とあるモブウマ娘の物語   作:トルポめぐろ

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 1話あとがきにて世代別の主なウマ娘一覧表を記載しました。見ていただけると多少内容が分かりやすくなるかと思います。




第42話  モブウマ娘とファンレター

 

 

 11月の最終週、私はベルちゃんと一緒に東京レース場へ来ていた。今日の目的はチームメンバーの応援ではない。東京11R、ジャパンカップを見に来たのだ。

今日出走する 17人は、海外勢も含めてすべて重賞勝利経験のあるウマ娘。そしてその中の9人は G1 ウマ娘という超豪華なメンバーが揃った。天気も良くバ場状態も良好、広い府中のコースで実力者たちの紛れのない真っ向勝負が期待されていた。

 

 

 ―直線コースへ向いて来ました!ビートブラック、まだリードが4バ身から5バ身ほどある!間も無く400の標識にかかります!

 

 徐々に先頭のリードがなくなっていき、ドンナさんやオルフェーヴルさん、フェノーメノさんやエイシンフラッシュさんらが並んで追い込んでくる。

 

 ービートブラック、オルフェーヴル、オルフェーヴル!間からジェンティルドンナ!

 

 ーオルフェーヴル!ジェンティルドンナ!オルフェーヴル!ジェンティルドンナ!並んでゴールイン!!

 

 

 ワアアアアアアアアアアア!!

 

 ー僅かにジェンティルドンナか!?外は17番オルフェーヴル・・・!最後は二人の一騎討ち・・・!!

 

 

 着順確定まで長い時間を要したが、未だ場内は歓声とどよめきに包まれている。すごいレースだった。ビートブラックさんが逃げ、ドンナさん、トーセンジョーダンさんがそれを追走。その後ろにフェノーメノさんら先行グループ。1番人気のオルフェーヴルさん、2番人気のルーラーシップさんは後方で脚を溜める展開になった。

 最終コーナー手前でビートブラックさんが突き放しにかかるとオルフェーヴルさんも後方から徐々に進出し、直線は早めに仕掛けてロングスパート。ドンナさんも外から来たオルフェーヴルに併せるようにしてスパートを開始。前を行くビートブラックさんと外から内に寄って来たオルフェーヴルさんに挟まれて進路をなくしかけるも、こじ開けるようにして抜け出し壮絶な叩き合いを制した。

 

 

 ウイニングランを走るドンナさんが観客の歓声に応える。史上初のクラシック級ティアラ路線でのジャパンカップ制覇。 早くも4つめのG1タイトル獲得、それも現役最強ウマ娘を倒してのだ。

 足が震えてしまっている。まさに有言実行、本当にあのオルフェーヴルさんを倒して見せた。実力者が揃ったこのレースだが、最後200mは完全に二人の叩き合い。両者存分に実力を発揮し直線では体をぶつけ合いながらの決着。

 あえて厳しいレースを選び、そこで直面した険しい道をこじ開けての勝利。このレースにかける覚悟を感じさせた強く気高い、実にドンナさんらしい走りだった。

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 帰り道、電車は混んでいたが学園へ向かうバスの中は空いていた。やっと座れて一息ついいた頃ベルちゃんが口を開く。

 

 「やっぱりドンナはすごいよ・・・。」

 

 「・・・うん。ほんとに強かった・・・。」

 

 「ドンナはずっとみんなを引っ張ってくれてる。色々あったけど、それでもぶれずに強い姿を見せ続けてくれてる・・・。あの時言った通り・・・。」

 

 「・・・。」

 

 「今日のレース、見れてよかったよ。 ドンナのおかげで気合入った・・・!」

 

 「・・・!」

 

 「菊花賞では負けちゃったけど、私もドンナみたいに強くなるよ!路線の主役になれるくらいになる・・・!」

 

 変わった。そう感じた。優しかったベルちゃん、才能はあるけどふわふわしてどこか抜けていたベルちゃん・・・。エースさんやブリランテさんたちが居なくなり重圧を背負った菊花賞と、その後考え込んでいた最近のベルちゃん・・・そのどちらとも違う。今のベルちゃんは、挫折を乗り越え背負う覚悟が決まったウマ娘だ。

 ウマ娘は思いを乗せて走るもの・・・どこで聞いたか、そんな言葉がある。自分だけじゃない、誰かの思いを背負うことで強くなれる。そんな意味の言葉だ。入学当初はキャッチコピーのようなものだろうと思っていたが、デビューしてトゥインクルシリーズを走ってみると、その言葉通りのことを目の当たりにすることが多かった。ブエナビスタさんのラストランやブリランテさんのダービー、そして今日のドンナさんの走り・・・。

 きっとベルちゃんもそんな走りをしていくだろう。背負ったものを力に変えてどんどん強くなっていく。一方で、私はどうだろうか? 最近は先行策がはまり調子がいい。前走ではトレーナーさんからフィジカル・メンタル両面で成長したとの評価ももらった。しかし、果たして私にあるだろうか?彼女たちのように背負うものが。好走はしても勝ち切れないレースが続いているのは、私にそれがないからではないのか・・・?

