術式はトリガー 作:猫又猫々
記録──2012年7月、■■市。
推定・一級仮想怨霊(名称未定)が、とある廃家にて発生。
その呪霊の被呪者3名が、件の廃家にて焼死体で発見された事により、その呪霊の発生が発覚。
高専から一級術師が派遣され、呪詛師と見られる人間の遺体と、その呪詛師の弟子と思われる子供を保護。
────────────────────
私は昔から、周りから浮いていた。
そんな事を言えば、「どうせ、孤高気取りの妄想だろ?」などと思うかもしれないが、これは紛れもない事実であった。
家から一歩でも外に出れば、周りの大人達からヒソヒソと遠巻きに見られる。
学校に行けば、教師達は私の事を腫れ物でも扱う様に接するし、なるべく私と関わらない様にする。
家に居れば、両親は私を化け物でも見るかの様な怯えと、恨みを込めた、睨む様な鋭い目を向けてくる。
そんな周りからは浮いた、まさに腫れ物で化け物の様な存在。
それこそが私、神崎和匡の周りからの扱いであった。
何でこうなってしまったのか。
そう考えて思い浮かぶのは、私の体質についてであった。
私は生まれた頃から、文字通り他人と違っていた。
それは、異質な超能力と呼ぶべき物を持って生まれた事であった。
私は生まれつき、その目で異形の化け物を視認する事が出来た。
両親は、私の事を化け物だの何だのと言うけれど、異形の存在が視えた私には、それらの方がよっぽど化け物であると言えた。
そんな化け物は、大きさや見た目は十人十色ではあるが、その見た目は総じて醜かった。
幼い頃の私は、そんな恐ろしい化け物が見える事に恐怖し、あらぬ方向を指さしては、よく泣き叫んでいたそうだ。
そんな、変な子供だったからだろうか。
私は大人から遠ざけられる様になった。
他の子達は、私を心配して優しく接してくれたというのに、大人と云うのは、私を恐怖して遠ざけたのだ。
怖いのは、化け物を視認してる私の方だよ!ボケナス!
失礼、少し取り乱してしまった。
少し話が逸れたが、私の不思議な体質と云うのは、それだけではなかった。
"特殊な能力"も持っていたのだ。
その特殊な能力を軽く説明するならば。
例えば私が、『孤月』と言葉にする、もしくは心の中でそう唱えると、鍔が無く水色の水晶の様な刃の日本刀が、私の手に握られるのである。
しかも、その刀の性能がまた凄いのなんの。
コンクリートの壁ならばスッパリと両断出来るほどに鋭利で、大きさの割にはそこまで重くない、という何とも高性能な刀なのである。
しかし、私の周りの人間で、この特殊な能力について知っている者は、誰一人として存在しない。
何故なら、流石の私もこの事がバレるのは不味いと悟ったからであった。
さて、そんな異常な人間である私だが。
本当に幼い頃は、両親も不審に思いながらも私の事を育ててはくれていたのだ。
それが、本格的に変化したのは、私が6歳の頃に起きたとある事件の後であった。
まあ、この事件についてはあまり思い出したく無い事で有るので、あまり語りはしないでおく。
大まかに言えば、私の双子の妹が事故に巻き込まれたのだ。
しかし其処で、不思議な事が起こった。
妹の遺体が見つからず、行方不明となっていたのだ。
事故に巻き込まれた人間で、唯一妹だけが行方不明になったのだ。
問題はその後だった。
大切な妹を失った両親が可笑しくなってしまったのだ。
さて、突然だが、ここで一つ問題である。
私という、異常な存在が近くに居た状態で、その双子の妹が突然行方不明になったなら。
両親は、どんな事を考えるだろうか?
その答えは、とっても単純である。
両親は、妹の行方不明が私の所為であると考えたのだ。
何とも酷い話である。
どうして、大切な妹という、
そもそも、どうやってそんな事を仕出かすというのか。
さて、そんな両親は私を化け物として扱い、暴力や育児放棄を行う様になった。
別に私としては、何とも思わなかったが、妹という大切な存在が居なくなってしまった事が、当時の私には到底堪えられるものでは無かった。
その結果、私は死ぬ事を選んだ。
この時、私は僅か7歳である。
7歳の少年を自殺未遂にまで追いやる環境って、よくよく考えると頭おかしいよね?
