第6話_
ボスが消滅した。
硝子の爆散する音と共に。
_____明日奈、私、やったよ_____,
ボスが消滅すると同時に、後方に残っていたセンチネルも同じ音をたてて四散する。
その音は、私たちが勝利したことを告げていた。
フロア全体の毒々しく、妖しい____ステンドグラスのような___輝きは失せ、かわりに明るいイエローの松明が辺りを照らす。
訪れた痛いくらいの静寂を、誰も破ろうとはしなかった。
最後方のE隊・G隊は立ったまま、中陣のA・B・C・D・F隊は方膝立ちの回復待機姿勢。
それはまるで、コボルド王が蘇るのを恐れるかのように。
そして、私もそれは同じだった。
大鎌で斬り裂いた、低い姿勢のまま。
_______これで本当に終わりなのか?
そんな疑問が頭を掠める。
しかし、何も起きない。
ということは、きっと、終わったのだ。
私は、初めて守ることが出来た少年を、初めに起こすことにした。
私よりやや身長の低いキリトの右肩に、そっと手を置く。
あまり乱暴に置けば、それだけでポリゴン粒子となり、崩れてしまうような気がしたから。
斬りあげた姿勢のままのキリトの腕を、そっと下ろす。
もう戦闘は終わったんだと。そういうように。
☽︎︎.*·̩͙
ボスを、倒した。
ディアベルという代償を払って。
周りは誰も動こうとしない。
そして俺もまた、右手の剣を斬りあげた姿勢のまま、動くことが出来なかった。
これで本当に終わりなのか?ここからまた、《ベータとのちょっとした違い》が顕在化するのではないか……?
と、その時。
男物の手袋に包まれた、小さな白い手がそっと俺の右肩に触れ、ゆっくりと剣を下ろさせた。立っていたのは、大鎌使いミトだった。
薄紫色のロングポニーテールを微風に揺らしながら、じっと俺を見ている。
____もう戦闘は終わったんだよ。
お疲れ様、そういうように。
暗い瞳をしていた____それこそ、死んでしまったような目をしていて、表情に影を落としていた彼女の顔が、これがほんとうにプレイヤーの容姿なのかと疑いたくなるほど美しく、儚いことに、俺は初めて気づいた。
ぼんやりと美貌に見入り続ける俺の視線を、ミトは嫌な顔ひとつせず無言で受け止め、やがて小さく頷いた。
「お疲れ様。」
その言葉に、俺はようやく確信した。終わったのだ、と。
☽︎︎.*·̩͙
最初に”目を覚ました”キリトが、そして私が、待ち構えていたシステムの表示する獲得経験値、コル、獲得アイテム______と、様々な情報が投げ掛けられる。
LAは取れなかったか___と悔やんでいると、何やら別のボーナスがあった。
Assistant Attack bonus
略すとしたら、AA…?
そう首を傾げる。
βテストではこんなものは無かった筈だ。
だとすれば、追加されたのだろうか。
私は、そのアイテムを覗く。
《ステルラ・インゴット》
ステルラとは、確か星…という意味だった筈。
多分レアアイテム…なのだろうか。
_____これは早く強化したい_____!!!
ゲーマーの血が騒ぐ。
しかし、2層にこんな熟練度を要しそうなインゴットを鍛えることが出来るプレイヤーはいるのか?そもそも、ここまで戦ってきた《アイアン・サイズ》を此処で捨てるのか?
