なぜか無限に勘違いされるんだが   作:雷電双丘の狭間

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ごめんなさい、遅れました。
理由としてはポケモンSVの発売と、魔神任務をしていたことが挙げられます。
それもあってか過去一長いかもです。


第十七話 協力関係なんだが

 

最後に蛍ちゃんに会ってから暫く経った。

私は今、定期的に行なっている八重神子への報告会を行なっていた。

 

「お主の名は稲妻中に轟いておるぞ…影の耳には届かぬようじゃが、少なくとも雷電将軍はお主を認知しておるじゃろうな」

 

『それは光栄だ。直近では幕府軍に勧誘された事ぐらいかな、これと言って面白いことは無かった』

 

「ほう?それでお主はどうするのじゃ?」

 

私はその問いに肩をすくめて応える。わざわざ国家権力に巻かれて自由を制限される謂れは無い。

話によれば、私の活動によって稲妻の治安が多少良くなり、民衆からは「何者にも染まらぬ救世主」などと思われているらしい。

 

「ほう…まぁそれも良いじゃろう。そうじゃ、左右加の奴がお主に取材をしたいと言っておってな。暇があれば応えてやると良い」

 

左右加と言えば、スメールのイベントで登場したNPCか。確か作家だったか?

それなら稲妻で噂の私に話を聞きたがるのも納得だ。まぁ雑務諸々は姫乃さんに任せているから、後で頼んでおこう。

 

「ふむ。妾の見立てでは…今宵の明けに社奉行の使者がお主を訪ねに鳴神大社へ赴くそうな。刹那の方の顔で出迎えよ」

 

私は首を縦に振り肯定の意を示す。

社奉行は常日頃から姫乃さんを通じてお世話になっている。ここは一つ、会って見るのも一興だろう。

 

 

 

そして明け方、トーマと社奉行の役人が鳴神大社へやってきた。

トーマ達は正装に身を包み、帯刀し畏まっている。随分と丁寧だな。これも私たちが頑張ってきた成果だろうか?

 

「お初にお目にかかります、刹那様。鳴神大社にてこうしてお会いできた事、誠に感謝しています」

 

私はそれに応えるために姫乃さんにアイコンタクトを送る。既に話す内容は決めてあるから、その内容に従って喋るように打ち合わせを済ませておいたのだ。

 

「刹那様に代わり、いつも通りわたくしが応対します。此度の要件は如何なものでしょうか?」

 

「は、刹那様に我ら社奉行の手伝いをして頂きたく参上しました」

 

「公開依頼に出さない…と言うことは何か裏があるのですね?」

 

「内容と致しましては、幕府へ反旗を翻すのに御助力頂きたいという旨を伝えておきます。そして会わせたい方が一人…」

 

「ふむ、幕府に反旗を翻すなどと言う戯言をよくも妾の前で言えたものじゃな。面白い、申してみよ。場合によっては“英雄を継ぎし者“が協力してくれるやもしれぬぞ?」

 

妖しく目を光らせながら八重神子がやってくる。どうやら私が協力しない未来は無いらしい、どうせ「面白いのう」とか言って私を巻き込む気満々だ。

しかしまぁ、大方抵抗軍に行く事になるだろうからいつの間にか逸れてしまったヤルプァとも再会できるはずだ。

蛍ちゃんが来るのは少し後ぐらいかな?

 

「して、待ち人というのはどこにいるのじゃ?此奴は妾の最終兵器と言っても良い戦力じゃ、そう易々と何処の馬の骨とも知れぬ者と引き合わせる訳には行かぬからの」

 

「─────噂をすればやって来ました。やあ旅人、そこにいるのが件の刹那さんだ」

 

鳥居をくぐり、太陽のように明るい金髪の少女が白いふわふわを連れてやってくる。

蛍ちゃんはトーマを見かけ笑顔を見せかけたが、辺りの物々しい雰囲気に当てられたのかキリッとした顔になる。

 

「お、おい…何でこんなにピリピリしてんだよ!お腹減ってるのか……?」

 

