「マルク、お前今日でこのパーティから追放な」
「えっ?」
部屋に入っての第一声がそれだった。
放たれた言葉に身体が強張る。
無意識にぎゅっと手を握りしめるが、だからといって気持ちが収まるわけでもない。
頬が引きつる感覚を感じたくなくて、より強く手を握る。
「どうして、ですか」
「お前がここに必要でないからだ」
「昨日まで、あんなに、パーティに一緒にいさせてくれたのに」
「ああ、だからこそだ。お前の居場所はないと判断した」
ああ、なんてことだ。気持ちの整理がつかない。
目元が歪みそうになるのを必死でこらえる。
泣くな。泣いてどうする。
「……冗談じゃ、ないんですよね」
「ああ」
「せめて、何故居場所がないのかを教えてください。足りないところがあるなら、頑張りますから」
「足りないところ、か」
すっと、息を吸い、止める。
心が、言葉を拒否しようとしている。
「そうだな、自分での判断力があまりにも足りない。俺たちがお前を育てると言っていた手前、そうならざるところもあったのは否定できないが……」
「っ……!」
「実力が付いてきてからも、お前は自分の判断ではなく、俺たちの指示を待つだけだった。故にお前は俺たちのパーティにお前は不要というわけだ」
「な、なら! せめて次の探索で試させてください! 自分の判断で動きます!」
「次、といったな。お前は死の淵に立たされた時に同じセリフを吐けるのか?」
身体が震える。
次、という言葉は機会が確約されているからこそ言える言葉。
冒険者という職である俺たちに、次という言葉は希望であり、同時に不確実なものだ。
命を失うという、代償が伴う冒険に、「次」を平気で期待するというのは、甘えだ。
「じゃあな、今回は「次」がなかったが……次はお前の甘えが効くところに行けることを願っているよ」
冷たい言葉が宙に発せられたその次の瞬間にはドアがバタン、と音を立てていた。
「……良かったのかい?」
傍でずっと黙って立っていた男、「アレク」が声をかけてくる。
緊張と後悔で強張った手をゆっくり開く。あまりに力が込められていただろう、中々開かない。
「ほら、顔も。なんとか隠せていたようだけど、酷いもんだよ」
もう一人。反対側に立っていた女性、「メリル」が肩に手を置いてくる。
ほのかな温かさを感じると共に、強張った身体がほぐれていく。
魔術を行使してリラックスさせてくれているのだろう。
「ああ、ありがとう」
「大丈夫か? 声が震えているじゃないか」
「……正直、大丈夫じゃない」
はぁ、とため息を一つ。正直キツイ。
昨日まで仲良くしていたメンバーと別れることになるというのは、辛いものだ。
必死に隠していたからよかったけど、今になって声が震えるにまで至ってしまっている。
「だったら……」
「いや、いいんだ。これは、俺が悪いんだから」
そう、俺が悪い。
「マルクを追い出すと決めたのは、俺なんだから」
ふぅ、とため息を大きく吐き、マルクが出ていった扉を眺める。
昨日まで仲良くやっていた。正直さっき言ったような甘いところはあるが、一般的なパーティメンバーとしては何ら申し分ない力は有していた。
「さて、ここからは俺たちの仕事、でいいのか?」
「全く、面倒なんだけど?」
「……すまん」
俺が謝ると、アレクは目を細め、
「まあいいんだよ。僕たちも結構楽しみにしてるからね」
口元を歪ませて静かに笑った。
その様子を見て、メリルはやれやれと呆れていたが。
「……お前もか、メリル」
「え? ククッ、まあそうかもしれないな」
その表情はニヤニヤとしており、悦びを隠せない様子であった。
「まあ、言われていたように手筈は整えている。あとはアレクが上手く運ぶだけ」
「そう言われるとプレッシャーなんだけど?」
「アレク、面倒をかけるが頼む。あと、わかっていると思うが、このことは」
言葉を続けようとする俺に、二人は腕をずい、と突き出し。
「この三人以外には漏らさない」
そうだろ?と言わんばかりのドヤ顔を決められた。
