とあるモブウマ娘の物語   作:トルポめぐろ

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第47話  モブウマ娘のお正月

 

 

 有馬記念も終わり、チームメンバーの出走するレースは全て終わった。そうなるとやって

くるのは新年、お正月だ。メンバーは各々地元に帰って過ごす。私も家族と久しぶりの再会を楽しんでいる。トレーナーさんたちもこの時期ばかりは過酷な業務から解放され、ゆっくりと過ごしていることだろう。

 

 「ちょっとだらけすぎじゃないの?とてもレースを走るウマ娘とは思えないわね。」

 

 「どのみちしばらく休養だからいいんですよー。 体を休めるのもアスリートの仕事って

ね!」

 

 「そんなこと言ってずっと食べてばかり・・・。太って減量するはめになっても知らないからね・・・!」

 

 「うぐ・・・!」

 

 流石お母さん、痛いところを突いてくる・・・。 しかしやめられない、止まらない。こたつに収まりながら食べる正月料理の誘惑に打ち勝てるウマ娘などいないのだ。

 背中側にはガスストーブの温もりを感じる。今どきはエアコンの暖房で十分なんだろうけども私はこのじりじりとした感じの匂いと温かさが好きだ。とりあえずつけてあるテレビではまた去年と同じような新年特番が流れている。正直こうした番組に面白さを感じたことはないものの、こうして暖を取りながら漠然と眺める雰囲気に新年を感じる。

 

 「まあまあ母さん、今年は頑張ったんだから多少はいいじゃないか。なんでも今注目のチームらしいじゃないか。今年成績をグンと伸ばして一躍強豪に仲間入り・・・なんてテレビでもやっていたぞ!」

 

 「はは・・・。それは同期にすごい子が居るからで、私の活躍じゃないんだけどね・・・。」

 

 「いやそんな強いチームに入って勝ち上がってるんだから大したものじゃないか。未勝利で引退する子も多いっていうから、入学したばかりの時は心配したんだぞ。」

 

 食卓のテーブルにはお父さんが座って新聞を広げている。相変わらず私に甘い。父は娘に弱いというが、私の父はその典型的な例だといえる。

 勝ち上がり・・・去年の年明けはデビュー戦を負けて迎えた。小倉2000m芝のレースだった。ベルちゃんと電話してお互い泣いてしまったのを覚えている。あれからダートに転向し、コーナーでの立ち回りの研究なども重ねて初勝利を掴んだ。今でも鮮明に覚えている。あの時の嬉しさは一生忘れないだろう。

 その後はなかなか結果が出なかったが、1勝クラス9戦目でついに勝つことができた。 何を目指して走るのか、そんな問いに対する答えも見つかり自分の中でしっかりとした芯ができた。トレーナーさんやベルちゃんをはじめ色々な人に支えられ、なんだかんだ充実した1年を送れたと思う。

 チームとしても飛躍の年だった。チーム結成からまだ3年で重賞勝利を目標に頑張って

いるような状況だったが一気に成績を伸ばし、史上最速でトゥインクルシリーズ通算 100勝を達成。最終的にはG1 4勝、重賞9勝という成績を残し、チーフの須川トレーナーはURAから贈られる優秀トレーナー賞栗東部門にて見事1位を獲得した。チームランクも4位まで上昇し、一流チームの仲間入りを果たした。

 勢いづいた良い流れの中、お互いの活躍に刺激を受けレースに臨む環境ができていた。新人たちも活躍したが、先輩たちも今まで以上の活躍をしていた。

 なかでもゴルシちゃんの活躍は目覚ましかった。共同通信杯から皐月賞を勝ち、ダービーは敗れたものの神戸新聞杯、菊花賞と連勝。極めつけに有馬記念まで獲ってしまった。一人でG1を3勝、チームの獲った9つの重賞の内5つは彼女がもたらしたものだ。年度代表ウマ娘こそトリプルティアラとジャパンカップ制覇を成し遂げたジェンティルドンナさんに持っていかれたが、満票で最優秀クラシックウマ娘に選ばれた。

 阪神ジュベナイルフィリーズを制したローブティサージュちゃんや、アルテミスステークスを制したコレクターアイテムちゃんなど、ゴルシちゃんの活躍を見てチームに加入してくれたジュニア期の有望株もいる。そうした面での貢献は大きい。ゴルシちゃんなくしてこのチームの躍進はなかっただろう。

 

 『オグリキャップ以来!冬のグランプリに芦毛旋風!!』

 

 『栗毛の3冠バの次は芦毛の2冠バ!今年もクラシック級ウマ娘が制覇!!」

 

 有馬記念後、各誌にこぞって取り上げられた。取材の申し込みもとんでもない数押し寄せてきているようだ。芦毛のルックスと破天荒な言動、常識はずれの強さ発揮するレースぶり・・・。いまや完全にスターウマ娘となっている。

 

 ・・・のどが渇いた。こたつに入りストーブにあたっていると乾燥して思いのほか水分が欲しくなる。こたつから出るのにはなかなかの決心が必要だったが、なんとか這い出て冷蔵庫へ向かい適当な飲み物を掴む。寒さや風のない屋内から見る外は気持ちの良く晴れているように見える。窓から見える景色は私が子供の頃とほとんど変わりなく、なんだか懐かしく感じる。

