手すると走るどころか歩くのにも影響が残るって・・・。」
「・・・そうだったんだ。」
そんなに酷かったのか・・・。やはり引退するのは事実みたいだ。せっかくダービーを獲ってこれからって時に・・・彼女の気持ちを考えると居た堪れない・・・。
「・・・菊花賞、惜しかったね。」
「ありがとう・・・。でも、負けちゃった。ブリランテもエースも居なくて、私だけだったのに・・・。」
「・・・!ベルちゃん・・・。」
「もうクラシック王道路線走った門下生は私だけ・・・。私しか、残ってなかったのに・・・・。」
「・・・。」
エースさんにアダムスピークさん、トーセンホマレボシさんにブリランテさん・・・。みんな離脱してしまった。門下生はまだいるが、クラシック3つ走り切ったのはベルちゃんだけだ。
言葉に詰まる。帰ったら励まそうとしていたが、今はどんな言葉も薄っぺらいような気がして・・・。
「ブリランテ、泣いてたよ・・・。これからなのにって・・・。今まで泣いたことなんかなかったのに・・・。あんなブリランテ初めて見た・・・。」
「・・・!」
「なんでなんだろうね・・・。どうして・・・どうしてこんなことになるのかなぁ・・・。」
「ベルちゃん・・・!」
「勝たなきゃいけなかったのにっ・・・!うぅ・・・。」
涙を浮かべるベルちゃんを支えて座らせる。菊花賞の最後の直線、ベルちゃんは確かにゴルシちゃんに並びかけた。あわやという場面、気力を振り絞ったスパートだった。行けると思った、それだけに悔しかっただろう。
レースに負けると悔しい。全力を出した上で、千切られるあの絶望感。私も幾度となく味わって来たが、思い出すだけで胸が苦しくなる。自分の為に走っているだけでこんなに苦しいのだ。ベルちゃんの肩には門下生としての期待、プレッシャー、離脱した同門たちの思いが乗っている。その上での苦しさは、私には想像もつかない。
今日の天皇賞でのエイシンフラッシュさんは早速SNSでも話題になっている。トゥインクルシリーズはそのような華やかな一面がある一方、残酷な面も確かに持ち合わせているのだ。