………一旦、保留か。
取り敢えず保留にしておこう。
そんな時だった。
「_______なんでや!!」
突然、耳を刺すような絶叫が弾ける。
半ば裏返り、泣き叫ぶような声。
しかし、その声の主を私は知っている。
私もキリトも振り返り、そのプレイヤーを見る。
そう、キバオウ。
「_____何で、ディアベルはんを見殺しにしたんや!!」
キバオウは、あの騒ぎを起こしてから、騎士ディアベルと親睦を深めていた。
なんなら、多分この中で1番ディアベルを慕っていた。
しかし、その言葉には訂正すべき内容も含まれている。
___キリトは、見殺しになんてしていない。
___本当に見殺しにしたことがあるのは、私だ。
「見殺し…?」
キリトが訝しげに呟く。
「そうや!!…だって、…だってジブンは、ボスの使う技を知ってたやないか!!ジブンが最初からあの情報を伝えとれば、ディアベルはんは死なずに済んだんや!!」
血を吐くような叫び。
その絶叫は、フロア全体の雰囲気を揺さぶり、壊していく。
次第に、キリトへの____私たち、βテスターへのヘイトが高まっていくのが見て取れる。
そして、極めつけに1人が私とキリトを指さして糾弾した。
「オレ…オレ知ってる!!こいつは、元ベータテスターだ!!だから、ボスの攻撃パターンとか、旨いクエとか狩場とか、全部知ってるんだ!!知ってて隠してるんだ!!」
その言葉を聞いても、私を含む数名は動じない。いや、動けない。
そのうち、情報屋アルゴの情報真っ赤な嘘だった、_____そんな根拠の無い噂まで立ち始める。
キリトは、静かに下を向いてウィンドウを見つめている。
何かを考えるように。
あるいは、決意するように。
そして、あるプレイヤーが仕上げとでも言うかのように一言を叫ぶ。
「LAかっさらったそいつも!そいつと戦ってた紫髪の女も!!こいつら共謀してたんだ!!」
その言葉が、キリトを動かした。
「元ベータテスター、だって?
……俺を、あんな素人連中と一緒にしないでもらいたいな。」
「な…なんだと…?」
「いいか、よく思い出せよ。SAOのCBTはとんでもない倍率の抽選だったんだぜ。受かった千人のうち、本物のMMOゲーマーが何人居たと思う。ほとんどはレベリングのやりかたも知らない初心者だったよ。今のあんたらの方がまだマシさ。
俺と一緒に組んだ彼女だって、俺には及ばない。」
侮蔑極まるその言葉。
全員が一斉に黙りこむ。
「______でも、俺はあんな奴らとは違う。」
意図的とも、本心とも思える冷笑を浮かべる。
「俺はベータテスト中に、他の誰も到達出来なかった層まで登った。ボスのカタナスキルを知っていたのは、ずっと上の層でカタナを使うMOBと散々戦ったからだ。他にも色々知ってるぜ、アルゴなんか問題にならないくらいにな。」
