お疲れ様です。怪我はないですか?
いつもの処置室で、やって来るクルーに言った直後、オペレーターとして緊急に呼び出しを受けた。
戦隊に攻撃を仕掛けてきた宇宙生物が現れたと無線が入る。
すぐに管制室へ向かいインカムを付けて指示を出そうとしたが。
聞こえた声に頭が真っ白になった。
〈いやだ!いやだ!!〉
〈痛い痛い痛い痛い!〉
苦痛を訴えるパイロットたちの声が耳に入った。
今回の出動は迫ってくる隕石や小惑星の破壊じゃない。宇宙生物の撃退。
撃退に慣れているパイロットは多くはない、むしろ宇宙生物が襲いかかってくるのは大変稀だ。
頭が真っ白になったが、すぐに頭を回転させて迅速に対処する。
撃退は出来たものの、当然全員が無事ではない。
「はあ……」
総合処置室の手洗い場で、顔を真っ青にした静がいた。久しぶり、いや、初めてだったのかもしれない。
オペレーターとしてあんな音を聞いてまともでいる方がおかしい。
耳に残った、軋む音、潰れる音、折れる音、潰れた音に混じる声……泣き叫ぶ声。
思い出しただけで吐き気がした。
胃の中が空であってもやってくる吐き気をグッと堪えるように蛇口から勢いよく水を出してそれを手で掬い上げて顔にかける。
鏡で水に濡れた自分の顔を見るが、皮肉にも平気という顔ではない…酷い顔だった。
ズキリと右頬が痛い…強く殴られたのだから当然だ。
「星科、もうあがれ」
手術室から出てきたドクターが彼女にそう言った。
「いえ、大丈夫です……」
「いいから休め。あんな戦闘の後でまともにいられるわけがない……お前だけじゃないんだ。休め」
「……わかりました」
心配するドクターの顔に静は渋々答えた。
自室へ戻るまでの道、包帯で応急手当てされたパイロットたちが目に入った。
生きている事に喜んでいる者や怪我をして自分のしくじりを笑い話にして周りを笑顔にしようとする者がいたが、廊下の隅で…血がついたヘルメットを抱きしめて泣く新人の戦闘員がいた。
戦闘員は常に危険と隣り合わせだ。
上手く現状を伝えられなかった自分達に非があるのか?
それとも戦闘員たちの気の緩みに非があるのか?
危険という言葉に対して警戒を怠ったから今の状況になったのでは?
言い訳が言い訳を生んだ。
自分は悪くないと、相手が悪いと。
自室に戻って、静はベッドの上に横になる。
今日のことを思い返していた。
嫌な出来事は嫌な出来事を思い出させ、マイナスの考えしか出来なくなる。
心が痛い…傷はないのに心が痛む。
よくあることだ。
酷い戦闘後に戦闘員がオペレーターを責め立てるのは。
処置室で医療班の仕事をしていた静に対して、戦闘員が言った言葉が思い出される。
―「どうしてちゃんと教えてくれなかったんですか!!」―
「……」
―「言ってくれたら、ちゃんとアイツは避けれた!!」―
「……」
―「アンタが…!!」―
言い放たれた言葉を思い出させ、静は身体をくの字に丸め耳を塞ぐ。
泣きながら言っていた。
目の前で仲間が消えて、混乱して、やるせない気持ちが、どこに向けていいか分からない怒気が、オペレーターである静に向けられただけのことだ。
処置室に自分だけがいたらどうなっていたかはわからない。幸いにも手当てを終えたクルーが近くにいたから事なきを得たが…。
ズキズキと右頬が痛い。
そんな痛みも気にせず…静はそのまま眠りにつこうと目を閉じる。
「静様!?どうしたのそのほっぺ!」
閉じていた目を開けてみれば、また魔法陣を使って遊びに来ただろうロゼッタがいた。
驚いた顔をして静を心配する声を上げた。
しかし、今の静には……うるさく感じた。
「ロゼ…うるさい」
「待っててね、今白魔法かけて」
ロゼッタが静の頬に手を伸ばし触れようとした時だ。
静は起き上がりロゼッタの手を思いきりはたき返し、彼女を睨んだ。
「うるさいッ!!」
聞いたこともない静の声にロゼッタはビクリと体を跳ねさせる。
「せぃ、さま……?」
呟くような声でロゼッタは静を名前を言った。
「放っておいて」
「でも……腫れてるよ」
「放っておいてって言ってるでしょ!!」
静はぐしゃぐしゃと頭を掻きむしり「あああああッ!もうッ!」と叫ぶように言い放ち、ロゼッタを睨みつけた。
「もう帰ってロゼッタ……今は会いたくないの」
「静様」
「帰ってッ!!」
ロゼッタの言葉を遮るように声を荒げる静。
静は俯き、涙が溢れ、ポロポロとこぼれていく。
(こんなこと、言いたくない。ロゼにこんな酷い言い方、したくないのに……)
自分も戦闘員たちと同じことをしている。
どこへ向けていいのかわからない感情が、苛立ちになり、関係のない相手を傷つける。
ズキズキと頬が痛い。
胸が苦しい、心が痛い。
つらい、1人にさせてたすけて。
ふわりと、包み込むような温もりが静を包んだ。
顔を少し上げるとロゼッタが静を優しく抱きしめていた。
「帰って……」
「……」
何も答えない。
「ロゼ……」
「……」
何も答えない。
「出てって……1人にさせて……」
「…………静様、いたくないの?」
「は?」
いたくない?
