とあるモブウマ娘の物語   作:トルポめぐろ

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 誤字指摘ありがとうございました。




第45話  モブウマ娘、思いを乗せて走る

 

 

 ガシャン!

 

 「!」

 

 ゲートが開きスタートする。まずは先行争い、やはりこのバ場というのもあって皆スタートダッシュが良い。真ん中あたりの枠のウマ娘たちがだんだんと内へ進路を取り先団を形成していく。 私は大外枠なので被されて進路を失うようなことはないが、 瞬発力で劣る分それらのウマ娘たちより遅れる形になった。

 

 「・・・!」

 

 しかし、それは想定通り。通常のコースならこれでポジション争いは終わり、1コーナーへ向かうところだがここは中京1900m。直線が長く最初のコーナーまでは400mほどもある。先団の外につけた私は長い直線を活かして加速をつけ、コーナーへ差し掛かる手前で先行集団を追い越す。コーナーに入ってしまえばこちらのもの。このタイミングで外を回すような無理をしてくるウマ娘はいない。うまく2番手のポジションを確保することに成功した。

 

 トレーナーさんと立てた作戦通りだ。 あとは向こう正面の上り坂でペースが緩むのを利用し息を入れる。大分ペースが落ち着いている。上手な逃げだ。巧みなペースコントロールで自分に有利な展開を作り出している。だが、それは私にも好都合。ぴったりマークして3コーナーへ向かう。

 

 中京レース場は3コーナーの入りは緩やかだが、4コーナーの出口では角度が急になっている。いわゆるスパイラルカーブというやつだ。そのため4コーナー出口で外に膨らみやすくなっている。外に膨らんではロスしてしまう可能性が高い。直線が長いので後ろからくる差し追い込み勢も気になるが、ここはきれいに回ることに専念する。

 ずっと練習してきたコーナリングだ。ストライドを保ち、体重移動を利用することで脚を使わず速度を維持するコーナリング。強烈なピッチ走法でコーナーを駆け上がっていくドリームジャーニーさんやオルフェーヴルさんのものとは違う、かつてシンボリルドルフさんが得意としていたものだ。ベルちゃんやエアグルーヴさんとの自主トレを重ねる中で、私にはこのやり方が合っていると判断し練習してきた。コーナーを回る度に周囲と差をつけていったかの皇帝のものには遠く及ばないが・・・それでもこのクラスでは十分通用する。楽な手応えのまま先頭に並び、 最終直線へ向かう。

 

 「だあっ!」

 

 直線を向くとすかさずスパートをかける。まず高低差2m、勾配2%の坂がある。しかし坂路でゴルシちゃん相手に鍛えてきたのだ、すでに並んでいた逃げのウマ娘を置いて先頭に立つ。今回は割りと道中スローペースで進んだ、2番手追走でも脚は十分残っている。このまま押し切れ・・・!!

 

 「はあああああああっ!!」

 

 「!!」

 

 完全に抜け出したように思えた直線半ば、外から一人のウマ娘が猛追してくる。14番の子だ。私の隣からスタートし、2番手で進む私の後を見るように追走してきていた子だ。どんどん差をつめてくるのが分かる。彼女もしっかり脚を溜めていたのだ。逃げるウマ娘が私ににぴったりとマークされていたように、私もまた3番手の子にマークされていたのだ。

 

 「はっはっ・・・!」

 

 坂を上り切っての直線、まだあとゴールまでは100mくらいはある。バ場が固い分、瞬発力が発揮しやすい。どんどんと近づいて来ている、1バ身くらいか。姿は見えないが足音と気配で分かる。

 

 ・・・まずい、分が悪い。 差される・・・また勝ち切れない・・・。そんな不安がよぎる。しかしここはスタンド前の直線、お客さんの声が聞こえてくる。思い出せ、パドックで心に刻んだ声を。思い出せ、応援してくれる人達がいることを。思い出せ、ゴルシちゃんに追いかけられるプレッシャーはこんなものじゃなかったはずだ。応えたい気持ちを、トレーニングの成果を、なけなしの意地とプライドを、この脚に乗せろ・・・!!

 

 「抜かせるかああああああっ!!!」

 

 「なっ・・・!?」

 

 思い切り踏み込む、足を伸ばす、ゴールラインを駆け抜ける・・・。

 

 

 

  Ⅰ  ⑮

      <1.1/4

  Ⅱ ⑭   

      <3.1/2

  Ⅲ ⑪

 

 

 

 私の番号、15番は・・・一番上だ。やった!やった・・・!!勝った・・・!!

