ありふえた正義の鉄槌 作:悪役令嬢
「くらぇ!正義の制裁バットぉぉぉぉ!」
少年の一人が金属バットを勢いよく振った。風を切る音とともにバットが自分の頭に当たった。金属がぶつかった鈍い音が響くが、俺は気にもせずにゴミ箱を漁る。おっと、これはまだ食べられるかな。少し異臭を放っているが、袋づめのおにぎりを見つけた。
「くそ!金属バットも駄目かよ!」
「ならこいつはどうだ!」
ちらりとそちらを見ると、へし曲がった金属バットに舌打ちし、それをこっちに投げる少年。それとは別の少年が、どこから手に入れたのか、市販よりも刃の長いナイフを取り出した。もはや包丁ようにも見える。
「やめた方がいい」
俺は振りかえもせずに言葉を出した。無駄であることを知っているとは解っているが、それでも忠告をせずにはいられない。これも自分の性格だからなのかな、と呟く。だが俺の言葉に少年たちは馬鹿にするよう口を歪めた。数名ほど声を上げて笑っているのもいる。
「はぁ?犯罪者風情が何言ってやがるんだよ」
「そうだぜこのサイコ野郎。ヒーローごっこのイカレ野郎が!てめぇみみたいなクズは死んだ方が世界にとっても良いんだよ!」
「それにお前を殺せば金が出るんだしな!10億だぜ10億!」
「私、10億なんて大金貰ったら一生遊んで暮らすわ~」
「だからさぁ、心優しい勇者()様は俺たち平民のためにとっとと殺されてくれませんかねぇっ!」
ナイフを持った少年が俺に向かって走り、勢いのまま俺の背中にナイフを振り下ろした。パキィンと、ガラスが割れたような音が響く。
「……は?」
根元から折れたナイフを見ながら、少年は信じられないといった顔をする。ネットで購入したサバイバルナイフが、見るも無惨に折れていた。ちょっとした小遣い稼ぎのためにこれをちらつかせば、のろまな社畜サラリーマンらは、命乞いをして金を差し出してきた。そんな無様な姿を見て自分は強くなったと思えた。今回だって勇者であろうとたかが人間、こいつで簡単に殺せると思った。そんな自分の象徴が、何もできずに折れた。少年の中で、何かが砕ける音がした。
「これくらいでいいかな」
俺は半分腐ったおにぎりやパンを袋に入れ、ゆっくりと立ち上がる。そのまま彼らに向き合い、真正面から見据える。一人は折れたナイフを茫然と見つめる少年もだが、木刀や別の金属バット、竹刀など、明らかに殺意を隠せない物が握っている少年少女が大半だった。もっとも、本当に生死をかけた殺し合いを経験したことで、この手のことは慣れてしまっている。
「来ないのか?」
単純な疑問。
「おい!だ、誰か行けよ!」
「ウソだろ、聞いてたのと話が違う!」
「ふざけないでよ!あんたが先に行きなさいよ!」
「ふざけんな!お前がいけよ!」
先ほどのにやついた態度とは打って変わり、明らかに動揺する少年少女たち。俺は一歩前に踏み出し、地面に転がっていた金属バットをつかみ、そのまま捩じ切った。
「もし来るなら、俺は全力でやるけどいいのかい?」
殺気を放てば、すぐさま彼らの心は折れた。
「ひ、ひぃ!?」
「た、助けて!殺さないで!」
手に持った武器を投げ捨て、土下座をする彼ら。先ほど自分たちがしてきたことを棚に上げて命乞いをする姿に、俺はため息を零す。
「ならすぐに目の前から消えてくれないか?俺の気が変わらない内にね。それとも、俺に空へ飛ばされたいか?」
拾った空き缶を俺は空高くに放り投げた。それを見た彼らは我先にと路上へと走っていく。
「ここももう駄目か」
落ちてきた空き缶を掴み、リサイクル箱に入れる。
俺はフードを目深にかぶると、ビルの上へと飛んだ。着地した際にコンクリートの屋上が少しひび割れるが、致し方なしとため息を零す。俺は屋上から、道路沿いの方へと顔を覗かせた。
真っ暗な裏道とは別に、街道は人が溢れ、どこもかしこも店の灯りなどで輝いて見える。人々の声や車の走る音など、様々な喧騒が聞こえてくる。
