術式はトリガー   作:猫又猫々

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リハビリ的な奴。短め。


第8話 ダチとして

 

 

5月某日、呪術高専東京校。

木々に囲まれた広い校庭にて、2人の若き呪術師が組み手を行っていた。

 

「来いよ綺羅羅。アイツに追いつく為にも、お前には勝たせて貰うぜ」

 

そう言って我流由来の独特な構えをとった秤は、目前の綺羅羅へと挑発的な笑みを向ける。

 

「へぇ。まだ勝てるつもりでいるんだ?」

 

対して、秤からの煽りを受けた綺羅羅もまた、その綺麗な顔に彼と同様の笑みを携えていた。

 

綺羅羅にとって秤は、手強い相手だ。

高専1年生3人の中では、綺羅羅が一番体術に於いては劣っている。

そんな事彼女は、百も承知の事実だった。

 

(私の術式的に、体術は重要になってくる……それに、2人の足を引っ張るだなんて死んでも嫌だしね)

 

もしも、3人で敵と戦うとなった時。

自身の弱さで和匡と秤の足を引っ張る事になって仕舞えば、間違いなくその事を死んでも後悔するだろう。

そんな確信が彼女にはあった。

 

負けたくない。

追いつきたい。

そんな強い意志が彼女を突き動かす。

毎日毎日、コツコツ積み重ねてきた体術の訓練。

和匡がいない日だろうと、やる事は変わらなかった。

 

「今日も俺が勝つぜ?」

 

「今日こそ勝つ!」

 

2人の肉体に流れる呪力。

どちらもその流れに無駄は無く、この1ヶ月の徹底した基礎訓練の成果が、如実に顕れていた。

 

 

────────────────────

 

 

|秤金次〈俺〉にとって神崎和匡はダチであり、同志であった。

俺はアイツの熱を心底から気に入ってるし、協力してやりてぇとも思ってる。

 

初めてアイツを見た時は達観してるだけで、熱もクソもねぇ、寂しい男だと思っていた。

そう、"思っていた"だ。

 

俺の予想に反して和匡は、とんでもねえ熱を秘めてた。

白状すんなら、俺はアイツの熱を舐めてた。

それだけだった。

 

『皆と普通に生きたい、なんて言ったら嗤っちゃいますよねぇ……?』

脳裏に焼き付いて離れない、その熱に俺は灼かれた。

 

俺の信条は"熱は熱いうちに"だ。

だからこそ俺はアイツに協力したし、アイツと共にギャンブルをしようと懇切丁寧に説明してやったのだ。

にべもなく振られたけどな。

 

そんな事は置いといてだ。

俺はアイツの事はダチだと思ってる。

そんなダチに何歩も先を行かれているのは俺的には我慢ならねぇポイントだった。

 

だってそうだろ?

ダチに置いてかれた状態で、指咥えて眺めてられるほど、俺の熱は冷めてねぇんだ。

 

だからこそ、俺はアイツに追いつくし、アイツの隣でダチとして笑ってやるんだ。

「ギャンブルしねぇか?」ってな。

 

その為に必要なのは強さだ。

俺はまだ弱えし、未熟だ。

そんなもん嫌って程分からされてきた。

 

だから、強くなる為に俺に必要なのは何かを考えた訳だ。

俺の素晴らしい頭脳で以て、自問を繰り返した結果、導き出された冴えた答えは──。

 

 

────────────────────

 

 

「──領域展開しかねぇって訳よ」

 

「急にどうしたの?金ちゃん」

 

組手が終わった2人は、芝生の地面に座り込んで休憩していた。

そんな折、唐突に変な事を呟いた秤に綺羅羅は胡乱な目を向ける。

 

因みに、白熱した10本勝負の組手は、5本同士の引き分けで決着した。

両者一歩も譲らない戦いは実に1時間近く続き、組手が終わる頃にはどちらも疲労困憊であった。

 

タオルで額の汗を拭い、水を嚥下した綺羅羅は秤に再度向き直る。

彼女は秤の呟きに興味を惹かれていた。

 

(領域展開って、この前五条先生が授業で教えてくれたやつだよね?そんな事急に呟いてどうしたんだろ?)

 

そんな綺羅羅の様子に目敏く気付いた秤は、綺羅羅に詳しく事情を話し始めた。

 

曰く「ダチに追いつく為に考えに考えた結果、領域展開を習得する事が一番良いのではないか」と。

 

「それはそうだけどさ。領域展開って呪術の極地ってやつでしょ?習得までにどれくらいかかるか不明じゃない?」

 

秤の話を聞いた綺羅羅の反応がこれであった。

ここで彼が、領域展開を習得出来る前提で話しているのは、彼女なりの信用であった。

彼ならばどんな無理難題も跳ね除けてくれるだろう、という。

 

「はん、いつになろうと関係ねぇな」

 

綺羅羅の言葉に秤は愉しげな笑みを浮かべる。

 

