静はため息をついて自分の状況を再度確認した。
〔でびでび!でびでび!〕
〔でびー!でっび!〕
自分は拘束具付きの椅子に拘束されて座らせられていて、目の前には「でびでび」言っている丸い球体のような、ツノと尻尾が生えた謎生物がいた。
(あれーおかしいなぁ。私確か、ロゼの代わりにこのクエスト受注してやって来たのに……)
とある赤いドラゴンによって繋がったままになってしまった静とロゼッタの世界。
静の宇宙艦隊の船の修理は難航中で資金稼ぎの為クエストをしていた筈だった。
クエストの内容は、魔界へ通じる狭間に突如現れたこの小さな城についての調査だ。
本来ならドラゴン騎士の仕事のはずだが、静の上司が起こした事件のこともあり騎士団も大忙しなのだ。
ロゼッタの許可の下、調査だけと言う名目で静が代行としてクエストに向かった…のだが。
(何かしらコレ)
〔ででび〜?〕
〔でびびび〜!〕
没収された薬入りの試験管を興味深そうに手に取って眺める球体型の生き物たち。
静が止めようと声をかけようとしたその時。
扉が勢いよく開かれる。
それに球体型の生き物たちは直様扉の前に移動した。
開いた扉の先から聞こえるコツコツとヒールの音が響く。
静が見えたその先から歩いてくるのはピンク色のロングヘアに人とは思えない鋭いツノ、背中に生えたツバサ、軍服に似た服にスカートから出てきている白い尻尾で彼女は一目で人間ではないことがわかった。
ここは魔界の狭間、つまり彼女は魔界の存在…。
静は武装を解除され、拘束されて自由が利かない……冷や汗をかき、逃げる術を模索する。
ガツッ!
「きゃん!!」
「………へ?」
扉の沓摺につま先を引っ掛けて彼女は転んでしまう。
それに静は間抜けな声を出してしまい、突然転けた彼女を周りの球体型生物たちが慌てて彼女の近くを浮遊する。
目の前の女性は立ち上がり、落としてしまった帽子を被り直し、わざとらしく咳払いをした。
「ん゛んっ!……もう一度やらせてくれ」
「あ、はい」
踵を返して彼女は部屋の外へ向かい球体型の生物が扉を閉め、開く。
再びコツコツとヒールの音が響く。
再び彼女が部屋へ入ろうとしたが…
ガツッ!
「きゃん!!」
またしても沓摺につま先を引っ掛けてしまい転ける。
(……可愛い)
よく転ぶロゼッタとはまた違うドジっ子の姿を見て何故か静の頬が緩む。
起き上がり彼女は帽子を被り直し咳払いをして静を見る。
「おい、そこの人間」
「あ、はい」
「貴様は一体何者だ。そして先ほどのことは忘れよ!!」
右手人差し指で指され、静は彼女を見る。
「え、無理」
「頼む忘れてくれ、吾輩の、吾輩のプライドに関わる…」
プルプル震えながら彼女は顔を両手で覆う。
そんな彼女を慰めようと球体型の生物がクッキーやらプチケーキやらを持って来た。
〔でびでびー〕
〔でびー〕
「ええい!お前たちは〔でびー〕しか言えんのだからスケッチブックで筆談しろとあれほど言っているはずであろう!」
一息で近くに飛ぶ生物に注意した後、興奮したせいなのかゼーゼー息切れした。
「……大丈夫ですか?」
「む……いやすまない。客人に対して大変無礼を働いてしまったようだ。いや、客人ではなく侵入者か?」
「いや、なんと言いますか……魔界と人間界の狭間にこの建物が現れて調査しに来ただけです」
それに「なるほどな」と言い、パチンと指を鳴らせば静を拘束していた椅子の拘束具が外れる。
「調査に来ただけであって、攻撃をしに来たわけではないのであろう?」
「えっと、はい」
「ならば好きにするが良い。申し遅れた、吾輩は魔界の親善大使、名をローゼンヴェリア・クローディナル・ベアルンチェスカ・サイアネーゼ・トゥーロッチ・ガルゼモリア・メロージュ・ニヴェルゲントと申す」
「……なんて?」
「ローゼンヴェリア・クローディナル・ベアルンチェスカ・サイアネーゼ・トゥーロッチ・ガルゼモリア・メロージュ・ニヴェルゲント」
「えっと」
「まあ長いのでロゼとでも呼んでくれ」
「じゃあ、ローゼンさんで」
「何故だ!?」
流れるかのような返しに彼女、ローゼンヴェリアはガーン!とショックを受けた。
「なんと言いますか。私の知人に同じ愛称の子がいて……」
指で頬をポリポリ掻きながら静は苦笑する。
