星の無い夜から   作:ミト推しのレイ

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生命の赤

第5話_

 

「だから、明日のボス戦も。その先も。

百層をクリアするその日まで____ボスを殺して、復讐を遂げるまで、私は死ぬ気は無いわ。」

 

 

そんな宣言をした、次の日。

私達は迷宮区へ続く森を歩いていた。

ホルンカの森とは違い、日差しの届く暖かい森。いかにもRPG感のあるグラフィックだが、私は好きだ。

キリトはどう思うのだろうか。

ただ静かに歩く、暫定的パートナーは。

 

「ねぇ、」

 

「何だ?」

 

キリトが此方を向く。

だけど、無言の時間が嫌だっただけで、呼んだ理由なんて無い。

 

「……なんでもない。」

 

「そうか。」

 

素っ気ない返事とともに、また沈黙。

 

 

 

☪︎*。꙳

 

 

 

昨日の私の宣言を聞いてキリトは哀しそうな、何かを含むような笑顔を浮かべた。

 

「それが、ミトの本心なのか。」

 

シンプルな問いだった。

だけど、私には答えが分からなかった。

 

「……でも、生きているなら良いんだ。

一日でもパーティを組む相手に、死んで欲しくないからな。」

 

____そう,

 

それだけ呟き、2人とも眠りについたのだ。

 

 

 

⋆͛☽.゚

 

 

「なぁ。」

 

「何?」

 

今度は、キリトが沈黙を破る。

 

「もし、ミトの大切な人がボス戦に居たとして。

その人がピンチだったら。

ミトはどうする?」

 

「……」

 

大切な人が、ピンチだったら。

多分、模範的な回答をするなら”助けに行く”が良いのだろう。

しかし、これはテストではない。

私に問われている。

心の中では、助けたい。

だけど、身体が動かない。

きっとそうなるから、答えとしては”助けられない”が正しいのだが。

 

「……分からない。」

 

ごめん、と口にして俯く。

それが本心なのだ。

 

「いや、良いんだ。

その答えなら、きっとミトはいざというときに仲間を助けられると思うから。」

 

「……そう。」

 

助けられなかったんだよ、と言いたいが、ぐっと堪えて歩く。

それ以降、話すことは無かった。

 

 

 

☽︎‪︎.*·̩͙‬

 

 

 

「よし、皆居るな!」

 

ディアベルの声と共に顔を上げる。

私たちは、《ルインコボルド・センチネル》___いわゆる取り巻き___を倒すだけの班だ。

故に、あまり危険は高くないと言える。

油断は禁物だが。

 

ディアベルの感動的な演説が終わる。

まるでプレイヤー達は、士気を高めるバフでも付与されたかのように盛り上がっていく。

私もキリトも、それは同じだった。

 

「皆,勝とうぜ!!」

 

その言葉を聞き、私たちは一斉に駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、特に異常もなく進んでいった。

キリトが武器をはね上げ、私が飛び込んでトドメを刺す。

意外とぴったり合うことにも驚いたが、キリトがとんでもない腕のプレイヤーだったことも判明した。

 

「ミト、スイッチ!!」

 

「了解!」

 

センチネルの首元を大鎌で一刀両断する。

すぱ、と切れていく感覚は実に快感に近くて。

キリトに背中を預けて戦えるこの状況が楽しくて。

純粋にSAOを楽しんでいたのかもしれない。

 

「GJ」

 

背後でキリトが囁く。

認めてもらえたような、そんな気分になって。

 

「そっちこそ。」

 

と思わず言ってしまう。

 

その時、ボスのHPゲージが消える。

最前列のディアベルが「2本目!」と叫び、予定通り壁の穴から追加の《センチネル》が飛び降りてくる。

 

私たちはオマケ部隊なのだが、そんなことも忘れて手近な1匹に向かって駆け出した。

 

 

 

そんな中、《キバオウ》と名乗ったプレイヤーがキリトに話しかけているところが見て取れた。

あまり良い雰囲気ではなさそうだ。

その会話の中には、”LA”という単語も入っている。

キリトが合流してきたので、何を話しているのかは分からないが、後で聞くことにしようと思い、戦闘を再開した。

 

「______攻撃来るよ!」

 

ぼうっとしているキリトにそう呼びかける。

何故か、さっきからずっと考え事をしているのだ。

何事も無かったかのようにキリトは《スラント》で弾き返すが、やはり集中していないのは伝わってくる。

 

「スイッチ!」

 

とキリトに叫ばれ、私も直ぐに《モーアー》で切り裂く。

 

ふと青い騎士へ目を向ければ、落ち着いた動作でボスの初撃を捌こうとしている。

 

 

 

 

 

 

 

_____何かがおかしい。

 

 

 

 

 

脳というか、視界がスパークしたような___テストで間違いに気づいた時のような___そんな感覚が走る。

 

あれは私の知るコボルドロードじゃない。

 

では何が違うのか?