と同時に、顔をしかめた。
『はい、たった今入った情報です!連続殺人鬼天之河光輝が、またしても罪のない少年少女たちを惨殺したとのことです!』
大通りの中心にあるビルに設置された巨大なモニターから、原稿を持ったニュースキャスターが声を荒げていた。
回りの人たちが一斉にモニターへと顔を向ける。それ以外では、携帯電話などで情報を確認している人もちらほら見える。
『これにより……天之河光輝の懸賞金額が更に上がったとのことです!』
この言葉が引き金になり、その場にいた人たちは歓声を上げる。
『まじかよ!?また賞金があがるってのか!こりゃ本格的に準備が必要だぜ!』
『早くその勇者()をぶっ殺して、賞金を貰った方がよくない?』
『ばぁ~か、勇者様が()がそう簡単にやられるわけないだろ?むしろ邪魔な奴らをどんどん殺してくれれば、賞金も更にうなぎのぼり!それに早計なアホどもが勇者様を瀕死にしてくれれば、あとは準備万端の俺たちがぶっ殺して賞金をいただきってわけよ!』
やいのやいのと騒ぐ民衆に、俺はぞっとすると同時に、あきらめたような心になってしまう。聞くに堪えない言葉ばかりに、俺はそっと街道から遠のくように跳んだ。
「という事で、この失踪事件の元凶は天之河光輝なんです!こいつのせいで、俺たちは異世界に飛ばされて、クラスメイト達は…」
目の前に置かれるテレビカメラの前で
マスメディアを騒がせた一クラスの人間が突如いなくなった失踪事件。多くの憶測を生みながらも次第に収まってきたこの事件は、その後数名の生徒がいないながらも失踪者たちが帰還したことで再び取り上げられることになった。こうしたマスメディアのバカ騒ぎを鎮めるために、クラスメイトたちの話し合いの下、一体何があったのかを説明することになったのだ。もっとも、一人をのぞいてクラスメイト達の結論はとっくに決まっていたのだが。
そう、
突然のことに呆ける光輝を他所に、我賀真理はペラペラと喋り続ける。光輝が召喚されるついでに自分たちが巻き込まれた被害者であること、光輝が戦争に参加すると言ってしまったせいで、訳もわからずトータスという異世界で無理やり戦争に参加させられたこと、それによってクラスメイトたちが死んだこと。そして光輝が自分たちを裏切って殺そうとしたことや、光輝が地球を侵略しようとした神の依り代だったなどなど、真理は公共の電波を使ってぶちまけたのである。
もっとも、自分等に都合の悪いところは伏せたわけだが、そんなのは当事者たちしか知る由もない。
もちろん寝耳に水の光輝は混乱するしかない。周りのクラスメイト達に目を向けるも、誰も光輝を擁護することはなかった。むしろ、やれ光輝は元から正義を謳って人を傷つける屑、やれあいつは元々人を殺すような異常者だのと、光輝の悪評を言い出す。誰も彼もが光輝のことを悪として吹聴しだした。
親友だった龍太郎は、庇うどころかむしろ率先して光輝を悪しきものにし、自分らは無関係だと言い放った。自分らも
光輝自身、自分のせいで巻き込んだのは事実故に否定はできない。だがあまりにも酷い言いがかりを弁解をするにも、もはや我賀による印象付けにより、誰も彼の言葉を信じることはなかった。世間からはただ自分は悪くないと言い訳をする屑としか映らなかった。
こうして天之河光輝は一夜にして日本中から『どうしようもない屑勇者()』というレッテルを貼られ、犯罪者となったのである。
それにより、光輝の家には犠牲者の遺族からの抗議や正義の第三者がしきり嫌がらせを行う始末。光輝の両親は、異世界から帰ってきた息子のことを心配していた。気に病むことはない、と何度も彼を励まし、最後まで光輝側であった。
その結果、彼の両親は正義を謳う第三者によって、
加えて、学校からの虐めなどを受けて心を病んだ妹は、ついに心が壊れた。全ての元凶である
