綾小路清隆♀のどうにかしたい教室へ   作:ぱや

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ところで原作神崎くんって綾小路くんへの評価くっそ高くないですか?
不信感抱いてるしぶっちゃけ嫌いだけど結局綾小路清隆に変わるきっかけを求めに行く、原作最新刊の前を剥き始めた神崎くんに希望を見出したので初投稿です。


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 明るくて幸せな未来。

 みんな、それを目指して競い合う。

 Aクラスというたった一組しかない枠の中を奪い合う。

 そのために他者を蹴落としたり、仲間を取りこぼしたり。

 きっと数年後、十数年後、もしくは死の間際になって振り返った時、この3年間はなんて不毛だったのかと思う時が来るかもしれない。

 けれど、その3年間を僕らは必死に生きる。

 残された仲間をこれ以上失くさないように、知恵を絞って勇気を振り絞って。

 最後はクラスのみんなで大団円を迎えるために。

 

 それぞれが胸にだいた幸せな未来のために。

 でも僕にはもう、その幸せな未来というものがなんなのか、わからなくなってしまった。

 

「平田くん……」

 

 俯き、影を伸ばす僕をみーちゃんが覗き込む。

 けどもう無理なんだ。

 無理なんだよみーちゃん。

 わかるだろ、この顔を見たら。

 涙の一滴すら流れない、この様を見たら。

 

「平田くん、あなた、いつまで立ち止まってるつもりなの」

「……また君か、堀北さん」

「あと3週間もないの。わかるわよね?」

 

 3年生最後の特別試験が幕を開けた。

 クラス変動を賭けた、正真正銘最後の試験だ。

 前回の特別試験で坂柳クラスを抜いた僕らが今のAクラス。

 この試験でもよっぽどのことがない限りは死守できるだろう。

 そう()も言っていた。

 でも他クラスが易々と逃げ切りを許すわけもない。

 最後だからこそ、他クラスも捨て身の攻撃を仕掛けてくるのは分かりきっていた。

 だから気を抜いている暇なんかないし、今まで以上にクラス一丸となって取り組まなければならない。

 わかっている。

 誰に言われなくったって、僕が一番わかっている。

 

 でも、もう意味がないんだ。

 ここまで踏ん張ってきた意味がない。

 僕は、僕は、もう、疲れたんだ。

 疲れたんだよ、ねえ、綾小路くん──。

 

「平田くん」

 

 男は涙を簡単には流せない。

 どうしようもない時に、心許せる相手にしか流せない。

 1年生の最後。

 過去の罪を告白し、蹲る僕の腕を引き上げてくれた君は、もういない。

 

 

 

 ─ 4 ─

 

 

 

 月末だ。

 定期テストも、その結果発表も終わった。

 さて退学者は出たのかといえば── 1人も出なかった。

 1点落とした須藤をまたポイント払って救出したのかと言えば違う。

 今回は須藤にも赤点を回避してもらった。

 前にアイツが寝落ちして覚え損ったことを思い出して、夜に須藤に電話をかけたのだ。

 間違えて電話してしまった、ということにしたが、それで寝落ちを回避できたのはテスト直前に把握できた。

 逆に他のところを忘れて結局赤点になるんじゃ、と思っていたがそうならなくて何よりだ。

 万一に備えて平田にポイントで点を買える可能性を吹き込んでいたが、使わなくて済んだならそれはそれでいい。

 

 ちなみにテスト範囲の変更に伴う過去問については、堀北学から生徒会の手伝いと引き換えに入手。

 前回は櫛田経由で配ってもらったが、今回は平田経由で配った。

 無人島試験までには平田をリーダー的ポジションにしたかったからな。

 イケメン嫌いを公言している池や山内たちの平田に対する好感度を上げたかったのもあって、過剰にならない程度に平田を盛り立てた。

 あんまり平田をプッシュしすぎるとそれはそれで好感度下がりそうだし、いつの間にか平田と契約済みの軽井沢に睨まれたら動き辛いから、本当にちょびっとだけだが。

 でも驚いたな。

 注意して接触していたとはいえ、軽井沢の私に対する好感度はそう高くない、と思っていた。

 軽井沢の性格を思えば、寄生先の平田と接触の多い私は歓迎されるポジションではないと……だが神崎との仲を疑われているからか、それとも別の理由か。

 平田の親しい友人、あるいは参謀役である私の存在は、軽井沢の中ではまだ許容範囲のようだ。

 

