なぜか無限に勘違いされるんだが 作:雷電双丘の狭間
最近、私を見てヒソヒソ話をする人達が増えたように思う。私が道を通るたびに奥様方が変な目でこちらを見るのは少しくすぐったい。
「…気にしていても仕方がないな。今日は待ちに待ったヤルプァとの再会日だ。久しぶりすぎて私だと分かって貰えるだろうか…」
「バカにしてます?ヒルチャールの記憶力は意外と高いんですよ?」
「惚気てみただけだ」
「まあ!」
私が集合場所に着くと、送り届け人のファデュイの人が慌てた様子で私に詰め寄ってくる。一体どうしたのだろうか。
「ちょ、ちょっとアンタ…え?あれぇ…?ディザスター、さんですよね?」
「そうだが…あぁ、今兜を外そう。私も先日ファデュイの一員になったのでね、公子様からこの仮面と堕岩という通り名を賜ったのさ。それで?どうしてそんなに慌てて?」
「それが…まぁ、見てもらった方が早いですね」
そう言ってファデュイの人が大きい物に覆いかぶさっていた布を取ると、そこには立派なヒルチャール・雷兜の王に成長したヤルプァがいた。
「─────む、もう歩き回って良いのか?グぁァ…おお、その顔は我が友ディザスターではないか!そう日は経ってはいないが、久しく感じるな!」
雷兜の王になったおかげかヤルプァはとても流暢になっていた。これならギリギリ巨漢として誤魔化せそうだな!
「久しぶり、ヤルプァ。随分と強そうになったじゃないか。私も友人として鼻が高いよ」
「ディも、何やら借り物とはいえ自衛ぐらいは出来る力を得たではないか。これは進歩と言っていいだろう」
「ははは、しかし所詮は借り物だからね。私も自分だけの力が欲しいものだけれど。そうはうまくいかないんだこれが」
こんな風にヤルプァと話していると、遠くから叫び声が聞こえた。野太いから男だな、何かあったんだろうか。
「ひ、ヒヒ、ヒルチャール雷兜の王が、璃月港内に…!?」
「だっ、誰か!応援を呼んでくれ!」
そうだった。みんなはヒルチャールが全員怖い奴らだと思っているからパニックになるのか。しょうがない、ここは私が一肌脱ごうじゃないか!
「皆、そう叫ぶんじゃ「『泣き飯』さんが人質に取られている!?」…何て?」
泣き飯?何だそれは。
ひょっとしてアレか?この間万民堂で飯食った時に泣いてたのが末端兵士にまで広まったって訳か?情報が早いなぁオイ。恥ずかしいじゃないか。
「『泣き飯』さんが…そんな!」
「くぅっ!おれの無力を許してくれ…!」
「応援はまだか…!?」
意外と好感度高いのなんなんだよ。
やだよそんなカッコ悪いあだ名。せめてさ、こう…【邪王心眼を持つ狂王】とか、【黒き夢の痕】とかさぁ…そっち系にしない?
私は厨二系の方が好きだぞ!
「おおっ!刻晴様が来てくださったぞ!」
「刻晴様!『泣き飯』さんを助けて下さい!」
「刻晴様!」
「……人質の救出と、ヒルチャール・雷兜の王の討伐ね。少し分は悪いけど、大した仕事じゃないわね…」
「ちょっと待たないか」
「…?貴方人質なんでしょう?だったら素直に助けられてなさい」
「別に、私は人質というわけではない。君たちは何か誤解している。彼は…そう、稲妻人だ。君たち、見た事無いだろう?稲妻人」
「稲妻人か…」
「なんだそうだったのか…」
「稲妻は危険なのでは?」
良かった、皆納得してくれたみたいだ。
稲妻の皆さんごめんなさい、反省はしません。
「そんな詭弁で私を誤魔化せると思っているの?貴方には稼業人との繋がりも噂されている。さぁ、答えなさい。そのヒルチャールを使って何をするつもりだったのか」
「観光。」
「フン、だろうと思ったわ。だけど残念ね、絶対にそれは敢行させないわ」
ヤルプァをソレ呼ばわりされた!?刻晴めぇ、顔と声とスタイルと性格が良いからって…くそ、最高じゃねえか!