光輝の妹は、混乱する光輝に憎悪の目を向け、『お前が死んでればよかったんだ!この化け物!』と罵り、そのまま家を出て行方知れず。もはや完全に光輝の家族関係は崩壊した。その挙げ句、正義の第三者による放火によって彼の家は全焼した。火事のさなか、誰も消防車なんて呼ぶことはなく、大半がカメラ撮影をし、そのさまをネットで挙げていた。家屋と共に資産も焼失し、そのまま彼の土地はそのまま市に持っていかれた。
不思議なことに光輝の家だけが燃えカスとなっただけで、隣の住居には一切の被害はなかった。明らかな放火だというのに、警察は口を揃えて、ただの不審火として処理をした。更に言うなら、『例え放火だとしても、される理由はありますよねぇ?』と、光輝を馬鹿にするように皮肉る始末。
結果として、光輝は家族、家、財産など本当に全てのものを失ったのだ。
人目を避け、残飯を漁る中、とある話題が立ち上がる。それは『天之河光輝に対して懸賞金をかけるということ』。犯罪者天之河光輝に突如多額の賞金を賭け、日本国民全員がその獲得権を有するといういかれた内容だった。生きていようが死んでいようがどちらでも構わない。いや、むしろ始末するほうが更に賞金が加算されるという、ビッグボーナス。
あまりのおかしさに、狙われた光輝ですら頭痛や吐き気、眩暈を起こすほどだった。こんな馬鹿げた話が認められるはずもない、と。
だが結果は光輝の理解を超えた。なんと国民の大半がこの話にこぞって参加をしだしたのだ。元々犯罪者(という扱い)の天之河光輝に対しての行いに人々はなんら良心の呵責がなかった。それこそ、どんなことをしても天之河光輝が悪い、と考えていたからだ。
その上で、悪である光輝を制裁する自分たちこそが正義という自惚れに加えて、それを世間は評価し、お金まで出すという。その結果、僅かにも残っていたであろう良心なんてものは露に消えるのも仕方がないのだろう。
倒してもいい悪と自分らは正義という免罪符、そしてそれを称える周囲の声援に報奨。まさにそれは最高の娯楽なのかもしれない。
こうして天之河光輝は、たった一人、日本中から狙われる存在になったのであった。
常に周りから命を狙われる中、光輝は自分の正義について考え続けていた。自分の行いがこの状況を招いたのは確かと言える。一方で、なぜここまでさればければならないのか、という疑問と怒りも感じていた。光輝はその心を抑え込み、自分の中で「正義」とは何かを問い続けた。
時に異世界に召喚され、その度に正義のあり方について悩み、時に力で、時に話し合いで解決しようと努めた。もちろんうまく行かないことが大半で、その事実に彼は向き合い続けることになった。
そうして迷いながらも自分の勇者のあり方を見つけ、救われた人たちによって、彼はようやく自分の正義のなにかに触れ、救われる……
はずだった。
「よう、クズ勇者天之河光輝くん」
そこにいたのは美少年だった。
黒曜石を彩ったように美しい黒色の髪。陶磁器を思わせるような美しい白い肌。ルビーを嵌め込んだような美しい瞳。そして均整の取れた美しい肉体。それが薄絹を纏っている。それ故に彼の美しさが引き立つ。いや、彼の美しさはそれほどに絵になる。南雲ハジメと共に奈落に落ち、一緒に地獄を味わい、そして強大な力を得た。その代償とし両目が紅く染まり、体中には沢山の傷を負った。裸の上半身には、その無数の傷が見て取れた。だがその傷さえも、彼の美しさを引き立てる要素でしかない。
まさに美少年、南雲ハジメ親友にして、雫の恋人、クラスメイトのまとめ役、我賀真理がそこにいたのだった。
「なんで君が…」
「うん?そんなにおかしなことかい?僕がここにいる理由」
「それに、な、なんでそんな恰好をしているんだ……!?」
「おいおい、勇者くん()は考えることも出来ないバカになってしまったのかい?いや、元々がどうしようもないばかだったね!」
「答えろ!なぜ君がここにいるんだ!」
叫ぶ光輝に対し、我賀真理は右手の人差し指を口元にもっていく。
「少し静かにしてくれないかい?
