外気は肌寒くすっかり冬の空気に、世間ではもうすぐクリスマスとあってこの時期特有の景色で溢れている。恋人たちの季節なんて言われるが、街中やインターネット上では多種多様な商戦が激しく繰り広げられる季節でもある。
私達ウマ娘にとってもこの季節は勝負の季節だ。G1 有馬記念。秋シニア3冠の最後を飾る実力者たちの戦いであり、ファン投票で選ばれた者が走るファンの夢でもあるレースだ。
有馬記念と言えばオグリキャップさんやトウカイテイオーの復活劇が印象的だ。だが、去年のオルフェーヴルさんやナリタブライアンさんなどクラシックで強かったウマ娘がシニア級相手にもその強さを見せつけた舞台であり、シンボリルドルフさんやテイエムオペラオーさんら現役最強がその威光を示した舞台でもある。さらにハーツクライさんやダイユウサクさんなど、時として大番狂わせが起こることも印象深い。
「どうですかゴールドシップの様子は?追切はあまり動いてないと聞きましたが・・・。」
「いや、いつも通りですよ。追切はいつも真面目に走らないんです・・・ 困ったことにね。でも調子自体はいいと思います。」
「そうですか・・・ 菊花賞は見事でした。 あんな勝ち方はよほど突出していないとできるものではない。しかし、うちのもスタートをしっかりしつけて来ました。いい勝負になるかと。」
「はは・・・ほんとに彼女はゲートがね・・・。まあうちのシップも似たようなものですが・・・。」
隣ではトレーナーさんがこちらで合流したエアグルーヴさんと話している。なんだか新鮮な組み合わせだがお互い G1 トレーナー同士である、顔を知らない訳はないか・・・。
「やはりシップが1番人気ですね。でも 2.7倍 2番人気のルーラーシップさんが 3.7 倍ですからそこまで圧倒的に支持を集めている訳ではなさそうです。」
「うん・・・。」
右隣にはジャスタちゃんがいる。確かにゴルシちゃんは1番人気ではあるが、不安要素も挙げられている。皐月賞はコース取りがハマっただけ、菊花賞はライバル不在・・・などが主な根拠だ。
このレースで引退となる2番人気のルーラーシップさんは、出遅れ癖があるものの能力は一級品。香港では世界の名だたる強豪ウマ娘たちをなぎ倒し、世界中から高い評価を集めた。あの時のようにしっかりスタートを決めれば勝つ可能性は高いと評判だ。
3番人気はこちらもおなじみエイシンフラッシュさん。相変わらず漆黒の毛並みが美しく、パドックではみんなが息をのんだ。前走ジャパンカップこそ不本意な結果だったが、その前の天皇賞秋では見事な走りで勝ちを収めている。去年の有馬記念もオルフェーヴルさんの2着という実績も評価されているようだ。 閃光の末脚と呼ばれるように、 瞬発力勝負では彼女が一番だろう。やはりダービーで記録した上り3ハロン 32.7 は狂っている。
他にもエイシンフラッシュさんと同期で朝日杯を制し、ダービーと菊花賞で2着。クラシック期ながらジャパンカップを制したローズキングダムさん。G1勝利こそないが常に掲示板に乗り続けているダークシャドウさん、中山レース場では連帯をはずしたことのないナカヤマナイトさんなどもここで一発を狙っている。
「中山2500m・・・難しいコースだ。小回りでコーナーも多く、直線では急坂も待ち構えている。スピードだけでは勝てないが、去年のようなスローペースになると短い直線が短い分、極端な瞬発力勝負にもなる。どんな展開になるか分からない。私も結局このコースで勝つことは出来なかった。」
「確かに。しかし、ある程度前目につけた方がいいということは言えると思います。このコースは後ろ過ぎると届かない。」
返しウマが終了しようという中、トレーナーさんとエアグルーヴさんが語り合う。今日はとにかく逃げを打ちたいウマ娘は居ないのもあって展開の予想は難しい。そんな中どれだけいいポジションを取れるかが鍵になる、というのが二人の意見だ。確かに小回りでは道中派手に動きずらいし、序盤のポジションが大きく影響しそうだ。そうなるとやはりスタートが非常に大事になってくる。
ルーラーシップさんは5枠9番、エイシンフラッシュさんは1枠2番と彼女にとっては絶好の枠。対するゴルシちゃんは7枠13番・・・ 外枠だ。基本的に外枠の方が好位は取りづらい。果たしてこの差がどう影響してくるか・・・
ターフに白いスーツと帽子に身を包んだ人が出てくる。スターターだ。機械に乗って旗を振り上げる。さあ、G1 有馬記念の発走だ・・・!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ーさあ、スタート注目!第57回グランプリ有馬記念・・・スタートです!!
