とあるモブウマ娘の物語   作:トルポめぐろ

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第50話  モブウマ娘と阪神大賞典の後

 

 

 はっ、はっ・・・!!

 

 市内の大通り、ウマ娘専用レーンを駆け抜ける。トレセン学園のある府中市内の主要道路ではほぼ例外なくウマ娘専用レーンが設置されている。一応は法定速度が定められてはいるのだが、今はそんなこと気にしていられない。目的地へ急ぐ。

 もうすぐだ、もうすぐ着く・・・!ウマ娘ならば走ったほうがバスやタクシーを使うよりずっと速く着く。本当はトレーナーさんから走るのを禁止されているのだが今はとにかく急ぎたかった。

 あのレースの後、阪神レース場のある兵庫県宝塚市から府中の学園へ戻ったのが昨日。珍しくベルちゃんは戻ってこなかったが、レース後2,3日現地に滞在するのも珍しくはないため別段不思議には思わなかった。

 あの敗戦の後だ・・・。おそらくショックを受けていることは想像に難くない。気の利いた励ましなどは逆効果になるだろうし、 帰ってきたらお互いまた頑張ろうと伝えればいい。そう考えて向こうでも接触はせず、連絡も急いで取ろうとはしなかった。

 今日の夕方には帰ってくるかな?もしかしたら明日になるかも?反省会したいけどベルちゃんの気持ち次第かな・・・。などと考えながら今日を過ごしていた私の目に速報が飛び込んできた。

 

 『ベールドインパクト屈腱炎の診断。 症状重く復帰は絶望的か。』

 

 愕然とした。そんな馬鹿な。信じたくなかった。私はこのニュースを報じている複数の媒体の記事を読み漁り、誤報の可能性を見出そうとした。

 もし報道通り重い屈腱炎ならば再びレースを走ることは厳しいだろう。ベルちゃんが走れなくなる?本格化してこれからってところなのに・・・?そんなことがあってたまるか。

 しかし一度冷静になって考えてみると、レースで痛めて病院へ行っていたならば学園に帰ってきていないのも納得できる。それにあのレースでベルちゃんはゴルシちゃんの超ロ

ングスパートに着いていった。あのレースは中盤でも緩まない厳しい流れ。阪神3000mという舞台設定を考えると、あの捲りは自殺行為だ。スタミナ的な問題もそうだが脚への負担も相当なものだったはずだ。ケロッとしているゴルシちゃんがおかしいだけで何かしら影響が出ても何ら不思議ではない。

 記事を読んでいくとそこには早くも多くのコメントが寄せられていた。

 

 

 ーあーあ。ライブ欠場してたから不安だったけどやっぱりか。あんな無茶なレースしなければなぁ。

 

 ーそうそう。どうせゴールドシップに勝てる訳ないんだし他の奴らみたいに着狙いが正

解。

 

 一無茶して怪我してちゃ世話ないよ。

 

 ーなぜゴールドシップと張り合えると思ってしまったのか。

 

 

 なんだこれは・・・・・違う。分かってない。何にも分かってない!ベルちゃんがどんな思いで・・・どんな覚悟で走っていたのか、 まるで分かってない!!

 腹が立った。もちろん純粋に心配や残念であるとのコメントが大半を占めるのだが、こうした意見が目についた。無理せず着狙い?ふざけるな。何も知らないからそんな勝手なことが言えるのだ。そんなのあり得ない。ベルちゃんがどんな思いであのレースを走っていたのか、ずっと近くで見てきた私には分かる。

 頭に血が上ってしまった私は電話を掛けた。 迷惑かもしれない。でも、今はとにかく事実が知りたかった。

 

 「!・・・ベルちゃん?」

 

 長い間鳴っていた呼び出し音が途切れる。

 

 「もしもし?ベルちゃん?!」 

 

 「・・・・うん。」

 

 繋がった・・・!

 

 「・・・あの、今ニュースで・・・」

 

 「・・・うん・・・。私っ・・・!私・・・」

 

 「!!・・・ 待ってて、 すぐそっち行くから。」

 

 「・・・え?」

 

 そう言うと電話を切って走り出していた。当然、何か考えがあってのことではない。自然と脚に力が入った。自転車を追い越し、バスを追い越しやがて目的地の病院にたどり着いた。レースを走るウマ娘が行く病院はひとつしかない。市内にある都内でも屈指の大病院。私は入り口からまっすぐ受付へ向かい、 息を切らしながら要件を伝える。

 

 「はい。ベールドインパクトさんは4階の415号室です。」

 

 「ありがとうございます!」

 

 流石に病院内は走る訳にはいかない。はやる気持ちを抑えエレベーターに乗り込み 4階へ向かう。415室・・・ここだ。

 なんて声をかけようか。勢いに任せて来てしまったが、頭を冷やして考えてみると難しい 電話での様子からしておそらく報道された内容は事実に近いだろう。私に何が言えるだろうか。安い慰めの言葉ではとても元気づけてあげられないだろう、むしろ逆効果になりかねない。

 病室の扉の前で立ち止まってしまう。いや、ここまで来たんだ。行こう。何も言えなくてもいい。二人で泣いたって良い。そうして今まで乗り越えてきたじゃないか。

 

 ガラッ

 

 「!!」

 

 「む!?」

 

 「あ・・・す、すみません!」

 

 気持ちを固めノックしようと手を伸ばしたその瞬間、扉が開いて人が出てきたためぶつかりそうになったしまった。何やらスーツを着たガタイの良い男性二人組で、そのいかめしい雰囲気にびっくりしてしまう。

 

 「君は・・・もしかしてお見舞いかい?」

 

 私を見てウマ娘であることを確認し、話しかけてくる。この人たちはいったい何者なのだろうか。

 

 「あの、私ベルちゃんと寮の同室で・・・その、怪我したって聞いて・・・。」

 

 「・・・ふむ、なるほど。しかし今は気持ちの整理が必要だ。悪いが今日のところは・・・。」

 

 「えっ?」

 

 「わざわざ来てもらってすまないが・・・さあ。」

 

 「ちょ・・・!」

 

 まさかの面会拒否!?二人に押され病室から遠ざけられる。

 

 「ちょっと待った。」

 

 「!!」

 

 「そんな手荒にしたら失礼じゃないか。それに、ウマ娘に本気で抵抗されたら危ないよ。」

 

 「・・・!申し訳ありません!」

 

 誰だ?女性の声が二人を制してたしなめている。スーツの男二人に塞がれて姿が見えない。足音で近づいて来ているのは分かるが・・・。

 

 「ごめんね手荒なことして。」

 

 「!!・・・あ」

 

 「ベルの同室の子だよね、ちょっと話せるかな?」

 

 やがて声の主が二人の間から姿を現す。それは大の男二人を従えるには不釣り合いな小柄な体格の持ち主で、しかし不思議とそれに違和感を感じさせないオーラがあった。昔テレビで見たころから変わっていない。長く伸びた鹿毛に、均整の取れたバ体・・・。これは現実なのか?信じられない。しかし間違いない。私の目の前にかつて憧れたターフの英雄が立っていた。

 

 

 

 

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