 そういえば神崎との噂は平田の耳にも届いていたようで、なぜか心配そうな顔で関係性を聞かれた。

 軽井沢たちの誤解だ、と説明したら苦笑いが返ってきたが。

 ああでも、日本語のマンツーマンレッスンをするんだと言ったらまた複雑そうな顔になっていたな。

 大方、それで恋人関係に発展した後のことでも心配しているのだろう。

 クラスが違うからな。

 それで妙な軋轢を生まないか心配しているのかもしれないが、私は恋人を作るつもりはないし、神崎にだって女を選ぶ権利くらいある。

 これから起きることを思えば、そもそも神崎に恋愛してる暇なんてないだろうしな。

 2ヶ月経った今じゃ、平田ももう噂のことなんて忘れてるだろう。

 

『綾ちゃん、放課後どうします?』

『みーちゃんには色々と世話になったからな……カフェテリアに行かないか? ご馳走させて欲しい』

『そんなっ! 私、そんなすごいことしてないですよ!』

『いいや、してくれた。自分で言うのもなんだが数学や英語はともかく── 国語は諦めようかと真剣に考えていたくらいだ』

 

 日本語がそう得意ではない帰国子女という設定。

 これを貫くために国語を赤点ギリギリにするか、それとも神崎とのマンツーマンレッスンで飛躍的にできるようになったか。

 どちらかの方法で進めようと思っていたんだが、ラッキーなことにみーちゃんが講師役として名乗り出てくれた。

 得意ではない、とは言っても完全にできないという設定ではない。

 ただ常用漢字のうちいくつかが難ありという程度だったから、漢字に詳しいみーちゃんとの勉強会でそれを補うことができたのだ。

 私の点数は5教科トータル455点。

 数学の文章問題、国語で点数を落とし、英語を100点、それ以外を80〜90点以内に収めた。

 学年でもかなり上位の成績だ。

 平田や軽井沢、そしてその一味からはかなり誉めそやされたものだ。

 意外なことに幸村からも声をかけられた。

 総合点数で言えば幸村の方が若干上なのだが、帰国子女というハンデがある状態でここまでの点数が取れるとは思ってなかったらしい。

 ついでのように勉強会の際の態度も謝罪された。英語で。

 相変わらず律儀なやつだ。

 でもまあ、これで今後も勉強会を開くときは率先して講師役を引き受けてくれるようになるだろう。

 具体的には体育祭後のテストとかで、な。

 

「綾小路さん、みーちゃん。これから軽井沢さんたちとケヤキモールに行くんだけど、どうかな?」

「ああ、それなんだが、みーちゃんとカフェテリアに行く話をしていたんだ」

「そっか。それじゃあ、またの機会の方がよさそうだね」

「悪いな、平田」

「ううん。でも定期テストのお礼もしたいし、また改めて誘わせてほしい」

「わかった。またスケジューリングしよう」

 

 別れ際に平田に軽くハグをする。

 欧米文化ではボディランゲージは大事なコミュニケーションツールなのだ。

 ついでに近寄ってきた軽井沢にも軽くハグしておく。

 平田だけじゃなくクラスメイトになら誰であってもハグするような人間なのだ、綾小路清隆という女は。

 ……これだと私がとんでもないやつになってしまうな。ま、あながち間違ってはいないから良いか。

 和気藹々とケヤキモールに向かっていく一団を、私はみーちゃんと共に見送った。

 この2ヶ月で支給されたポイントは微々たるもの。

 彼らの懐事情が気になるところだが── これまで頑張って節制してもらっていたので、その反動もあるのだろう。

 今日が月末なのも影響しているのかもしれない。

 現時点でクラスポイントは140ほどのはず。

 明日、7月初日。

 何事もなければ1万4千ポイントが振り込まれるはずだ。

 そう、()()()()()()()