まあ、頭が可笑しかったのは両親と私なのだが。
とまあ、そんな冗談も程々にして。
自殺する事を決めた私は、「どうせ死ぬのなら」と、妹と同じ場所で死のうと思いたち、その事故があった場所へと向かっていた。
その途中であっただろうか。
私が、あの人に、後に師匠となる人物に出会ったのは。
────────────────────
和匡から見た、目の前の人間の第一印象は「カッコよくて、タバコ臭いお姉さん」であった。
切長の鋭い瞳と、見る者を惹きつける程の麗しく整った顔。
そんな可愛いよりもカッコいいという言葉が似合いそうな、端正な顔付きをした彼女は、その長い脚を組み、背凭れに体重を預けながらベンチに座っている。
そして、男性物のスーツの上に白色の革ジャンを羽織るという、何ともダンディーな格好がより一層彼女の魅力を引き立てていた。
深夜の人っ子一人存在しない公園で、ベンチに座りながらタバコを吸っていた彼女は、深夜に出歩いていた和匡を見つけると、その綺麗な顔をニヤリと歪めてみせる。
(これはこれは……とっても素晴らしい素質だねぇ)
和匡のその莫大な呪力量に感嘆とした彼女は、その小さな口から紫煙を燻らせると、獲物を見つけた肉食獣の様に瞳を光らせる。
それは、和匡が彼女のお眼鏡に叶った、という事を示していた。
が、そんな事を露も知らない和匡は、さっさと死ぬ為に件の場所に向かおうとして、彼女に呼び止められた。
「やあやあ、そこの君ィ……こんなド深夜に出歩くとは、危機感が足りないんじゃないの? そんなんじゃ……危ない人にたべられちゃうよ?」
そこで一度言葉を区切った彼女は、舌舐めずりをしながら和匡の股間を凝視する。
その姿は、ショタに興奮するタバコを咥えた女性という、なんとも犯罪臭のするものであった。
「私、とかねぇ?」
そう言って妖艶に笑った彼女は、和匡に向けてタバコの煙を吐き出す。
それによって、柿やリンゴなどが腐った様な臭いに包まれた和匡は、顔を顰めながら後退る。
彼は、目の前の女がヤバいという事を察して、この状況をどう切り抜けるか、と考えて自分がどうしようとしていたのかを思い出す。
(そういえば僕って……死にたかったんだった)
彼は、蛾が光に誘われるかの様に、彼女の下へとフラフラと近付いていく。
それを眺める彼女は、彼の目から活気が感じられず、彼の精神が既に死んでいる事を察する。
(ああ、これでやっと……)
彼は、やっと死ねる事に安堵しながら彼女の前に立つ。
彼女の背が高いからか、ベンチに座っている筈なのにその顔の位置は、和匡よりも高かった。
和匡は微笑みながら、酒に酔った様な据わった目を彼女に向ける。
「そんなに私に食われたいのかな?」
和匡が目の前まで来た事に対して、和匡の事を揶揄っていただけの彼女は、想像を超えた彼の行動に困惑しつつも、言葉を紡ぐのをやめない。
そうして、目前に迫った彼のとろんと垂れ下がった目を向けられて、彼女の背中に電流が如き甘い痺れが奔った。
「僕を……殺して下さい」
「……は?」
心地よい痺れを噛み締めながら目の前の美少年の顔を堪能していた
小学一年生程の見た目の子供が口にするには、ぶっ飛んだその内容に、彼女の頭が真っ白になる。
(今コイツ、死にてぇって言ったのか? この歳のガキがか?)
