リンゴの種が芽吹く頃   作:アランスミ氏

6 / 16
前回のあらすじ
 ライラベルの路地裏で、ディーンは黒衣の女性《アトラ》と出会う。彼女にどこか懐かしい感覚をおぼえたディーン。その後、彼はアトラの提案と協力によりディテクターを使って行方不明のアヴリルを捕捉することに成功した。ディーンはこの偶然の出会いに感謝した。
 ディーンとそれに合流したバーソロミューはディテクターの導きにしたがって首都ライラベルの北へと向かう。そして二人は北方の断崖のふもとに怪しげな白い孤児院を発見した。彼らは揺動と潜入の二手に分かれてアヴリルを救出することにした。

 一方のアヴリルは、その施設の地下にいた。自分を捕らえた組織のボスと対面した彼女は、ボスに自身が政府の重要人物である氷の女王であることを気づかれてしまう。彼ら≪ファルガイア解放戦線≫は、とある計画へ利用するためアヴリルを洗脳装置がある部屋へと連行する。彼女が連れられた部屋には、ほかにも人間の孤児達が集められていた。解放戦線のメンバーとそこにいた蒼い外套を着た男は、《黒く輝くミーディアム》を使って子供たちを洗脳していく。その状況を止めることができず歯噛みするアヴリルに、突如としてミーディアムが語り掛けてきた。その声に導かれるように彼女は自らの名前を「アヴリル」と答える。するとミーディアムは輝きを増し、隠された機能と様々な情報を彼女に与えたのだった。お目付け役の男がアヴリルの不審な行動を止めようとARMを構え、一触即発の状況となる。そこへ間一髪ディーンが突入し、無事アヴリルを助けることに成功したのであった。

 ディーンとアヴリルは、拘束されていた子供たちをどうにか先に逃がすと、施設の中を探索しつつ地上を目指した。しかしその途中、二人は行き違いから仲互いをする。その直後、二人の前に解放戦線の首魁である男が姿を現した。そして彼は今現在ファルガイアが瀕している危機≪全球凍結≫の真実を二人に伝えるのだった。人間とベル―二が争わずにその問題を解決するためにはアヴリルの犠牲が必要だと男は告げた。自らの存在に価値を見出せなかったアヴリルは、TFシステムの建造という自責の念もあり、男の提案に乗ることを決意する。しかしディーンはそれに納得しなかった。
 彼は、アヴリルは過去にとらわれず、もっと自由に生きるべきだと主張する。自分に纏わりつく以前のアヴリルの陰を心苦しく思っていた彼女は、ありのままの自分を肯定するような彼の言葉にいくばくか救われた。彼女が考えをあらためディーンの元へ戻ろうと振り返ったその時、首魁の男は彼らの間に割って入ると、強引に彼女の身柄を奪っていったのだった。



【1章3節】ふたつの決意、ひとつの誓い

 アヴリルを挟み、向かい合うディーンと首魁の男。

 息をのむわずかな時間のあと、先にその静寂を破ったのはディーンだった。彼は前に構えていたARMツインフェンリルを素早く引くと、すぐさま打撃スマッシュモードへと切り替える。敵から射線にらみを外した二挺のARMが、その銃把グリップを勢いよく伸長させた。現れた鋼鉄色はがねいろの角棒は、60センチほど伸びるとその動きをピタリと止める。その無骨な刀身に、青い光が刃と灯った。二振りのブレードを逆手に持った形になったディーンは構えを半身はんみに変えて、再び敵と対峙する。

 対する男は右に長剣を下げ、左にアヴリルの背をつかんだまま泰然と佇んでいた。しかし、その戦意は十全。男がニヤリと笑うと、そのミーディアムが輝いた。

 咄嗟にディーンは左にステップを踏む。先ほどまで彼がいた場所に爆衝の魔法ブラストが炸裂する。魔力攻撃による余波で、右肩に軽い痛みを感じながらも少年は足を止めずにそのまま駆け出す。彼が駆け抜けた場所に次々と波状攻撃が炸裂する。ディーンは敵の視線を読み取ると、なかば感覚的に攻撃位置を予測し迫る爆風をどうにか避けていく。数のために威力は下げられているようだが、当たれば否応なく足がとまる。そこを狙い撃たれることは避けたかった。

 

「どうした? 近づかなければ俺を倒すことはできんぞ」

 

 挑発するように男が言った。遠距離からじわじわと攻められ、疲弊したディーンは苦しそうに敵を見る。しかし男の思惑には乗らず、彼を中心に円弧を描くように攻撃をかわしていく。何度か魔術の衝撃やそれに伴う何かの破片が体をかすめながらも敵と一定の距離を保つその動きは、敢えてアルカナを誘っているようでもあった。首魁の男は得心したように目を細めつぶやく。

