術式はトリガー 作:猫又猫々
和匡の選択は迅速であった。
彼の瞳に迷いなど1ミリも存在せず、意志という名の炎がメラメラと燃え上がっている。
「五条さん……私は生きたいです。死刑なんて死んでもごめんです」
五条の眼を目隠し越しに見つめる和匡。
彼のその"熱"が伝わったのか、五条はその顔を破顔させた。
「良いねぇ。ククク、この五条さんに任せなさない!君の身柄はこの僕が保証してあげるよ」
生きたい。
これは紛れもない和匡の心の底からの言葉であった。
彼には、死ねない理由がある。
生きるための目的がある。
だから、彼が選んだのは、高専で人助けをするという物であった。
そんな彼の身勝手とも取れる言葉を聞いた五条は、楽しげに嗤う。
そして、和匡の身柄を保護する事をその場で確約した。
五条からすれば、元々ダメ下で日下部に依頼を頼んだのだ。
それが、こんな形で自身の思った形に成ったというのは、将来を憂う五条にとって喜ばしい事だった。
(この子はきっと、良い術師になる……何年後かは分からないが、将来が楽しみだ)
目の前の少年はきっと自身の並ぶ。
そんな確信めいた予感が、五条にはあった。
それは、彼の眼が伝えてくる情報による物なのか、それとも彼の経験からくる物なのか。
それは、本人にしか分からない事であった。
「私の事情は知っているんですよね?」
内心でほくそ笑む五条に、和匡から声が掛けられる。
彼はは、その言葉にYESと返答した。
「君が、家から半ば勘当されてる事も、荏田糸捺に弟子として保護されてた事も、こっちは知ってるよ」
「そうですか。なら………良いです。これからよろしくお願いしますね……五条さん」
なら、の後に続いた少しの間。
それに気付いた五条と家入は、何か言いたい事でもあるのか、と疑問に思う。
しかし、それを口に出す事は無かった。
2人とも、余り相手の事情に土足で踏み込んで来る様な人間では無かった。
だから、相手が言いたくない事を聞く気などは、彼らには無かった。
「よろしくね和匡。取り敢えず、硝子も自己紹介しちゃって」
五条は、適当にそう言って、自己紹介を促した。
家入はそれを受けて、特に顔を顰めたりする事もなく、ごく普通に微笑んで、自己紹介を始めた。
「私は主に怪我人の治療を担当してる、家入硝子だよ。反転術式が習いたくなったら言いたまえ。仲間が増えるのは大歓迎だ」
「よ、宜しくお願いします……」
ニヤリと笑い和匡の方を見てきたその瞳の暗さと、あまりの怖さに彼は、ブルりと身震いし、ガタガタと歯を鳴らす。
小学6年生の少年には、社会人の闇というのはキツいものがあるようだった。
(や、闇を感じる……)
そんな和匡と家入の遣り取りを眺めていた五条は、楽しそうに笑ってから喋り出した。
「とりあえず今日のところはウチの学生寮に泊まってもらうよ。明日は君の実力を確かめるために一つ任務をこなしてもらうからね」
それに頷くと和匡は、治療室を後にする2人について行くのだった。
色々と生活が変わる分岐点の夜が明けて数時間。彼は五条に連れられて、とある中学校へと訪れていた。
五条曰く彼の実力を見るための任務との事で、その場には対して強くもない呪霊が数体いるだけなのであった。
まぁ、それでも彼のやることは変わらない訳で──
──いつも通り呪霊を狩るだけなのである。
「アステロイド」
右手に孤月を持って構えながら、左手からアステロイドを放ち、眼前の呪霊を撃ち抜く。
ボコスカと、呪霊の身体に無数の穴が空く。
それだけで弾丸の威力が恐ろしい物だと、分かる程であった。
真っ直ぐ飛来してきた水色の光弾に撃ち抜かれた呪霊はそのままボロボロと灰のように崩れて消え去っていく。
呪いを祓うという、爽快感のある感覚に和匡は、微笑んだ。
呪霊は呪いの塊である。
人間はある時、それを呪いで倒すことで、このように綺麗さっぱり消し去る事ができるという事に気が付いた。