「パイモン」

 

「?」

 

パイモンが蛍に嗜められ、蛍が前にやってくる。

蛍は恐らく彼女自身が知っているテイワット流の礼儀の挨拶であろうモンド騎兵敬礼をした。

私もそれに胸に手を当てる仕草で応える。

 

「わたし達に協力して」

 

「おっと…それはいかんの、此奴は妾の最終兵器じゃ。おいそれと出す訳には行かぬ…調子に乗るな」

 

八重神子が嫌らしい笑みで素気無く断る。蛍は少しムッとした顔をした後、震える手で名刀の鍔を渡してきた。

恐らく、私が浪人達の鍔を集めているのが知られているのだろう。何で集めているかと言えば、子供達に提供する玩具の原材料で使うからなのだが。

 

「────受け取ろう」

 

私は蛍ちゃんから鍔を受け取ると、慣れた手つきで加工して【鳴神ネックレス】にして渡してあげる。

鳴神ネックレスとは、それぞれ異なる鍔の紋様を活かしつつオシャレもできるという女の子が喜ぶアクセサリーだ。

 

「くれるの?」

 

私は首肯し、それを蛍ちゃんの首にかける。

見立て通り似合っている…いや、素体が良いから何を着ても似合うのか。

 

「オイラには無いのか?オイラも旅人と同じのが欲しいぞ!」

 

「待て…しかして希望せよ」

 

私は懐から予備の鍔を取り出し、同じように加工してパイモン用のサイズにしてから渡した。

 

「わぁい!何かと物を貰えなかったオイラにもついにプレゼントだぞ!見ろよ蛍っ!似合ってるか?」

 

「良かったね、パイモン」

 

嬉しそうに飛び回るパイモン、それを微笑ましげに見る蛍。理想郷はここにあった。

私がニヤけていると、八重神子がコホンと一つ咳払いをした。本題に戻れとの事だ。

 

「一先ず、お主は旅人に協力する…という事で良いんじゃな?それは即ち、妾への反逆と見做すが────後悔はしない事じゃぞ」

 

八重神子は指パッチンをして私の周りに殺生桜を展開する。

無論、これは演出の一つだ。私と八重神子の間には「指パッチンをしたら演技だ」という合図が取り決められている。

 

「望む所だ────」

 

現状、一行未満しか話せない私は自分から話を展開出来ないので、このように話してくれるのは本当に助かる。

私も八重神子の演出に応えるべく、かっぱらってきた演出用の雷櫻の枝のカケラをバチバチさせる。

 

「おお、おいおい!お前たちが喧嘩してどうするんだよ!?」

 

「ここで争うのは得策じゃない」

 

蛍とパイモンからの制止が入り、私は八重神子を鋭く睨みつけた後、納刀した。

八重神子もそれを見てニコリと笑い「冗談じゃ」と言う。

 

「冗談が下手くそ過ぎるぞ!オイラ、ほんとにここで死闘を始めるんじゃないかってヒヤヒヤしたぞ!」

 

「ふふっ、すまぬすまぬ。お主らの焦る可愛い顔が見とうてのう、詫びとしては物足りんかもしれぬが、そこな刹那をこき使う権利をやろう」

 

「こき使うって…それじゃあ、例えば『焼きおにぎり作って』って命令したら作ってくれるって事か!?」

 

「うむ。それに安心して良いぞ、此奴は料理が上手い。本人は『一度に二個作れないのは欠点だ』とは言うておったが、妾の満足できる物を作れる程度には腕が良いぞ」

 

「おお…!蛍、期待出来そうだな!」

 

「パイモン…あなたは大事な助っ人にそんな事をさせるの?」

 

「う…確かにそうだな…刹那、気が向いた時に作ってくれるか?」

 

「承った」

 

「やったぜ!」

 

私としては、パイモンのように何でも美味しく食べてくれるのなら幾らでも作っても良いのだが、いかんせん私は料理を倍にしたりオリジナル料理を作る事が出来ない。

残念ながら蛍の役に立たないため必要な時以外、料理はしない方針だ。

 

「わたくしから宜しいですか?」

 

姫乃さんが手を挙げる。何か聞きたいことでもあったのだろうか?