 

「なるほど、狙いはこちらの魔力切れ。ならば――」

 

 男はそういうと一瞬、意識を切り替える。ディーンの策に乗るように、アルカナの弾幕が止んだ。その隙を逃すまいと男に向かって踏み込むディーンの耳に、ざらつくような声が届いた。

 

「――吸奪アブソーブ

 

 男がそうつぶやくと、彼の胸元でミーディアムが怪しく光る。男の手の先でアヴリルが苦しそうに小さくうめいた。次の瞬間、彼女のうちから光が弾け、それはそのまま男の手に吸収されていく。魔力を奪われた虚脱感からかアヴリルの呼吸が荒くなる。

 

「こちらの貯蔵は万端。対してそちらの体力は有限。いつまで逃げ回れるだろうな」

「ミーディアムを、――そんな風に使うなッ!」

 

 表情を険しくしたディーンは、叫びながら一直線に男へ駆ける。それを待っていたとばかりにアルカナで迎撃する首魁の男。完全にディーンを捉えた魔力の衝撃波が彼もろとも床を砕き、粉塵をまき上げる。その煙の中から抜け出してくるひとつの影。少年のさらなる前進に敵の男は一瞬驚いたものの、迫る目の前の標的に次々魔法を当てていく。しかし少年の勢い衰えず、彼はなおも敵との間合いを詰めていく。その様子に男は、はたと気づく。

 

「≪異相防壁インビンシブル≫かッ!」

 

 敵の攻撃が当たる直前、踏み込む地面HEXに力場を展開し、完璧なタイミングで衝撃を無効化していくディーン。首魁の男がその手品に気づいたときには少年はすでに男の目と鼻の先。

 

「これで、――どうだッ!」

 

 土煙の中から飛び出た瞬間、ディーンは振りかぶったARMを男に叩き入れる。しかし、彼の鉄槌は男に届くことはなく、その直前でピタリと止まった。

 

――その刃の先にアヴリルが突き出されたのだ。

 

「あるいは、貴様一人なら勝てたかもな」

 

 動きの止まった少年に下段から男の剣が迫る。間一髪、ディーンがそれをバックステップで回避すると鼻先を剣風が撫でた。彼の瞳に男の嗤う顔が映る。

 

大爆衝ハイ・ブラストッ!」

 

 今度は防御も間に合わず、至近からの攻撃をまともに食らうディーン。衝撃はその体を大きく吹き飛ばし、結果、彼は15メートルほど後ろの壁に背中をしたた かに打ち付けた。大ダメージを負い、受け身も取れずに床に落下するディーン。さすがの彼もすぐに立ち上がることが出来ずにいた。その姿を見ていたたまれなくなったアヴリルは、首魁の男に懇願する。

 

「もうやめてください! わたくしはどうなっても構いませんから!」

「いいや、ダメだ。交渉の機会は一度きりだ。コイツはここでツブす」

 

 首魁の男はそういうと、トドメを差すためミーディアムに再び魔力を込める。アヴリルは抵抗するように後ろ手に彼の腕を掴んだ。その小さな抵抗を鼻で笑いながら男はディーンに視線をなげると言い捨てるように言葉を吐いた。

 

「俺に刃向かった末路、よく見ておけ。大爆ハイ・ブラ――」

「――させませんッ!」

 

 首魁の男の魔法を遮るようにアヴリルが叫んだ。その瞬間、アルカナを発動させようとしていたミーディアムが突然輝きを失いその機能を止める。首魁の男がアヴリルを睨む。

 

「何をしたッ!?」

 

 男はアヴリルの首筋に剣を添えると彼女を問い詰めた。彼女はどこか苦しそうに息を荒げながらも男を一瞥するだけで、すぐにディーンに向き直り声をかける。

 

「ディーン、立てますか? いま彼のミーディアムに再起動 リブートをかけました。ですが、それも長くは持ちません。今のうちにアナタだけでも逃げてくださいッ!」

 

 アヴリルに声をかけられたディーンは、床に倒れながらも息を整えるとギュッと拳を握りしめる。もはや立つのがやっとといった満身創痍の状態だったが、されど彼はどうにか立ち上がった。

 

「ダメだ。仲間を置いてはいけない」

 

 そして首を振ると静かにそう告げた。アヴリルはその言葉を胸で反芻するかのように瞳を閉じて押し黙る。そして再びその目を開けると、切ない表情で彼に言い返した。

 

