なぜか無限に勘違いされるんだが 作:雷電双丘の狭間
ついに璃月港にやってきた。
ここならファデュイも多いし、何より結んだ契約さえ守っていれば安泰な国だ。心置きなく観光を楽しもう。
エラ・マスクによると、どうやら私は指名手配されているらしいので熱りが冷めるまで璃月に居させてもらおうと思う。人の噂も七五日と言うぐらいだし、すぐに忘れてくれるだろう。
「しかし、ヤルプァが多少法に抵触するやり方でしか入れないのはやるせないな」
「仕方ないですよ。ヒルチャールが案外友好的だなんて、まだ誰も知らないんですから。第一、門番の人もヒルチャール学者のこの私が大丈夫と言っているのだから素直に通せば良いんですよ」
「だが、仕方ない事だろう。普通の人はヒルチャールが気のいい奴らだなんて事、信じたくもないんだろうさ」
「全くです!凝り固まった偏見と言うものはこれだから良くないんですよ。あり得ないなんて事はあり得ないんですから!」
「…どっかで聞いたようなセリフだね。まぁ、後でヤルプァとは合流できる手筈になっているんだ。人間関係というのは、スパイスがあった方がいいらしいからね」
ヤルプァとの合流は約三日かかると言われた。それまでに拠点の確保と、仕事を見つけなきゃいけない。冒険者になっておいて良かった、これがあれば仕事を楽に探せる。
実際にテイワットに来てみて分かったのが、冒険者というのはとても世知辛い職業だという事だ。殆どの冒険者は探偵業と傭兵業を混ぜたような仕事しか貰えない。
未知を発掘し、真の友を知る冒険は上位の冒険者にしか許されていない。まぁ、少し考えれば妥当な判断だというのはわかるのだが。
「さて。今回の依頼は…『猫の捜索』『犬の捜索』『子供の喧嘩の仲裁』…ん?何だこれ?」
私が手に取ったのは、手書きで掲載されている明らかに地雷臭のする依頼書。これ冒険者協会ちゃっと通してるのか?
「キャサリンさん、この依頼を受けたいんですけど…」
「依頼目録の中には登録されていませんので、もしDISASTERさんがこの依頼を受けたとしても報酬の保証は出来ませんが、よろしいですか?」
「大丈夫です、この内容的に差し迫った状況の様ですから。きっと何か見返りがあるはずです」
「そうですか。では、行ってらっしゃいませ」
依頼内容は「おねえちゃんをさがして」だ。
あまりにも抽象的過ぎてどうすればいいかわからないので、まずは依頼人と思しき人を探しに行く。
「すいません、この辺りで姉を探している子供を見ませんでしたか?」
「もしかして袁坊の事かしら?ずーっと花初お嬢様を探していたわね。あなたその徽章からして冒険者みたいだけど、もしかして袁坊を手伝うつもり?」
「そうですが…何か?」
「やめておきなさい、あの子は花初お嬢様を殺したって話なんだから!子供だと思って舐めていると痛い目を見るわよ」
「こ、殺し…!?子供がですか?」
「そうよ!あの恥知らず、手を真っ赤に染めて泣きながら笑って『僕が殺したんだ!』と繰り返していたのよ!?袁坊はあんなに花初お嬢様にお世話になっておきながら!」
随分ときな臭くなってきたな…いざとなったら、殺傷力の低い水のアゲートを砕いて拘束するしかないな。
「それで、その袁坊とやらはどこに居るんです?私は冒険者ですので、簡単にはやられません。教えていただけませんか?」
「最後の目撃場所は確か…北国銀行の近くだったかしら?」
「ありがとうございました。行ってきます」
北国銀行という事はファデュイだ。信じたくはないが、ファデュイの悪い方の人たちが何かしたのかもしれない。信じる為にも、話を聞いてみよう。
「────それで、わたくしの所へ来たと?随分と血の気の多い話を持ってきましたわね」
「ミロスラーヴァさん…すいません」
「良いんですのよ。それに、貴方よくここにわたくしが居ると分かりましたわね?開口一番に『ミロスラーヴァさんいますか!?』って。これって運命かしら?」
「きっとそうですね。私はそう信じたいです」
「おばか。たまたまわたくしがオフの格好でしたから良かったものの、仕事服でしたら一発でアウトでしたわよ」
「はい、本当に反省してます。ミロスラーヴァさんに会えると思って浮かれてたのは事実です」
