決闘者の矜持-デュエリスト・プライド- 作:ホッシー@VTuber
1ターン目
『Winner YOU!!』
マイクを持った司会者が興奮を抑えられないと言わんばかりに声高らかに勝者の名前を叫んだ。しかし、あれはあくまでも会場を盛り上げるための演技。きっと、彼自身も内心では微妙な気持ちでいるだろう。
「はぁ、またYOUの勝ちかよ」
「つまんな」
「正直、勝つってわかってんだから見なくてもよくね?」
私の背後にある席から観客の白けた声が聞こえる。ああ、わかっていた。今回も、前回も、その前の試合も、同じ反応だった。
いや、観客の反応だけでない。デュエルの展開も、勝者も、私のこの気持ちさえ。同じことの繰り返し。ここまで来るともはや見る価値のない、ただの茶番である。
「……」
どうして、こうなってしまったのだろうか。私はここに何しに来たのだろうか。
プロになる前はもっと――魂を揺さぶられるような
なのに、ここは――プロの世界はあまりにも勝利に飢えすぎていた。
自分の場を展開させるより相手の邪魔をすることを選び、場を固めて身動きを取れなくし、意表を突くように
これが私の目指していた場所なのだろうか。
いいや、違う。私はこんなつまらない
「プロ、辞めよう」
こうして、天才子供
「はぁ……」
肩を落として
(なんで、こうなっちゃったんだろう……)
深々とため息を吐いたあたしは自身が身に纏っている赤い制服を見下ろして頭を掻いた。間違ってもあたしなんかが着てはならないそれを見て深いため息を吐いてしまう。
本来、あたしは一般校に通うはずだったのだが、色々あって政府の人にほぼ強制的に通う学校を変更させられてしまったのである。友達とも別れることになったり、親元を離れて寮生活する羽目になったりと散々な目に遭った。幸い、寮は2人部屋なのだが、トラブルでルームメイトの到着が遅れているらしく、顔合わせが延期になったのであたしの境遇を知る生徒は現段階でいない、はずだ。まぁ、それも時間の問題だろう。
「……ここが」
そんなことを考えながらどれだけゆっくり歩いていても進んでいれば目的地に辿り着くのは当たり前。あたしの目の前にそびえ立つ巨大なビルを見上げて小さく言葉を零した。
『デュエルアカデミア』。
ここはデュエルモンスターズを駆使して戦う者――
この学校は分校ではあるものの、太平洋の孤島にある『デュエルアカデミア本校』と同じように生徒たちは成績によって3つの学部に分かれる。
最も優秀な『オベリスク・ブルー』。
中間の『ラー・イエロー』。
そして、成績が悪い、もしくは事情がある者が配属される『オシリス・レッド』。
生徒たちは自身の配属された色の制服を着ることを義務付けられ、一目で優劣がわかってしまう。一応、学校側はそれだけで優劣を付けてはならないと校則に示しているが、人はどうしたって比べ合ってしまう生き物。自然とスクールカーストはできてしまうだろう。
(やっていけるかなぁ……)
『デュエルアカデミア』は分校であってもプロを目指す
だが、何事にも例外は存在する。赤い制服を着ているあたしは『オシリス・レッド』に所属しているが、他に所属できる学部がなかったから形式的にねじ込まれただけだ。
『ラー・イエロー』に所属できるほどの実力はない
実力はあるのに事情がある
そして、あたしは――。
「うぅ……なんで、
――
そう、あたしは――デッキ未所持者でありながら『デュエルアカデミア』に入学させられた前代未聞の生徒なのである。
「災難だぁ……」
ビルに入ってから数十分ほど経った現在、あたしは見事に迷子になっていた。『新入生はこちら』という案内に従って歩いていただけなのに途中で案内を見失い、適当にうろついてしまった結果である。
(早くしないと入学式に遅れちゃう……ただでさえ、肩身が狭いのに!)