色ではなく、サイズでもなく、顔でも声でもない。

つまり、本人には変化はない。

すなわち、武器に違和感があると考えるべきだ。

 

あの武器は、細すぎやしないだろうか。

シルエットのみからの判断故に確実とは言い難いが、幅と_____輝き。

モンスターのくせして、鍛えられたような、研がれたような色合いの武器を持っているのだ。

あれと似た武器を、黒衣の剣士の背後で見た。

あれに手こずり、次の層を見ることが出来なかったのだから良く覚えている。

 

β時代最大の強敵たちの使用していた曲刀。

悔しいことに、私たちは扱うことが出来ない。

なぜなら、モンスター専用カテゴリに属すから_________

 

 

 

「あ……ああ…………!」

 

 

キリトの喉から、引き攣った声が漏れる。

やはり、同じ違和感を抱いているのだろう。

私も思い切り息を吸い込む。

 

間に合え、間に合え_______!

 

「だ……だめだ、」

 

キリトがそう言う。

 

「下がれ!全力でッ!!」

 

私も精一杯叫ぶ。

 

「「後ろに飛べ!」」

 

しかし、2人分の声をもってしてもボスの発動させたソードスキルのサウンドに掻き消される。

 

軌道は水平。攻撃角度は、360° 。

刀専用ソードスキル、重範囲攻撃《旋車》。

 

血柱のようなエフェクトと共に、ボスを囲んでいたC隊のHP平均値が一気にイエローへ落ちる。

範囲攻撃の癖して威力が凄まじいのだが、厄介なのは_____スタンしてしまうこと。

誰一人として動けるものはいない。

 

理由は明確。

綿密に作戦会議をしていたこと。

楽勝ムードが続いていたこと。

___頼るべきリーダー、ディアベル本人が一撃で打ち倒されたこと。

これらの点は、C隊以外の身体も束縛した。

 

ここで、私たちは固まっていてはいけなかったことを知る。

コボルドロードが技後硬直から回復してしまったのだ。

 

「追撃が……」

 

キリトが叫ぼうとする。

同時に、両手斧使いエギルと数名のプレイヤーが援護に動こうとした。

 

しかし。

 

 

_________間に合わなかった。

 

 

 

 

ボスの放った《浮舟》。

狙われたのは、ディアベル。

 

ふざけたような高さまで斬り飛ばされるが、ダメージはそれ程ではない。

しかし、あの技はスキルコンボの開始技だ。

故に、防御態勢を取らねばならなかった。

 

ディアベルは、空中で長剣を振りかぶり、反撃のソードスキルを撃とうとした。

だが、システムは残酷なことにそれを予備動作だと読み取らなかった。

虚しく剣が空を切る。

 

そこに、ボスのスキル、《緋扇》_____3連撃技____が叩き込まれる。

 

あっという間にHPが減り、騎士ディアベルは20mも飛ばされたところで落下した。

私は、HPゲージを見ることが出来ない。

その後の出来事が分かっていたから。

 

「…………!!」

 

キリトは目を信じられないくらいに見開くと、センチネルの斧を恐ろしい勢いでへし折り、私はそれに応えるように首元を切り裂いた。

 

キリトがディアベルに向かって駆け出していく。

 

多分、ポーションを飲ませる為に。

 

しかし、騎士はそれを拒んだように見えた。

 

後は、見なくても分かる。

 

騎士ディアベルは、その体を青いガラスの欠片へと変えて四散させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フロア内に悲鳴が上がる。

レイドメンバーほぼ全員が、戦意喪失しているのが見て取れる。

リーダーが死ぬという状況が予想外すぎて、どうすべきなのかが分からないのだ。

それは、私も同様だった。

___逃げるか、戦うか。

普通に考えれば、逃げる方が妥当だろう。

しかし、後退するにも背中を向けて走り出せば、先程のディアベルになりかねないことは分かっている。

 

キバオウは、キリトの隣で膝をついていた。

 

「…………何で……何でや……。ディアベルはん、リーダーのあんたが、何で最初に……」

 

分からなくもない。

それに、信頼していた相手が居なくなる……死ぬことのダメージが何より大きいことを、私は知っている。

それ故に、動くことが出来ない。

 