 

「申してみよ」

 

「ありがとうございます。旅人の御二方にご質問なのですが、刹那様はどれほど貴女方に付き従えば良いのでしょうか──────まさかとは思いますが、永久に…などと言わないですよね?」

 

「わたしは、稲妻での目狩り令による惨状を見てきた。これ以上の被害を出さないために、わたしは戦わなくちゃいけない」

 

「………それは、答えにはなっていませんよ」

 

「だから。だからこそ、稲妻での有名人である刹那さんの協力が必要なの。稲妻の民達に英雄として慕われている彼の言葉なら、雷電将軍だって振り向くはず」

 

「────なるほど。確かに一理ありますね。つまり目狩り令を廃止するまで…と。失礼いたしました。トーマさんからは何かございますか?」

 

「オレ?刹那さんが協力してくれるなら特に言うことは無いかな。それじゃあ、オレ達はこれで失礼させてもらいますよ。あ、そうだ。八重宮司、権兵衛は元気にしてますか?」

 

「うむ。彼奴なら……そうじゃな、ファデュイに渡して治療してもらう事になったぞ。執行官が鳴神大社に来ての、権兵衛を見て『可哀想に!しかしこの症状、我々なら治せます!』と言うておった故、渡しておいた」

 

八重神子は適当な事を言ってトーマを揶揄った。しかしその言葉にトーマは青筋を浮かべ、「ファデュイに…?」と呟いた。

八重神子はその様子を見てクスリと笑い、「気になるのなら確かめてみれば良い」と挑発した。

……マズい、トーマの気性的に最悪の言葉だ。

 

「八重宮司…貴様────」

 

「おっと、勘違いするでないぞ。妾は勿論反対した。じゃが…権兵衛本人たっての希望じゃ、連れ戻したくば、ファデュイと権兵衛に直談判することじゃな」

 

「くっ…感謝しますよ八重宮司、オレに進むべき道を示してくれて。これでオレにも戦う理由が出来た」

 

なるほど、トーマをファデュイに焚き付けたのか。それにしたってやり方はあると思うのだが…まぁ良いだろう。

少なくとも、元の流れ───神の目を押収されかける───のだけは「戦えなくなる」として避けてくれるだろう。

 

「では、これで失礼します」

 

「あっ、おい待てよトーマ!」

 

トーマが退出し、それに続いて蛍とパイモンも退出する。私もついて行くべきだろうかと思い、八重神子に目線を配る。

八重神子は片目を2回瞑り、「二週間以内に帰ってこい」と合図を送ってくる。

 

「刹那様…わたくしも」

 

私は姫乃さんと共にトーマ達について行った。

 

 ─────────☆─────────

 

蛍がトーマに連れられて白鷺の姫君…神里綾華の住まう社奉行屋敷に赴いた時、えもいわれぬ緊迫した雰囲気を感じとった。

 

「神里府へようこそ、お客人方。お嬢が御二方をお待ちしておりますよ」

 

「お前がずっと言ってた白鷺の姫君だよな!どこにいるんだ?」

 

パイモンがそう訊くと、屏風の後ろから「コホン」と咳払いが聞こえた。その声は咳払いにしては可憐で、上品な気風が目に見えるようであった。

 

「屏風の…後ろ?」

 

「ハハッ、社奉行の御令嬢はいつもこうして客人と話をするんだ。百年も続く慣習なんだ、許してやって欲しい」

 

「なんかがっかり…」

 

蛍はあからさまにガッカリした口調でため息をつく。パイモンも「まあそうか」と納得していた。

 

「────海を渡り、長旅で疲れているでしょう。このような形でしか会う事ができない事をここに詫びます。御二方の話はトーマから聞いています。『形勢を変える力』がある事も確認済みです」