ガシャン!!
「あっ!?」
「!?」
一煽ったーー!!ルーラーシップ大きく出遅れーー!!
スタートの瞬間みんな一斉にゲートから飛び出していく中、ルーラーシップさんがジャンプするような形になってしまい大きく出遅れた・・・!
「・・・っ!たわけ・・・!」
エアグルーヴさんが頭を抱える。また悪い癖が出てしまった。バ群から10バ身くらい後方に置かれてしまっている。
「・・・っておい!?」
「あれ?!」
そんなルーラーシップさんを尻目にポジション争いに入っていくウマ娘たち。しかし、その中から一人ずるずると後退していくウマ娘がいた。一際目立つ芦毛に赤い勝負服・・・ゴルシちゃんだ。
「おいおい・・・。」
完全に行き脚がついてない。しっかりスタートしたはずなのに集団から大きく離され、出遅れたれルーラーシップさんを除いての最後方にまで下がっている。
どよどよ・・・
一場内が何とも言えないどよめきに包まれています。さあ、しかしまだ先は長い2500m。たくさんコーナーがあります小回り中山です。まだグランプリは始まったばかりです。
前目につけることが重要なこのレースで1、2番人気が序盤ついていけず最後方で追走するまさかの展開。確かに始まったばかりだが波乱の起きやすい有馬記念、レースは早くもカオスな様相を呈していた。
ー先行したのはアーネストリー、このまま行くのか?2番手につけているのはビートブラックです。3番手にルルーシュ外外を回る緑色の勝負服・・・・
スタート地点からスタンド前へ流れてくる。隊列は先行する3人の後ろに中団グループが固まり、そこから少し離れて2人が追走。さらにその後ろにゴルシちゃん、ルーラーシップさんと続いている。
ー最初のゴール前急坂を登るウマ娘たちです。最内エイシンフラッシュ白と黒の勝負服。そして・・・もう早くもルーラーシップは後ろから一人、二人と交わして前にとりついて行こうという判断に。1コーナーカーブです。ゴールドシップが従ってご覧の通り最後方です。
・・・おいおい大丈夫か。皐月賞、菊花賞の時もこんな感じだったが今日は有馬記念。その二つとはメンバーもコース条件も大きく違う。
「・・・!1000通過60秒5・・・。流れてますね・・・!」
ジャスタちゃんはしっかり時計を確認している。確かにこの辺でペースが緩みそうなものだがその気配はない。極端なハイペースというわけではないが、淡々と流れている。少し押し上げたルーラーシップさんもそれを把握してか、無理はせずバ群の後方にぴったりとつけている。
「これは・・・キツい流れになりそうだ・・・!前のウマ娘はそろそろ息を入れたい所だが・・・。」
「ええ・・・。しかし後ろもそう易々と休ませるほどバカではない。ここから動くぞ・・・!」
エアグルーヴさんのいう通り向こう正面を過ぎたあたりからルーラーシップさんはじめ後方のウマ娘たちが徐々にペースアップ。じわじわ押し上げ中団に接近していく。
ーさあ、ゴールドシップ動いた!ここで動いた!3コーナーカーブ、まだ後700m近くあります!!
「!!」
ざわっ・・・
そんな様子を見てかゴルシちゃんがスパート。超早仕掛けにスタンドがざわめく。菊花賞の時のように大きくまくっていくつもりだ・・・!
ー赤色の勝負服ご注目!600通過で4人抜いた・・・!真ん中あたりにくる・・・!トゥザグローリーあたりを交わしていく・・・!一番外芦毛が一際西日に映えます・・・!さあ、今年のグランプリはどんな結末が待ち構えているのか・・・!2冠バゴールドシップ、ここでもう一つのタイトルを獲るのか・・・!