 ・・・昔は雪が降ってたりしてんだけどなぁ。 ふとそんなことを考える。小さい頃はいとこたちと雪遊びをする年もあった。ウマ娘は私だけだったのでやりすぎてしまわないように注意して遊んだっけ・・・。温暖化というやつなのか、この時期に雪が降ることはなくなってしまった。あの頃は目の前に広がる白い景色に胸を躍らせ、 ちょうどこの窓から見える位置に雪だるまなど作ったものだ。ウマ娘パワーを発揮して作った巨大な雪だるま・・・絵本で見たようにマフラーなど巻きつけて飾ったっけ・・・。白い雪だるまに赤いマフラー・・・。この窓から見える赤と白・・・そう、ちょうどあんな風な感じの・・・・

 

 「!?」

 

 不意に視界に白い頭髪に赤いマフラーをまいた人物が現れた。しかもこちらへ近づいてくる。

 

 「・・・!」

 

 ゴルシちゃんだ。

 

 コンコンコン

 

 驚く私を前に窓を軽く叩いて開けろと言っている。

 

 「ど、どうして・・・!?ここ、私の実家・・・・!」

 

 「おう、いくぞ。」

 

 「・・・は?」

 

 「初詣行くぞ。早く準備しろ。」

 

  「は、初詣・・・?!」

 

 意味が分からない。なぜ私の地元に来ているのか、そしてなぜ私の実家を知っているのか。

 

 「そ、そんな約束したっけ・・・?」

 

 「はぁ?年明けに初詣に行くのは当たり前だろ?それに、話は通してある。」

 

 「え?」

 

 「あらー!ゴルシちゃんあけまして〜!もう来たのねー!」

 

 「どうも、あけましてコングラチュレーション。」

 

 「え?」

 

 「今年もこの子を宜しくね。ほら!あんた早く準備してきなさい!あ、ゴルシちゃん寒いから中どうぞ〜。」

 

 「え?え?? 」

 

 意味が分からない。話を通したってお母さんにか?! 確かにお母さんも来ること分かっていた風だが・・・。というか知り合いなのか?!いつの間に!?私は何も聞いてないぞ・・・!?

 

 「ほら、何してんの。ジャージ姿で行く気?」

 

 「ちょ・・・えぇ〜・・・。」

 

 背中を押されリビングから追い出されてしまった。え?これ行く流れなの?

 

 「ジャスは現地集合って言ってあるからな。待たせるとわりーから急げよ。」

 

 あっ、ジャスタちゃんも来るのね・・・。なるほど・・・・。

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 「で、どこ行くのよ?」

 

 ジャージから急いで着替えて家を出た。やはり晴れていても気温は低く、冷たい風が突き刺さる。

 

 「あ?まあテキトーなとこでいいぜ。なんならお前が家族と行ったとこでもいい。」

 

 「ええ?決めてないのかよ・・・。わざわざ突撃してくる割にはテキトーだなぁ・・・。」

 

 「計画通りにいかねえのが現実ってもんだ。臨機応変に行動することこそ大切・・・兵の形水に象る、だ。」

 

 「??」

 

 相変わらず良く分からない。ゴルシちゃんといると処理が追い付かなくなるようなことが多々ある。しかしこれでめげてはいけない、とりあえず行先を決めなければ。

 

 「うーん・・・この辺有名なとこはないし遠くになっちゃうかな?」

 

 「いや、有名なとこじゃなくていいぜ。とりあえず焼きそばが売ってれば。」

 

 「焼きそば好きねー、ほんと・・・。でもとなると屋台があるところか・・・。」

 

 あーだこーだ言いながらネットで検索するなどなるべく混んでないところを探し、最終的に隣町の神社に決まった。この辺の人しか行かないだろうがそこそこ大きなところだ。きっと屋台もそれなりにあるだろう。ここから歩くには少し遠いので二人で電車に乗り込んだ。

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 「ふおおおお!なかなかいいじゃねーかっ!!やっぱ初詣はこうじゃねーとな!」

 

 神社に着くなりゴルシちゃんが感嘆の声をあげる。やはりそれなりには混んではいるが、まあ自由に動けはする程度だ。屋台もそれなりにあるが特に目新しいものはないし、神社事態も特に変わったところがある訳ではない普通の神社。なにがそんなに気に入ったのか分からないが、まあ好感触ならばよかったか・・・。

 

 「じゃあとりあえずお参りしてこよっか・・・ってあ・・・!」

 

 「あん?」

 

 とりあえず列に並ぼうとした時、重要なことを思い出した。

 

 「ジャスタちゃん・・・!ジャスタちゃんに連絡した?」

 

 「いや、してねーぞ。」

 

 「あー!やっぱり!現地集合なんて無理じゃん、もう!」

 

 うかつだった。 ゴルシちゃんの突然の来襲に一杯で頭が回っていなかった。

 

 「いや、あいつなら大丈夫だ。」

 

 「は・・・?」

 

 「二人ともお疲れ様です。こちらへどうぞ。」

 

 「!!」

 

 「ほらな。」

 

 「え・・・!?ジャスタちゃん・・・?!どうしているの!?」

 

 「芦毛あるところに我あり・・・。」

 

 「えぇ・・・」

 

 いや、どういうこと?

 

 「おいお前ら、ちゃんと小銭持ってきたろうな!」

 

 「・・・!あっうん!」

 

 なぜか先に来ていたジャスタちゃんが並んでくれていたため、すぐに順番が回ってくる。慌てて小銭を準備する。そういえば複数の神様に参拝しても問題ないのだろうか・・・

 

 「おーし、 一発決めてやるぜ!」

 

 いや、そんなこと気にしていても仕方ない。お願いではなく決意表明にすればいい。5円玉を投げ入れ、2回深々と頭を下げる。

 

 パンパン!

 

 今年は去年より大きな活躍を・・・!!

 

 

 

 

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