ロネリーは一人で狩りがしたい   作:聖成 家康

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その3『孤独を愛し、望み』

 

 捕獲された桜火竜の行方は知らない。あのまま解体され、生涯に幕を下ろすのか、散々身体を調べ尽くされ自然へと帰されるのか。どちらにしても、彼女にとっては関係のない事であった。

 ロネリーは孤独に狩りをできさえすれば、それで良いのだ。報酬は二の次である。

 森丘からドンドルマへ帰るまで、また数時間をの時間を要したためか、街はもう闇に包まれており、ぽつぽつと木々に実る果実のように明かりが灯り始めていた。 

 

 ポポに荷台を引いてもらい、ゆすゆすと身体を揺られながら、ドンドルマに辿り着いた。

 昼も夜も、大都会の騒々しさは変わらない。むしろ、後者の方が騒がしいまである。

 孤独を愛し、孤独を望む彼女からすれば、ドンドルマという街は肌に合わない場所であろう。来て早々に去る訳にもいかないから、しばらく留まるしかないのだが。

 

「お姉さん、お綺麗だね! うちで働かない?」

「あ……結構です」

 

 道で呼びかけをする商人に、そんな事に誘われた。背負っている、パンパンの鞄は商品だろうか。だとすれば、全く売れていない。売れないのは客引きがいないせいだとでも思っているのだろうが、恐らくは自分の技量不足だ。

 それに、自分が客引きをしても、余計に赤字売上に拍車がかかるだけだろうから、彼女は速攻で断った。

 何度も懇願してきたが、無視を貫き通した。そもそも、ハンターにはハンターの仕事があるというのが分からないのか。

 自分の利益だけを考え、他人の都合などお構いなしの人間が多数いる――

 

 これだから、他人と接するのはリスクがあり、面倒事に巻き込まれる火種となる。

 彼女が孤独を望む理由の一つだ。

 

 ロネリーは夜になっても減る様子を見せない人混みに呑まれながら、周りの声に掻き消されてしまいそうな、淡く儚い吐息を漏らした。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 宿で死ぬように眠り呆けて、気づけば朝になっていた。

 流石に早朝ともなれば、日中のような騒々しさも薄れているが、それでも朝早くから多くの人々が街の至る所を行き来していた。

 

 こういう街は、大好物だ。

 

 人が多く集まる大都会の中で、人に囲まれず一人孤独に存在しているという矛盾。

 これが、何とも気持ちが良くて、味わい深くて、とにかく堪らない。

 

 宿を飛び出て、すぐに街へ足を運んだ。

 

 昨日晩、あれだけ人で溢れかえっていた大通りには、誰一人として存在していない。

 

 売れなくて躍起になる商人も、鬱憤ばらしの溜息を掻き消してくる人混みも。

 

 この一時だけ、全員いない。

 

 孤独こそ至高。孤独こそ幸福。

 

 朝方に吹き荒ぶ、肌寒く涼しい風を、インナーの上から白いワンピースを纏っただけの質素な風貌で真に受けながら、彼女は両腕を広げ、長い金髪を風で遊ばせ、くるくると回る。

 

 人前では、決して見せないような、女の子らしい笑顔を綻ばせながら、孤独の時を満喫した。

 

 この時間は、永遠には続かない。

 

 だからこそ至高の時であり、幸福な時であるのだ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 日中になると、人で溢れ返るため、狩りに行くか、宿に引きこもるかの選択を迫られる。

 

 仕方なく、狩りに行くことになった。

 

 今しばらく、目的地目指して荷台に揺られている。

 目指す場所は『旧沼地』。名の通り、凄まじい湿気に見舞われる羽目となる湿地帯。その癖、洞窟内は寒く、ホットドリンクが必要になる面倒くさい狩り場だ。

 けれど、一人狩りには最適な場所といえよう。誰も好んで来たがらない場所では、十分な孤独が味わえる。孤独を糧とし、今日もロネリーは生きてゆくのだ。

 

「狩人さん、本日は何処へ行かれるのです?」

「……沼地のほうへ」

 

 ポポに跨がる、笑顔が素敵な、歯が黄色い中年男性が、またそうやって質問を投げかけてくる。再会するなんて思ってもみなかった。

 

 多くのポポ乗りは、話しかけるなオーラを全力で放っていれば大抵、何かを察して声を掛けてこないのだが、この男には効かないようだ。

 

「沼地ですかぁ。狩人さんのようなべっぴんさんには、少し似合わない場所ですねぇ」

「仕事ですので……」

 

 多少仕事は選べるといえど、仕事は仕事。やりたくない事も、やらなくてはならない。それに対し、ぶりぶり文句は言ってられないのがこの世の理だろう。

 

「私も沼地まで行くとなると、湿気が強くてむさ苦しくなるんですよ。いやぁ、あの気分は嫌で嫌で」

 