呪いで以って、呪いを討ち果たす。
それこそが祓除と呼ばれるもの。
彼が、師匠であった女から教え込まれた、呪霊を相手にする上での基礎知識であった。
「これで4体目、残りの1体は……いた!」
校内の呪霊を粗方片付け、ふと窓から校庭に目を移してみれば、最初は居なかった筈の呪霊が1体校庭に居るのを発見する。
和匡のあまりの強さに恐れたのか、その呪霊は逃げるかの様に、彼に背中を向けて走っていた。
それを見つけた和匡は、窓を開けて3階の廊下から飛び降りると、空中でグラスホッパーを展開する。
宙に顕われる、水色の足場。
彼はそれを踏んで、呪霊に向けて跳びながら加速していく。
一歩、二歩。
彼は宙を跳ねた。
そして空中で孤月の柄を右手で持ち、身体の左に構える。
そうして彼は、自身の肉体に刻まれた術式から、1つの装備を発動した。
その名も旋空。
この旋空という装備は、孤月と合わせて発動するものである。
その効果は、発動時間と反比例して孤月の刃を伸ばし、尚且つ孤月の切れ味も発動の間底上げされる、という代物であった。
「逃がさないよ……」
──旋空孤月。
瞬間的に伸びた刃が、逃げていた呪霊を捉える。
その斬撃は、瞬間的伸びた刃が弧を描き、まるで斬撃を飛ばしているかの様な錯覚を覚えさせる物であった。
必死に逃げている低級の呪霊を、旋空孤月で真っ二つに斬り裂いてそのまま祓う。
何も物がない、だだっ広い校庭だからこそ出来た荒技に彼は、これは普段は使わない方が良いな、と考えつつなんとなしに空を見上げた。
今の1体で全て祓い終わったようで、五条の張った帳が解けていつも通りの綺麗な晴れ空が視界いっぱいに映る。
「おつかれ和匡。それにしても面白くて良い術式だね」
校門からゆっくりと、校庭に居る和匡に向かって歩いてくる五条。
彼は、愉快げにクツクツと笑いながら、彼に声を掛ける。
そのまま和匡の側にまで来た五条。
和匡よりも20センチほど大きな身長をしている彼は、ワシャワシャと和匡の頭を、乱雑だがどこか優しさも感じられる適度な力加減で撫でる。
和匡は、それに頬を緩ませてされるがままになるのだった。
「どうもです。褒めても何も出ないですよ五条さん」
「お世辞じゃないさ。小学生でこれなら充分すぎるくらいだよ」
(戦闘慣れという次元を超えてるね……これは師匠が良かったからか、彼のセンスが良かったからなのか………いや、どっちもかな)
そんな風に2人で会話しながら、車に乗り込み高専へと引き返す。
五条は結構忙しい身であるため、「これから単独の任務がある」と予め断りを入れており、和匡を高専に戻したらまたいなくなってしまう、という事で和匡は1人になってしまう様であった。
高専に帰ったら暇になってしまうのでどうしようか、と1人悶々と彼は思案する。
(伊地知さんに呪術について教えてもらうのも良いし、日下部さんが居るなら是非とも剣術を教えてもらいたいものであるし、後はパンダくんと遊ぶのも良いな……)
などと彼は色々考えを巡らせる。
その表情は、友人とどうやって遊ぶかを考える子供の様で、年相応の純粋なものであった。
因みにパンダくんというのは和匡と仲の良い、自立型呪骸のパンダの事であった。
普通に生きている呪いの人形であるそれは、産みの親である夜蛾曰く、「人と同じように普通に考えて生きている。和匡も普通の友達の様に接してあげてくれ」との事であった。
そんな和匡だが、パンダとは今朝知り合ったばかりであった。
そんな風に彼が暢気に考え事をしていると、ふと五条がなんでもない事のようにポツリと語りだした。
「そういえば、和匡は来年から中学生だったよね?……実は、中学からは3年間なんだけど………京都で暮らしてもらうから、よろしくね!」
