※「声」の続編
宇宙のどこかに浮かんでいる宇宙船。
複数の船が隊列を組み渡航する宇宙艦隊。
大きな戦闘が起こる事もなく、今日も今日とて宇宙での訓練や調査が行われている。
平和に過ごすのが当たり前、これと言って事故が起きて慌てる事もない。
新人戦闘員クルーの戦闘訓練のオペレートを終えて、静は通信機器のインカムを外し「ふぅ」と息をついた。
そんな彼女の後ろ姿を見ながらコソコソ動く同じ宇宙船の女性用の制服を着た後輩オペレーターたちが2人。
互いを見て頷いたあたりで…。
「で、なんです?」
回転椅子に座った状態で静が後ろを振り向くと、2人は「ひゃぁあ!!」と声を上げた。
「星科さん気づいてました?!」
「視線向けすぎよ貴女たち」
実を言うとオペレート中背後からの視線には気づいていた。
元とはいえ戦闘員として訓練していた時の彼女の感はまだ衰えていないらしい。
「それで?」と静が聞くと、2人は顔を見合わせて。後ろに隠していたものを出した。
「「星科先輩!お誕生日おめでとうございます!」」
「……え?ぁ、ありが、とう?」
反射的に自分に向けて差し出された赤い紙とオレンジのリボンでラッピングがされた小さい長方形の箱。
誕生日?
と、受け取ったプレゼントを抱えながら自分の携帯端末で日付を確認した。
2月6日。
「……あー、今日か」
「忘れてたんですか?」
「んー…なんというか、最近オペレーターとしての任務も医療班としての方でも忙しいから日付確認してる余裕がなくてね。プレゼントありがとう」
端末をポケットに閉まった後、開けて欲しそうにソワソワするひとりの後輩を見て苦笑し、静はプレゼントを見た。
「今開けても?」
「どうぞどうぞ!」
ガサガサと丁寧に包装紙を剥がし、紺色の箱が顔を出す。
箱を開けてみるとそこには濃い紫色のペンが入っていた。
「ペン?」
「はい、ボールペンです。星科先輩、医療班の方でも使うことが多いと思って…ね」
後輩のひとりがもうひとりの方を見ると彼女は頷く。
「渡すなら、ずっと使えるのがいいかな…と。そのペン凄く書きやすくてインクの交換も出来るので」
「ふふ、そっか。この色好きな色だから、すごく嬉しい、ありがとうね」
お礼を言いながら後輩2人に静は微笑みかける。
それに対してなのか「失礼しました!!」と2人は声を大きくして顔を赤くしながら走り去っていった。
「こらこら、走らないのー」
聞こえているかわからない注意をしつつ、静は貰ったプレゼントを見る。
「誕生日かぁ」
誕生日などは船内のクルーたちに祝いの言葉をかけられることが多い。
他のクルーたちの誕生日もそう。
でも、ひとつ言えるのは。
「こうしてお祝いされるの、悪くないかな」
そう言い、貰ったペンを大事に箱にしまってから静はある場所へ向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
向かった先は資料室。
いつものように持っているIDカードを使って資料室に入り、彼女を探した。
のだが…。
「いない?」
いや…。
少し集中すれば気配は感じ取れる。
チラリと資料室にある個人用の机を見る。
静かな資料室に静のヒールの音がコツコツ響く。机に近づいて、軽く机の上をコン…と拳を使って鳴らしてみると。
ガタンッ!!
