さあ18人固まった!
オルフェーヴル行ったぞ、坂の下り!オルフェーヴルが行った!
さあ第4コーナーから間もなく直線!三冠へ続く最後の直線!
もうオルフェーヴルが先頭に立った!独走になるのかオルフェーヴル、金色のバ体が弾んでいる!!
オルフェーヴル先頭!!これを追うものはなし!!オルフェーヴルだ!
これが第7代の、三冠ウマ娘だぁーーー!!三冠達成ーーーー!!!
・・・・・・・・・・・・
学園までの帰りの道中、ずっと今日見た光景を思い返していた。衝撃的な強さだった。出走した全員が死力を尽くしていた。3コーナーでは隊列が縮んでいき、接戦になるのを予感した。しかし最終コーナー手前で一人のウマ娘が仕掛け直線へ向いた瞬間、勝敗は決した。あっという間に抜け出し、一瞬で2、3バ身突き放す。そのままゴールまで差を広げての圧勝。こんなにも強いのか・・・!圧倒的な強さに受けた衝撃は大きく、みんなも普段より口数が少なくなっていた。
「・・・強かったね。」
そんな中で学園へ向かうバスに揺られているとベルちゃんが口を開いた。
「ああ・・・、3000mであの瞬発力は完全に抜けていたよ。正直ここまでとは・・・。」
「ラーさん、いい走りしてたんだけどね・・・。」
「まァ、あの人に3000mは長ぇさ。いくらスローペースだったっつってもな。」
「ましてや相手があれじゃあね・・・。」
しょうがない。あの走りを見てはそんな風に思ってしまう。結果、トーセンラー先輩は3着だった。オルフェーヴルさんの後を追うように進出し、直線向かう頃には二番手に上がっていたが、最後伸びなかった・・・。しかし、十分に実力を発揮した走りではあった。ただあまりにも勝者が圧倒的すぎた。強過ぎたのだ・・・。
気づくとバスはいつの間にか学園のすぐ近くまで来ていた。見慣れた景色が見えて少しほっとした気持ちになる。
「・・・駄目。」
「え?」
「駄目、駄目よこんなんじゃ・・・!」
少ししてバスが学園に到着したころ、不意にドンナさんが口を開く。
「あっドンナ?!」
早足で先にバスを降りていってしまうドンナさん。私たちは慌てて追いかける。
「ちょっとドンナ?!」
校門のあたりまで行ったところでドンナさんは立ち止まり、やがて私たちもそこへ追いついた。
「おいおい、一体どうした?」
「・・・みんな分かっているのかしら?私たちは先生の、英雄の教え子なのよ?」
振り返ったドンナさんの目は少しだけ潤んでいるように見えた。しかし、いつもの彼女らしい毅然とした態度と勝気な表情は変わらずこちらを見据えている。
「相手が強かったから仕方がない?いい走りはできたから仕方がない?距離が合わないから仕方がない?そんな考えでいいの?」
「先生の下から離れる時に誓ったでしょう・・・?なのに、それなのにこれじゃあ駄目よ・・・!」
一瞬、表情が崩れたかと思うと彼女はこちらに背を向ける。その頬に一筋、涙が見えた気がした。
「・・・・!」
「・・・私はここでもう一度誓うわ!来年は一つだけじゃない、もっと多くの冠を先生に捧げる!相手がどれだけ強かろうが関係ない!世代の中心はわたしたちなんだって、先生の教え子なんだって証明してみせる・・・!」
「ドンナ・・・」
「あなたたちはどう?ここで誓える?あの時と同じことを。それとも・・・もっと身の丈にあった目標に変更するかしら?」
再びこちらに振り返り、そう言い放った彼女はいつもの・・・貴婦人と呼ばれている姿に戻っていた。
「・・・ったく、そういうことかよ。いいぜ、誓ってやるよ。」
「ああ・・・正直あの強さに呑まれてたよ。でも、ドンナのおかげで目が覚めた!私も誓うよ、ライバルが強くても関係ない。来年は私たちの年だ!」
「私も頑張るよ・・・!先生の教え子にふさわしいウマ娘になる・・・!ここでもう一度誓うよ・・・!」
「・・・よろしい。じゃあクラシック三冠路線はあなたたちに任せたわよ。それから・・・」
!?
「あなたはどの路線に進むか知らないけど、一緒にトレーニングした以上、情けない走りしたら承知しないわよ。」
「は、はいぃ・・・!」
真剣な顔で見つめられ、つい声が上ずってしまった・・・。
「・・・・・・なんだか頼りない気がするけど、まあいいわ。それより早く寮に戻りましょ。」
「うわっ、結構時間やばいじゃん!?」
「チッ走るぞ!」
「あっ!?みんな待ってよー!」
・・・・・・・
なんとか時間に間に合い、ベルちゃんと二人で利用時間終了の迫る浴場に滑り込んだ。今度から遠出する時はもっと時間に余裕を持たないと。けど、今日は有意義な時間を過ごせた気がする。
今日オルフェーヴルさんが菊花賞を制したことにより、先輩たち世代のクラシックは終わった。そのうち英雄門下生が制したのはマルセリーナさんが勝った桜花賞の一つのみだ。・・・きっとドンナさんはたまらなく悔しかったのだ。英雄門下生は世代の中心でなければならない。そんな風に彼女らが教えられてきたのかは分からないけれど、彼女たちがそういう意識を持っていることは確かだ。それなのに、あの圧倒的な強さの前に負けてしまってもしょうがない。相手が悪かった。なんて風に思わされてしまったことが。
時間も迫っているので手早く入浴をすませ自室に戻り、ベルちゃんと一緒に寝床の準備を始める。ベルちゃんは何か考え事をしているようだったが、私にはなんとなくその内容が分かっていた。
「わたし、決めた。チームに入るよ。」
準備が終わろうと言う時、ベルちゃんが切り出したのは私が思っていた通りのことだった。そうだよね。分かってたよ。
ベルちゃんがチームに入る。それは私にとってはベルちゃんとの自主トレが出来なくなることを意味することに他ならない。しかし・・・
「・・・わかった。頑張ってね!わたしも次の選抜レースに向けて頑張るから!」
「ありがとう。絶対見に行くからね・・・!」
今までベルちゃんにはずっと支えてもらった。一人でのトレーニングは正直不安もある。だけど彼女が決意を固めた今、足を引っ張るようなことはしたくない。ベルちゃんも高い目標を見据え、前に進もうとしているのだ。
ー「情けない走りをしたら承知しないわよ。」
ベッドに入ると先ほどのドンナさんの言葉を思い出す。みんなそれぞれが高い目標に向かって進んでいる中でありながら、わたしのことも気にかけてくれている。・・・早く私も結果を出さなければ。そんな思いがまた一段と強まっていった。
前話の誤字を指摘していただいた方、ありがとうございました。