ピカっと白い歯が輝くそのうざい口の中にメテオラでも突っ込んでやろうかと思う程にはとんでもない事を言ってきやがった五条に、内心唾を吐く彼は、仕方ないというものであった。
いきなり中学から京都で暮らす、と言われてもどういう了見であろうか。
そもそもどこで暮らすのかなど疑問が尽きない、彼。
「篤也さんの事は知ってるよね?昨日、君を助けてくれた人さ」
「あぁ、日下部さんの事ですね」
「そうそう。 和匡には更に強くなってもらう為に、その篤也さんが習得してるシン・陰流を同じく修めてもらう。 その為に、中学の3年間はそこの道場で、門下生として暮らしてもらいたいんだよね。因みに拒否権は無いよ」
和匡の脳裏に浮かぶのは、自身を引き摺ってくれやがった男の姿であった。
日下部がシン・陰流を修めているという事を知った和匡は、少しの驚きを味わった。
そうして彼は、やはり人は見かけによらぬものだ、と心に深く刻むのだった。
「そんなの断る訳ないじゃないですか。強くなれるのなら、大歓迎ですよ!」
「そう?それなら良かったよ」
まさか此処にきて、師匠ですら教える事が出来なかったシン・陰流を学べるのか、と。
彼は、内心でウキウキとしていた。
そこら辺は、未だに年相応な彼であった。
────────────────────
そんな、五条さん達との出会いから3年。
気づけば私は、中学3年生になっており、シン・陰流の師範代からも免許皆伝を受けていた。
いやぁ〜、時間の流れって早いもんだね。
おっと、こんな事考えてる時間は無いんだった。
早朝、いつものように5時に目が覚める私。
そのまま、そそくさと布団を片付け部屋を後にする。
え?なんでそんなに早起きなのかって?
朝から修行があるからだよ。
という事で今回は、私が直々に修行のある平日の、朝のルーティンを紹介しようじゃないか!
まず、早朝に起きた私は速攻で準備を終わらせる。
顔を冷たい水で濡らし、眠気を覚ましたら、次はお着替えの時間です。
と言っても、服は剣道着なので目立った物ではない。
そして、着替えたらランニングのお時間となる。
私が通っている、このシン・陰流の道場であるが、なんと山の中にあるのだ。
その為、ランニングのコースは山の麓にある街にまで降りて、また戻って来るという、結構エゲツない物になっている。
まあ、呪力で強化して走るから、大丈夫であろう。
そんなランニングだが、その途中で絶対にやらなければならない事がある。
それは、街に湧いている低級呪霊を祓うという事である。
師匠曰く、「こんなんゴミ拾いと一緒やねん。毎日コツコツ頑張って、街の清掃がんばろうな!」と、無駄に整った真っ白い歯を見せながら、明るく笑っていたのが印象的である。
さて、ランニングは30分程で終わるので、戻ってきたら、次の修行が待っている。
それは、素振りである。
ランニングから戻ってきたら、休む暇なく蔵から自身専用の木刀を持ってきて、素振りを行う。
冗談に振り上げたそれを、真っ直ぐ脳天をかち割るつもりで振り下ろす。
所謂、真っ向斬りというやつである。
そんな素振りを、朝飯の時間まで行う。
飯が終われば、シャワーを浴びて急いで学校へと向かう。
勿論学校に遅刻すれば、師範代との対マンという名の罰ゲームが待っているので、死んでも遅刻は出来ない。
これら、一連の流れが毎日続く。
雨の日も、雪の日も、嵐の日も。
メニューは一年を通して変わらない。
中々にキツイと思われるかもしれないが、師匠との特訓の方がキツかったのでなんとか耐えられた。
そんなキツイ修行だが、私にとっては中々に楽しい物であった。
3年は続けているが、日を追うごとに自身の動きが洗練されているのが実感できて、個人的には良かった。
まあ、それでも兄弟子は修行が嫌いだったのか、文句たらたらであったが。
さて、そうして朝の修行を終わらせて学校に行けば、此処からは学生としての本分である勉強の時間だ。