まるで信じられない物を見たかの様に、胡乱げな瞳を向ける彼女。
彼女には、今の言葉が到底理解出来なかった。
(私がこんくらいの時は、如何にガキ大将を潰すかを考えてたってのに………死にたがるには時期尚早過ぎるだろ)
ギロリ、という効果音が出そうな程に鋭い視線が、和匡を射抜く。
それは、目の前の人間を見定める為の目であった。
(さっきも思ったが、"素材"は悪くねぇ。 まぁ、此処で会ったのも何かの縁だろ)
見定めが終わった彼女は、その顔に優しげな笑顔を貼り付ける。
それは、彼女が仕事で培った技術の一つだった。
「君、名前は何て言うんだい?」
「……和匡」
「そうか、和匡か。 一つ提案なんだが──」
無機質な瞳で、目前の女を一点に見つめる和匡。
和匡にとって、今の女が浮かべているかの様な顔は、見慣れた物であり、それが偽物である事を彼は悟っていた。
「──死ぬ前に、私の家に来ない?」
彼女は、タバコを携帯灰皿に押し込むと、ニヒルに笑いながら、そう言う。
人によっては、下心が丸見えになるであろうそれ。
彼女のそんな言葉を受けた和匡は、控えめに頷くと、まだ死ねないのだという事に気付いて、少しだけしょんぼりとするのだった。
これが、後に和匡の師匠となる彼女──
後に、この出来事からショタコンの烙印を押される事を、この時の彼女はまだ知らない。
────────────────────
私と師匠が、真夜中の公園で出会った日。
今でも鮮明に覚えている。
2007年5月の、まだまだ夜が涼しい時期の事。
私と師匠が初めて出会い、私が彼女の弟子になった日。
公園での出来事の後、私は師匠に連れられるがままに彼女の家に行き、気づけば彼女に美味しいご飯を振る舞われていた。
約1年ぶりの温かい出来立てのご飯。
家で出されていた、ただ命を繋ぐ為の餌とは違う。
私は暖かみの感じられるそれを、掻っ込む勢いで食べていた。
私はその時、気付くと泣いていた様で、彼女に頭を優しく撫でられたのを、今でも覚えている。
それくらい、過去の私には、暖かく、有難い、至福の食事であったのだ。
それから、彼女と一緒にお風呂に入った私は、生まれて初めて大人に優しくされた事に感動して、彼女に懐いてしまっていた。
今まで酷い扱いを受けていた自分が、突然優しくされたのだ。
懐かない方が可笑しいと、今でも私は思う。
そして、お風呂から上がった私と彼女は、リビングで話し合いを行なっていた。
互いに自己紹介をして、自身のこれまでの事についてを詳しく話せば、彼女は私の体質と特殊な能力について、全ての答えを教えてくれた。
さて、ではここで、師匠がその時に言っていた事を全て振り返っていこうと思う。
まず最初に彼女から教えられたのは、この世界に存在する『呪い』についてであった。
呪いとは、人々から抜け出した負の感情によって生まれる化け物達の総称である。
つまり、私が生まれ付き見えていた、あの異形共は『呪い』であるらしい。
因みに、その呪いの事を『呪霊』と呼ぶ事の方が多いらしい。
そこら辺は結構人によってまちまちなんだとか。
さて、そんな呪霊だが。
人間が莫大な数に増えているが為に、その被害もかなりの数であるそうだ。
その証拠に、日本での行方不明者・怪死者数は年平均1万人超えであり、その殆どが呪いによる被害なんだそうだ。
もしかしたら、妹の行方不明も呪いと何か関係があるのかもしれない。
まあ、妹については追々として、次に。
そんな、呪いと日夜戦い続けている人々が、この世の中には存在する。
その名も『呪術師』と言うらしい。
その方々は、常人よりも呪力量が多いらしく、特殊な教育を受ける事で、呪いから人々を守る為に奔走しているらしい。
そして、斯く言う私も、師匠曰く才能が有るとの事らしく、将来呪術師として活動する事になるらしい。
そんな私が持つ、特殊な能力。
これは『生得術式』と呼ばれる、素質のある人間の肉体に刻まれる術式の事らしい。
式神とか、結界術みたいな簡単な呪術よりも強力らしく、呪術師の殆どはこの術式を持っているそうだ。
こうして呪術についての知識を色々と教えて貰った私は、その後に師匠から弟子にならないかと誘われた。
この時の私は、死ぬ事よりも彼女と一緒に居る事を選んだ様で、私はその誘いを受け入れ、出会って数時間の人間の弟子になった。
この日から、私は彼女──
この時の私は、呪術という未知への知的探究心と、彼女の優しさへの感動で、目をキラキラとさせていたと思う。