 

『……ところでみーちゃん、私の後ろに隠れてどうしたんだ?』

『な、なんでもないです……!』

 

 おっと、どうやら惚れイベントは済ませた後らしい。

 

 

 

「綾小路」

「……神崎か。おはよう」

「おはよう。突然声をかけて申し訳ないが、ポイント、振り込まれたか?」

「いや……されてないな」

「そうか。他のBクラスのメンバーにも確認したんだが、誰も振り込まれていないらしい」

 

 翌朝、寮のエントランスで神崎と遭遇した。

 その手には携帯端末が握られているわけだが、どうやら前と同じことが起きたようだ。

 まあ、特に回避しようと思ってあれこれ手を回したわけじゃないからな。

 この可能性も考えていたが、これまでと違う選択肢を重ねてきたんだ。

 起こらないパターンもあるんじゃないか、と思っていただけに、少し落胆した。

 だが起こってしまったものは仕方がない。

 それに、まだ須藤がやらかしたとは決まってないからな。

 

「困ったことになったね」

「須藤くんマジで最悪じゃない?」

 

 須藤がやらかしてた。

 私の期待を返してくれ。

 

 もしかして意図的に回避しようとしない限り、須藤の一件は確定事項だとでもいうのか?

 1年生全員のポイント支給が遅れて丸一日。

 当初は学校側のミスだと思い込んでいたDクラスの面々は、こぞって須藤に攻撃した。

 結果、須藤は激昂してまた教室を飛び出し、囂々と向けられる非難は平田がいなしたものの燻り続けている。

 せっかくまとまりかけていたクラスも、これでまた烏合の衆に逆戻りというわけだ。

 

「僕は須藤くんを信じたいと思うんだけど…‥どうかな、綾小路さん」

「難しい相談だ。須藤の素行の悪さはクラス中の知るところだし、人間は一朝いちゆーでは変わらないというから」

「それをいうなら一朝一夕(いっちょういっせき)だ、綾小路」

「そうだった。教えてくれてありがとう、幸村」

 

 入学初日から定期テストまでの流れから、平田は私に相談するのがスタンダードになってきた。

 何にでもすぐに意見を求められるのは面倒ではあるが、親しい友人同士なら助け合うのが普通か。

 軽井沢たちも当然のように私に意見を求めてくるし。

 帰国子女であることや小テスト、定期テストの成績、そして幸村に反論した一連の流れも影響しているのだろう。

 いつの間にか幸村も当然のように側にいるしな。

 

「須藤、くんを信じ切れないメンバーがいるのは、仕方がない。でも、クラスメイトを信じるのは、円満なクラス運営の上で必要なことだ。須藤、くんの一件に関して、先生たちに詳細を聞いた方が良いかもしれない。その上で、冤罪の可能性があるなら証拠集めをしよう」

「じゃあ、先生には僕が聞いてくるよ」

「俺もついていっていいか? 平田」

「もちろん。心強いよ、幸村くん。軽井沢さんたちには、目撃者がいないか探ってもらってもいいかな?」

「オッケー! 綾小路さんたちはどうする?」

 

 前と同じなら、目撃者は佐倉だ。

 でもそれを指摘する術はないし、現状の佐倉に矢面に立ってもらうのは厳しい。

 まずは、そうだな。

 Bクラスあたりに協力を要請するか。

 なんとも頼もしいことに、私の日本語の先生はBクラスのNo.2だから、な。

 

「他クラスに声をかけると言っても、クラスポイントを争うって意味では敵だぞ。まともな情報がもらえるかも怪しい」

 