「双方落ち着け。まずは冷静に話し合うのが良いだろう。友よ、お前も少しは落ち着かないか」
徐々に渾沌としつつあった場は、ヤルプァによって収められた。私は友人からの忠言で、刻晴はヒルチャールが流暢に嗜めてきた事に驚いて静止した。
「……今、そのヒルチャール…喋ってたわよね?」
「元々体系化された言語があるのだから、話せても不思議では無いだろう。それと、彼に失礼な態度を取るのはやめて貰おう。私の友人だ、悪いようにはしない」
「でも、その…ヒルチャール?は人間じゃないでしょ?他の人が見たら不安がると思うのだけど」
「その方、安心してくれ。オレは友かオレ自身に一方的に危害が加えられないなら暴れない上に、示威もしない。不安であれば契約でもすれば良いだろう」
「っ、契約…!わかったわ、もし契約が破られた時には、そこの胡散臭い泣き虫ごはん諸共処罰よ!」
「泣き虫ごはん…ブフッ」
エラ・マスクよ。お前には今後1ヶ月ヤルプァへの接近を禁ずる事にしよう…まぁ鼻で笑いたくなる気持ちも分かるが。
千岩軍や刻晴が撤収した後、私は決めた。
まずは汚名返上からだ。璃月で生活するにしたって、ファデュイとして活動するにしたって面目が丸潰れだったらどうしようもない。
それに、袁坊に「幼気な少年の心を守る男」なんて言った手前、カッコ悪くちゃしょうがない。
そう、決意したのだが。
「わぁー!凄いよ『泣き飯』さん、ヒルチャールとお友達だ!」
「めっ!見ちゃいけません!」
だの
「きゃーっ!『泣き飯』様よー!」
「あの仮面の下の燻んだ貌…素敵!」
「私と付き合ってー!」
「ちくわ大明神」
だの散々だ。あと最後のは絶対稲妻人だろ、感性が私寄りだったぞ。何より問題なのが、勝手に私の顔や仮面を使って商売をするバカだ。
「安いよー安いよー、『泣き飯』仮面に『泣き飯うちわ!どっちも今なら1500モラ!」
地味に高いし。ここは一つ、ガツンと言わないといけないな。
「おい。」
「へいらっしゃい…って『泣き飯』本人じゃねえか!へっへ、俺にもツキが向いてきたな?これで本人公認だぜ!」
「逆だ、大馬鹿者。今すぐその下らない商売をやめろ。さもなくば貴様を璃月新名物人型アイスゴーレムにする」
「はぁ?いくらアンタに言われてもやめるわけ無いでしょ!こーんなボロい商売他に無えよ!」
「…なるほど、よほど飾りの一つになりたいようだな。良いだろう、覚悟しろよ…手加減はしない」
「はんっ!泣きながら飯食うだけのバカを商品化してやったんだ!感謝してもらいたいくらいだね!」
少しカッとなって気づかなかったが、私の後ろに立っているヤルプァから急に雷前の匂いがし始めた。何か知らないがまずいな、さっさと片をつけないと。
「──────君たち、何を揉めているのかな?法律の事ならこの煙緋にお任せあれ。話は何となく聞いていたとも。」
「げっ、法律家…!?て、テメェ卑怯だぞ!」
「貴様を氷漬けに出来そうになくて残念だ…」
「ふむふむ、今回の件は璃月民法典第二十章『肖像・著作に関する方』の第六条に記載されている『その肖像本人に無断で商品を作り、売ってはならない』と第七条『他人の著作物や肖像を利用した商品を名誉毀損目的で製造、及び販売してはならない』に違反している。確か商品の君の名前は策溺だったな?もし君が仮にこの商品の製造又は販売をそこの仮面の彼に無断で行っているのだとすれば、それは立派な犯罪だ。非契約による一方的な搾取、そして正しい筈の製造販売の撤回要求を拒否した。これは【岩裂きの刑】は免れないが…そこは示談次第でどうにかなる範疇だ、頑張りたまえ」
「い、岩裂きっ…!?嫌だ!それだけは!」
「…煙緋殿、岩裂きの刑とはどんな物だ?」
「一言で言うなれば、片足と片腕に岩をくくりつけ空中に体が浮くように固定するんだ。とても苦しいと聞くぞ」
「そうか、ありがとう。お代はコイツが不当に儲けた額全てで良いか?」
「ひぃ、ふぅ、みぃ…よし、額は足りているな。しかし良いのか?私の方から首を突っ込んだ形なのに金を払ってもらって」
「何、困ったときはまたよろしくという事だ。助かった、ありがとう」
「毎度あり。では私はこれで」
そう言うと煙緋は行ってしまった。法律家ってめちゃくちゃ頼もしいな、長引きそうだと思ってた問題があっという間に解決してしまった。
「おいディ、逃げようとしていたから捕まえておいたぞ」
「ヤルプァ!助かった。ありがとう!」
「おお、お前ら、少し考え直せって!金、そうだ金!金ならやる!だから見逃してくれ!」
「私はね、自分だけの醜い欲望の為に下劣な行いをする奴らが嫌いなんだ。だから…選ばせてあげよう。」
「……ぇ?」
「一つ、そのまま岩裂きの刑。二つ、氷像の刑。三つ、ヒルチャール式処刑法。どれが良い?」
「ど、どれも嫌だっ!」
「ディ。オレたちの処刑法は屈辱を与える事だ。オレ達は仮面を外される事を恥じている。この仮面は誇りでもあるからだ。つまり、この男がヒルチャール式を選んだ場合、こいつには恥をかいてもらう事になるぞ」
「へえ、そりゃあ良いや。で?どうするんだよお前は。早く選ばないと氷だぞ」
「ひ、ひっ!ヒルチャール式が、いい、ですっ!」
よし、そうと決まれば早速処罰開始だ。示談で本来岩裂きの刑の所を大恥に変えてあげたんだから寛大な方だろう。まぁ子供のヒーローが人を氷漬けにするのとか…なくは無いな!