 

 「トレーナーさん・・・!やりましたよ・・・!!私っ・・・!」

 

 「ああ・・・!よくやった!!いい走りだったぞ・・・!」

 

 トレーナーさんと喜びを分かち合う。嬉しい。トレーニングの成果を出すことができた。私は才能のあるウマ娘ではない。このチームでなければ未勝利で終わっていてもおかしくなかっただろう。そんな私をチームに受け入れ、しっかり向き合いながら鍛えてくれたトレーナーさんには感謝しかない。

 

 パチパチパチ・・・

 

 スタンドからは拍手が聞こえてくる。やっぱり少しまばらだ。G1の時のような歓声はないし、みんながみんな祝福してくれている訳ではないだろう。しかしこれは確かに私に向けられたものだ。応援してくれた人には応えられたかな・・・。

 目標を見つけ、その達成のために色々な人に協力してもらいながら限界まで頑張った。タイムは平凡だし、展開も恵まれたかもしれない。勝ち方もゴルシちゃんや、かつて憧れた英雄のような派手なものではなかっただろう。それでも・・・やっぱりうれしい。全てを出し切って掴んだ。これが私のトゥインクルシリーズ2勝目だった。

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 夜の窓を開けて外を眺める。12月も後半に入っており、外の空気は冷たい。しかし暖房の効いた部屋に引きこもっていると、そうした空気に触れたくなることだってあるのだ。

 

 「・・・ぐふふ。」

 

 あのレースから2日、未だに思い出してはにやけてしまう。会心の走りだった。レース後にはチームメンバーのみならずクラスメイト達からも祝福された。そしてさらに嬉しいのは同日、中山レース場で行われたディセンバーステークスでベルちゃんがシニア級相手に勝利をあげたことだ。雨が降る中稍重の発表で行われた 1800mのクラシック・シニア混合オープンのレース。ベルちゃんは3コーナーすぎあたりに中団から押し上げを開始、最後の直線では前で粘る3人を追い詰めクビ差で差し切った。決してベストな距離、バ場の条件ではない中でシニア級のオープンウマ娘たちを打ち破った。

 私もベルちゃんも年内のレースはこれで終了。休養に入るため、昨日は二人で盛大に祝勝会を挙げた。これで来年私は2勝クラスに、ベルちゃんはオープンウマ娘として重賞に挑んでいくことになるだろう。今までより厳しい戦いになる。だけどやれる・・・成長できている。そんな確かな手応えがあるのだ。

 

 〜〜♪

 

 「!」

 

 そろそろ窓を閉めようかという頃、電話がかかってきた。

 

 「もしもし・・・エアグルーヴさん・・・?」

 

 『ああ、突然すまないな。レース見たぞ。おめでとう。既にメッセージも送ったが直接伝えたくてな・・・。』

 

 「・・・!ありがとうございます!教えていただいたことを出せました!」

 

 「ふふ・・・。見事なコーナリングだったな。・・・だがクラスが上がれば相手も強くなる。精進しろよ。』

 

 「はい!頑張ります!」

 

 エアグルーヴさんに褒められることなんてなかなかない、本当に頑張ってよかった・・・。

 

 『ところで、来週は中山に来るのだろう?』

 

 「・・・え?」

 

 『チームメイトが出るんだ、当然応援に行くのだろう?』

 

 「・・・ああ!はい!もちろん行きます!」

 

 『私のバカ弟子も走るからな、当日は顔を合わせるだろうからよろしく頼む。」

 

 「ルーラーシップさん・・・!確か引退レースになるって・・・。」

 

 『そうだ。本当はもっとG1を取らせてやりたかったがどうにも出遅れ癖が治らんでな・・・。それに、能力のピークとしても奴の将来を考えても・・・ここで引退がベストだと判断した。』

 

 「なるほど・・・。」

 

 ルーラーシップさん、シニア級2年目となった今年は4月に香港のクイーンエリザベス2世カップを制し念願のG1タイトルを手にしていた。その後は出遅れ癖が響き勝ちをつかめていない。それでも宝塚記念で2着。天皇賞秋、ジャパンカップで3着と流石の強さは見せており、現役屈指の実力者であることには疑いがない。

 

 『おそらくお前のところのやつが1番人気になるだろうが、出走者は重賞複数勝っているような猛者ばかり。こちらも簡単に勝ちは譲らないつもりだ。全力でこいと伝えておけ。」

 

 「はは・・・。」

 

 『じゃあ当日中山でな。」

 

 「あっはい!失礼しつれいします・・・!」

 

 そうだ、レースを走り終えてすっかり来年のことを考えていたが、まだ年末の大一番が残っていた。ファン投票で選ばれた人気と実力の兼ね備えたウマ娘たちが競うレース・・・。チームからはゴルシちゃんが出走する。シニア級の先輩たちとの初対戦。しかもルーラーシップさんやエイシンフラッシュなど強豪が揃って出走してくる。クラシック2冠を制覇し、世代を代表するウマ娘となったゴルシちゃん。今度はどんな走りを見せてくれるのだろうか。年末のグランプリ、有馬記念は来週に迫っていた。

 

 

 

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