 8月9月とレースで惨敗が続き折れそうになった。トレーナーさんやドンナさんたちのおかげで立ち直ったものの、依然としてこれといった目標も見つけられないままでいる。背負うものがあれば自然と目標も定まるし、目標がある人は背負うものも出てくる。目標があればそれに向かって努力できるし、背負うものがあれば自分をより追い込める。・・・手を抜いているわけではないがあると無いのではやはり違うのだ。

 

 「着いたよ!降りよ!」

 

 「・・・!あ、うん!」

 

 気が付くとバスは学園前に着いていた。声を掛けられベルちゃんに続いて降りる。気持ちが固まり前を向いたからか彼女の足並みは力強い。ベルちゃんはまた一歩先へ進んだのだ。

 彼女の後ろを歩く。私はまだ進めていない。入学して以来あるこの差は、いつか縮まるのだろうか。前を行く彼女の背中を見てふとそんなことを思った。

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 「失礼します!トレーナーさん、手伝って欲しいことってなんですか?・・・ ってうわ?! 」

 

 ある日の放課後、トレーナーさんから呼び出されトレーナー室へ向かった私の前に現れたのは、大量の段ボール箱だった。

 

 「おお!来たか!突然呼び出して悪いな。」

 

 「手伝って欲しいことってこれですか?引っ越しでもするんですか?」

 

 「いや、これはファンレターだ。これを部室に運ぶのを手伝って欲しい。」

 

 「ファ、ファンレター?!これ全部ですか?!」

 

 「まあ手紙じゃなくて差し入れもあるがな。俺も驚いてるよ。こんなにもらったのはトレーナーやってて初めてだよ。」

 

 「おお・・・。」

 

 「ほとんどがシップへのものです。やはりクラシック2冠達成というのは大きいですね。それに何と言っても彼女は芦毛ですから。」

 

 「ジャスタちゃん!」

 

 どうやらジャスタちゃんも手伝いに来ているようだ。2 冠ウマ娘・・・それも型破りなレースをしての達成。皐月賞のワープも話題になったし、菊花賞での向こう正面からの超ロングスパートはかつての3冠ウマ娘、ミスターシービーさんのようだと言われている。注目されるにしたがって普段の破天荒な様子も報道されるようになり、あらゆる面で話題性抜群だ。人気が出ないはずがない。

 

 「さ、運ぶぞ!ほんとはシップも呼んだんだが、相変わらず捕まらなくてな。」

 

 「はは・・・。」

 

 差し入れは主にお菓子やにんじんなどが中心だが、 箱によってはなかなか重量がある。ウマ娘はこのくらい平気だがトレーナーさんたちだけで運ぶとなると確かに大変かもしれない。

 

 

 

 「・・・よし、これで最後・・・!」

 

 ドンッ!

 

 「ふー・・・。二人とも助かったよ。ありがとう!」

 

 「いえいえ!」

 

 無事にすべての箱を運び終える。ゴルシちゃん、これ一人で持ち帰るの大変そうだな・・・。

 

 「では、私達はこれで・・・。」

 

 「あーおい、ちょっと待った!お前らにもちゃんと来ているぞ。持っていけ!」

 

 「!!」

 

 仕事も済んだので、帰ろうとするとトレーナーさんが箱を持って来てジャスタちゃんに手渡す。

 

 「これは・・・嬉しいですね。」

 

 「まあ、ジャスタちゃんも重賞ウマ娘だもんねー!」

 

 「・・・おい何他人事みたいに言ってるんだ。お前にもあるぞ。」

 

 「えっ?!!」

 

 トレーナーさんから箱を手渡される。流石にジャスタちゃんのより小さめではあるが、中にはしっかり手紙や差し入れが入っているようだ。

 

 「な、なんで・・・?」

 

 「ははっ。そんなに驚くか。まあ、見てくれる人はちゃんといるってことだ。」

 

 まじか・・・まじか・・・!!

 

 現実感がないまま自室に持ち帰り、早速目を通してみる。

 

 

 一中京で見た末脚に惚れました!最近惜しいレースが続いていますが、もっと勝ち上がれると思います!頑張ってください!

 

 ー未勝利戦のパドック見た時から気になって応援してます!いつも一生懸命な姿が好きです!

 

 一本来ならファンレターなど差し出がましいのですが・・・。デビューからずっと応援してます!常に全力で勝ちにいく走り!素晴らしい末脚がありながら、最近先行してみるなど試行錯誤を重ねる姿勢!さらにはゴールドシップさんとの絡み!尊いです。推しです!思えば最初に気になったのは・・・・・・・

 

 

 「・・・・。」

 

 何通か読んだところで涙が出てきてしまう。最近のレースを見てのものもあるが、未勝利の頃から応援してくれていた人の多さに驚く。ちゃんと見てくれていた人たちがいたのだ。

 考えてみればそうじゃないか・・・レースのたびに私に投票してくれた人たちがいたのだ。そんな当たり前のことに私は気付いてなかった・・・。

 手紙に書かれているのは暖かい言葉ばかり。ちゃんと全てに目を通そう、時間はある。・・・何だか探していたものが見つかった気がした。

 

 

 

 

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