「わがままを言わないでッ! どうしてわたくしなんかのためにそこまでするのですか。わたくしは……アヴリルでは無いのにッ!」

「もうイヤなんだ。誰かを犠牲に前に進むなんて、そんなのもう……たくさんだッ!」

 

 どこか怒ったような口調で彼は強くそう告げる。アヴリルは彼の背負った後悔ものを察し、さらに表情を曇らせた。そして彼にいま一度願った。

 

「仲間と呼んでくれたこと、わたくし 忘れません。でもアナタはどうか重荷と感じないで。カラッポのわたくし にはこれだけで、もう十分な幸せなのですから」

「全然十分なもんか! なら、どうしてそんな悲しい顔をしてるんだッ!」

 

 ディーンにこれ以上悲しみを背負わせたくはなかった。でもそれ以上に彼に傷ついて欲しくもないとも彼女は思った。そうして二の句を継げずにいるアヴリルに、ディーンが真剣な表情で言葉をかけた。

 

「オレはゼッタイ諦めない。キミをゼッタイ独りにはしない。もしキミがオレを仲間と思ってくれるなら、オレを信じてくれるなら――」

 

 ディーンは片手のARMを射撃モードに切り替えると、意を決したようにそれをアヴリルもろとも敵に向けた。

 

「キミの涙は、オレが必ず止めてみせる」

 

 二人のやり取りを静観していた首魁の男は、ディーンの行動をあざけるように指摘した。

 

「結局、窮地になれば女にすらARMを向けるか」

「ARMは誰かを傷つけるだけの武器じゃない」

 

 ディーンは男を睨み言い返した。

 彼も旅に出るまではARMは怪獣モンスターを倒すための武器だと思っていた。だからこそ、ARMがなくともショベルやナイフで代わりはどうにでもなると思っていたのだ。しかしそれは違った。アヴリルが想いを込めたこの小さな二つの機械は、旅のなか、戦い以外の多くの場面でディーンの力となったのだ。それは彼女・・の願いだったのかもしれない。武器が武器ではなくなる日。幼馴染レベッカの曲撃ちが子供パステルを元気づけたように、誰かに希望べつのなにかを与えられるそんな日を。

 

「きっとアヴリルはそれを伝えたくて、オレにこのARMをくれたんだ。ミーディアムだって誰かを傷つけるために使うなんて間違ってる」

「ARMもミーディアムも理想を押し通すための力だよ」

 

 ディーンは男の主張に首を振ると、アヴリルをみつめてこう言った。

 

「オレのARMはキミを傷つけない。それだけは信じてくれ」

 

 まっすぐな目でそう告げるディーン。彼の力強い言葉に、アヴリルはうなずいた。その反応にディーンは満足げに一瞬ニヤリとすると気を引き締めるように固く口を結んだ。

 次の瞬間、彼はツインフェンリルの銃爪トリガーを引いた。射出された一発の弾丸が、一直線にアヴリルへと向かう。と同時にディーンは弾丸を追うように駆けだした。

 

――追いつくわけがない。

 

 首魁の男はそう思った。それが当然の帰結。人間の足で銃弾に追いつくなんてことはありはしない。男のミーディアムの機能はいままさに回復した。彼は多少の怪我は覚悟の上で、今一度ディーンへアルカナを打ち込むタイミングを見計らう。しかしその時、彼は目を疑った。ディーンの姿が搔き消えたのだ。

 

 少年ディーンは駆け出した瞬間に、ミーディアムに精神ココロをつなげ乞い願った。大切な仲間ヒトを守る力を。世の不条理を跳ねのける力を。その想いは闘気フォースとなって、ミーディアムの権能を発動させる。それは≪護りの宣誓ディフェンサー≫。絶対に守るという想いが力と変わり、本来なら不可能な動きをディーンに行わせた。それは一瞬を何千倍にも引き延ばし、届かぬはずの距離を引き寄せる。ディーンは瞬間的に自ら放った銃弾を追い越すと、アヴリルの目前に突如として現れた。

 

「バカなッ!?」

 

 首魁の男は、一瞬のうちに目の前に現れたディーンに不意を突かれ驚愕する。それを尻目に少年はすぐに身をひねり反転すると、アヴリルを狙った凶弾を片手のARMで自ら弾いてみせた。さらに返す刀でアヴリルに突き付けられていた男の長剣ARMを打ち据える。そのまま地面に叩きつけられた男の刀身は、その衝撃で真ん中から二つに折れた。