 幸村の意見も尤もだな。

 だが、もし今後クラス間で争うことがあったら話は変わるはずだ。

 でもそれを伝えるのは今じゃなくても良い。

 そこまで見通していたら、平田じゃなくて私が矢面に立たされそうだ。

 平田に忠実な良き友達で参謀役。

 それくらいのポジションを欲している私としては、目立つとしても程よくが望ましい。

 平和主義で性善説に基づいて動く平田の友人らしく、私も性善説に因って答えるとするか。

 

「幸村が考えているほど、神崎は悪いやつじゃないさ」

 

 なぜか平田が複雑そうな顔をしていたが、今回はスルーした。

 

 

 

 平田たちと別れた後、早速神崎に事情を説明して協力を求めると、やや間を置いて了承の返事がきた。

 だが協力するのに条件があるようだ。

 それはそうだ。

 何事もタダより高いものは無いし、ましてや他クラスなんだから協力する義理も何もない。

 条件付きだとしても協力しようとしてくれている、その事実が大きいのだ。

 

「待たせたか」

「いいや、今きたところだった。……ところで、彼女が?」

「ああ、そうだ。彼女が──」

「どうもー! 初めましてだね、綾小路さん! Bクラスの学級委員長、一之瀬です!」

 

 にっこりと人の()さそうな笑みを浮かべる女子生徒。

 好さそうなも何も実際にいいやつなんだけどな。

 いいやつすぎて3年間とんでもない苦労を背負うことになるが、一之瀬もまた3年生に上がる頃には随分と成長した。

 一時期は神崎と衝突することもあったが、それを乗り越えた一之瀬はオレからしても厄介な相手だった。

 何せ、一之瀬には【信頼】という大きな盾があった。

 あの櫛田が虚像の上でしか得ることができなかったものを、素のままものにしていた一之瀬の人望の厚さには敵わない。

 その人望を最初っから使いこなせていたら。

 一之瀬クラスの内情もまた変わったかもしれないな。

 しかしこれは机上の空論に過ぎない。

 今考えることでもなかった。

 

「それで、一之瀬、さんも一緒に行動することが条件、だと言っていたが……むしろ、こちらにメリットしかないが?」

 

 一之瀬は入学してから3ヶ月しか経っていないにも拘らず、すでに多くの人望を集めていた。

 その一之瀬が手を貸してくれるなら百人力どころの話じゃない。

 そう気持ちを込めて神崎を見つめると、その隣に立っていた一之瀬が代わりに口を開いた。

 

「にゃはは……前々から綾小路さんとお喋りしてみたかったんだー! Dクラスの美少女帰国子女! それに、神崎くんはうちのNo.2だからね。その神崎くんがウッキウキで携帯見てたから気になって──」

「一之瀬!」

「おっと、余計なことをいうところだった。……えーっとね、これは私のわがまま半分、残り半分は、綾小路さんがどんな人なのか実際に見てみたかった、っていうのが一つ」

 

 警戒されていたのだろう。

 まあ無理もない。

 Dクラスは不良品の集まりだ、というのは言外にどのクラスにも伝わっているのだろう。

 そのDクラスに所属していながら、私の学力は上位クラス並みに高かった。

 それに、早い段階でSシステムのカラクリに気づいていたって話も、どこからか伝わっていたんだろうな。

 異質とも言えるようなやつが、クラスのNo.2と仲良くなり、さらには協力要請を求めてきた。

 これで裏のあるやつだったらクラスのピンチに繋がるから、リーダー直々に見にきたと言ったところか。

 

「一之瀬やクラスメイトに心配させてしまったんだな。すまない。神崎があまりにも頼りになるので、メッセージを送ってしまった」

 

 おい神崎、褒められ慣れているはずだろ。

 なんで顔を赤くしてるんだ。

 あと、一之瀬もなんでニヤついてるんだ。

 クラスメイトが褒められて嬉しいって顔なのか? そうなんだよな?

