蜜蜂の行先は中庭にあるベンチだ。暑さがあらかた去ったこの時期の外はとても過ごしやすい。特に日の高く上るこのお昼の時間帯は心地よい日差しがベンチに降り注ぐ、程よく暖かくそれでいてある程度喧噪から離れた最高の環境だ。
今日は先客達がいるようで、ベンチの上やその周りでたくさんの猫が日向ぼっこを楽しんでいる。ベンチの後ろでは猫が小山を形成しており、よく見るとその下には生徒が一人横になっているようで、どう見ても猫山の下敷きとなっていた。体の上に容赦なく乗っかる猫に無事が心配されるが、おそらくお腹だろう位置の猫が規則的に上下していることから無事なようだ。
この学園の猫はもはや名物だろう。猫好きな誰か達が餌を与えたりするものだから住み着いたらしい。しかも誰がつけたのやらこの猫達一匹一匹には名前があるそうだ。
横になっている人の顔にも猫が覆いかぶさっておりその様相は見えないが、紫色の校章が隙間から見えるので2年生だろう。生きていることはお腹の猫の様子からわかるので、特に気にする必要もなかったが、蜜蜂はなんとなく猫に群がられた状態が気になってしまった。
「大丈夫ですか?」
蜜蜂は本をポケットへしまい、その顔に覆いかぶさる茶虎の猫を持ち上げる。
猫を退かしたことで覗いたその顔には目尻に泣き黒子がある。猫に乗っかられながらも気持ちよさそうに寝ていたようだ。
「んぁ……ぁぅ……ねこだまりぃおもいぃ……」
その人は日光に顔を歪めると目覚めたようで薄目を開けた。
体を起こそうと踏ん張ったところで猫に群がられていることに気づいたようだ。頭だけ起こすも自身の谷間にスッポリ収まった猫と目を合わせると諦めて頭を落とした。
そしてそのまま目を閉じてしまうものだから蜜蜂はもう一度声をかける。
「あの、何をしているのですか?」
その人は再度薄目を開けると、眠たげな声で返事をした。
「お昼寝ですよぉ……あなたもぉ……どおですかぁ?」
そう言い終わらないうちにまた目を閉じてしまう。よほど眠たいのだろう。
何度も繰り返すが星花女子学園には変人が多い。むしろそれこそが普通のような場所だ。そしてこの人もそのうちの一人のようで、蜜蜂はあまり深く考えないでおこうと結論付けた。
「そうですか……」
「んぁ……」
蜜蜂はそう言いつつ、持ち上げたままだった猫をそっとその顔に置きなおした。特に抵抗するでもなくその人はまた眠りについたようで、お腹と思われる位置の猫がまた規則的に上下し始めた。顔に覆いかぶさる茶虎の猫は一声「にゃーん」と高い声を上げて、持ち上げられたことに対して不服そうに蜜蜂に主張する。
「ごめんね」
蜜蜂は茶虎の猫の頭をひと撫でした後、ベンチに座り読書を開始したのだった。