とあるモブウマ娘の物語   作:トルポめぐろ

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第44話  モブウマ娘の限界トレーニング

 

 

「だああああああっ!!」

 

 坂路コースを駆け上がる。レースまであと1週間、 追い込んで仕上げる時期だ。

 

 「ふむ、なかなか上々じゃないか。」

 

 「ああ、 かなり良い感じだな。」

 

 「ありがとうございます!」

 

 タキオンさんに協力を仰いで1週間、データも積み上がりどんどん攻めたトレーニングをできるようになった。データから予測されるおおよその限界を超えないように、しかしできるだけそこに近い負荷をかけたトレーニング。

 正直かなりキツイ。だがやっと目標ができたのだ、くらいつく気力は十分。それに先日のジュニア女王を決める G1 阪神ジュベナイルフィリーズではチームの後輩、 ローブティサージュちゃんが見事勝利を収めた。これで今年チーム6つめの重賞制覇・3つ目のG1タイトル獲得。チームの勢いは最高で私も負けてられない、絶対に勝つのだ。

 

 「よし、もう一本いけるか?」

 

 「はい!」

 

 息が戻ったところですかさず2本目。今日から3日間が一番厳しく追い込む日になる。データと足の状態を確認し、スタート地点へ向かう。

 

 「おいおいなんじゃそりゃ?!」

 

 「!?」

 

 「なんかおもしろそーな格好してんじゃねーか!?」

 

 「うわっ!ご、ゴルシちゃん・・・!」

 

 「なあなあ!茎わかめのコスプレか?それとも逆立ちしたレッドテールブラックシャークかッ!?」

 

 「は?レッド・・・?何?え?サメ・・・?」

 

 「いやサメじゃねー、あれは鯉だろ。」

 

 「????」

 

 相変わらず意味不明なことを口走っている。どこから現れたのか・・・というかまたトレーニングサボって油売ってるのか?

 

 「これで走るんだよ・・・。なんかトレーニングでかかってる負荷とか筋肉の反応とかが分かるって・・・。」

 

 「何ィ!?それで走るのか!?」

 

 「はは・・・まあ変だと思うけどね・・・。」

 

 「・・・あたしもやってみてぇ!!なあなあ!それゴルシちゃんにもやらせてくれよぉ!おもしろそーじゃねぇか!!」

 

 「えぇ・・・?!」

 

 目を輝かせている。どうやら彼女の好奇心を刺激してしまったようだ。

 

 「なんだなんだ?騒いで・ ・ってシップお前・・・!」

 

 騒ぎを聞きつけてトレーナーさんたちがやってくる。事情を説明すると、今度はトレーナーさんに対してごね始める。

 

 「なあトレーナー!あたしにもやらせてくれよぉ!」

 

 「・・・いや、お前はお前のメニューがあるだろ。年末には有馬記念も控えてるんだ、そっちをしっかりやれよ・・・。」

 

 「い・や・だ!!もう飽きた!おもしろくねー!」

 

 菊花賞後の休養から戻ってきたばかりだが、早速トレーナーさんの手を焼かせてる。飽きると全く真面目に取り組まない。だからレース前の追切りの評価がいつも低い・・・。それにこうなったゴルシちゃんは素直に説得できる相手ではない、トレーナーさんも困ってしまっている。

 

 「わたしは賛成だよ。ぜひ使って欲しいねぇ。」

 

 「!」

 

 「おい、タキオン・・・。」

 

 「2冠ウマ娘のデータなんてそうそう手に入るものではないからね。データは幅広く集めるに限る。それに、彼女のデータをとらせてくれるなら今回の貸しはチャラにしてあげても構わないんだよ?」

 

 「・・・いやしかし、こいつがまともに走る保証はないぞ。どこへすっ飛んでいくか分からんからな。そんなデータ使えないだろ?」

 

 「おいおいトレーナー、まあそれほどでもあるけどよぉー。」

 

 「それに、シップの相手するとなるとこっちは見れん。そうなっては本末転倒だ。まずいだろう。」

 

 「がっはっは!」

 

 さっきからなんで得意げなんだ君は・・・。しかし私としてもトレーナーさんに十分に見てもらえないのは困る。ここはやはりなんとかして諦めてもらうしか・・・

 

 「ふぅーん・・・なら併走すればいいじゃないか?」

 

 「!!」

 

 「は?!」

 

 「併走ならば二人同時に見れるだろう?それに競う相手がいれば彼女も真面目に走るだろうし、万事解決じゃないか。」

 

 「・・・!」

 

 私が・・・ゴルシちゃんと・・・併走?!