ゴルシちゃんが浮いたことで観客のボルテージは最高潮に、場内は早くも大歓声に包まれた。
「まずい・・・!」
勝負の最終直線、トレーナーさんが身を乗り出す。確かにまずい。まだ10番手くらいだ、大外を回った上にまくり切れていない・・・!脚を使った上に苦しい位置どり・・・!
ー先頭はビートブラックまだ逃げる、叩いて叩いてルルーシュ、最内からどうかアーネストリーか・・・!割って入るエイシンフラッシュ!!エイシンフラッシュ抜けてくる・・・!
「!」
エイシンフラッシュさんが持ちまえの瞬発力を発揮・・・!急坂に差し掛かり余力のなくなったウマ娘たちの間を割って抜けてくる。これは・・・去年の雪辱なるのか・・・!
ーしかし外から、外からゴールドシップ、ルーラーシップ!真ん中、オーシャンブルー・・・・ゴールドシップ!!
「うわっ・・・!?」
ー強ーーーーーーーーーーい!!
ワアアアアアアアアアアアアアア
ー2冠バはやはり強い!!シニア相手でも堂々の走り!バ場の外をついて素晴らしい脚をしたゴールドシップ!!
「・・・・・!!」
つ、強い・・・!!思わず声が出てしまった。外から飛んできて1バ身以上突き放しての完勝。ゴールの瞬間スタンドに向かってピースサインをする余裕すらあった。直線に向いたときは苦しいかと思われたが、なんと最後もう一伸びする脚が残っていた。
くやったーー!!
くすごいすごい!
スタンドは大歓声に包まれる中、チームのみんなもお祭り騒ぎ。チーム初のシニアG1、グランプリのタイトル獲得だ。
「・・・完敗だな。あれだけ無茶苦茶な仕掛けしたやつが最後一番余力あるとは・・・まったく・・・どうなっているんだ。」
「エアグルーヴさん・・・。」
「・・・私はもう行こう。 チーム一丸で喜んでいるのを邪魔しては悪いしな。」
そう言ってエアグルーヴさんは地下道へ降りていく。出遅れたとはいえルーラーシップさんは3着まで来た。出遅れからバ群にとりついていったが、中盤はペースが緩まないのを感じて内で控え無理をしなかった。最終直線では外に出て、先に抜け出したエイシンフラッシュさんをはじめみんな余力がなくなっていく中、ゴルシちゃんと並んでぐんぐん追い上げた。2着のオーシャンブルーさんは終始ロスなく追走して、最終直線ではルーラーシップさんより内を回って伸びてきた。クビ差及ばなかったが、 これは出遅れの分の差だ。今日のレースは終始ペースが緩むところがない流れ。前も後ろも地力で劣るウマ娘は沈んでいった。ロスがありながらこの内容だからやはり強かったのだ。
だが、今日はそれ以上のバケモノがいた。
「いえーい!ピスピース!!」
再びスタンド前に戻ってきて歓声に応えている。道中、無駄の多いことをしながらも一番脚を伸ばした。出遅れたルーラーシップさんより後方に位置取り、集団のペースが上がりはじめたところでスパート。菊花賞の時のようにみんなが緩んだところではないため、あの時のようにはポジションを上げられない。それに加えバ群が密集していたためコーナーで大きく外を回されることになった。最終コーナーで大外を回されるロスは大きい。わたしもそれで何度も苦い思いをしてきた。早仕掛けで大きく脚を使い、その上誰よりもコースロスをしたのだ。この厳しい流れのレース、そんなことでは直線では伸びないどころか沈むのが普通だ。
それなのにゴルシちゃんは直線で誰よりもいい脚を使って突き抜けた。まるで二段ロケット。我慢して脚を溜めていたウマ娘よりも速い上がり・・・。まったく、どうなっているんだ・・・。エアグルーヴさんがそうこぼすのも無理もない、恐れ入った。
「シップ!!よくやった!!」
「いや、驚きました・・・!」
「おめでとう!!」
みんなと一緒にゴルシちゃんに祝福の言葉をかける。これでG1 3勝目。このメンバー相手に圧勝。これで展開や相手関係を理由に実力を疑問視する声もなくなるだろう。世代最強どころか現役最強にさえ手が届きそうな・・・そんな走りだった。