「彼女たち…だって…?」
我賀真理が口元の指を別の方向に指した。そこにいたのは、
「彼女たちに何をしたんだ!」
「別に悪いことなんてしてないよ。ただ日本における
「まさか…!」
光輝の顔が青ざめ、その顔をみた真理はその美しい顔を醜悪に歪めた。光輝はそのまま我賀真理へと近づき、その両肩を掴む。
「そうそう、どうして僕がここにいるのかって理由、まだ言ってなかったよね?僕も召喚されたんだ、魔王を倒すための勇者ってわけ」
「君が、勇者だって?」
「そしたら僕よりも先に勇者が召喚されたって聞いてさ。しかもそれが光輝くんだっていうから驚いちゃったんだ!ああ、君はまだ罪を重ねるんだな、と思ってね」
「罪みを…重ねる?」
「だってそうじゃないか。君は勇者という自分の地位や名誉のためにクラスメイトを危険に巻き込んで、殺した屑だよ?それがまさか別の世界で勇者として振る舞っているんだ。これは元クラスメイトとして見過ごせることじゃない。だから」
「姫様たちに君のした業を教えてあげたんだ」
その言葉にがっくりと力が抜けたかのように崩れ落ちる光輝。
「でもさ」
「あの姫様たちの反応は違ったんだよね。『たとえ過去に罪があっても、天之河光輝は私たちにとって勇者です』ってね。それってさぁ……」
真理の変化に光輝は顔を上げた。そこにいたのは、歪みに歪んだ我賀真理の顔。
「原作でただのかませ犬のくせにさぁ…。正義を勘違いした屑のくせにさぁ…!ハジメと俺の踏み台でしかない存在のくせにさぁ!!原作と同じように
その口が下劣に歪む。
「だから徹底的にやってやったんだよねぇ。お前が魔王を倒している最中にさ!嫌だと叫ぶ二人を、お前に助けを求める二人をさ、徹底的にね!傑作だったよ!ずっとお前に助けを求める二人の姿!本当にギンギンに滾って気持ちよかった!快楽に呑まれて、嫌がっていたのに最後は自分から快楽を貪る姿!互いに競い合う二人の姿!本当にお前に見せてやりたかったよ!ま、最後には俺のべた惚れになったわけだけどね。あ、二人からお前に伝言だよ」
下を向き、ただ震える光輝に対して我賀真理は耳元でささやく。
「『お前はもういらない』ってさ。残念だったね勇者くん()」
その叫びと共に、光輝の拳は我賀真理の顔を捕らえ、そのまま真理は宙を舞う。部屋の窓ガラスを突き破り、外へと飛んでいく。光輝は怒りに拳を震えながら、そのまま外へと降りていく。三階ほどの高さから落ちたというのに、そこにいた我賀真理の顔は美しさを保ち何もなかったかのように笑顔だ。ちなみに全裸のままである。
「怒った?え、怒ったの光輝くん?酷いじゃないか!共にトータスで戦った仲間だろ?クラスメイトだろ?それを、ただの嫉妬でこんなことをするなんて酷いじゃないか!」
「もう黙ってくれ」
「おいおい本気かい?天之河光輝。俺に本気で戦うつもりだってのか?」
何か堪えれれなかったのか、真理は吹き出すように笑い転げた。
「神代魔法も使えず!ステータスもクラスメイトの誰よりも雑魚で!
「黙ってくれ」
「トータスで俺とハジメにあれだけ散々ボコボコにされたのに?雫に無様にすがった上でこっぴどく振られた負け犬の君が?自分の本心と最後まで向き合えずに醜態を晒したクソ雑魚のお前ごときが?ただヒロインを先に寝取られた間抜けのくせに?怒った程度で俺に勝つ気だってぇ!?………なめんな」
ひとしきり笑い終えたあと、我賀真理の表情が変わる。それと同時に、全裸だった彼の姿は黒いローブを纏った衣服に変わる。それはまさに『裁判官』の装いだ。
「検察俺!弁護士俺!陪審員俺!裁判官俺!死刑執行人俺!被告人天之河光輝に判決を下す!」
「無関係なクラスメイトを巻き込んだ罪!親友である南雲ハジメを侮辱して傷つけた罪!嫉妬というつまらないものに任せて香織と雫、そしてハジメを傷つけた罪!俺の恋人雫に迷惑をかけ続けた罪!俺達を裏切って殺そうとした罪!俺を殴った罪!その他諸々ふくめて!死刑!死刑私刑死刑しけい死刑!裁定者である俺が決めた!原作かませキャラごときが俺に逆らった時点で絶対死刑なんだよなぁ!」
そして彼の木づちが振るわれた一瞬にして、天之河光輝の首が飛んだ。首だけになった天之河光輝に向けて、我賀真理は腰を下ろして語る。