 ポポ乗りは、皆、生真面目で誠実な人間ばかりだと思っていた。ただこの男は違う。文句を垂れ、見るからに不真面目だ。生きる為に、我武者羅になって仕事をしているのだろうか。

 ロネリーも、狩りをする理由の一つに生きる為、というものは入ってはいるが、仕事が苦痛だと思った事はない。孤独にしていれば、疲れる事もないし、嫌になる事もないからだ。

 

「駄目ですよねぇ、お客様にこんな話。大変失礼しました」

 

 謝る必要があったのだろうか。

 自分は何も不快になどなってはいないのに。

 

 ロネリーと男の会話は、目的地に辿り着くまで、永遠に滞った。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 エルトライトソードを全力で振り下ろし、紅く染まった甲殻を切り裂いて、体液色に染め直してやる。

 

 嫌な空気で満たされ、下へだらんと垂れる葉を生やした木々が数本立ち、後は泥水だけが存在する沼地にて彼女が刃を交えるモンスター。

 

 漆黒に塗られた鎧竜の頭殻を背負い、返り血を浴びたように真っ赤な甲殻、天に伸びる兜のような角、鉄だろうと切り裂いてしまいそうな鋭い二対の鎌。

 鎌蟹 ショウグンギザミ亜種。本来は青い体色だが、原種とは異なる食性で生きてきたために、身体が赤く染まっている。

 

 ザミ種特有の鳴き声を上げて、威嚇のつもりか、鎌を大きく両側へ広げる。

 ダイミョウしかり、ショウグンしかり、この仕草を可愛いとすら思えてしまう。

 

 鎌蟹は両腕を広げたまま大きく前進し、勢いよく、ロネリーを斬り裂こうと鎌を振る。

 しかしその攻撃は、鎌と鎌の絶妙な隙間を潜り抜けられる事によって回避され、ショウグンギザミ亜種の脳天に大剣の手痛い一撃が直撃する。

 

 青い体液が弾け飛び、赤い甲殻が血飛沫のように砕け飛んだ。

 

 激昂した将軍は、その恐ろしく鋭い鎌を、無我夢中になって振り回しながら、一歩、二歩と、大きく間合いを詰める。

 

 鎌と地面の隙間を潜り抜け、腑抜けた顔面に一撃。

 すかさず側面に回り込み、がら空きの脇腹へ二撃。

 そして後方へ立って、巨剣を肩へ乗せて力強く踏み込み、有り余る力を刃へ預けながら剣を振り下ろし、黒鎧竜の頭殻を砕いた。

 

 黒鎧竜の頭殻は左眼から額にかけてヒビが入り、破片がボロボロと崩れ落ちていき、中のあられもない姿が曝け出された。

 ぶよっとした、ショウグンギザミ亜種の腹部。あそこを護る為に、わざわざ重たい頭殻を背負っている。

 

 見られたく無い所を見られ、途方に暮れるショウグンギザミ亜種に、容赦なく接近して、走りながら溜めた力を解放し、腹部を思い切り斬り裂いた。

 

 溢れ出る、異臭放つ体液が彼女の艷やかな金髪を颯爽と汚し、味気ない泥水を蒼く彩った。

 されどショウグンギザミ亜種は口から紫の泡を吹きながら、彼女の首を跳ねようと、我武者羅に鎌を振り回す。火事場の馬鹿力というやつは、モンスターにも存在する。甚だしく思えてくる。

 

 潔く死を受け入れれば、その先に待つのは至高の孤独であるというのに。

 そんなに孤独が嫌ならば、もう、救いようがないだろう。

 

 エルトライトソードを、さながら三日月かのように構え、呼吸を整えた。

 

 柄持つ手を限界まで力み、刀身を円状に振り回して、空気を切り払う。

 

 凄まじい推進力を得た大剣は、やがて彼女の身体を宙に舞い上がらせる。

 

 その勢いを保ったまま、空中で刃を振るう様は“月”と体現する他なかった。

 

 狩人の奥義“ムーンブレイク”。

 大地をも削り取るその斬撃は、瀕死の鎌蟹を仕留めるには、十二分の威力を有するものであった。

 

 最早原型を留めてはいないショウグンギザミ亜種は、弱々しく、骸と化して泥水の地面へと横たわった。

 

 その身が尽き果てるまで、死という孤独を拒み、この世に留まろうとした。

 

 自分が同じ状況に置かれたならば、そこまでの執念は見せないだろう、と彼女は静かに、目の前の鎌蟹を嘲笑う。

 

 ぐちゃぐちゃになった鎌蟹の赤い甲殻の隙間から、鋭いナイフを突き立てる。

 

 飛び跳ねた蒼い体液が、また、彼女の髪を汚らしく彩った。

 






キシャーッ!! \‘(♢)’/
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