「口がお上手ね。今日はそのお口に免じて許してあげるわ。それで、その袁坊の事についてだけれども、わたくし達はまるで関与していない。とだけ言っておきますわ」
「…………!」
「なぁにホッとしていますの。問題が振り出しに戻っただけでしょう?」
「あ、はは。それもそうですね!」
「……アンタ達いつまでやってんのよ。私暇なんですけど。ヒルチャール観察してきて良いですか?」
「あぁ、ごめんエラ。じゃあ、石門まで行こうか」
「ファッ!?」
花初とその死で思い出した。石門にいたカップルの女の方。その名前が確か花初だったはずだ。彼女が生きている事を知れば、袁坊からの依頼も成し遂げられるだろう。
「────おや?ミロスラーヴァ、君でも知らない人と喋るんだね。仕事とプライベートは別という奴かな?」
「あっ、こ…公子様!お早いお戻りで…」
「そこの冒険者と子供は知り合い?それとも協力者?」
「弟の友人ですわ、公子様。ドラゴンスパインで弟にお世話になったそうで」
「どうも、初めまして。DISASTERと申します」
「よろしくね?(どれぐらい強いのか興味があるね…少し遊んでみようか)」
今凄いゾワっとした。脊髄に冷えたナイフ突きつけられてるような嫌な感覚。これが殺気という奴だろうか。改めて、戦える人たちは凄いと思う。こんな恐ろしいプレッシャー浴びながらよく動けるものだ。
私なんて、蛇に睨まれた蛙みたいに動けない。
「──────フ、はははっ」
恐怖のあまり思わず笑ってしまう。そういえば笑いとは本来、警戒心を表す為にあるそうだ。前世で猿の強烈な笑顔を見たのを覚えている。
「へえ?(殺気を浴びながら笑うなんて)面白い人だね」
「こ、公子様、それにディさんも…落ち着いてくださいまし……」
「…………確かに、ここで暴れたら後が面倒だ。君、ディザスターとか言ったっけ。ファデュイに協力する気はあるかな?」
「それが、悪でないのなら」
気づけば、口が勝手に言葉を放っていた。この身体の、この脳の、この魂の全てが生き残る為ににじり出した言葉。それがこれだ。これしか無かった。
「他の執行官はともかく、俺は悪い事はあまりしないタイプだ。君も納得出来ると思うよ」
「そう、か───」
「うん、これから宜しくね?ディザスター。おっと、その前に。君、そこの彼女の他に知り合いはいる?」
「まぁ…居ますけど」
「そうか…その彼らには顔と名前が割れているわけだ。よし、なら君が璃月でファデュイとして活躍するための名前と仮面をあげよう」
「それは?」
「そうだねぇ。『
そう言ってタルタリヤが渡してきたのは、獣に引っ掻かれた傷跡のようなスリットの空いたフルフェイスメットと革色のコートだった。正直、暑いかと思ったがそうでもなかった。
「それには氷元素を多量に含む珍しい鉱石が使われているから、暑くはない筈だよ。元素力をすこし動かすだけで温度調節が出来るから、うまく活用してね?」
「助かるよ」
非常に良いものを貰った。籠る熱気を適温に変えてくれているのを感じる。すっごく快適だ。
「ディザスターさん貴方…すっごいイカしてますよ今!」
「本当かい?あぁあと、今後はこの姿でいる時は私の事を堕岩と呼ぶように。でないと恐ろしい双剣使いがやってくるからね」
「そんなのどこに居るのよ」
「さてね。よし、じゃあ袁坊の捜索再開といこうかな。タルタリヤ…様、私達はファデュイとは別件で子供を捜索しているんです。なので、任務はそれが終わってからでも構いませんか?」
「────ははっ、気にしないで良いよ。俺は待てる人間だからね」
よし。タルタリヤの許可も得た事だし、花初を捕まえて袁坊が探している事を伝えよう。そしたら袁坊だって花初の位置がわかるし、安心できる事だろう。
「にしても堕岩、報酬出るかもわからないのによくここまでやれますね。堕岩がたまたまファデュイになったから軍資金は得ましたが…お人好しなんですか?」
「そういう訳でもないさ。私はただ、一度始めた事を最後まで成し遂げたくなっただけさ。他にすることも無いしね」
「暇で羨ましいですね。私はこの辺りでヒルチャール観察してますので、終わったら呼んでください」