 しかし敵もさる者、体勢を立て直すためにわずかに後ろへ移動してディーンと距離を取る。そこにディーンは狼の如く食らいつき攻め立てた。少年のもう一つのARMもブレードを再展開し、敵を捉えんと水平の軌道を描いて男に迫っていく。

 首魁の男はディーンのARMを防ぐため、再び盾代わりにアヴリルの体を迫るARMと自身の間に差しはさむ。しかし、ディーンは構わずツインフェンリルを振りぬいた。すると再び奇妙なことが起きた。ARMのブレードが彼女の体をすり抜けたのだ。否、ARMはすり抜けたのではなかった。彼女に当たる直前、ディーンはその刃をグリップに収納していたのだ。そうしてアヴリルの脇を抜けたARMが男の懐にすっかり入ると、再び内蔵ブレードが伸展する。引き絞られていた刃は、ディーンの腕の動きと合わせてその勢いを加速させ、男のみぞおちに鋭い一撃を突き入れた。その衝撃に敵は2メートルほど後退し、その表情を苦痛に歪める。

 

「クッソ、どうして俺が遅れをとる!」

「ARMもミーディアムも戦いの道具にしか見られないお前に、オレはゼッタイに負けたりはしないッ!」

 

 たたらを踏みうめく男の目に、アヴリルを抱き寄せる少年の姿が映った。ディーンは片手のARMを男に突き付けながら投降を呼びかける。もはやここまでかと首魁の男が苦々しくも思ったその時、突如彼らの頭上にある天井が崩れた。その瓦礫に紛れて上から何かが落ちてきた。

 

「な、なんだ!?」

 

 ディーンは驚きながらもアヴリルを抱えてその場を離れる。すると土煙が舞うなかで、あたりに豪快な声が響いた。

 

「おう、ディーンか! 首尾は上々のようだな。こっちも今しがた敵の大将ボスを倒したとこだぜ!」

 

 それは陽動をしていたバーソロミューの声だった。彼の足元には男がひとりされていた。その男をみて首魁の男・・・・が声をかける。

 

「ウーゴ!」

 

 ディーンと戦っていた男はすぐさまバーソロミューに向けてアルカナを放った。仲間からその大男を引き離すと、彼の傍に駆け寄った。

 

「ノッシュか……すまない、下手をうった」

 

 首魁の男と同じく、ディーン達も仲間バーソロミューと合流を果たした。

 

「大丈夫か! 店長!?」

「おうともよ。解放戦線なんて名乗っちゃいるが、どいつもこいつも練度が低くて素人の烏合ウゴウシュウって感じだったぜ」

 

 まぁボスも弱かったしな、と続けたバーソロミューにディーンが疑問の表情で尋ねた。

 

「それなんだけど……オレ達もいまボスっぽいやつを倒したところなんだ」

「ん? どういうことだ……?」

 

 二人が目を合わせて頭に疑問符を浮かべていると、当の本人たちが高らかに名乗りを上げた。

 

「オイラたちはウーゴとノッシュ。ファルガイア解放戦線のツートップさッ!」

「二人がそろった今、負ける道理などありはしないッ!」

 

 ノッシュと名乗った首魁の男が「今度は俺たちの絆をみせてやる」というと、二人はおもむろにミーディアムを構えてディーン達と対峙した。

 

「こいつが俺たちのとっておき! ミーディアム戦術の深奥、合体魔法ジン・アルカナ――」

 

 二人の男が持つ《天》と《海》の感応触媒ミーディアムが輝きを増していく。そして、彼らは声をそろえて叫んだ。

 

「「双星ノ鉄槌ダイアスターブラストッ!!」」

 

 瞬間、二つのミーディアムが強く輝くと、アルカナの光があたりを埋め尽くした――。

 

 

********

****

**

*

 

*

**

****

********

 

「――と、いう訳で一件落着だぜ」

「あっさりと倒してしまいましたね」

「ふたつの魔法アルカナを組み合わせるとは、なかなか面白い発想だったがな」

 

 ディーンら3人は口々に感想を述べた。その目の前の床には縛りあげられた解放戦線の男が二人。

 

「オイラたちの合体魔法とっておきが……」

「いいのか。このままではファルガイアが大変なことになるんだぞ」

 

 ウーゴとノッシュがそれぞれに声を上げた。それを聞いてディーンが彼らの前に立つ。

 

「星の危機はオレ達がなんとかしてみせる。誰も犠牲にしない方法で……今度こそきっと」

 