「きゃっ」
「おっと」
涙目になりながらキョロキョロしていると前方が疎かになっていたのか、誰かとぶつかってしまった。バランスを崩してその場で尻餅を付いてしまい、小さく悲鳴を上げてしまう。
「いてて……あ、すみません!」
慌てて顔を上げて謝罪するがぶつかった相手を見て思わずビクリと肩を震えわせてしまう。青い制服の男子、『オベリスク・ブルー』だ。
「ああ……って、レッド?」
「ひゃ、ひゃい! 今日からここに通うことになって!」
「……へぇ」
最初は普通だったブルーの生徒だったが、私がレッドだと知るとニヤリと笑った。これは嫌な予感。
「ここってブルーの生徒しか入れない特別区だよ」
「え、ええ!?」
ブルーの生徒の言葉にあたしは思わず声を荒げてしまう。確かに『オベリスク・ブルー』の生徒は色々と特典を得られると知っていたが、ブルーの生徒しか入れない場所があるとは思わなかった。
「あ、あの……あたし、どうなっちゃうんですか?」
「うーん、そうだねぇ。新入生だからって許されないだろうし……減点か、もしかしたらそれ以上の処罰が下るかもね」
「っ!? ど、どうしたら――」
「――だからさ、僕とデュエルしようよ」
「……へ?」
遮るようにブルーの生徒はそう提案してきた。ここは『デュエルアカデミア』。何か揉め事が起きた場合、
「君が勝ったらこのことは黙っててあげる。どう?」
「……あたしが、負けたら?」
「そうだなー、君、可愛いから僕と付き合ってよ」
「なっ……」
彼の理不尽な要求に言葉を失ってしまう。たとえ、あたしがデッキを持っている普通の
「……」
「どうする? やるの? やらないの?」
「……持ってないんです」
「え?」
「あたし、デッキを持って、ないんです……」
あまり人に言いたくなかったのだが、こうなってしまったのなら仕方ない。あたしは正直に自分が
「……そうやって逃げるなら不戦勝ってことで僕の勝ちになるけどいい?」
だが、あたしの言い方が悪かったのか、ブルーの生徒は眉間に皺を寄せてそう吐き捨てた。まるで、
「え!? いや、逃げてるわけじゃなくて!」
「デッキを持ってない子がこの学校に入学できるわけないだろ。
「ッ……」
あまりにも酷い言い草にあたしは頭が真っ白になってしまった。
あたしだってこの学校に通うことになった時、政府の人にデッキを要求したのだ。もし、貰えなくてもどんなデッキでもいいから準備をしたかった。だから、デッキを組むアドバイスだけでもいい、と必死に頼み込んだ。
その答えは――NO。デッキはおろかカードすら接触を禁じられた。少しでも触れたことが判明した場合、問答無用で限りなく人の少ない土地へ移動してもらうと鋭い目つきで言われてしまったのだ。
確かに
だから、だろうか。
「あ、たしだって……」
気づけばあたしは震える体を必死に動かして立ち上がっていた。ああ、本当に何やっているのだろう。ここで素直に謝って、
「戦えるのなら……
だが、彼があたしの態度が気に食わなかったようにあたしも許せなかった。
こんな理不尽な目に遭って、事情を説明したのにろくに話を聞かれず、腰抜け扱いされ、戦う術すら持つことを許されなかったことにあたしの
だから、悲しくても、辛くても、悔しくても、どうにもならない現実に絶望しながらもあたしは涙を流しながら彼の前に立ちふさがった。
「――あたしだって、正々堂々、戦ってました!」
「……その気持ち、確かに受け取ったわ」
「ッ!?」
「誰だ!」
あたしの絶叫が廊下に響き渡った時、知らない声があたしの後ろから聞こえ、慌てて振り返る。ブルーの彼も予想外の第三者の登場に慌てた様子で叫んでいた。
「誰、と問うのならまずは自分から名乗るべき。そう習わなかったの?」
そこにいたのはあたしと同じ『オシリス・レッド』の制服を着た綺麗な銀髪の女性だった。どうやら、制服を着崩しているようで上着の前は全開になっており、中に着ている青いTシャツが見えている。身長も高く、スタイルもよくて芸能人だと言われたら納得してしまうほどの美貌を持つ人だった。
「またレッド? おい、年上にタメ口は失礼だろ」
「女性に対して紳士的に接することのできない男に礼儀もクソもないわ」
「なんだと!?」
「あの、あまり刺激しない方が……」
堂々と喧嘩を売る女性に心の中で悲鳴を上げながら慌ててフォローするが、彼女は特に返事をすることなく、あたしの肩に手を置いた。まるで、後は任せろと言わんばかりに。
「それで、さっきの話の続きなのだけど……この子の代わりに私が
「なに?」
「あなたの言い分ではここはブルーの生徒しか入れない場所。そこに足を踏み入れている私も彼女と同じ条件よね? なら、私が
「え、ちょっ……」
あまりの展開の速さにあたしは目を丸くしてしまう。確かにデッキを持っていないあたしよりもれっきとした
「もちろん、私が負けた場合、私を好きにしていいわ」
「好きに……」
女性の言葉にブルーの生徒は自然と彼女の体を眺める。特に青いTシャツを押し上げる大きな胸を見て僅かに鼻息を荒くした。こんな状況で言うのもあれだが、とても気持ち悪かった。
「よ、よし! なら、お前が俺の相手だ!」
「ええ、交渉成立ね。もちろん、
「え、それは――」
「――この子を見逃してくれるなら……色々、サービスするけど?」
「よかろう!」
なんというか、欲望に忠実な男だった。そんなジト目を向けているとあたしの視線に気づいたのか、彼はハッと我に返り、咳払いを一つ。いえ、何も誤魔化せていませんが? 猫を被っていたのか、一人称も『僕』から『俺に』なっているし。
「決着は入学式の後に行われるウェルカムデュエルで付けるぞ!」
「ウェルカムデュエル?」
「ああ、新入生と在学生、それぞれ一人ずつ代表となって
「ええ、わかったわ」
「え? ええ?」
あれ、待って。今の話の流れ的にこの女性は先輩なのではなく、あたしと同じ、新入生? こんなに背も高くておっぱ――スタイルもいいのに?