わかってくれているなら、問題ない。
「それじゃあ、僕は行くよ。メリルは?」
「私も予定通り行った時の次のステージの根回しよ」
「それで、リーダーは」
「……次の準備だ。二人にもまた手伝ってもらわないといけないが、その準備段階を進めておくさ」
ふぅ、と再びため息を吐く。
覚悟はしていたとはいえ、ここまで辛くなるとは思っていなかった。
しかし、これはしばらく付き合っていく痛みであり、忘れてはいけない感覚なのだろう。
少し憂鬱になりながらも、俺は次の準備に頭を悩ませるのだった。
「……マジかあ」
マルクは肩を落として立ち尽くしていた。
パーティ追放を言い渡され、飛び出してきてしまったものの、行く当ても荷物も何もかもがない状態だった。
「……どうしよう」
今更戻れないし。かといって、身分証明や今日を凌ぐための金銭もない状態なのはまずい。
「マルク」
ため息をついていると、横から声をかけられた。
「……アレク、さん。何か用ですか」
「はは、まあそう睨まないでくれよ」
リーダーの右腕である、アレクさんがいた。そんなつもりはなかったのだが、無意識で睨んでしまったらしい。
「ほら、これ。戻りづらいと思ったからね」
差し出されたのは、一つの袋。中を確認すると、自分の金銭や装備、衣服やその他……って。
おかしい、明らかに袋一つに収まるはずのない量が袋から出てきたぞ。
「ははは、びっくりしてるね」
「アレクさん、これは一体?」
「まあ、餞別だよ。収納魔法をかけた道具袋だから、だいぶ使いやすいと思うしよかったら持って行っておくれ」
「それってだいぶ貴重なものじゃないですか!?」
なんでそんなものを俺に渡してるんだ!?
「まあメリルが用意したものだからなあ……っと、今のは内緒でよろしく」
「メリルさんが!?」
ますますわからない。なんで追放されるのにアイテムやら金品やらを置いていくことを求められないどころか、むしろ物を与えられているのか。
「マルクの部屋にあった物を全部詰め込んだとは思うけど……当面ないと困るものはなかったりしないかい?」
「ええ……大丈夫かと」
しかし、わからない。なんでこんなことをアレクさんはしてくれているのか。
「……まあ、今回のパーティ追放は確かに僕たちも賛成はしているんだ」
首をかしげる俺に、アレクさんは淡々と言葉を続ける。
「ただ、賛成はしていても、マルクを必要としていないというわけではないんだ」
「必要ないって、言ってたじゃないですか」
リーダーの言葉を思い出す。確かに「ここに必要ない」と言われた。
「あー、うん。まあ間違いではないな。ったく、あいつももう少し言葉を選んでほしいものだが」
肯定するのか。何やらボソボソその後に呟いていたが、きっとこんな役回りを押し付けたリーダーに対する文句なのだろうとあたりをつける。
「うん、まあ僕自身はマルクに期待しているからね。僕たちのパーティには必要とされなくなってしまったとはいえ、君は必ず必要とされるさ」
「……そうですか」
そう、なのだろうか。
「さて、渡すものは渡したし、言いたいことも言った。あとはマルクへ助言するだけかな」
「助言、ですか?」
「ああ、どこへ行けばいいか困っているであろうアレクに必要となるかなってね。この街から西に行ったところに、ここより少し小規模になるけど街があるんだ。そこの冒険者ギルドへ行くといいさ」
「……そうですか」
「まあ、行くも行かないも君次第だけど……僕としては行くことをお勧めするよ。きっと君自身のためになる」
そこまで言って、アレクさんは雑踏の中に消えていった。残されたのは俺と道具袋。
正直、俺を追放したパーティの人たちのいうことを素直に聞く義理はない。
だが、俺のことを捨てるなら、もっと色々出来たはずだ。それこそわざわざ荷物を届けたりなんてしないだろう。
「行ってみるか……」
行く先が全く見えない状態だったさっきに比べ、足取りは少しだけだが軽くなっていた。