「お前は世界の悪で俺たちが正義。だからお前は俺たちに勝てない、可哀そうだけど仕方がないことなんだ。猿が人間に勝てないように、俺たちにとってお前はただのモンキーでしかないんだよねぇ!やっぱ正義は最高!」
ふと、我賀真理は何かを思い出したかのように、あっ!と声をあげる。
「そうそう、お前の家族と家の件だけどさ。いやーまさかああなるなんて思ってなかったんだよね。いや、僕は止めたんだよ?でもクラスメイト達が決起づいちゃってさぁ。でも仕方ないじゃないか。悪いのは光輝、君なんだからさ。『僕たちは悪くない』。まぁ、正義とは大衆であり、暴力であり、力でもある。力のない君は、ただただ正義に蹂躙されるしかないんだ。恨むなら雑魚だった自分の罪を悔やんでくれたまえ、ってね!」
そうして光輝の首をサッカーボウルのように蹴ろうとして、
「そうだったんだね」
四肢が飛んだ。
「は?」
地面に落ちた我賀真理は目を瞬いた。なぜ自分が斬られたのか?なぜ天之河光輝が自分を見下ろしているのか?混乱する思考はその理解を拒否し続ける。
「そうなんだ。俺だって信じたくはなかったけどさ。うん、やっぱりなんかつらいなぁ…」
顔に手を当て、何かを我慢するかのように上を見上げる光輝。
「おいおいおいおい!なんだよ!なんで死んでねぇんだよ!お前は死ななきゃいけないだろ!」
「少し黙ってくれないか?」
光輝はその右手に持っていた聖剣を真理の口に突っ込んだ。
「うん、ようやく気持ちの整理がついたのかな?あれ?なんで泣いてるんだろ、俺」
頬から伝う涙に光輝はただ静かに泣くだけ。しばらくしてようやく落ち着いたのか、光輝は真理の口から剣を引き抜いた。
「おかしな話じゃないだろ?俺は君と違って、ずっと命を狙われ続けてきたんだ。その上で色々な世界に召喚されていた。つまり、その分経験が積められたってことじゃないかな」
カヒューカヒューと声を出す真理に光輝は話しかけ続ける。
「そういえば、まだ色々と聞くことがあるんだったかな?正直に答えてくれないかい?喋られる口があればいいよね」
光輝の顔はただ笑顔だった。笑顔一色で塗りつぶされた笑顔だった。そして、度重なる質問を続けた。何度も何度も何度も何度も、日が暮れるまで彼は質問を続けた。決して真理を殺すことはなかった。最後にはただ、こほひへひゃふという言葉しか言わない真理。光輝は最後の情けとして、異世界の旅で手に入れた回復役を使う。傷口がふさがり、元の状態に戻る真理。その顔にはただ憎悪が刻まれていた。
「帰ったらクラスメイト達に伝えてくれないかい?いずれまた会おうってね」
そう言って背を向けて歩く光輝。その姿に、真理はただ怒りしかない。
原作でのかませでしかない奴に自分が負けた。クラスメイト達や世界を弄繰り回して光輝を追い込むようにした。そうなるように神様特典だって使ったのに。雫をヒロインにし、原作通りに光輝をボコボコにしたことにしても、それの何が悪いというのか。光輝は屑で勇者()のくせに!救われるべき存在じゃないはずなのに!俺はそのことに納得ができなかった。ゆえにヒロインになるはずだった姫様を寝取った。勇者の根幹を、未来を徹底してへし折ってやった。それのどこが責められようか。いや、それだって光輝の犯した罪には到底及ばない。俺の行いは正義!そして光輝の自業自得!俺が正義であいつが悪!故に光輝に何をしたところでだ正義なのだ。その正義が、正義を担う『裁定者』の俺が、
そんなこと、そんなこと!あっていいことじゃない!俺は!俺が!
だからお前は、お前はぁ!
「俺のかませ犬になるべき存在なんだよなぁぁぁぁぁっぁああああっぁぁぁぁぁあ!」
そうして光輝の周囲ごと消しとばそうとして、
「さよならだ」
「あ?」
光輝の放った光の剣を受け、我賀真理はそのまま塵へと帰るのだった。
廃墟ビルの屋上に一人、天之河光輝は立っていた。雨が降ったのか、いくつかの水たまりがあった。そこに写る彼の姿。その目が光り輝くこともなく、ただ無表情しかない。背負った剣は黒く濁り、鈍い色を放っている。
本来なら真に勇者になるはずだった天之河光輝はそこにはなく、勇者の残骸が人の形を作っていた。そして彼は、世界の正義に反するように、自分の悪に従うように、光り輝く雑踏へと飛び降りるのであった。