「昨今の目狩り令では、人々の願いが次々と踏み躙られています。社奉行は将軍様に仕えているとは言え、最も民衆から近い立場でもあります───元々、奉行の権力は民の信頼から来るもの。このような状況を見て見ぬふりをするなど、安心して眠る事もままなりません」

 

「旅人さん、貴女の力をどうか私たちにお貸しください」

 

「わたしは雷電将軍に会いにきただけ、反旗を翻しに来たわけじゃない」

 

蛍は素っ気ない態度で神里綾華に応える。

蛍としては、どうでも良い事より別れたばかりの兄を探したい上に雷電将軍と会える手段を探すのが先決だ。

 

それに、ダインスレイヴと共に相対した空は「そうか…あの使徒が俺たちのダインの排除を邪魔しているのか」と発言した事もあり、

いつの間にか戦った跡を残し消えてしまったDISASTERの捜索もしたいというのが蛍の本音だ。

 

「うぅ…」

 

「お嬢…このやり方はダメみたいだ。これじゃあ警戒される所か、まともに話も聞いてもらえないよ?」

 

「もう帰るよ」

 

「あぅ…その、雷電将軍に会う方法───無くは無いのです。私達の三つの願いを聞いてくれるのなら、その方法をお教えし必ずや将軍様に貴女を引き合わせるようにいたします」

 

「どんな願いなんだ?」

 

神里綾華が三人の神の目を奪われた人々にまつわる事を話し、「彼らに会えばきっと貴女も…」と呟いた。

蛍は嫌な顔をしてめんどくさがりながらも渋々了承した。

 

 

蛍は三人の神の目を奪われた人々の一人目である手島の元へ来た。

手島は老夫婦と話し込んでいるようで、その声は少し離れたところにいる蛍にも聞こえるほど大きかった。

 

「どうして出て行くだなんて…まさか、神の目を奪われたからかい?」

 

「子供達もまだお前さんと遊びたいと言っておる。刹那様もお前さんはここに暫くいるべきだと言っておったではないか」

 

パイモンは手島を指差し、蛍とともに話し合いの場に割って入った。

 

「お前が手島って人だな。どうしていきなりここを離れようだなんて思ったんだ?」

 

「俺か?そもそも、どうしてここに居座っているのかすら覚えていないんだ…みんなが頼りにしていると言ってくれるが、それは俺が残る理由にはならない」

 

手島は30年前に村に来て、それ以来ずっとこの村にいたがその理由すらも覚束ないようだ。

手島が神の目を奪われて以来、何もかもを忘れてしまったのだ。

 

幸い、老夫婦が手島のつけていた日記のことを思い出したため、蛍とパイモンはそれを探し出したがそこには日常の事しか書かれてはいなかった。

辛うじて手島の大切にしていた御守りが残っていたため、手がかりはあった。

 

「手島さんの残した元素力を辿ったら、こんな場所に着いたぞ…ここに何か隠してたから手島さんは村に残ったのか?」

 

パイモンは隠されていた物を掘り出すと、その中身を吟味した。しかし中にはパイモンの望む財宝ではなく、一通の黄ばんだ手紙があるのみだった。

 

『戦争で散り散りになったら、紺田村で待っててください。“英雄“様が建ててくれたあの家に行けば、きっと全てがよくなります』

 

「紺田村…ってことは、手島さんはここで人を待ってたのか?でももう30年も経ってるぞ…まだ現れてないなんて…とりあえず、これを手島さんに渡そう!」

 

二人が手島に物を届けると、手島は懐かしむような、思い出せなくて苦しむような顔をしながら語り始めた。

 

「どうしてこんな大切な事を忘れていたんだ?刹那様にも、まだ恩返しが出来ていない…愛も、彼女の事も、執念も…何もかも忘れてしまった」

 

「まだここを離れたい?」

 

「いや、こんなにも待ったんだ…もう離れる気はない。ただ、もし彼女に再会できたとして───彼女の名前を呼べなかった時、彼女は悲しむだろうか?」

 