しかし、そんな私とは対照的に、キリトは項垂れるキバオウの左肩を掴み、無理やり引っ張り上げた。

 

「へたってる場合か!」

 

キリトが低く叫ぶと、キバオウの小さな眼にはお馴染みの敵意が微かに宿る。

 

「な……なんやと?」

 

「E隊リーダーのあんたが腑抜けてたら、仲間が死ぬぞ!いいか、センチネルはまだ追加で湧く可能性が……いや、きっと湧く。そいつらの処理はあんたがするんだ!」

 

「なら、ジブンはどうするねん。1人とっとと逃げようちゃうんか!?」

 

「そんな訳あるか。決まってるだろ……」

 

 

私は、キリトが次に発する言葉を知っている。

何故なら、私も同じ心境だから。

下っ端として扱われていた脇役___モブが、一躍スポットライトを浴び、敵であるアインクラッドのボスの一体を撃つ。

この世界に復讐してやるためには、絶好の機会だから。

 

 

 

 

 

 

「_____ボスのLA取りに行くんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

予想と同じ言葉を発するキリト。

_____ボスを殺せ。

私も、手を貸そう。

今の状況を打開するために?

 

____違う。

 

 

 

 

 

ただ、私の目的へと近づく為に。

 

 

 

 

 

 

キリトは走り出す寸前、私の方を見る。

正直、分かっているんじゃないかと思ってしまう。

βテストで、私たちは僅かな時間ではあるが、同じ空間にいたこと。

お互いの実力を知っていること。

 

隣に立つ此奴が、とてもとても強いということ。

 

「最後の攻撃、一緒に頼む!」

 

「解ってる,!」

 

2人同時に向きを変え、広間の奥に向かって走り出す。

まずは、このパニック状態を脱しなければならない。リーダーのように、指揮を執る人物が居なくてはならない。

しかし、今それが出来る人間は、キリトと私の2人だけ。

きっと、キリトは躊躇うだろう。

ならば。

 

私がするしかない。

 

 

薄紫の髪のポニーテールをきゅっと締め、私は偽物の肺いっぱいに空気を吸い込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、ミトと会ったことがある_____

そんな根拠のない既視感が、会った時から存在していた。

あの装備に、何より大鎌とアバター。

大鎌を使っていたプレイヤーは、βテスト最後の10層突破時に居た人物だし、赤目で薄紫の髪は変わらないのだ。

まさか、女子だということは知らなかったが。

謎の既視感があったから、背中を任せることが出来たのかもしれない。

 

 

共に駆け出しながら、俺は目を見張る。

 

薄紫のストレートロングヘアは、ポニーテールに纏められている。ミトが走る度に揺れ、それはステンドグラスのようなフロアの照明の光を採り入れている。にも関わらず、恐るべき速さと大鎌の刃の影により、薄紫の髪は星のない夜空のような色へ染まる。

初めて会った時に抱えていた、乾いた血のような赤目ではなかった。

決意に満ち溢れ、ぎらりとした____強い生命を表すような赤目だった。

 

長い髪を靡かせ疾駆するミトは、混乱の光___フロアの妖しい輝き____を突如切り裂いた、一閃の《閃影》だった。

 

その凄絶な、力強い姿に目を奪われ、恐怖と焦りに満ちていたプレイヤーたちすら沈黙した。

そして、彼女は凛とした声を響かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全員、出口方向に10歩後退!ボスを取り囲まなければ、範囲攻撃は来ない!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は、精一杯叫ぶ。

生きるために。

復讐するために。

そして多分____プレイヤーたちではなく、暫定的パートナーを守りたい、その心の叫びを込めて。

守れなかったアスナに、謝るように。

守れるかもしれないキリトに、約束するように。

 

 

キリトは、下がったプレイヤー達と正対する私の位置へ追いついてくる。

 

「ミト!手順は____」

 

「センチネルと同じ、でしょ?」

 

解ってる、というように微笑む。

初めて、この人に微笑んだかもしれない。

 

「……嗚呼。_____ミト、」

 

 

「_____キリト。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「行こう!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人の刃がぶつかり、音をたてる。

これは約束の金打。

絶対に君を守るという、約束の。

そして、絶対に生き抜くという、約束の。

 

 

 

 

 

 

 

前方では、コボルド王が左の腰だめに構えようとしている。

あのモーションは、_____

 

「…………ッ!!」

 

まず、キリトがソードスキルを始動させる。

片手剣基本突進技、《レイジスパイク》。

地を這うような低さなら、右足を全力で踏み切る。

青い光につつまれ、ボスの《辻風》と激突した。

 