そんな私に彼女は、「これから君には、私の技術の全てを教えてあげる。その代わり、君には私と一緒に暮らしてもらう」と言った。
それは多分、不器用な師匠なりの優しさだったのだと、今の私には思えて仕方なかった。
というか、ショタと一緒に暮らしたいっていう下心だったとしたら、残念過ぎる。
そうして、始まった私と師匠との共同生活。
まず私達2人は、私の両親へと説明に向かった。
一般人である両親に、「呪術についての修行を行う為に出て行く」などと言うのは、流石に不味いのか、師匠は2人に「陶芸職人の技を御子息に教授する為に……」だのと言っていた。
今思うと、結構無理矢理感のある説得だったが、さっさと私に出て行って欲しい両親は、これから居なくなる事が嬉しいのか、喜んで私が家を出て行く事を肯定してくれた。
それを見ていた師匠の顔が、不愉快そうに顰められていたのが酷く印象に残っている。
その事がなんとなく嬉しかった私は、これから一生、死ぬまで彼女について行く事を誓った。
そうして、さっさと両親の説得を終わらせた私達は、次の日から呪術についての勉強や、体術などについて扱かれる様になった。
師匠との特訓や扱きは、私がボロボロになっても続いたりと、中々ハードでキツかったりもしたが、それでも師匠との日々はとても楽しい物であった。
──師匠と公園で一緒に遊んだ日々。
ボールを蹴って、一緒にサッカーをしてみたり。
ブランコを私と、師匠の2人で漕いでみたり。
時には、誰もいない深夜の公園で軽い組み手をしたり。
──師匠と一緒に作った料理達。
師匠と2人、お揃いのエプロンを着て2人でお菓子を作った。
可愛いお菓子作りが趣味だった、師匠の意外さに驚かされたのを覚えている。
最初は苦手だった、野菜料理も2人で作った物だけは、笑っちゃうくらいに美味しくて、気づけば食べれる様になっていた。
──師匠とぶつかり合った、訓練や模擬戦。
毎日毎日、ボロボロになりながらも諦めずに師匠と戦い続けた。
最初は手も足も出なかったけれど、段々とまともに戦える様になって、気づけば師匠から学べる全ての技術を習得していた。
その日に出来たりした傷は、師匠が寝る前に軟膏を塗ってくれてり、傷口の消毒をしてくれたりした。
そんな、今まで私が味わえなかった日常達。
きっと、師匠に出会わなければ味わう事すら出来なかったであろう、幸福な日々。
そんな、楽しくて、眩しくて、幸せな日常が、いつまでも続けば良いのだと思っていた。
思ってたんだ。
でも、現実は非常だった。
────────────────────
2012年7月某日。
■■市にある〇〇町という地。
そこは、人口約2万人程よそこそこ大きな町であった。
〇〇町と言われれば、大抵の人はこう答えるだろう。
「ああ、醜女廃家のある町ね」と。
醜女廃家。
それは、■■市の住民で知らない者は居ないと言われる程に有名な、曰く付きの心霊スポットであった。
曰く、夜な夜な深夜の3時になると、女性のすすり泣く声が家から聞こえて来て、窓から家の中を覗くと青白い炎で部屋が、燃え盛っている。
曰く、夜中の3時になると包丁を研ぐ音が聞こえてくる。
曰く、深夜の3時に、その家の写真を撮ると、窓から此方を覗く醜い女性の霊が写り込む。
などと、怖い噂が絶えず、それが一人歩きを続けた結果、関東圏でも有名な心霊スポットとして、かなりの人々に認知されていた。
そんな醜女廃家として有名なボロボロの家の中では、死屍累々の状況が広がっていた。
昔は綺麗で絢爛な洋装だったのであろう部屋の中は、今は部屋のあちこちに血が飛び散っており、その血が滲んだ家具が部屋のあちこちに散らばっていた。
それも、真っ二つにされていたり、一部が焼け溶けていたりと、どれもこれも酷い状態であった。
また、部屋の壁や床には所々に鋭い切り傷や、焼け焦げた跡があり、その部屋の中であった事の熾烈さを表していた。
そして、最も目を引くのは、その部屋の奥に雑に放置された、4人分の人間の焼死体であった。
服ごと全身を強烈な炎で焼かれたのか、全身炭化しており、その顔色を窺うことが出来る状態では無かった。
凄惨な部屋の奥。
そことは、また別の部屋の中心。
そこでは、腹に拳大の穴が空いて、大量の出血によって大きな血溜まりを作っている女性と、それを抱き抱えながら泣きじゃくる、まだあどけない幼さの残る少年がいた。
女性の息は浅く、彼女の瞳からは時間が経つ毎に刻々と光が失われていく。
瀕死と形容するのが容易な程に彼女は、ボロボロであった。
