なぜか無限に勘違いされるんだが 作:雷電双丘の狭間
原神、というゲームを知っているだろうか?
美しい世界、どこまでも続くような冒険、解き明かすのに魅力的すぎる謎の数々。もし、行けるとしたら行ってみたい世界筆頭と言っても過言ではない。
「だからと言って、この見た目は無いよな」
私の見た目は元の冴えない日本人男性のものから、彫刻のように精悍な顔立ちになり、黒かった目は黄金でハイライトを失っている。髪は黒から燻んだ金色に。
ぱっと見、成長してやさぐれた空くんだ。
「はぁ……どうしようか。行く当ても帰る場所も無いしなぁ…」
別に、私はチート能力を持っている訳でも、特殊な出自でも何でもない。転生する際に見た目を自由に決められたのだが、私はデフォルトの金髪金眼を適当に選択しただけに過ぎない。
だから、あの兄妹とは何の関わりも無い。
「というかここは……モンドなのか?七天神像を見つけない事にはどうにもな」
周りを見渡すと、視界いっぱいの草原と遠くに見える雪山がある。恐らくモンドか璃月周辺なんだろうが…いくらゲームの知識があったとしても実際に歩くのとゲームをプレイするのは別だ。
つまり、何もわからない。
「まぁ、クヨクヨしてても仕方ないか。行動しなきゃ何も始まらないしな!」
私は自分に喝を入れて歩き出す。幸い身長は同じだったのでバランス感覚はそのままで済んだ。暫く歩いていると、人工物らしき物を見つけた。
「あれは…ヒルチャールの巣…か?武器も持ってないし、避けるべきだな」
私はそのままヒルチャールの巣を迂回しようとする。しかし、ヒルチャールはそんな私を目敏く発見し近寄ってきた。
「Dada! Opa gu ya!(何だこいつ!?)」
「Yaaaa!? nunu laga!(うおおっ!?敵か!)」
「Vuba nasini me ye(でもこいつ武器無いぞ)」
ヒルチャールは口々に意味のわからない事をほざいている。次第にヒルチャール達は武器を下ろし始め、私に色の抜け落ちた神の目を渡してくる。何しろってんだよ。
「Ei ya! moi qawsefugikolp(何にも反応しない)」
「Jaba sup lic to(敵じゃない?)」
「Un ti co ng(迷子かな)」
「Kar sawa tac hil(かわいそうだな…)」
突然ヒルチャール達の雰囲気が柔らかくなる。すると、一匹のヒルチャールが巣の奥からこの辺りの地図と銀の剣を渡してきた。いや本当になんなの?怖すぎるんだけど。
「Fai na lfan ta(人間はこれ必要って聞いた)」
「Yali mass ney(やりますねぇ!)」
私が困惑していると、ヒルチャール達が手を振っている。まるで迷子を親元へ送り出すみたいじゃないか?私はそのままヒルチャール達の元を離れていくと、丁度街道に出た。
「助かった…これで町か村に行ける」
私は剣を持って街道を歩いて行く。途中、猪が突っ込んできた時は死を覚悟した。ヒルチャール達はまだ話が通じそうだったからマシだったが、ハナから対話が不可能な猪はヤバかった。幸い、一撃で殺せたから難を逃れたが。
原神世界の動物は強いのか弱いのかよくわからなくなってきた。
「長かった…漸く着いた、モンド城」
俳句になってしまったが、ともかく私はモンドへ到着した。早速冒険者登録をして生きれるようになろう。
「冒険者協会へようこそ!依頼ですか?登録ですか?」
「登録を頼む。それと登録料は必要か?すまないが無一文なんだ」
「料金は必要ございません。はい、これが冒険者証です。無くした場合再発行に500モラ頂きますのでご注意下さい」
「わかった。ありがとう、キャサリンさん」
「星と深淵を目指せ!」
さて、これで私も晴れて冒険者だ。早速依頼をこなしに行こう。まぁ神の目が無いからゲームみたいには行かないかもしれないが、スライムぐらいなら倒せて欲しいものだ。
「しかしなぁ…ヒルチャールは言うほど悪い奴らでは無さそうなんだよな。武器もくれたし」
「Con ohen ney(冒険者だ!)」
「Uma irarm enya(どうする!?)」
「Ar lasi insyo(戦うか…!?)」
「あー…えっと、冒険者協会から来たんですけど、私に攻撃の意思はありません。お話しませんか?」
「Fa!?!?!?(ファッ!?何だこいつ)」
「Oioi(武器をしまったぞ!戦わないのか?)」
「私はあなた達と同じヒルチャールに命を助けられています。私達は分かり合えると思うんです」
「Nnya pi...(けどなぁ…)」
「Abiss lo gam(アビスさんは殺れって)」
「BBA(よし、オレが行こう。)」
「Ofa!?!?!?(そマ?頼んだわ)」
私が待っていると、1人のヒルチャールが出てくる。あれは確か、ヒルチャール・暴徒だったか?