と、机が跳ねた。
「なに隠れているの?」
机の下を覗いてみると、両目は閉じた動きやすい作業服の上に制服の上着を着た女性が…。
資料室で静がよく面倒を見ている彼女だ。
『だ、だって…だってぇ…』
閉じている目からポロポロと溢れ出す涙に静はギョッと目を丸くした。
「どうしたの?」
指では拭いきれないと判断したのか静は自分の制服が汚れるのも気にせず制服の袖で彼女の涙を拭った。
嗚咽混じりに小さく『ぉ、たん、じょ…び』と言った。
誕生日…。
静の誕生日のことだろう。
「私の?」
聞くと頷き、またポロポロと涙を流していく。
とりあえず落ち着かせようと静は彼女を机の下から引っ張り出し、いつもの長椅子の元へ向かい座らせ、自分も隣に座る。
「それが隠れていた理由?」
頷いた。
「どうして?」
『だって……わ、わたし、なにも…用意、してな、くて……知った、のも、さっき、で』
真面目なこの子の事だ。
多分資料室に来たクルーたちの話を聞いて初めて知って…迎えに来た時何も用意していないなんて嫌だったのだろう。
「別に、気にしなくていいのよ?」
『イヤなんです!!』
彼女にしては珍しい大声に静はギクリと身体を跳ねさせた。
『私が……私、星科さまに貰ってばかりで…何も出来てないから…!』
また溢れてくる涙を自分の服の袖でゴシゴシと拭う彼女をジッと見た。
「じゃあ……私のお願いを聞くのがプレゼントとかにする?」
『ふえ…?』
目を閉じたまま静の方を見る。
クスクスと笑う声が聞こえた。
「お願いを聞いてくれると嬉しいなぁ」
『は、はい!なんでも、どうぞ!!』
「……ふぅん?」
少し間を空けて、少し不穏な雰囲気を出しながら静は言う。
彼女に顔を少し近づけて、鼻先が触れるか触れないか…そんな距離で。
『あ、あの?星科さま?』
近くに感じる気配。
思わず目を開けそうになるのをグッと堪え……小さく声を上げる。
「それ、やめにして欲しいかな」
『え…』
「「静」って名前で呼んで?」
『ぇ、あの…』
「なんでもしてくれるんでしょう?」
優しく、でもどこか意地悪そうな声の静に戸惑った。
『ぇ、ぁの…あ、えっ…と』
戸惑う声しか出せない。
でも静は離れようとしない…むしろ逃げないように手首を掴んできている。
恥ずかしさで顔が熱い、掴まれている手首がいつもより熱く感じる…恥ずかしい。
恥ずかしい、恥ずかしい。
名前でなんて…。
呼べません。なんて、言えない。
言ったらきっと意地悪される。
だから、せめて……
『せい…さ、ま……』
小さく…名前を呼んだ。
「もういっかい」
『静、さま…』
「ん、いい子。じゃあ、もうひとつのお願い」
『ま、まだあるんですか?』
少し離れ、静は握っていた手首を離して彼女の頬に右手を添える。
触れられたことに驚いたのかピクと反応するも彼女は逃げない。
親指の腹で優しく瞼に触れる。
「目、開けて?」
『ええ!?』
「だめ?」
優しく聞いてくる静。
その声にどうしても弱い…。
目が見えていることは知られている、だから…目を開けて話したい気持ちはあるでも…。
『はずか、しぃ…です』
「却下♪」
『あぅうう……』
楽しげな声で言う静に俯いていますがこの場から逃げたいと感じ始めて来た。
名前を呼ぶことさえ恥ずかしいのに。
どうしても目を開けたくない。
きっと、目を見て話せなくなる。
恥ずかしくて…大好きな、あなたの声を聞くだけでも恥ずかしいのに…。
そう内心で悶々としている時。
前髪を少し掻き分けられ、柔らかいなにかが優しく当てられた。
それが何かと気づく前に耳にリップ音が聞こえた。
驚いてバッ!と顔を上げた。
咄嗟に目を開けて。
当てられただろう、キスされただろうところを片手で抑えて静を見た。
とても楽しそうに、笑っていた。
深い海色に似た青、月に似た金色が混じった目が自分を捉えていた。
「やっと見てくれた」
『ぁ、ぅ…ぅあ…』
顔が赤くなる。
面と向かって、姿を見るのは初めてだから。
「ふふ、綺麗なアメジスト色ね。あなたの目…すごく好きな色」
紫のようで、紫に近い彼女の目の色。
静が好きな紫の色。
『あの、星科、さま』
「こらこら、名前で呼びなさい」
『あれ永続なんですか!?』
「当たり前でしょ?で、最後のお願いなんだけど」
まだあるのか。と。
思った矢先…腕を引かれ気がつけば静の腕の中にいた。
「これから見る景色、私と一緒に見ること。私は君と一緒に色んなところを見たいの」
『ぇと、その』
「返事は?」
『……はぃ』
「よろしい」
そう言い彼女を抱きしめていない手で、彼女の頬に触れ…そのまま瞼にまたキスを送る。
これから、一緒に…。
君とみる世界が同じであるように、願いを込めるかのように。
Fin…
星科静さん!HAPPY BIRTHDAY‼︎
この1年がまた、静さんにとって良い1年でありますように。
メンバーシップ開設おめでとうございます!
2022.02.06