年が明け、再び学園生活が始まった。ジャスタちゃんやアスカ先輩はいきなり重賞レースに挑んでいく中、私はまだ本格的なトレーニングをする段階にはなかった。12月に激走した反動が強く、自分でもまだ無理だと分かるくらいの状態だったからだ。とはいっても普段の休養より忙しい日々を送っている。チームに取材が殺到しているからだ。
主にゴルシちゃんに対するものが中心だが、彼女はあんな感じなので気分が乗らなければ捕まらないし、取材に応じてもいつものノリで受け答えるので記者たちを困惑させている。
本人から情報が得られないとなると周りから、それも関わりの深い相手が望ましい。・・・というわけでレースの準備に忙しいトレーナーさんやジャスタちゃんに代わって休養中の私に取材が回って来るのだ。すっかりゴルシちゃんと仲の良いチームメイトと認識されている。
「有馬記念、すごかったですね。レース後の様子などはどうでした?」
「本気で走って疲れたとか言ってウイニングラン拒否してトレーナーさん困らせてまし
た。でも翌日は休養の予定なのに、坂路で調整してたジャスタちゃんを追いかけまわしたりして相変わらず元気に暴れてました。」
「ははは・・・。レース前は彼女と併走を行っていたとのことですが、チームメイトの目から見た彼女の強みとはなんでしょう?」
「う〜ん、まあ私からみたら全て規格外ですけど・・・やっぱりタフさですかね〜。トレーニングでも彼女がへとへとになったところは見たことないですから。」
「なるほど!では次に・・・・・
こんな感じで取材をこなしていく。何社か対応したが概ね同じような質問ばかりなのでだんだんと受け答えに慣れてきてしまった。しかし、ひとつ気になった質問があった。
「既にオルフェーヴルさんとどちらが強いのか比較する声もあがっていますが、これでゴールドシップさんは現役最強クラスのウマ娘と言われるようになるかと思います。ダイワスカーレットさん、ウオッカさん、ブエナビスタさん・・・。彼女たちのように最強と呼ばれたウマ娘たちはそれぞれ高い目標を掲げていました。最強と言われることの重圧を背負って時に悩みながらそこへ向かって走っていた訳ですが、 ゴールドシップさんにそういった目標はあるのでしょうか?」
「・・・!」
言葉に詰まった。この月刊トゥインクルの乙名史記者の質問に私は答えることができな
い。ゴルシちゃんの目標・・・考えたこともなかった。そもそも私はゴルシちゃんとレースの話題をしたことがない。彼女がどんなことを考え、感じながらレースを走っているのか、彼女にとってレースを走るということは何なのか・・・。
「・・・どうなんでしょう、そういったものがあるようには私には見えないです。ただ、レースを走ることは楽しんでるとは思いますが・・・。」
目標があれば強くなれることは身をもって体験したし、強いウマ娘はそういったものを掲げている者が多いのも知っている。だがどうにもゴルシちゃんはそれに当てはまるような気がしない。トレーニングも面白くなければ全くやらないし、レース選択もトレーナーさん任せでこだわりは全く見えない。 けど走るのが嫌いなわけではないだろうし、レースでは楽しそうに走っている。
楽しむこと・・・もしやそれ自体が目的なんじゃないだろうか。普段の様子からもそうだ、 楽しいかそうでないかで行動を決めている節がある。おそらくそうだ。しっくりくる。勝とうが負けようがレース後は笑顔だ。 勝つ負けるじゃない、勝負そのものを楽しんでいるのだ・・・きっと。
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2月に入ると徐々に私も様子をみながらトレーニング参加できるようになってきた。早ければ3月のレースに出てみようとのことで、軽めのメニューから調整を進めている。
「ふーっ・・・。よし、もう一本!」
「あーっ!ちょっとダメダメ!!今日はもう終わり!」
「えーーっ!?まだまだいけますよぉー!」
坂路を軽く走った後、北村サブトレーナーに止められる。
「ダメだ!チーフからここまでと言われているんだ。お前も言われてるはずだろ?」
「まあ、そうですけど・・・」