 

 「む・・・た、確かにそうだな。今はジャスタも居ないし、いいトレーニングになるだろう。・・・よし、やってみるか!」

 

 「っしゃーー!!」

 

 「ゴールドシップくん、君は予備のものがあるからそれを着けたまえ。」

 

 まじか・・・!確かにゴルシちゃんは併走なら他のトレーニングより真面目に走る傾向がある。いつもはジャスタちゃんと併走していたが、彼女はいま休養中で不在。他のメンバーも相手は決まっているし、確かに都合は良いのか・・・。

 しかしゴルシちゃんと併走するのは初めてだ。 というかほとんど一緒にトレーニングしたことがない。トレーニング以外では遊びに行ったり、良く分からない言動に振り回されたりして一緒にいることが多いのだが・・・。

 

 「よし、じゃあシップが追いかける形でいいな?準備ができたら位置につけよ。」

 

 「・・・ゴルシちゃん、よろしくね!」

 

 「あたしのバーニングスピリッツを見せやるぜ!」

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 「はっ、はっ・・・。うっ・・・!」

 

 膝に力が入らない。立ち上がろうとするもまた倒れこむ。完全に足が棒になってしまっている。限界だ。

 

 「ういいい〜!なあどーよ、ゴルシちゃんのポテンシャルは?」

 

 そんな私を尻目に芦毛のバケモノはタキオンさんの元へ走って行き、彼女のPCをのぞき込んでいる。一体どんなスタミナしてるんだ・・・。これまでの走りからとんでもないことは分かっていたが、実際に一緒に走るとそう思わずにはいられなかった。

 

 「う〜ん、まあ正直驚いたよ。この数値は三冠ウマ娘でもなかなか出せるものではないはずだ。同期に君を負かしたウマ娘がいるとは驚きだね。」

 

 「そりゃあ時の運ってやつだ!それにあの時は鰤の奴も凄かったからな、旬を過ぎても脂を維持してやがった。」

 

 「・・・しかしあのオルフェーヴルくんを倒す子も居たり・・・トレーナーくん、今年のクラシック世代はとんでもない世代なのかもしれないねぇ。」

 

 「ああ。巷でも言われているが本当に来年も楽しみな世代だ。ちょっと怪我で離脱する有望株の多さが気になるがな・・・。」

 

 「ふーむ・・・。ライバルのレベルが高い分、それに勝とうとして限界を超えてしまうのかもしれないねぇ・・・ しかし、ゴールドシップくんにはその心配はなさそうだ。 筋肉も柔らかく、関節の可動域も広い。見たところ本人の性格的にも無理しすぎて大怪我、なんてことはないだろう。・・・しかしこれも縁というやつかね。」

 

 「・・・はは。」

 

 〜〜♪

 

 「!」

 

 「やばい!!入れ替えの時間だ!急いで撤収するぞ!」

 

 話し込んでいると坂路コースの利用時間終了を知らせる音楽が鳴り、慌てて片付けを行う。私はまだ膝が笑ってしまっていて、置いていかれそうになりながらもなんとか皆に続いた。

 坂路で後方から迫りくるゴルシちゃんは恐ろしい。坂などないかのようにぐんぐん加速してくる。こちらは必死で逃げるもやがてスタミナが尽きてすりつぶされる。ただせさえキツい坂路に加えて、ペースを緩めることを許さないゴルシちゃんの猛追。まさに限界を絞り出すトレーニングだ。かつてないほどキツい。しかし、その分鍛えられているはずだ。これはきっと最後の粘りに活きてくる。すべては次のレースで勝つため。この調子で食らいついていけばきっと結果は出せるはずだ。

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 曇り空の中京レース場。今日はG3愛知杯が行われるためお客さんの入りは良い。パドックも条件戦の割には人が入っている。

 

 「・・・・。」

 

 この中に私を応援してくれている人達がいるのだ。それも少数ではない。なぜなら今回のレース、私は2番人気だからだ。今まで自分のオッズは確認しておらず、とにかくレースに集中することだけを考えていた。しかし確かに私を応援してくれている人は居たのだ。それも、私の考えているよりずっとたくさん。

 パドックの壇上へ出ると客席を見渡してみる。耳も澄ます。様々な人たちが様々な言葉を発している。その中の応援してくれている人の姿、その声に心を傾ける。レースは自分だけの戦いじゃない、そのことにやっと気づくことができたのだ。そのことを改めて心に刻み、いつも通り一礼して下がる。

 

 「一よし、 大丈夫そうだな。」

 

 「はい!ばっちりです!」

 

 控室ではトレーナーさんと作戦の最終確認をし、やがて時間が来たらターフへ送り出される。

 

 「勝ってこい!」

 

 「はい!!」

 

 今日のバ場は重バ場。雨の影響を受けてダートコースは砂が固まり、時計の出やすいバ場になっている。返しウマでその感触を確かめながら走り、ゲート入りを待つ。

今日の私は8枠15番、大外枠だ。一般的にダートのレースは芝のレースと違って外枠が有利とされているが、ここ中京のダート1900mにおいては枠の内外で勝率に大きな差はない。個人的には前に行きたいのでもう少し内枠の方が良かったのが正直なところ・・・。 だがこれは仕方のないところ、与えられた条件でベストを尽くすのみ。

 

 <はい11番入った。次、13番入って一・・・はい次、15番入ってー

 

 私の番だ。発走係員さんの誘導に従ってゲートに入る。あとは偶数枠の子たちの枠入りを待つ。この時間はお客さんも静かに見守っていて係員さんたちの声だけが響く。

 

 「・・・・。」

 

 目を閉じて深呼吸・・・集中する。勝ちたい。いままでずっとこの気持ちをもってレースを走ってきた。それは今も変わらない。しかし今日はそれに応援してくれているファンの思いや、無理を押して調整してくれたトレーナーさんたちの思いが乗っている。今日こそ、それに応えるのだ。

 隣に16番の子が収まる。これで枠入り完了だ。さあ・・・ゲートが・・・開いた!!

 

 

 

 

 

 

 

 

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