「手島さんは悲しくないって言うけど…オイラはすっごく悲しいぞ…」

 

「悲しみの理由を失うのはもっと悲しい…」

 

「綾華とトーマが言ってた通り、神の目を失った人は願いとそれに関する記憶も失われるのかもな…」

 

沈痛な面持ちで俯くパイモンと、それを複雑な目で見る蛍を見て、老夫婦も流石に居た堪れなくなったのか、一つ閃いたように話した。

 

「そうだ、君たちの助けになるかはわからないが…先日、“英雄“刹那様が再びこの村においでなすったんだ。彼は自らを“英雄を継ぎし者“だと言っていたが、あの格好は間違いなく本人だった。もし、君たちが彼を探しているのなら困っている人と共にいると良い」

 

「そういえば、さっきから刹那って名前が出てたけど…どんな人なんだ?」

 

「そうさね…刹那様は一言で表すのなら『民衆の英雄』だ。東に困っている人あらば助け、西に飢えている者あらば救い、南に泣いている者あらば涙を払い、北に悪人あらば征伐する。そんなお方だ」

 

「っ、じゃあなんで、目狩り令に反対しないんだよ!?そんな良い人なら、とっくに動いていてもおかしくないだろ?」

 

パイモンがそう言うと、老夫婦は悲しげに目を伏せた。

 

「目狩り令が発令された直後の事だった…民達の願いを背負い、刹那様は自身が神の目を持たないのに雷電将軍へ刃向かって行った…」

 

「それで、どうなったんだ?」

 

「結果は惨敗。刹那様は雷電将軍の無想の一太刀で両断されてしまった………その光景はワシも見ていたが、あまりに凄惨で、絶望的だった…」

 

「じゃあ何で今になって…そうか、実はあの時死んでなくて、長い年月をかけて傷を癒したとか?」

 

「そうだと信じておる。きっとあの方は再びワシらの為に反逆の剣を掲げて下さるに違いない」

 

老人の目には絶望はあったが、それでもなお、キラキラと輝くような希望が芽生えていた。

そしてそれは他の稲妻人も同様であり、蛍とパイモンが神里綾華に頼まれたもう二人と、その周囲の人物も同じように希望を抱いていた。

 

 

神の目を奪われ、おかしくなってしまった剣術家の土門を連れて蛍とパイモンが鳴神大社へ赴くと、厳かな足取りで八重神子がやってきた。

 

「あの人が八重様か…凄いオーラを放ってるぞ。それに、さっきオイラ達のことを見てなかったか?」

 

土門の弟子が八重神子に邪気について聞くと、八重神子は「ふむ」と一間おいてから「邪気は無いのう」と言った。

 

「汝らの師匠がおかしくなった理由としては…神の目を奪われたことが原因じゃろう。神の目を奪われるという事は、つまり願いを失うのと同義じゃからのう」

 

八重神子は長い講釈を弟子達に聞かせ、「願いを奪われても平然としている者は彼奴しか知らぬ」とぼやき、クスリと笑う。

 

剣術家達の話がひと段落ついた所で、蛍とパイモンは帰ろうとしたが巫女に「八重様から話がある」と伝えられた。

 

「────やはり、気のせいでは無かった。『異郷から訪れる風、この海域に新たな望みを吹き付ける』…彼奴の話によれば、妾たちの出会いはまだ早すぎたかも知れぬ…じゃが、汝がこの島に訪れた時期は丁度良かったと言えるじゃろう」

 

「妾と彼奴の期待に応えられるよう励むが良い、童よ」

 

八重神子は悠然と笑い、二人を見送る。

実は八重神子は蛍が稲妻にやってくる事を予めDISASTERから聞いていた。

なんて事は無い時に、気が抜けたDISASTERがポロっと口を滑らせ『予言』をしてしまったのだ。

 

「あの八重様って人、お前に興味津々みたいだな。不思議な奴だな…さっきの言葉の意味は一体?ま、いいか!綾華の所へ戻ろうぜ!」

 