「へへ、お前が負ける瞬間を、体を――じゃなくて首を洗って待ってるんだな!」
そんな捨て台詞を言ってブルーの生徒は走り去ってしまった。置き去りにされたあたしはおそるおそる隣に立つ女性を見上げる。身長は170cmは確実に超えている。胸だって青いTシャツがはちきれんばかりになって――同い年?
「……ごめんなさいね。勝手に話を進めてしまって」
「へ? あ、ううん! こっちこそ巻き込んじゃってゴメンね! えっと、新入生、なんだよね?」
「ええ、あなたと同じ学年よ」
最初は申し訳なさそうにしていた彼女だったが、すぐに小さく笑ってこちらに手を差し出した。挨拶の握手だ。あたしも慌てて彼女の手を握り返す。
「私の名前は
「え、ユミ?」
「……変なところ、あったかしら? 普通の名前だと思うのだけれど」
「あ、ううん! そうじゃなくて……えっと、あたしは有栖川 望結!」
「ミユ……ふふっ、私たちの名前、ひっくり返したもの同士なのね」
あたしの名前を聞いて気づいたのか、彼女は――破魔さんはコロコロと笑った。美人だと思っていたが、笑うと幼さが顔を出して一気に印象が変わる。そんな彼女につられ、こんな状況なのにあたしも自然と笑みを浮かべていた。
「それで……勝てそうなの?」
「さぁ?」
「……え? 勝てる見込みがあるからあんなこと言ったんじゃ?」
「
「えぇ……」
得意げに赤い上着のポケットからボイスレコーダーを取り出す彼女を見て肩を落としてしまう。なら、最初からそう言えばよかったのに、と思ってしまうあたしはおかしいのだろうか。なんだか、マイペースな人だ。
「……もしかして、私が負けると思っていたの?」
「ぁ……だって、相手はブルーだから」
「……望結、一つだけ忠告しておくわ」
今まで微笑んでいた破魔さんは不意に視線を鋭くしてあたしを見つめる。迫力、なのだろうか。彼女の雰囲気がガラリと変わったせいであたしは体を硬直させてしまった。
「先ほども言ったように
「……」
だから、私が勝つのを信じていなさい。そう言われているような気がしてあたしの心臓がドクリと跳ねた。
「まぁ、特殊勝利も存在するからLPがゼロにならなくても負けちゃう時はあるのだけど」
「だぁー!」
「ふふっ、あなたっていい反応するからつい、からかってしまったわ。ごめんなさいね」
しっかりとオチを付けられ、思わずずっこけてしまったあたしを見て破魔さんはくすくすと笑う。やはり、相当マイペースな人だ。入学初日から問題が起こり、本当にこの先、上手くやっていけるのだろうか。
「それと――」
「え?」
あたしの行く末を思い、ため息を吐いていると破魔さんは体を翻しながら言葉を続けた。自然と彼女の方へ視線を向け、その大きな背中を目の当たりにする。
「――私があの男と
「熱い、魂?」
「ええ、あの時のあなた、最高に
「……」
慰めているのだろうか。デッキを持てないあたしに同情した、ということなのだろうか。
もし、そうならあたしは――あまり破魔さんのことは好きになれそうにない。だって、そんな気持ちを抱くことこそ、あたしに対する侮辱なのだから。
「さぁ、あの変態と決着をつけに会場に向かいましょうか……そういえば、体育館はどっちかしら?」
「だぁー!」
……まぁ、彼女のこんなマイペースな部分は正直、大好きだけど。
ぶっちゃけるとすっごく仲良くしたいけど!
ふっ、完璧な導入だ(デュエル脳)