「トレーナーさん!お願いします!!」
ファンレターを全て読み終えた私はあくる日、再びトレーナー室を訪れていた。
「お、おいおい、ちょっと待て。」
レースを走りたい。年内は休養の予定になっているところだが、もう一戦出走することをお願いしに来たのだ。しかしトレーナーさんの反応は芳しくない。
「ファンレターもらってやる気でたのは分かるが、冷静に考えてみろ。 ここ2か月続けて出走してるんだぞ?」
「う・・・。」
「前に足に力はいらなくなったこともあったろう?ああいったことを避けるためにも、ここは休養したほうがいい。」
「ぐぬぬ・・・。」
正論だ。あの時は毎月のようにレースに出走していて、手応えがあったからと休養挟まずに出走したレースで異変が起こった。今回も同じようになるかもしれないのだ。しかし・・・。
「で、でも・・・どうしても走りたいんです!お願いします!」
再び頭を下げる。私に引く気はなかった。居合わせた今村サブトレーナーが気まずそうにしているのを感じる。
「いったいなんでそこまで・・・。」
「・・・やっと見つけたんです。」
「私、ずっと考えてました。何のために走るのかって。・・・もちろんレースで勝ちたい気持ちはずっとありました。でもそれだけで・・・その先にある目標を見つけられませんでした。」
「・・・」
「私の周りのみんなは、それぞれはっきりとしたものを持ってました。 それに向かって努力して、どんどん壁を乗り越えていってました。」
「もちろん、私も必死にトレーニングはしてました!レースも本気の本気で走りました!・・・けど、結果やトレーニングやレースへ向かう意識だったり・・・いろんなところで目標に向ってるみんなとの差を感じてました。」
「・・・」
「けど、そんな私をずっと見てくれていた人たちが居たんですよね・・・。条件戦も上がれないのに、ずっと応援してくれていた人たちが。ファンレターを貰って読んで、やっとそれに気が付きました・・・。 だから、その人たちの為に走りたいんです! 走って・・・勝ちたいんです・・・!」
柄にもなく語ってしまう私だが、トレーナーさんは黙って聞いてくれている。
「それが私の目標・・・!やっと見つけられた気がするんです・・・!今ならみんなと同じようなレースを走れる気がするんです!だから・・・!」
歎願する私、黙ったまま難しい顔をするトレーナーさん・・・。私の言葉が途切れると、気まずい沈黙が流れた。
「ええんじゃないですか。」
「!」
そんな沈黙を破ったのは今村さんだった。
「今村さん・・・!しかし・・・。」
「気持ちが入ったウマ娘は強い。今のこの子はそれやないですか?」
「う、うーむ・・・。」
「状態面のチェックは任せてください。それにトレーニングの負荷に関しては、あの人に協力してもらうのもいいんじゃないですか?」
「!?ま、まあ確かにそうかもしれませんが・・・。あいつに借りを作るのもなぁ・・・。」
思わぬ援軍登場。よく分からない会話も交わされているがチャンスだ、押し切れ!
「トレーナーさん!お願いします!あと一戦走ったらちゃんと休養しますから!今なら勝てる気がするんです!」
「・・・分かった、分かった!とりあえずその方向で調整してみるから、とりあえず今日のところは帰れ!」
「!!・・・ありがとうございます!!」
やった!勝ち取ったぞ!
「今村さん、ありがとうございます。」
「ええよ。走りたいウマ娘をサポートするんが俺の仕事や。」
援護してくれた今村さんにそっと感謝を述べてから部屋を出る。やれる気がする。目標が定まるとこんなに力が湧いてくるのか。あとでエアグルーヴさんにも報告しよう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「やあやあよく来たねぇ!やはり君は志願してくれると信じていたよ。」
「・・・は!?」
翌日の放課後、意気揚々と部室を訪れた私を出迎えたのは意外な人物だった。トレセン学園に臨時で来ている怪しげな博士、アグネスタキオンさんだ。
「な、なんでいるんですか?!」
「俺が頼んだんだ。 トレーニングの負荷の管理に協力してもらう。」
「何やら熱心に出走を訴えたそうじゃないか。自ら実験体をかって出るとはねぇ・・・。」
「えぇ・・・。」
昨日言ってた協力者ってこの人かよ。実験とかやばそうなこと言ってるし・・・。急に不安になってきた・・・。
「さあ、早速これらを装着したまえ。」
「え?」
リストバンドのようなものを複数と、ヘアバンドのような怪しげな装備品を手渡される。
「いいかい?これは足首に、これは太ももに。腕と手首にも着けたまえ。そして頭にはこれだ。」
「・・・・。」
「なんでもトレーニングでかかっている負荷と体の状態を測定できるらしい。まあ、それ着けてやってみろ。」
「まだ開発段階だがまあ、問題はないはずだよ。」
「・・・分かりました。」
おとなしく装着する。断ったらトレーニングさせてもらえなそうだし仕方ない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「だあああああああっ!!」
タキオンさんの器具をつけて坂路トレーニングをこなす。初めは違和感があったが、次第に慣れてきて気にならないようになった。それより足がいつもより動く。明らかに調子が良いことを感じる。
「よし、 どうだ?」
「ふーむ・・・まあ問題ないだろうねぇ、今のところは。」
「うむ・・・。足は違和感とかはないか?」
「大丈夫です!」
トレーニングで身体にかかっている負荷を数値化し、それに応じた筋肉の反応も計測する。データが積みあがれば、自分では気づけない異変や兆候を見つけられるとのことだ。 最初は怪しんでいたが、実際に運用できれば革新的なのでは?
「まあ前回のことを鑑みるに疲労が一気にくるタイプのようだから、データが十分に集まるまでは慎重に行くべきだろうねぇ。」
「そうだな・・・。よし、今日はもう終わりにしよう。クールダウンして今村さんに診てもらうのも忘れるなよ!」
正直物足りない気持ちもあるが、ここは素直に従う。計測したデータと自分の感覚、それと今村さんはじめトレーナーさんたちの判断。かみ合えばこれまでより更に良いトレーニングが出来るはずだ。おそらく次走は12月半ば以降になる。まだ仕上げ切るには早い。タキオンさんやトレーナーさんたちの言う通り、今のところは軽めの調整をしつつ状態を確認し、データを積み上げていくことに専念しよう。
天皇賞秋熱過ぎワロタ