 

 

二人が神里綾華の元へ戻ると、屏風の裏にいた筈の神里綾華がいじらしい笑みを浮かべながら蛍に近寄った。

 

「『友人』達を手伝ってくれた事は、既に聞き及んでいます。お疲れ様でした」

 

「受けた傷を完全に癒す事は出来ない…」

 

「そうだぞ、神の目を取り返さない限り何をやっても効果が…えっと、そういえばどうして綾華は今回出てきたんだ?」

 

「ふふっ、あの三つの願い事の件から、私は貴女方の事を友人と見做したからです。トーマと同じように、簾越しに友人とお話しはできません」

 

「ふぅん。じゃ、オイラが友達になってやる!」

「友達になってあげる」

 

「ふふ、ありがとうございます…では本題に戻りますが、神の目を失った方々を見てどのように感じましたか?」

 

「────死ぬよりも辛い事なのかも」

 

「神である将軍様にとって、私たちは一つの生命に過ぎないのかもしれません。雷鳴、凄光、強風、驟雨は人間に配慮しませんから。しかし、貴女はどうですか?」

 

「………目狩り令に抗うことに協力するよ。でも、その前に雷電将軍に会う方法を聞かせて欲しい」

 

蛍としては、確かに被害者達には同情するし救ってあげたいとも思った。だが、蛍の第一目標は空に関する情報を手に入れること。

そこを有耶無耶にされてしまっては、どうしようも無いからだ。

 

「その事ですね。旅人さん、貴女は人々の話の中に“刹那“という単語が挙がっていた事に気がつきましたか?」

 

「なんかみんな、その刹那って奴を固く信じてるみたいだったな。『刹那様が我々を救ってくれる!』って感じで」

 

「パイモンさんの言う通り、刹那様は民衆の英雄です。幾年か前に亡くなったと聞いていますが、実情は生きていて、今でも活動を続けています…社奉行の依頼を一番こなしているのは実は刹那様なんですよ」

 

「その人が雷電将軍とどんな関係があるの?」

 

「話によれば、刹那様は稲妻城天守閣に招待される程には仲が良いとか。現在は、雷電将軍と最も近しい八重宮司の元で活動されています」

 

「八重宮司…って、八重様の事か?それならさっき会ったぞ!」

 

「刹那様は常日頃、稲妻中をその足で駆け巡り人々を救済して回っています。彼のお付きの巫女に聞いたところ、セイライ島に行くのが目的だとか。私は既に何度も巫女にセイライ島に行ける旨を伝えているのですが…どうやら、本当は行く気は無いようです」

 

事実として、姫乃はDISASTERに隠し事をしている。

既にDISASTERの功績は三奉行然り雷電将軍も認める所であるのだ。だが姫乃はDISASTERが人々を救済していく姿を見たいが為に鳴神島へと縛り付けていた。

 

「コホンッ…話を変えましょう。旅人さん、貴方に再び頼みたい事があります。神の目狩りの抵抗の一環として我々は『偽神の目』を手芸職人の正勝先生と協力していました。しかし先日、正勝先生は町奉行に捕まってしまったのです」

 

「その人を助ければ良いんだね」

 

「はい。幸い町奉行は人殺しまではしません。終末番の情報により、刹那様は現在鳴神大社に滞在しているとの事です。そちらへ向かった後、花火職人の宵宮さんと共に町奉行牢獄へ向かってください」

 

「旅人、オレは先に鳴神大社に行って話をつけてくる」

 

トーマは「任せておけ」と言う風に言った。

蛍は迫り来る嵐と、まだ見ぬ助っ人に思いを馳せながら鳴神大社を登ったのだった。

 

 ─────────★─────────

 

トーマ達に連れられて、私達は木漏茶屋に着いた。以前稲妻城に来た時は入らなかった…もとい入れなかったのだが、今は堂々と入ることが出来る。

八重神子に感謝しないといけないな。

 

「刹那様、今から作戦を説明させて頂きます」

 