トレーナーさんは今学園に居ない。ジャスタちゃんが京都記念を走るので一緒に向かったのだ。レースは既に昨日終わっていて今日夕方か遅くとも明日には戻るはずだ。京都記念は外回り芝2200で行われるG2レース、今年で106回目を数える伝統あるレースだ。レースはスローな流れから逃げた子も粘ってはいたが、最後は瞬発力勝負となりトーセンラーさんが抜け出して勝利を掴んだ。やはり高速バ場の京都、特に外回りはトーセンラーさんの適性にばっちりなのか距離に関係なく強い。ジャスタちゃんは好位から我慢してレースを進めていたが5着だった。最後伸びてはいたが末脚爆発とはいかなかった。2200mは少し長かったのかもしれない。
今回評価を上げたのはトーセンラーさんをマークして後方から追い込んだベルちゃんだ
った。 先に抜け出したラーさんを追いかける形になり、外を回されながらも2着。タイム指数も113と優秀で、これはG1レースでも通用する数値だ。適性・展開ともに決してぴったりハマったわけではないので、今後重賞を勝利することも難しくないだろうと感じさせる内容だ。
みんな着実に成長しているのだ。私も早く全力でレースやトレーニングに打ち込みたい。
「不満そうにしてもダメだ。そんなにトレーニングのことばかり考えてるんなら本貸してやるからそれで研究でもしておけ。」
「む〜ん・・ ・まあそれで手を打ちましょう。」
「よし、頼むぞ。言うこと聞かない奴はあいつだけで十分なんだからな・・・。」
小言を言われながらも従いトレーニングを引き上げ、 本を借りて寮へ戻る。途中なにやらトーセンジョーダンさんに絡んでいるゴルシちゃんを見かけたが、巻き込まれないように急いで立ち去った。ジョーダンさんはだいぶ先輩なのに慣れ慣れしく接しているのは流石というべきか。何やらジョーダンさんに何か感じるものがあるそうなのだが、 具体的な言葉にするのは難しいらしい。ただ、見つけたらちょっかいださなければ気が済まないようだ。
ゴルシちゃんの行動に明確な理由はなく、 常にノリで動いている。レースでもそうだ。 常識では考えられないことをあっさりとやってのける。彼女に近いタイプのウマ娘は居ても、彼女と同じことをして同じような結果をだせるウマ娘は居ないだろう。
私たちは目標設定と努力、計画と分析を繰り返し、より効果的な作戦でレースに臨む。 それらをより高いレベルでこなし、自身の才能と掛け合わせ他者より少しでも前に出たウマ娘のみが勝ちを掴める。それがトゥインクルシリーズなのだ。
だが、ごくまれに掛け合わせる才能の値が大きすぎてそれだけで勝ててしまう者が出現する。努力も作戦も消し飛ばしてしまうくらいの圧倒的な才能を持つウマ娘。楽しむことだけを考え、定石もクソもない走りで突き抜けていく、まさしくゴルシちゃんはそういった類の存在なのかもしれない。
・・・・・・・・・・・・・・・
「あれ?ベルちゃんもう帰ってきたの?」
自室に戻るとベルちゃんがもう帰ってきていた。まだ午後になったばかり、レースを走った翌日とは思えないトンボ帰りだ。
「うん。こっちでやりたいこと沢山あるから・・・。」
そういって何冊ものノートを取り出す。もともとマメに記録しているタイプだったが、ここ最近更に増えたように感じる。
「やりたいこと・・・?」
「うん。昨日のレースも悪くなかったけど、 次は絶対に勝ちたいんだ。だから体休めてる間にデータは頭に入れときたくて・・・。」
「・・・!次もう決まったの?」
「もちろん・・・!来月の阪神大賞典!」
「!!」
阪神大賞典・・・!!春の天皇賞の前哨戦にして数々の名ウマ娘たちが走ってきたG2 レース。 阪神芝内回り3000mで行われ、非常にスタミナ、パワーの求められるタフな長距離レースだ。確かにベルちゃんの適性に合っている気がするがそのレースには・・・
「うん分かってる。ゴールドシップさんの次走もそこだよね。 」
そう、阪神大賞典にはゴルシちゃんが出走してくるのだ。阪神大賞典から春の天皇賞へ、中長距離で最強を目指すウマ娘の王道路線だ。同期のクラシック路線の門下生たちでゴルシちゃんと競ったエースさんやブリランテさんはいない。先輩たちもここはゴルシちゃんの適性もバッチリ合ったレースなので、回避するウマ娘も多いと聞いている。
「ゴールドシップさん、強いよね。だから研究しなくちゃね。」
そう言って部屋を出ていく。なんだか私にはベルちゃんがあえてこのレースを選んだような気がした。