「はぁ……はぁ……か、和匡ぁ。私に顔を見せておくれ」
弱々しく、今にも途切れてしまいそうな程に儚い声で彼女──荏田 糸捺は、横に座って自身を抱き抱える少年──和匡に、顔を見せる様に要求する。
それを受けた彼は、急いで彼女に顔を近づける。
目が悪い彼女の為に彼は、互いの息が掛かる程に接近して、目の前の大事な人の瞳を見つめる。
それによって、彼の瞳から溢れ落ちる雫が、彼女の顔に数的溢れ落ちる。
「嗚呼……君は………相変わらず、愛いなぁ」
彼女は、殆ど光を宿していない仄暗い瞳を和匡へと向けると、穴を塞ぐ様に置かれていた自身の右手をゆっくりと動かしていく。
それは、ふらふらと力無く空を彷徨ってから、和匡の左頬を優しく撫でる。
彼女の血によって汚れる事も厭わずに、彼はその右手を自身の左手でもって優しく包み込む。
人の暖かさを感じ取ったのか、彼女はふにゃりと優しく微笑む。
「……師匠、なんで……私なんかを庇って」
──どうして、どうして、どうして。
和匡には今の状況は、当に最悪だった。
大切な人を、また喪ってしまうのか。
そんな、空虚な絶望感が彼を包んでいく。
「ごめんね……でも、大切な君が危なかったから……… 見捨てる、なんて…無理だよ。 そ、それに…私にはもう時間が、無かったんだ……『天与呪縛』、君にも話したろ?」
話す度に傷口が痛むのか、額に脂汗を滲ませる彼女。
それでも、彼女の表情は柔らかかった。
笑顔であった。
彼女が語った『天与呪縛』。
それは、自身で設けた『縛り』とは違う、天が与えた縛り。
生まれつき肉体に強制される、呪縛の事であった。
それはつまり、回避不能のデメリットを押しつけられる代わりに、強力なメリットを得るという物であった。
天与呪縛の効果は多岐に渡るが、その中でも彼女のそれは──
「私はね…常人よりも……は、早く衰えるの。他人よりも、早く……死ぬ事を強制される。 私には……もう時間が残されてなかったの。だから、気にしないで……」
──常人よりも早く衰えるというモノであった。
彼女は、見た目こそ20後半程の若々しい姿をしているが、その肉体はすでに70歳程のそれであった。
髪は真っ白に染まり、瞳も白内障で片目の視力はゼロに近い。
そんな、チグハグな存在が今の彼女であった。
天与呪縛という事を知らされた和匡は驚愕に唖然として、言葉を失う。
何故なら彼は、今までそんな事微塵も知らなかったし、気づけなかったから。
そうして、彼は自身を庇った彼女に涙を流す。
無力な自分に怒りを覚えながら。
彼は今、無力感に苛まれていた。
(どうすれば、師匠を救える?反転術式か……いや、私にそれは扱えない。 ならば、どうすれば……)
自身が如何に無力かという事を実感させられている彼は、どうする事も出来ない現状に歯噛みする。
そんな彼を見つめていた彼女は、辛そうな顔をする自身の弟子に、自身の考えを話す。
「和匡ぁ………『極ノ番』、私に使って?」
彼女から放たれた、その言葉に和匡はハッとする。
彼女のその言葉は、死を受け入れたが故の言葉であるのだと、理解してしまった彼は、悲痛な面持ちで彼女に問いかける。
本当にそれで良いのか、と。
その言葉に、彼女は笑顔で返した。
「……良いよ。私の全て…を、和匡にあげる」
そう言って彼女は、和匡のその小さな唇にマーキングするかの様にして、接吻をする。
和匡にとって初めてのそれは、大切な人の血の味がした。
「後の事…は……好きにすれば、良い…活かすも殺すも、君次第……さ」
「……分かりました」
彼女の言葉にしっかりと頷いた彼は、極ノ番を発動させる。
彼は覚悟を決めた。
彼から漲るそれは、呪力と呼ばれる負の感情から捻出されるエネルギーである。
彼はそれを、自身の生得術式に流し込み、術式を発動する。
「師匠、今までありがとうございました。 貴女のこと愛してましたよ」
──最後くらいは笑顔で……。
最後のお別れだからと、ニッコリと微笑んだ彼は、彼女の胸の、心臓があるであろう位置に右手を置いた。
「ああ、私だって君の事を──」
彼女の身体が光に包まれて、ボロボロと崩れ去って行く。
全身を灰に換えた彼女が、その言葉を言い切る事は無かった。
彼女の最期を見届けた彼は、粉々になった彼女であったモノから手を離して、自身の手を覗き見る。
そうした和匡の手には、1つの
これは、彼──
勝手に話削除して、改稿してすいません。
我慢が出来ませんでした。
次の話もでき次第投稿していきます。