幸い私は周りから虐められる事もなく、極々平穏な生活を送れていた。
周りの人達も優しく、他の人達が京都弁を喋っている中で、私だけが標準語を喋っていのだが、それでも皆は笑顔で受け入れてくれた。
お陰で、私は3年間何事も無く過ごす事が出来た。
その事について、私は心から感謝をしていた。
そんな、学校もすぐに終わる。
人間の体感時間なんて、そんな物だ。
1日というのはすぐに終わる。
中学から帰ると、師範代や他に1名しかいない門下生と共に、木刀での模擬戦である。
ちなみに他の門下生は一個下の後輩の三輪ちゃんだけである。
去年までは、一個上の先輩の朝水先輩の計2名しかいない状態であったのだ。
しかし彼は、今はもう高専にいるので、門下生は実質私と三輪ちゃんの2人だけなのである。
術師は常に人数不足らしいし、少ないのも仕方ないよね。
「それにしても、三輪ちゃんも大分切り合えるようになってきましたね」
そう言いながら夕日に照らされる道場の中で、今は私と後輩の三輪ちゃんが模擬戦をして、切り合いを行っていた。
因みに、この模擬戦のルールは範囲外に出る事と、地面に倒れて2秒以上起き上がれなかったらの、どちらかで負けである。
「そんな私なんて、まだまだ…ですよ!」
そう言って私の攻撃を弾いて防いで見せる後輩。
いやいや、そんなに謙遜しないでよ。
今の攻撃防ぐのだけでも、結構すごいんだよ?
まあ、防げても意味ないんですけど。
「よっこい、せッ!」
弾かれた刃を無理矢理引き戻して、再び攻勢に転じる。
ずっと私のターン!
私と三輪ちゃんの模擬戦の結果は、10本中9対1で私の勝ちだったのが、ここ一年の間に実力が伸び7対3まで上がっていた。
因みに朝水先輩との最後の結果は6対4で私の勝ちである。
此方が右から袈裟斬りを放てば、それを刃を斜めにして受け流して、左上からの反撃の振り下ろしがくる。
「良いじゃん!今の防ぐの私もびっくり、ヨッ!」
「クッ……」
それを見切って刃を引き戻し、横からちょうど相手の刃に当てる事で攻撃を弾いて防ぐ。
そうして切り結ぶ事数度。
三輪ちゃんは地に伏せて息を切らしていた。
私の勝ちである。
「うんうん、2人ともめちゃくちゃ良くなってんで。これは俺の教え方がええからやろか。師匠として鼻が高いわ」
関西弁で、つらつらと馬鹿な事を言う、この目の前のゴーグルをつけた短髪の男こそ、我らが師範代である
生まれも育ちも京都であるのだが、何故か大阪系の関西弁を喋っている変な人である。
しかし、剣の腕は確かな為に、なかなかに愉快な人であった。
「おし、今日のところはこれぐらいで勘弁しといたる。ほんなら夜飯にしよか」
そう言って奥の居間の方へと引っ込んで行く師範代に礼をして見送り、汗を流す為に、2人して風呂場へと向かう。
因みにここの道場、昔は繁盛していたらしく、そのためなのか風呂場が2つあるので、私としてはとても助かっていた。
私と師範代の2人だけの食卓というのは、朝水先輩が中学を卒業し、高専に行ってからは毎日の事である為に、物凄くあっさりと慣れてしまった。
三輪ちゃんは、自分家で家族と食べるそうで、道場でご飯を食べた事は一度もない。
目の前にいるのはむさ苦しいおっさん1人。
何とも味気ない景色だ。
そんないつも通りの食事風景を眺めながら、この光景を見れるのも後数日になるのかぁ、と感慨に耽っているとなんだか切なく感じてしまった。
なので、誤魔化し程度に味噌汁を口に含む。
うん、今日の味噌汁も美味しい。
「そういえば和匡、俺と日下部でお前の事、1級に推薦しといたから。 よろしく頼むで」
「ブフォッ!」
頼むからそういう事、味噌汁を飲んでる途中に言うのはやめて欲しい。
思わず、師範代に向かって吐き出してしまったではないか。
全く、なんてタイミングの悪い人だろうか。
「今の絶対わざとやろ。俺そういうのわかんねんで」