そういうことかと納得したのかローゼンヴェリアは「そ、そうか」と返した。
「ところでローゼンさんはどうしてこんな所に」
「よくぞ聞いてくれた。えっと」
「星科 静です。名前が静です」
「静殿か。ふむ、吾輩は魔界の親善大使としてこの人間界と魔界の狭間にこの城を拠点とし親善大使として職務にあたっている」
静はそれを聞いて顎に手を添えて考えた。
魔界の親善大使のことなんて騎士団から聞いていない。
どういうことなのだろうか…。
「ああ、くれぐれもこのことは一般の人間に公にするんじゃないぞ?人間の王族や一部の王家に仕える人間のみ知ることだ。魔界の者はほとんど知っているがな」
「つまり、人間の文化を魔界に?」
「ああ。魔界では人間の暮らしが羨ましいと思う者がいてな。人間界で生活したくともなぜか襲われるという始末…故に、文化を取り入れ平和協定を結ぶため人間界の王たちと魔界の我らが王が各国の近くにある狭間に魔族の親善大使を送ったのだ」
そういうことか。
つまり魔族たちは人間たちの文化を取り入れて魔界を人間界の文化レベルに合わせて上げていくつもりだということ。
そしてそうなれば戦争が起きた時圧倒的に人間が不利になる。だからこその平和協定、そしてその親善大使はある意味では…。
(言い方は悪いけど、まるで人質ね)
「お前、今失礼なことを考えていなかったか?」
考え事をしていた静にいつの間にか近づいていた。
ストロベリーブロンドの長い髪に、静たち人間にはない爬虫類のような目をしているがペリドットを思わせるような綺麗な瞳に静は息を呑んだ。
「おい」
「え、あ、ごめんなさい……。ローゼンさんの眼、綺麗だったからつい」
申し訳なさそうに苦笑する静。
それに対しておそらく言われ慣れていないのだろうか、ローゼンヴェリアはボフッと顔を赤くし、帽子で顔を隠しながら背を向けた。
(可愛い…)と心の中で呟いた静の視線の先には嬉しそうに揺れるローゼンヴェリアの尻尾があった。
「ま、まあ、そういうことだ。ついでに騎士団の連中やギルドの上層部にでも吾輩の存在を話して置いてもらえるとありがたい。吾輩としては、争いごとは好きではないのでな」
「わかりました。では、そう伝えておきますので…失礼しますね」
そう言い静も踵を返して入ってきた扉へ向かう。
それを横目で見て「んんっ!」と、またわざと咳払いをし、それに静はローゼンヴェリアを見た。
「その、だな。吾輩は職務以外はすることがなくてだな……もし、機会があるのであれば、相手をしてやらなくもないぞ……」
「……はい、その時は私の知人も連れてきます。一応頭の片隅に入れて考えておきます」
クスクス笑いながら静は答えて部屋から出て行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
窓から静が歩き人間界の方へ戻っていく姿をローゼンヴェリア眺めていた。
ふぅ…とため息をついて、帽子を深く被り直した。
「……変わった人間もいるものだな…」
―「ローゼンさんの眼、綺麗だったからつい」―
静に言われた言葉を思い出して再び顔に熱が篭り、両手で顔を覆いその場に座り込んでしまう。尻尾がバタバタと忙しなく動いた。
はー……と落ち着いた後に顔を上げると、少し頬を赤くした球体型の生き物たちがローゼンヴェリアを見つめ、スケッチブックには
『ロゼ様まさか!』
と書かれており、それに対してブチ…とローゼンヴェリアの中で何かが切れる音がし、顔を真っ赤にさせてローゼンヴェリアは怒鳴った。
「吾輩が人間相手にあり得るわけがなかろうがッ!!」
一方…
「え、静様1人で行ったの!?大丈夫だった?」
「うん。なんかカッコカワイイ魔族の親善大使さんがいたよ。また今度会いにいくつもりだからロゼも行く?」
「うん!行く行く!ついでに色々聞きたいし」
騎士団の団員であるロゼッタにローゼンヴェリアのことを報告する静なのであった。
Fin…
(いやー、まーた世界をつなげてしまったよ♪)by剣 紅夜
プチ設定
球体型の生き物
名称:プチデビル
〔でび〕しか言えない使役型の悪魔。
姿のイメージはローゼンヴェリア様の自己紹介動画にて出てきたアレ。
身の回りのお世話やお手伝いなどをやっているが基本的に言葉が通じないためスケッチブックで筆談してる。