「おデ、すこシ、ニんゲンのコトば、わかる。なニしに、ここ、きた」
「私、キラキラ、指輪、探す。あなたたち、持ってる、それ、ほしい」
「おマえ、あの、ゴミの、もチぬし?なラ、はやク、もっテ、いけ。じゃマ」
交渉成立だ。私はヒルチャールから指輪を受け取ると、頭を下げてお礼を言った。
「おマえ、ニンゲンに、しては、いイ、ヤツ。まタ、こい」
「ありがとう」
ヒルチャール暴徒と握手し、私はその場を立ち去る。願わくば彼らが他の冒険者に殲滅されないよう。
「あぁ!ありがとう!もう戻らないと思っていたんだ!これは、妻の形見だったんだ…ヒルチャールに驚いて失くしたきりだったんだ!この感謝はどう伝えたら良いか…!」
「礼か…なら、食事をくれないか?今日一日、何も食べてないんだ」
「────貴方という人は、全くもって素晴らしい…!ここまで無欲な人は初めてだよ!あの栄誉騎士ですらしっかり報酬の水増しを要求してくるのに!」
「栄誉騎士?」
「知らないのか?最近モンドに来たのかな。栄誉騎士っていうのは、あの風魔龍を退けた旅人の事さ!いやあ、女の子なのに良くやるよ」
なるほど、この世界の主人公は蛍ちゃんなんだな。良い事を聞けた。この人には感謝をしないとな。それはそれとして、依頼主さんに『鹿狩り』でご飯を奢ってもらった。肉が美味かった。
「さて…寝床だが。教会は受け入れてくれるだろうか」
私がモンドの長い長い階段を上がり、風神像前広場を歩いていると、突然知らない人から声をかけられた。
「──────あのっ、もしかして…蛍、という人物に心当たりはありませんか?」
「……あるとも。そう言う君は、恐らくアストローギスト・モナ・メギストスだね?」
モナだった。私よりも背が低いから、恐らく私の身長は長身男キャラと同じぐらいなのだろう。というか、何だこの格好。寒く無いのか?
「なぜわたしを…?いえ、今はいいです。それよりも、貴方は蛍さんの関係者では無いですか?水占の盤でも貴方の存在は予見出来なかったので、恐らく蛍に何か関係があるのでは、と思ったのですが」
「残念ながら、私は蛍の関係者では無いよ。それとモナ、君は少し喋りすぎだね。君は私に情報を与えすぎだ」
「───っ、なら、貴方は誰なんですか?」
「そうだね──────私は、異世界からの来訪者。名前は……『DISASTER』。この世界ではそう名乗っていた」
無論、プレイヤーネームの事だ。カッコいいだろう?
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モナは困惑していた。ディザスター、と言えばモナの師の友人であるアリスが口を酸っぱくして言っていた単語だ。
「ディザスターと言うのは、厄災そのものを指す言葉。もしそう名乗る人物が現れたら注意しなさい。少なくとも、ロクな奴ではないから」
当時は与太話として無視していたモナだったが、実際に目の当たりにして非常に頭を悩ませていた。確かに、「異世界からの来訪者」などという世迷いごとを簡単に信じるほどモナは馬鹿では無い。
(しかし…あの人が碌でも無い人には見えなかったのですが…。彼をもう一度尋ねてみるべきでしょう)
モナが熟考していると、友人である蛍とパイモンがフィッシュルを携えてやってきた。そこでモナは思い出す。彼らと一緒に冒険の打ち上げを行う事を。
「あ、そうです。蛍、貴方に伝えておきたい事があります」
「………?モナ、どうしたの?」
「あら?この私すら知る事を赦されぬ深き策謀を張り巡らせているのかしら?そう言う事なら私はその天命を待とうかしら?」
「お嬢様は、『隠し事なら、私は離れている』と言っておられます」
「いえ、そんな大それた事ではありません。先程、蛍と似た人物を見かけたので何か助けになればと思いまして。」
「本当!?どんな人だった?」
「確か…男性で、蛍と同じ目と髪の色をしていて、背は高かったですね。彼は自らを『ディザスター』と名乗っていました」
「………もしかしたら、お兄ちゃんかもしれない。その人は今どこにいるの?」
「さぁ…私ですら彼の星を見る事が出来ませんでしたから。彼は蛍とは関係無いと言っていましたが、真実は定かではありませんね」
「蛍!オイラもうお腹ペコペコだぞ!また明日探さないか?そんなに急ぎたいなら、ご飯食べ終わった後でも良いから!」
「パイモン…」
「我が親愛なる友、蛍。この皇女が付いているのよ?この風の大地ならば、我が従者オズが駆けて行き、その者との邂逅を早めるでしょう。だから貴女は果報を待つと良いわ」
「微力ながら、私も手伝いますよ。私は天才ですので、必ず見つけて差し上げましょう。まぁ、多少の時間はかかるかもしれませんが」
「モナ…フィッシュル…ありがとう」
そして夜が更け、朝の雲雀が鳴く。