「さりげなく心を読むのやめて下さいよ」
「しゃあないやん。俺の術式なんやから」
そうなのである、目の前のこの男の術式は至ってシンプルで、"敵の心を読む"という読心の術式であった。
自我を持たない呪霊相手には全く役に立たないが、人間相手には滅法強い術式なのである。
それにこの人の剣の腕が加われば、対人では殆ど負け無しなのだ。
なお、五条さん相手には手も足も出ずにボロ負けしたらしい。
「そんな褒めんといて。恥ずかし過ぎて飯食えへんやん」
「そろそろぶん殴りますよ?」
「おお怖い怖い」
「そもそも、私まだ高専所属じゃないので、推薦以前に等級すら割り振られていませんよね?」
「別に推薦されたらすぐに一級なわけじゃなくてな、準1級って等級で一旦様子見すんねん。せやから高専に入るときは準一級からのスタートになるっちゅー訳や」
「じゃあ、1級に上がるのはその後になるって事ですか?」
「せやせや」
そんなこんなでどうやら私の準1級での高専入学が、知らない所で決まっていたらしい。
昔の1級呪霊と戦ったあの時から大分強くなっている今なら、1級術師としてやっていけるだろう、という師範代と、日下部さん2人の判断らしい。
そんな事があった中学3年生の3月。
卒業式が差し迫ってくると同時に、春の麗かな気候が顔を覗かせてきた頃の日の、今まで通りの1日の出来事であった。
────────────────────
新しい学年の始まりを告げる、桜舞い散る入学の日。
私は高専の教室にて担任と、クラスのメンバーが来るのを待っていた。
服装は、全身真っ黒のスーツに改造した、高専の制服を着用している。
仕事人って感じがして中々にカッコいいので、私のお気に入りだ。
そんな私の服装だが、左手側の腰の部分にはホルダーが付いており、そこには真っ黒い柄──『風刃』が装着されていた。
この風刃だが、五条さんに全ての経緯を話した結果、私の所持する呪具という事になり、こうして私が持ち歩いているのだ。
まあ、今の所訓練でしか使用していない。
さて、そんな話は置いといて。
私は今、待ち惚けを食らっていた。
春休みに七海さんとの合同任務と引っ越しの為に一度高専に来ていた私は、五条さんから今年の新1年は私含めて3人という事を聞かされていたので、今は他の2人を待っている状態である。
何で時間になっても来ないのかと言えば、それは五条さんの微妙な遅刻癖の所為である。
どうやら、2人を教室まで連れてくるのが五条さんの仕事らしく、それが微妙に遅れているらしい。
めちゃくちゃ暇だ。
なので遊ぶ事にした。
「バイパー」
特にする事もないので、両の掌の上に威力を殆ど0にまで落として、射程を出来るだけ伸ばした、バイパーを生成する。
今からやる事はとっても単純。
そう、リアルタイムで2つのバイパー、つまり計64×2発の弾丸の弾道を引くという、修行の一環である。
「そいそい〜………それにしても、よくこんな曲芸出来る様になったなぁ、私」
私が今行っているそれは、自分で言うのもなんだが、曲芸の様な物だ。
普通は存在しない、水色の弾丸。
それを空中で自由自在に、弾同士がぶつからない様に、弾道を引いていく。
それらは、「実際はそこにない物を、有ると認識する空想力」、「自分を含めた周囲の状況を把握する、客観視点」、「攻撃対象や障害物との距離を正確に捉える、空間認識能力」、そして「弾丸の操作を可能とする為の、精密な呪力操作」などの、かなりの要素が必要になってくるのだ。
だからこそ実際に扱う私には、曲芸としか思えなかった。
師匠に呪力操作の感覚や、肉体操作の感覚などは、無理矢理叩き込まれたが、上記の殆どは私のセンスによる物らしく、そこの器用さは師匠からも褒められていたなぁ。
そういえば、元々この技術を伸ばしたのも、師匠に褒められたかったからだっけな?
