ぽつ、ぽつ。
じめじめとした空気と、ひんやりと冷たい雨粒が、防具の隙間から入り込んでくる。湿度が高く、日が照っていないのに暑く感じる。
密林はそういう場所だ。晴れてても暑い、雨でも曇りでも暑い、しまいには夜でも暑い。
緑黄色の茂みに包まれ、静かに横たわる盾蟹――ダイミョウザザミ。先程までは鮮やかで、真っ赤な甲殻だったのに、命を失った今では何処となくくすんだ色に見えてくる。
ダイミョウザザミは、一角竜の頭部の亡骸を背負っているモンスター。
盾蟹に限らないが、何故骨を背負いたがるのだろう。
ふと疑問に思う。
ブヨブヨで、曝け出すにはあまりに無謀な部分を守るため――それが一般的な知識であり、すなわち常識。
でも、全ての個体がそうであろうか。
戦いを好まず食べ物だけ拾ってきて、洞穴に籠もる個体だって、いないとは限らない。
そんな個体が、わざわざ自衛のための頭骨を背負う理由などないはずだ。
――こう考える。その蟹は、きっと孤独なのだと。
孤独だから、同じ死に絶えて孤独な一角竜の頭骨を死にものぐるいで探し、互いにその傷を舐めあっているつもりになっているのだ。
密林の中で、一人の女性が笑った。静かに、表情をあまり変えずに。
屁理屈だ。我ながら、自分の捻くれた考えに笑いが込み上げてくるのだ。
まるで姫君のような、炎妃龍の蒼き防具と、使い古された鋼鉄の大剣 エルトライトソードから。頭防具の代わりにつけた、黄色の花の髪飾りから。
絹のように美しく艷やかな長い金髪から、鉱石に似た碧眼を守る睫毛から。
その女性は、身体の至る所から、雫を滴らせていた。
別に気にならない。帰って、拭けばいいだけだ。
ダイミョウザザミの亡骸に、腰のベルトに突き刺した剥ぎ取り用のナイフを突き刺す。
新米の頃は、狩りで一番重要ともいえるこの作業すら、手間取っていた記憶がある。ギルドから報酬として貰えるが、自分で剥ぎ取ってこそ、達成感があるというものだ。
甲殻、甲殻。今の所は順調に剥ぎ取れている。
中身を剥ぎ取ってやろうと、ナイフを突き刺した瞬間、ぷしゅっ、と鯨の潮吹きかのように水が溢れ出てくる。
うざいくらいに打ってきた、水ブレスの媒体だろう。
多少手が濡れようと、構わず奥までナイフを突っ込む。
何か硬いものに刃が当たり、ぐりぐりと思い切り掻き回して、それを我が物にしようと必死に手繰り寄せた。
ようやく出てきたそれは、真っ黒な玉。掌に乗せてもはみ出てしまうくらいの、大きな黒い球体だった。つやつやしていて、底知れない不気味な魅力を醸し出している。
極上黒真珠。蟹種特有の素材。
周りに人がいれば、こうしてゆっくり眺め、この不気味な魅力に浸ることなどできまい。
孤独こそ、最高の一時。
この平穏が崩れるなら、爆散してでもやり直したくなる。
「素敵……」
女性――ロネリー・ラキシャドウは、雨降る密林で、静かに、淡い声でそう呟いた。