「俺はやると言ったらやる男だからな」

 

「おお!今の金ちゃんカッコよかったよ!」

 

先程の組手によるアドレナリンの影響か、秤は些かハイテンションであった。

そんな彼の様子に綺羅羅は楽しげに笑う。

「金ちゃんのこういうところ、いいなぁ」なんて考えながらも、彼女は秤に半ば脱線しかけている話を戻す意味合いも込めて、ふとした疑問をぶつける。

 

「でもさ?いきなり飛躍しすぎじゃない?領域の前に術式とかあるじゃん。それはいいの?」

 

「俺から言わせりゃ、そこまで飛躍した話じゃない。これには俺の術式が関わってくるんだが……俺の術式は、領域がデフォルトで備わった特殊な術式だ。その効果を十全に発揮しようとするなら、領域展開はマストな訳だ」

 

秤は嫌な顔ひとつせず、綺羅羅へと説明を続けていく。

 

秤金次の術式は謂わば、賭け事を再現する術式である。

過去にも、彼の様な術式を持つ者はいた。

その時代によって、術式により再現される賭けの内容は様々であり、その時々によって十人十色であった。

 

さて、ここで重要になってくるのが、秤金次の術式の特異な点である。

彼の術式は最初から領域とセットの術式であり、その真価は領域展開時に発揮されると言っても過言ではない。

だが、領域展開には結界術の才能と、それを扱うセンスが必要になってくる。

 

領域はあるのに、それを展開する事が出来ない。

秤の課題はまさにこれであった。

 

「いいか?領域が備わってるっつーのは、領域展開が出来るってのとイコールじゃねぇ。今の俺は宝の持ち腐れなんだ。それをなんとかしねぇとなぁ」

 

「なるほど。金ちゃんの強化にはそれが一番手っ取り早いのか。 それで、結界術の練習なんてどうするの?」

 

「いんじゃねぇかよ。俺達3人の中に、結果術に長けた野郎がよ」 

 

ぴっ、と勢いよく人差し指を立てた秤は、ニヤリと笑う。

 

俺達3人、結界術に長けた野郎、そんな秤の言葉を綺羅羅は脳内で反芻する。

そうして、浮かび上がってきた人物になるほどと頷く。

 

神崎和匡という男は、シン・陰流を修めている。

即ち、簡易領域という一種の領域を扱う者である。

 

すぐ身近に居たではないか。

とんでもないお手本が。

 

「匡ちゃんか〜。たしかに、オリエンテーションの時とか帳下ろしてたし。結界術は使えるのか。気付かなかったなぁ」

 

「俺は和匡から結界術の手解きを受ける、お前は体術の底上げ。目下の課題は決まったな」

 

そう言って秤は、休憩は終わりだと言わんばかりに、立ち上がると身体を解し始める。

話し合いは終わりであった。

彼が先程までペラペラと喋っていたのは、互いの課題の整理の為である。

それが終わった今、長々と休んでいられない程に彼は、熱くなっていた。

 

「おら、組手の続きだ。俺は手強ぇぜ?」

 

そんな秤に釣られる様にして、綺羅羅も立ち上がる。

彼女の目にあるのは、次こそ勝つという闘志の炎であった。

 

「ふふ。その余裕面凹ませてあげる」

 

バチバチと散る火花。

先程迄の親しげな雰囲気から一転。

2人を取り囲む空気は、張り詰めた物へと変わっていく。

 

ズザッ、と綺羅羅が強く踏み込んだ音が鳴る。

それが開戦の合図であった。

 

1人は、他の2人に置いていかれない為に。

もう1人は、今この場に居ない男の顔面に1発打ち込む為に。

それでも2人の向く先は同じ。

 

「「もっと強く!!」」

 

2人の拳が互いの顔面に突き刺さるのは、同時の出来事であった。

 

 

────────────────────

 

 

「おお、2人とも青春してるねぇ〜」

 

そんな2人の戦いをグラウンドから離れた校舎の窓から眺めていた五条は、愉しげに呟く。

強くなろうと切磋琢磨する2人の姿に、彼は何を感じ、何を想うのか。

はたまた、懐かしい記憶を重ねるのか。

それは、彼にしか分からない事であった。

 

「はぁ……。本当なら和匡も今頃あっちに居る筈だったんだけど……上の連中には困るねぇ。若人から青春を奪うなんて、何人も許されないってのにさ」

 

その言葉を飲み込む様にして、彼は手元のカップを口元へ持っていき、その中身を飲み干す。

そうして彼は立ち上がると、出口へ向かって歩き出す。

 

「……さて、僕も任務に向かいますか!」

 

先程までの雰囲気とは一変し、今の彼は人前にいる時の飄々とした、現代最強としてのモノになっていた。

 

 





秤の術式については、独自設定になるんですかね?
取り敢えず、日車みたいなデフォで領域が備わってるタイプの術式としました。
本誌で明かされたら書き直します。

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