随分と懐かしいなぁ。
そうやって、弾道を引いて遊びながら思い出に浸っていると、ガラガラと音を立てて扉が開き3人の人間が入ってきた。
やっと来た。
「君達2人が最後なんだから、さあさあ入って入って」
五条さんに押される様にして入ってきたのは高専の制服を着用した2人の男子生徒であった。
1人は眉毛に剃り込みの入った厳つい顔に、左耳に空いたピアスとドレッドヘアーが特徴的な男子と、もう1人はサラサラで短めの髪を下ろした中性的な顔立ちの、男子というよりは男の娘という表現が似合う様な男子であった。
「はいはいみんな席についてー、それじゃあ最初は自己紹介からしてもらいます!まずは和匡からね〜」
よろしくー、と言って此方に任せると教卓の横にある椅子にさっさと座ってしまった五条さんに代わるようにして教卓に行くと、黒板に名前を書いていく。
「どうも初めまして神崎和匡です。苗字は嫌いなので和匡と気軽に呼んで下さい。好きなものはコーヒーとサンドイッチです。これからよろしくお願いしますね」
それだけ言ってお辞儀をするとさっさと自分の席に戻る。
そして、私の次に出てきたドレッドヘアーの厳つい男子が、黒板に立つと名前を書くわけではなく、自身を親指で差して自己紹介を始めた。
「俺の名前は
厳つい男子──秤金次は自己紹介を終えるとずかずかと自身の席に戻る。
自己紹介で言っていた熱とはなんなのだろうか。
いまいち伝わらなかったが、秤くんが大分癖のある人間だという事は伝わった。
五条さんや師範代もそうだったが、呪術師というのは一癖も二癖もあるような人間じゃないとなれないのだろうか。
甚だ疑問である。
そうして、最後に教卓に立った彼?彼女?は、黒板に可愛い文字で名前を書いていく。
「私は
ん?今いきなり変なあだ名を付けられた様な、まあそれはいいか。
目前の、たった今自己紹介を終わらせて自分の席に戻った男子──星綺羅羅は一人称やらを含めて、もしかしたら中学の間は自分の本性を隠して普通の男子として過ごしていたのかもしれない。
まあ、普通と違うのが呪術師なのでそこらへんも愛嬌みたいなものだろう。
「みんな良い感じに自己紹介が終わったね。それじゃあ最後は僕だね。呪術高専1年担任の五条悟です。以後よろしく!」
そう言ってダブルピースにドヤ顔を決める、現代最強の男である五条さんに対して、各々別々の反応を見せていた。
秤くんは面白そうだとニヤついており、星くんは変な人だなと訝しげに見ており、それぞれの性格が反応に出ている様であった。
「それじゃあ、自己紹介も終わった事だし。みんなの仲を深める為にレクリエーションをしまーす。イェーイ!」
パチパチと拍手をしながら1人だけ喜んでいる五条さん。
周りが変な目で見ているせいでとても異質で笑いを堪えるのに必死である私であった。
因みにこの後、レクリエーションでめちゃめちゃ呪霊を祓った。
・楠木達仁
和匡が免許皆伝になるまでは、現代の剣士最強だった、シン・陰流の師範代の男。見た目は大人になったイコさん。
術式は『読心』。文字通り相手の心が読める術式。
料理が上手で、和匡からも好評を貰っているらしい。
最近は焼き肉にハマっているらしく、弟子を連れて度々行っている。