「はっはっ・・・!」 ピッ
設定したゴールラインに差し掛かった瞬間、手にしているストップウォッチを止める。
・・・うーん、よくわからん。
一人で自主トレをするようになって3日目、まだストップウォッチを持って走るのに慣れない。次の選抜レースまでもう日にちがない中、調整がうまくいっているのかどうかいまいち掴みかねていた。
今日はもう切り上げよう。変に疲れを残して本番うまく走れないなんて嫌だし。
トラックを軽く整地した後、使用した備品を返却しに向かっていた最中、聞き覚えのある声がした。
「いたいた見つけたーーーー!!!探したぜぇぇーー!!!」
うっこの声は確か・・・
後ろを振り返ったわたしの前に、あの葦毛のウマ娘が降ってきた。
「いよーす!放課後なのにこんなところで何してんだ?見つけるのに苦労したぜ、このー!」
「いや何って、トレーニングでしょ・・・」
「中庭の自販機にも来ねーし、ジョーダンのスカートめくっても居ねーしよー。一足先に宇宙に向かっちまったのかと思ったぜ!」
「えぇ・・・?」
初手から意味不明な発言のオンパレード、なんというか相変わらずだ・・・。
「ゴ、ゴルシちゃん、今日はどうしたの・・・?」
「おう!実は最近いい魚介が手に入ったからな、これをお前にやろうと思って作ってきたんだぜ!」
そういって手に持っていた包みを手渡される。
「え?・・・・これ、焼きそば・・・?」
中身はパックにパンパンに入った焼きそばだった。
「ゴルシちゃん特製シーフード焼きそばだ!味は保証するぜ!」
「確かに美味しそうだけど・・・いいの?」
「おう!ゴルシちゃんは受けた恩は忘れねーウマ娘だからな。あの時のお前の言葉、痺れたぜ・・・!おかげでゴルシちゃんはまた一歩真の漁師に近づけたってもんよ。」
どうやら以前励ましたことを感謝しているらしい。私としては、やっつけで励ました記憶しかないのでちょっとむず痒いが、もらえる物はもらっておこう。美味しそうだし。
「遠慮せず食べてくれよな!そんで感想よろしく頼むぜ、なんたってお前はーー」
「あーー!!ゴルシ!!見つけたぞ!!」
「!?」
突然、ゴルシちゃんの話を遮って一人の若い男性が割り込んできた。
「お前部室に来ないから探したぞ!まったく毎回毎回・・・。こんな所で何してるんだよ?」
「おいおいサブトレちゃん、何ってウマ娘が放課後グラウンドでやることと言ったらトレーニングしかねぇだろ。」
「いやどう見てもそうは見えないんだが・・・。お前、何かあったら俺の監督責任になるんだぞ?勘弁してくれよー。」
部室?チーフ?それにサブトレって・・・
「・・・え?ゴルシちゃんってチームに所属してたの?」
「あ?なんだぁ?そんなことも知らなかったのか?遅れてるぜ?」
困惑していると、若い男の人がこちらに向き直る。
「突然すまない。僕はゴルシを担当しているトレーナーの北山だ。ゴルシが迷惑をかけたりしていたなら謝るよ。」
「あ、いえ。大丈夫です。今のところは。」
ゴルシちゃんにトレーナーがついてるなんてびっくりだ。しかも真面目そうな好青年といった感じの人だ。まじか・・・。
「おいおい、品行方正が服着て歩いてるって有名なゴルシちゃんだぜ。人に迷惑なんてかけるわけないだろぉー?」
「・・・その言葉の1%でも本当にしてくれたら助かるんだけどな。」
どうやらだいぶ苦労させられているようだ。
「おっそうだ!部室に他のトレーナーも居るんだろ?ちょうどいいから行こうぜ!」
「ちょうどいいも何もお前がこないから探してたんだが・・・。頼むから明日は最初から来てくれよ・・・。」
部室棟の方向へ歩き出す二人。そういえばゴルシちゃんを選抜レースで見かけたことがない。私は選抜レースのある日は必ず登録していたから一度くらい見かけても良さそうなのだが・・・。ましてやあんなに目立つ見た目と言動だし。・・・もしや解禁されてすぐスカウトされるほど有望株だったのか・・・?というか最近ずっと自分のことに集中しすぎて、同世代のレースの結果をチェックしていなかったな。
「おい、何ぼーっとしてんだよ?」
「え?」
二人が歩き出したのを見て、片付けを再開しながらそんなことを考えているとなぜか戻ってきたゴルシちゃんに話しかけられる。
「お前部室の場所知らねーだろ?はぐれないようにちゃんとついてこいよな。」
「えぇ?私も行くの?」
「そりゃあトレーナーに顔合わせすんのにいなかったらダメだろ。新入部員がよ。」
「は?」
「入部の挨拶、ビシッと決めろよな!!」
・・・・えええええええええええ?!