閑話休題。
私は不埒者を腰布一枚で磔にし、謝罪をさせる事にした。因みに、ヤルプァ曰く恥をかく事を拒否した場合は火で炙るらしい。怖いね。
因みに、無いとは思うけど謝らなかった時は氷漬けにする契約に決まった。あって欲しくないけどね!
「お、おいアレ…」
「散禄さんのとこの出涸らしの…」
「なんで全裸?」
「おい、あそこに立ってるのって…」
「皆、聞いてくれ!この男は今日、許されざる罪が発覚した!それは、勝手に私の顔を使い、勝手に私の商品を売った事だ!」
「皆が私を『泣き飯』と呼ぶのは、少し屈辱ではあるが、それでも皆が好んでくれるのなら笑顔で認めよう!しかしだ!」
「この男は肖像権を持つ私がやめてほしいと言ったにも関わらず!あまつさえ私を侮辱し、止める気は無いと言った!」
「その大罪を今、彼の口からハッキリと懺悔してもらう!これは彼との契約だ!他の者は口を出さないで貰おう!」
私が言い切ると、いつのまにか集まっていた人々が歓声を上げた。中からは本気の罵倒や雑言が飛び交っている。
男の懺悔を今か今かと待ち侘びる民衆。
男はゆっくりと口を開くと……
「あ、謝んねぇよ、ば〜〜〜か!」
何かがキレる音がした。
─────────***─────────
男が謝らない宣言を大声でした途端、璃月港全体の気温が下がった。それは、誰かの怒りだったのかもしれないし、ただの気温異常だったのかもしれない。
だが、そこにいた人々に分かったのは一律
「『泣き飯』がキレた」と言う事である。
堕岩の被っている兜の獣に引き裂かれたようなスリットからは冷気と共に飢えた獣のように煌々と光る瞳が覗き、足元から放たれた冷気によって足場が凍っていく。
「もういい」
「どうせ宝盗団と変わりはしないのだろう?」
氷は荊棘となって男に纏わりつく。荊棘は段々と檻のような形を形成していき、男を封じ込めんと巻き付く。
「ヒッ、ヒィイイイ!!!!助け、助けてぇええええ!!誰かっ、早く!死ぬ!死んじまうっ!」
「死ぬ事はない…ただ、眠るだけだ。」
氷の支配者は心まで凍ったかのようにそう言い放ち、男を完全に包み込もうと荊棘の勢いを増す。拒否しようとする男の手を、「お前が選んだ道だ」と嘲笑うように遮る氷の薔薇は、
「──────閉じろ」
その開花を以て、封殺を完了した。
「さっきは凡人だと思って見逃してあげたけど…貴方何者!?その元素の力…まるで自然由来のものだわ!」
「あぁ…自己紹介がまだだったね。私は悪しき心を砕く者。堕岩!フフ、地獄から来ても良かったのだけどね」
堕岩が名を名乗ると同時にその幽鬼のような目が光る。堕岩という名前と地獄という単語に動揺する有識者達は泡を食って質問する。
「地獄とはどういう事だ!?」
「おふざけのようなものだよ」
有識者達は戦慄した。人を氷漬けにするのもおふざけの範疇だというのか、と。そうだとしたら、という風に妄想が妄想を呼び、さらに最悪の未来が脳内で構築されていく。
「こんな騒ぎを起こして…説明してくれるわね?」
「勿論だとも。そもそもこれは、私と氷像の彼との契約でもあったんだ。素直に謝れば許す、謝らなければ氷漬けとね。これは彼が選んだ道だ。あぁ安心して、気温は私のせいではないから。」
「ぁ、雨雲…」
丁度秋時雨が降る直前であった。
──────────***────────
その後日。
「「「きゃーっ!堕岩様よ!」」」
「コイツらは変わらないんだね」
私の評価は7:3で友好的なものに変わっていた。
単なるマスコットではなく、しっかりとした人間として接してもらえるようになったのはデカい。
「アハハッ、堕岩!君凄いじゃないか!初めは少し疑問に思ったけど、こういう事だったんだね。それと、悪しき心を打ち砕く者…だっけ?イイねぇ、最高だ。楽しみにしテルヨ…?」
おい最後殺気隠しきれてないって。
何とかしてタルタリヤと戦わないようにしないとな!