ズキズキと頬が痛い。
胸が苦しい、心が痛い。
痛くないわけがない。
「何言ってるの……?」
「あ、ごめんね。言い方が悪かったね」
少し離れ互いを見つめる。
ロゼは心配そうな目をしていたが、笑みを浮かべた。
「静様は、ここに『居たくないの』?」
「……居たい?」
「うん。静様の居たい場所って、どこかな」
『居たい』ところ。
静が呆然と立ち尽くしている間に、ロゼッタは静の右頬に手を添えて白魔法を使った。
温かい光がズキズキと痛んだ頬の腫れを引かせていく。
「私の、居たい場所」
「うん」
「……」
少し考え、静はロゼッタを抱きしめ、彼女の肩に顔をうずめる。
「ロゼの傍に居たい……」
「うん、いていいよ」
ロゼッタは静を抱き返す。
(…温かい)
ロゼッタの温もりに静は目を細める。
心の中にあった苛立ちやモヤモヤが軽くなっていくような気がした。
顔を上げて、ロゼッタの顔を見た。
何も言わない静にロゼッタは首を傾げる。
右手を離して、親指で軽くロゼッタの唇に触れる。
くすぐったいのかロゼッタは「んっ…」と、声を漏らしピクリと体を震わせ目をつぶる。
「……いい?」
言葉の意味を知っているロゼッタは静の問いに「いいよ」と、恥ずかしそうに、頬を赤くして笑う。
その言葉を聞き、静はロゼッタと唇を重ねる。
ゆっくり、長く、互いの温もりを交換するように、感じるように。
何度も重ね、触れあうような口づけはエスカレートし、ロゼッタが苦しくなって口を開けたタイミングで静が舌をねじ込ませる。
「んんん!?」
ビクリと身体を跳ねさせてロゼッタは静から逃げようとした。
そんなことを許すわけもなく、逆に静はロゼッタの耳を両手で塞いだ。
部屋の中に響く水音が頭の中で響いているような感覚に陥るロゼッタ。
プルプルと身体を震わせて力が抜けたのかガクリと膝が曲がり崩れ落ちる。
慌てて静はロゼッタを抱きしめ支える。
「ろ、ロゼ?大丈夫?」
「ふえ…」
顔は火照り、細める眼には涙を浮かばせ、口からは飲みきれなかった唾液がこぼれていた。
そんなロゼッタの表情を久しぶりに見た静は固まり、顔をそらして深くため息をついた。
「静様…?」
「ううん、気にしないで」
苦笑しながら静はロゼッタの頬を撫でる。
するとロゼッタは嬉しそうに笑った。
「えへへ、静様。やっと笑ってくれた」
「ロゼのおかげ。さて、まだやることがあるんだけど、休めって言われたし……もうロゼッタに甘えて過ごそうかな」
「……じゃあ、続き……しちゃう?」
一瞬、静の思考が停止したが、ロゼッタの鼻をつまみグッと堪えた。
「ほにゃ!?」
「今日はそういう気分じゃないから、ロゼ枕の方をさせてね」
そう言い、制服のジャケットとネクタイを脱いで静はロゼッタを抱きしめたままベッドの上に倒れた。
「そばに居て…ロゼッタ」
Fin…
(挙式はいつだ?と思いながら書きました)
by剣 紅夜
(*´꒳`*)ドヤッ
星科静さん!ロゼッタ・ドラガリオンさん!
1周年おめでとうございます!!
ヽ(´▽`)/