 そして、彼は力強くそう告げた。アヴリルは彼の背中を見ながら、その決意にどこか危うさを感じ心配そうに眉を寄せた。その時、ドタドタと上階をかけてくる足音が聞こえてきた。それは段々と大きくなり、こちらに近づいてくる。ディーンとバーソロミューの二人は敵の増援を危惧し身構えた。

 

「敵か!?」

地上うえの敵はひとまず全員したんだけどな」

 

 彼らは音が聞こえてきた方向、つまり、バーソロミューが空けた天井の大穴を凝視する。その目線の先で穴の影からひょっこりと男女二つの顔が出てきた。少女の赤髪のおさげが揺れる。

 

「あ、いたいた! ディーン!」

「その様子じゃ、もう俺たちの出番はねぇみたいだな」

「レベッカ! グレッグ! 来てくれたのかッ!」

 

 味方の到着に安堵と喜びの表情に変わるディーン。その彼に、幼馴染レベッカは、ほんとはキャロルもいたんだけどね、と少し残念そうに伝えてきた。どうやら彼女は子供たちを連れて一足先にライラベルへと帰還してくれたようだ。二人は状況を把握すると解放戦線の男たちの護送を手伝うために穴から地下へと飛び降りてきた。

 バーソロミューは二人にこれまでの詳細を伝え、ライラベルへの帰還を含めて次の行動を打ち合わせていく。そこでレベッカが異変に気付いた。彼女は現場の状況を当局の上司ファリドゥーンに連絡しようとしたところだった。

 

「あれ? 変だな……」

 

 ディーンがどうしたのかと彼女に声をかけると、「通信機がつながらないのよ」と彼女は言った。故障かと思ったが、他のメンバーの通信機も同様に動かないようだった。グレッグが怪訝そうにつぶやく。

 

「どういうことだ……?」

 

 皆が少し不安を感じ始めたところで、先ほどから一人、あごに手を当てて考え込んでいたアヴリルが口を開いた。

 

通信妨害ジャミングの可能性がありますね」

「いったい誰が?」

「それはわかりません。ですが、それよりも気になることが一つあります」

 

 ディーンの疑問に彼女はややうわの空で答えた。まるで彼女にとって、それは取るに足らないことのように。そしてそれを裏付けるように、アヴリルは表情を険しくすると皆にこう尋ねたのであった。

 

「どなたか蒼い外套をまとった大男を見かけましたか?」

 

 突然の質問に、みなはお互いを見やった。

 

「いや? オレがブチのめしたやつにはいなかったな」

「アタシたちもみてないよね? グレッグ」

 

 バーソロミューとレベッカが口々に答え、それに同意するようにグレッグも首肯した。それを聞いてさらに彼女の表情が曇った。ディーンは彼女の言葉に、先ほど取り逃がした男を想い出していた。

 

「さっきの部屋の男がどうかしたのか?」

「彼は洗脳装置の心臓部コアを持ち去っている可能性があるのです」

「心臓部……?」

 

 アヴリルの答えにさらに質問を重ねるディーン。彼女は真剣な表情で彼に答えた。

 

「ええ……黒く輝くミーディアムです」

「なんだと!?」

 

 アヴリルの言葉に真っ先に反応したのはグレッグだった。そしてその反応に連鎖的に想い出したレベッカが口を開く。

 

「あれ? それって確か前にグレッグが言ってた……?」

 

 レベッカの言葉に今度は反対にアヴリルが驚かされた。そしてその表情のまま何か言いたげにグレッグを見つめた。その時だ。低く地鳴りがしたかと思うと、施設全体が大きく揺れた。それは一瞬で収まったがディーンたちは焦るように一斉に胸元に手を伸ばしていた。

 

「なに……これ……」

「ミーディアムが……震えている?」

 

 驚きの表情で皆から声がもれる。その中で、グレッグが確信したかのように声を上げた。

 

「この感覚は……黒いミーディアムかッ!」

 

 その言葉が終わるかという前に、ディーンが動いた。彼はライラベルでそうしたようにアンカーフックを使って大穴から一足先に地上へ抜け出す。その背中にレベッカが叫んだ。

 

「ディーンッ!?」

「話はあとだッ! オレが先行して様子をみてくる。みんなはあとから追いかけて来てくれ」

 

 言うが早いか、彼は自身のミーディアムの反応を頼りに施設の裏手へと駆け出していた。彼の独断専行を心配げに見つめる赤毛の少女の隣で、アヴリルは神妙な面持ちでグレッグをみた。

 

「グレッグ、お聞きしたいことがあります」

 

 アヴリルのまっすぐな視線の先で、黒いミーディアムの脅威を知る彼の頬を一筋の汗が流れ落ちた。

 

 

 

【つづく】

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。