そう言うとエラ・マスクは近くにあったヒルチャール集落へ足を進めた。せっかくだから話しながら行こうと思ってたんだけどな。
こうなったら仕方ない。
「一人しりとりでも…おや?」
遠くの方が少し騒がしい。少し気になって見に行くと、宝盗団が子供を虐めていた。やっぱり宝盗団はクソだな!(短絡的)
「宝盗だぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」
「うおっ何だ」
「何やってんだお前ェ!」
「何だコイツ!?げふっ!」
子供を踏みつけていた宝盗団をタックルで退かす。事情は知らないが、とりあえず宝盗団は碌でも無い連中だ。欲望だけで動く連中なんて底が知れている。
「な、あ…身体が、凍っていくよぉ〜!?」
「……?」
私に吹き飛ばされて水に落ちた宝盗団がそのまま凍り付く。あれもしかして、この服…元素攻撃出来るのでは!?これは良い閃きだ、早速活用しよう。
「お前たちまとめて千岩軍に連行だ!」
「「「ギャアアアアアアス!!!」」」
あの後、割と一瞬で降伏してきたのでとても楽に鎮圧できた。それから30分間ほど人の物を奪うことの罪深さを説教した。これを機に宝盗団には反省してほしいものだ。
「あ、あの…助けてくれて、ありがとう…」
「何、当然の事をしたまでだよ。それより君、親か兄弟はいないのかい?お兄さんがそこまで連れて行ってあげよう」
「ぁ、あのっ!」
「何かな?」
「花初お姉ちゃんを、探してくださいっ!」
お前かよ袁坊。
─────────***─────────
蛍一行がモンドでの捜索を終え、いよいよ璃月に辿り着こうとしていた時、ふとパイモンのお腹が鳴った。
「オイラお腹すいたぞ…蛍、少し休んでいかないか?」
「ボクも賛成っ♪旅人の料理、食べてみたいしね?」
「もう…わかった。ちょっと待ってて」
蛍が石門の茶屋に置かれていた鍋を使い料理を作る。その手際は非常に良く、見る者を魅了するような華麗さを持っていた。
「はわぁ…!この肉の焼ける香り…待ちきれないっ!」
「パイモン、時には待つことも大切だよ。蒲公英の綿毛が最適な風を待つように、物事には最適の瞬間というものがあるんだ」
「う〜っ、それなら仕方ないぞ!」
3人が談笑していると、茶屋にいたカップルの片割れの女の方がウェンティに話しかけてきた。女性は何やら上品な振る舞いで扇子を仰いでいる。
「坊や達、どこへ行くの?」
「ちょっと璃月にね」
「そう…なら、少し頼みごとをしても良いかしら?璃月港にいる、袁坊という子に私の息災を知らして欲しいの。あの子には悪い事をさせてしまったから」
そう言って女は遥か遠くの璃月港を見つめる。しかし、その時間も長くは続かなかった。女は遠くからやってくるモノを見てしまったからだ。
「うそ…あれ、何?」
「はわわわ…怖い兜の奴が海凍らせて来るぅ!?蛍、やばいぞ!」
その男は、幽鬼の如く爛々と光る目を獣に裂かれたような隙間から覗かせ、一歩一歩を怒りに任せて踏み砕いている。しかし、男が足場にしている氷は破壊されるたびに再生し、その足跡を着実に残す。
「っ、あれは!袁坊!?どうしてここに…!?」
男の背後には、申し訳なさげにその跡を付いてきている袁坊がいた。その表情は期待と絶望を交ぜたような貌であった。
「何者!?花初の彼氏、彼女をつれて逃げて!」
「あ、ああ!いくよ、花初!」
「あなた…」
「待て」
男は仮面のせいかぐぐもっている声で静止させる。その声には何故だかとてつもない威圧感と迫力があった。それ故に、花初は転んだ。
「痛…あ、ま、待ってあなた!行かないで!」
哀れ。家と親を裏切り、愛の逃避行に身を窶した女は信じていた男に捨てられてしまった。
「おお、オイラが、相手だ!こっちに来い!ヘンテコ仮面!」
「君、初対面の人には名乗るのが礼儀だと思うよ。ボクはウェンティ、吟遊詩人さ!君は?」
「──────私の名は、堕岩。
幼気な少年の心を守る男だ」
石門で、何かが起きようとしていた。
おめでとう DISASTER/堕岩は いあつかん を おぼえた!
初めての主人公ブチ切れ回です。
大丈夫、安心してください。シリアスではありません。
だから石を投げないでください