トーマが厳かな口調で言う。しかしどうせこの後は町奉行にカチコミに行くだけなので説明は不要だ。

その旨を「不要」の一言で伝え、ジェスチャーでさっさと行こうと示した。

 

「わたしは宵宮を訊ねてみる。トーマと刹那さんは先に行ってて」

 

私とトーマは頷くと、町奉行牢獄の前に走っていった。

見張りを峰打ちで昏倒させ、中へ入っていく。

町奉行牢獄は特にこれといって危険なダンジョンでは無いので元素力が使えない私でも、楽々と攻略できるのだ。

 

「なッ!?刹那様…!?何故ここに…!」

 

「通せ」

 

「───っ、しかし…私は上の者からここを通すなと言われておりまして…」

 

「恩を忘れたか?」

 

「そ、それは………」

 

私と相対している武士は、彼の母親が疫病に罹ったというのでその特効薬を作ってやった男だ。

彼が仁義を持つ者なら此処を通してくれるはずだ。

 

「おいおい、君は刹那様からの恩を無碍にするつもりかい?それはちょっと後が怖いと思うよ?」

 

「確かに…すみませんでした。どうぞお通り下さい」

 

トーマの脅しもありすんなり通してもらった。

まぁどうせ後で蛍ちゃんにボコボコにされるのだ、私達が痛めつけるのも可哀想だろう。

 

私達が正勝先生の拷問現場に駆けつけると、そこには既に甚振られた正勝先生がいた。

爪は剥がされ、鼻は折れ、歯は何本か抜かれている。肋骨も数本折れていそうだ。

 

「これは…酷いな」

 

「なっ、何故ここに…!?くそッ、もう嗅ぎつけて来やがったか偽善者め!お前ら出逢え出逢え!奴をブチ殺してやれ!」

 

拷問をしていた彼らは恐らく、私が以前懲らしめた悪徳武士達だろう。前は「次からは悪事を働かないこと」を条件に見逃してやったが…

もう見逃してはやらない。確実に刈り取る。

 

「笑止」

 

「て、てめぇ…!この人殺しが、地獄に堕ちッ!?」

 

私に悪態をつこうとした武士は首から上を紛失した。彼は以前、老婆から金を巻き上げ家を燃やした悪人だった。

 

「ほ、本当に殺しやがった…!いやだ、死にたわっ!?」

 

「愚鈍」

 

私から逃げようとして袈裟斬りで両断された武士は、以前陰で子供達を殴り、痣が見えにくい位置を執拗に狙っていた悪人だった。

 

「頼む、許し───ッあ゛!ち、血が…血が止まんねぇっ!嫌だ!死にたくない!嫌だぁぁぁぁ!」

 

私に浅く腹を斬られた武士は、かつて人のペットを拉致し、殺害しその遺骸でインテリアを作っていた異常者だった。

 

「さて…残りは一人みたいだね?」

 

トーマの方も粗方片付けたようで、槍を片手に歩いてくる。

私は血で染まった刀を最後の一人に突きつけハイクを詠むように言った。

 

「はっ、俳句!?えーっと、ちょっと待ってくれ……よし!我が為 泣く母想い 黄泉へ逝く」

 

「見事」

 

最後に昏倒させた武士は、一度は不孝に走ったが私に倒された事によって改心し、母の涙の意味を変えた男だ。

故に彼は峰打ちで済ませた。しかし次は無い。

 

「おーいトーマー!刹那さーん!ってうええっ!?おいっ!何だよこれ!?何で皆血塗れで斃れてるんだ…?」

 

丁度蛍とパイモンがやって来たようで、元気いっぱいの声が聞こえて来た。

パイモンには少しショックが強すぎたかも知れないが、まぁ大丈夫だろう。

 

「遅かったね、旅人。こっちはもう片付けておいたよ。正勝先生はそこだ…ご覧、酷い有様だろう?」

 

トーマがズタボロの正勝先生を指す。パイモンは小さく悲鳴を上げ、蛍の陰に隠れる。蛍は顔を顰めて「誰がこんな事を?」と聞いた。

 

「そこの死体共だ」

 

「ああ、オレもなるべく殺さないようにしたんだけど、数人は自死を選んだようだ。残念で仕方がないよ」

 

そこで私は気づく、宵宮が見当たらない事に。

どこかで道草でも食っているのだろうか?それとも怪我をしたとか?