「う……おおッ!!」

 

咆哮とともに左から突き上げたキリトの剣の軌道と、イルファングの野太刀の軌道が交差した。

甲高い金属音が響き、火花が弾ける。

キリトとボスは、互いにノックバックした。

 

今度は私の出番だ。

 

「はあああッ!!!!」

 

生まれた隙を捉え、瞬時に《ローネイ》___斜め、水平、垂直、水平、斜めの5連撃___がコボルド王の右腹を深々と切り裂く。

4段目のHPゲージが、確実に減る。

 

「……次、来るぞ!」

 

キリトはそう叫び、今までにない集中力を発揮して、攻撃を先読みしている。

とんでもない危険な綱渡りだが、それでも彼は奮闘している。

しかし、暫くするとそれが途切れた。

 

「しまっ……!!」

 

ボスの《幻月》がキリトに命中する。

 

「なっ…………!!」

 

私が愕然とした頃にはもう、真下からキリトに跳ね上がってきていた野太刀が正面からキリトを捉えていた。

 

____今すぐにでも突っ込んで、此奴を殺してやりたい。

しかし、次に私に放たれるはディアベルを殺した技、《緋扇》______

 

目を見開き、軌道を見極める。

私なら出来る。

大鎌使いで、STRだって余裕があるはずだから。

 

そう信じて、《モーアー》を発動させる。

 

「う……おおおおッ!!!!」

 

女子らしからぬ気合いと共に切り上げ、ボスと共にノックバック。

しかし両者とも両足を踏ん張り、1メートル下がったところで留まる。

 

「……キリトがPOTを飲み終えるまで、私が支える。」

 

だから、下がってて。

そう述べる。

てっきり反論するかと思ったのだが、

 

「……すまん、頼む。」

 

意外と素直に彼は頷いた。

 

 

 

 

さて。

ここから私が1人で守り抜かねばならない。

回復し始めたプレイヤーは、センチネルの相手をしている。

ボスと睨み合い、どちらが動くかとじりじりとする空気の中で構える。

 

「……そっちが来ないんなら、私から行くわ」

 

決戦の火蓋を切るように地面を蹴る。

もうあの森で自我を失っていた私ではない。

この世界に抗い続け、復讐する。

その意思を持った、1人のプレイヤーとして。

 

私は投剣を4本を指に挟むと、一気に投げる。

綺麗な軌道を描いてボスに命中すると一瞬怯むので、その隙をついて大鎌で切り裂く。

影のようなエフェクトの大鎌がボスを一閃し、投剣が流星のような光を描く。

これを繰り返すこと20セット。

私が最後に360度範囲5連撃大技《オーディン》を放ち、キリトが戻ってきた。

HPゲージは、ディアベル達が削ってくれていたこともあり残りは僅か。

レッドを切っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミト、最後の《オーディン》一緒に頼む!!」

 

「了解!!」

 

キリトの問に打てば響くような答えを返すと、キリトは思わず片頬だけで笑った。

 

「行っ……けえッ!!」

 

キリトが絶叫する。

それと同時に、私は地面を蹴った。

巨漢アバター___エギルの隣をすり抜け、投剣スキル《フラッシュライン》を放つ。

その後、大きく跳躍すれば。

 

「はああああああああぁぁぁッ!!!!」

 

予備動作で、大鎌を高速で回転させて、背中の後ろで握り直す。

紫のライトエフェクトが輝いたことを確認すれば、瞬時に大きな気合い共に《オーディン》を放つ。

やることはやった。

HPゲージは残り1ドット。

後は、パートナーに任せる他ない。

 

 

「スイッチ!!」

 

キリトが不敵な笑みを浮かべる。

 

「お……おおおおおおッ!!!」

 

全身全霊の気勢ともに、剣を跳ね上げた。

片手剣二連撃技、《バーチカル・アーク》_____。

 

 

コボルド王の身体が、ふらりと後方へとよろめく。

狼にも似たその顔を天井へ向けると、細く高く吠えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その体を、四散させた。










今回はボス戦を描写しました!
指が疲れましたね……
エギルさんを出すか迷ったんですが、劇場版ではミトが抑えているので、やればできるかな……?と思い出しませんでした。
ミトとキリトの出番が大分多くなっていますが、多目に見ていただいて……()
次回、ビーター編となります!
お楽しみに!

①ミトにユニークスキルを付けた方が良いですか?

  • ①付けた方が良い
  • ①要らない
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