「……なんだよ…それ…」
最初にキリトを元テスターと糾弾したE隊の男が、かすれ声で呟く。
これ以上キリトを追い詰めないで欲しい。
傷付けないで欲しい。
触れないで欲しい。
キリトから周りを、切り離さないで欲しい。
「そんなの……ベータテスターどころじゃねえじゃんか……もうチートだろ、チーターだろそんなの!」
周囲から、そうだ、チーターだ、ベータのチーターだ、という声が幾つも湧き上がる。
私は、耳を塞ぎたい衝動に駆られた。
どうしてここまでされなくてはならないのか。
_____貴方たちの為に、キリトが命を賭けて戦ってくれたのに____!!
おかしいだろう。こんなの。
しかし、私にはどうすることも出来ない。
私が割り込んだところで、事態は収まらないし、悪化する一方を辿ることは目に見えていたから。
そのうち、《ビーター》という奇妙な響きの単語が私の耳に飛び込む。
「……《ビーター》、良い呼び名だなそれ」
にやりと笑い、私の方へと振り返る。
そうだ、これで良い。
そう言うかのように、一瞬切なそうな表情を滲ませた。
「そうだ、俺は《ビーター》だ。これからは、元テスター如きと一緒にしないでくれ。」
この仕上げの一言で、完全に悪の《ビーター》と、罪の無い《テスター》に区別された。
きっと、この中では私は《テスター》なのだろう。
キリトは、ボスのLA《コート・オブ・ミッドナイト》___アイテム名は後に訊いた___なるアイテムを設定する。
小さな、眩い光とともに艶のある漆黒の革に変化した。
そのコートを、いかにも悪役のように翻して、2層の扉へ続く階段へと向かう。
「2層の転移門は、俺が有効化しといてやる。この上の出口から主街区まですこしフィールドを歩くから、ついてくるなら初見のMOBに殺される覚悟しとけよ。」
歩きだそうとするキリトに、思わず目を向けてしまう。
____どうして、そんな事が出来るの。
____私には、そんな英雄じみたことは出来ない。
____どうして、そこまでして人の為になろうとするの。
____自分が辛くならないの?
しかし、何もかも分かる。
私にほろ苦い微笑みを向けると、玉座の後ろの大きな扉を押しあけた。
☽︎︎.*·̩͙
私は走る。
レーゼルの村へ行くまでに、Lvあげ紛いのことをしておいて良かったと、今思う。
あの時、STRに偏っていた値を、AGTに大きく振ったのだ。それから、恐ろしい敏捷力を手に入れた。
この世界の、前のアバター_____前世で、おい付くことの出来なかった背中を追うため、私は今、息を切らして走っている。
ロングブーツの鋲が鳴り響き、私の荒い息が反響する。
悲しいことに、私の後を追うものはいない。
先を往く者も見えない。
しかし、それで良い。
____明日奈、私、追いかけるものが出来たよ。
____私、彼を追うよ。
やっと階段を登りきると、もう2層の扉は開かれている。
閉まりかけるその扉に手を滑り込ませ、切なそうな顔をして風景を眺める暫定的パートナー_____キリトを見つけた。
キリトも、それに気づく。
「………来るな、って言ったのに。」
「言ってない。死ぬ覚悟があるなら来い、って言ったんでしょ。」
「…そうだっけ、ゴメン。」
首を竦める少年。
ちらりと、私の顔を覗き込んでいた。
「…本当は、お礼を言うために追いかけてきてた。」
「風呂と、クリームパンと、カクテルの…?」
此奴、覚えていたのか。
「最初のは忘れて。じゃなきゃ首切り落とすわよ。」
「ご、ごめんって…,」
悪かった、と慌てる彼を見て、私は笑ってしまう。
先程の威圧感は何処へ消えたのか。
私には、同年代くらいの少年にしか見えなかった。
「…,
この世界で、生きていく決心をさせてくれて、ありがとう。絶望してたの。初めて会った時には解ってたと思うけど。
親友を失って____いや、見殺しにして、ひとりに戻って、癒えない傷を抱えて膿んでいた私を救いあげてくれて。
真っ暗で、星明かりすらない世界から、掬いあげてくれて。
生きる先を示してくれて。」
それは、紛れもない本音。
リアルで全く真剣に話すことの無い私は、明らかに語彙が足りていないだろうと内心頭を抱えるが、伝われば良いのだ。
「本当に、ありがとう。キリト。」
多分、この世界で1番の笑顔を向けていたと思う。
ずっと後にキリトに言わせれば、大泣きしていたと言っていたが。
「私、生きる。
復讐もそうだけど、目指す場所へ行けるように。」
「ああ……。君は強くなる。
剣技だけじゃなく、もっとずっと大きなものを身につけられる。
____だから……もしいつか、誰か信頼出来る人にギルドに誘われたら、断るなよ。ソロプレイには絶対的な限界があるから…,」
どうしてこんなにも優しいのだろうか。
「……脳に容量があれば、覚えとく。」
「_____そうか。」
返事を濁すような、そんな返答にキリトは困ったような笑顔を浮かべる。
しかし、お互いに顔を見合わせると。
「「行こう」」
長い長い階段を、2人一緒に降り始めた。
これにて、星なき夜のアリア編は終わりになります!
…長かった…(((((
次回を2層にするか、原作小説通り74層までカットするかを迷っていますので、コメントで意見を戴けると死ぬほど嬉しいです。
また、「何層のキリミト見たい!」等ありましたら是非コメントお願いします!
後々番外編等も出そうと思いますので、是非お楽しみに!
①ミトにユニークスキルを付けた方が良いですか?
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①付けた方が良い
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①要らない