 

「花火屋の娘はどうした」

 

「宵宮の事か?アイツならすぐに来るぞ!」

 

パイモンの口ぶりからして無事なようだ。まぁ宵宮は☆5キャラだ、そう簡単に負けるような事は無いだろう。

さて、そろそろ九条沙羅がやってくる頃合いだろう。先に宵宮と合流しておきたいな。

 

「あっ!刹那さんやん、こんなとこでどない…何や…これ……?」

 

「正勝先生はここだ」

 

「うへぇ〜…ここ、えらい気味悪いなぁ。血まみれやんか────正勝先生っ!大丈夫かいな!?」

 

宵宮は倒れ伏す正勝先生に駆け寄り、急いで応急処置をする。それと同時に下駄の甲高い音が鳴り響く。

九条沙羅が来たようだ。

 

「貴様らっ!ここで何を……刹那殿?そうか、貴殿がここに居ると言うことはそう言うことなのだろうな。宜しい、此度は刹那殿の顔に免じて貴様らを見逃してやる。その者をしかと治療するように」

 

「…なんや、えらい優しいやないの。そんなら目狩り令も止めて貰えへんか?」

 

「それは出来ない。少なくとも…それは今じゃない。そうだろう?刹那殿」

 

「ああ」

 

私は以前、九条沙羅が天領奉行の過激派に襲われ、窮地に陥った時に横入りして命を助けた事があるのだが、その際の事を覚えているのだろう。

まぁその事は後で整理するとして。さっさとここから撤収させて貰おう。

 

「アンタら…何か含みがありそうやな。ウチら民衆の英雄の刹那さんの事を信じひんわけじゃないんやけど、ちときな臭いわ。後で話は聞くで?覚悟しとき」

 

「まぁまぁ…正勝先生は救助出来たんだ。帰るとしよう」

 

トーマの鶴の一声で私たちは町奉行牢獄を後にした。

町奉行を出た先には、姫乃さんが待っていた。私は姫乃さんと共に川辺に行き、血に塗れた装備を洗い流す。

 

「───誰か来る」

 

「すぐに隠れます」

 

川で洗い始めてから数刻が経ち、何者かの気配を感じたので姫乃さんを退避させ私は半裸の状態でその者を待った。

 

「ここ、どこだ…?あっ!そこのお前ー!道を…ええーっ!?お前は!」

 

「久しぶりだねパイモン」

 

「ディ、ディザスターじゃないか!どこ行ってたんだよ!オイラ達に黙って消えるなんて水臭いぞ!」

 

「ハハハ、あの後すぐに転移したからね」

 

「あ、そうだ!蛍がお前のこと探してたぞ、一緒に来いよ!」

 

どうしようか。何かあるか…?

 

そうだ。死んだフリ大作戦をしよう!

手順は簡単。敵が来たフリをしてやられた風にすればパイモンを誤魔化すことができるだろう!

 

「パイモン…敵だ」

 

「うえっ!?ど、どこにだ…!?」

 

「良いから逃げろ!」

 

「う、うんっ!お前も後で来るんだぞ!」

 

さて、ここから1分くらい待ってから…

 

「ギャァアアアアアアアアアア!!!!!!!」

 

これでよしっと。危うくバレるところだったぜ。

今の私はDISASTERでなく、侠客・刹那なのだからバレる訳にはいかない。

姫乃さんからも「バレないで下さいね」と言われているから尚更だ。

 

私は「もう良いぞ」と言って出てきた姫乃さんから装備を受け取り、蛍たちの元へ戻るのだった。




次回は一週間以内もしくはニィロウの公演チケットに当選したらです。
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