 

「い、いや、気にしないで欲しい。困り事があれば助ける、と先に言ったのは俺の方だから」

「むしろこっちこそ監視目的みたいな聞き方になっちゃってごめんね! 綾小路さんにそんな意図がないっていうのは、話してるうちにわかったよ。……協力してほしいっていうのは、噂になってる須藤くんの暴力事件のことだよね」

 

 ひとつ頷く。

 暴力事件の一件はすでにBクラスでも話題になっていたらしい。

 

「伝える順番が逆になっちゃったけど、実は私たちの方から綾小路さんに声をかけようと思っていたんだ」

「それは、どうしてだ?」

「俺たちのクラスは、実はつい最近までCクラス── 今回の須藤の一件でも絡んできたCクラスの面々に嫌がらせを受けていたんだ」

「そうそう。自習の妨害とか、そういうのをね。須藤くんとトラブルになったのがCクラスの生徒って聞いて、もしかしてって思ったんだ」

「……それは、Cクラスにはめられた可能性がある、ということか?」

 

 一之瀬と神崎が頷く。

 これは間違いなく龍園の策略で、はめられたというのは大正解だ。

 だが現時点でDクラスは諸々の情報が不足している。

 自分達のことで手一杯で他クラスにまで意識が回らなかった結果、ともいうが。

 私はCクラスにはめられる意味がわからない、という空気を醸しながら、とりあえず2人の助言に感謝を述べた。

 

「クラス内にいたら知り得なかった視点だ。神崎、一之瀬、本当にありがとう」

「ううん! もしかしたら気のせいってこともあるかもだし……でも、綾小路さんは須藤くんは無罪だと思ってるんだよね」

「ああ。確かに須藤は素行が良いとは言えない。突発的に手が出ることもあるが、自分から誰かを呼び出して暴行を加えるようなやつではない、と思ってるんだ。これがCクラスの策略だとして、須藤が狙われたのはおそらく──」

「綾小路には悪いが、十中八九、【本当に暴力事件を起こしていても違和感がない】からだろうな」

 

 その通りだ。

 この点だけ見れば、他人にそう思わせるほど素行の悪かった須藤に罪がある。

 だが、この一件をきっかけに須藤は自制を学び、成長していくのだ。

 面倒臭い事件ではあったが、今後の須藤の活躍を思えばこの一件を潰すのはあまりにも惜しい。

 だから無理に事件を潰さず流れに身を任せたのだが……。

 それに、前回この事件が起きた時、公式に事件が発表される前に須藤はオレに助けを求めにきた。

 どうしてオレに助けを求めたのか、理由は明白だ。

 オレは堀北と行動を共にすることが多く、勉強会も、勉強会後の打ち上げも一緒にしたから。

 なんならオレの部屋が勝手にグループの部屋として使われてたこともあったしな。

 池や山内では頭が足りないから、オレと、それから当時はまだ天使の輪っかを浮かべてた櫛田に頼った。

 でも私は違う。

 日常のほとんどをみーちゃんと共に行動し、クラスのリーダー的ポジションである平田に助言する参謀役みたいな役回りをこなしている。

 須藤とはほとんど話したこともないし、あっても寝落ちを防ぐために電話した時くらいだ。

 勉強会だって一緒じゃない。

 だから今日、茶柱から発表されるまで私は何も知らなかった、というわけだ。

 

「この情報は平田たちにも共有したいと思うんだが、いいか?」

「もちろん、いいよ。それで、目撃情報とかが知りたいんだっけ?」

「ああ。私はまだそんなに知り合いがいないから、顔の広そうな神崎に頼もうと思ってたんだ。一之瀬も手伝ってくれるなら、本当に助かる。百人力だ」

「そこまで期待されるとちょっと照れちゃうな〜! でも頑張ってみるよ!」

「よろしく頼む。……それから、後付けの頼みになって申し訳ないんだが、もうひとつ頼みを聞いてほしい」

「なにかにゃ?」

 

 相変わらずあざとい語尾だ。

 だがこれが一之瀬の良さであり、口調とは裏腹に真剣そうな瞳には謎の説得力がある。

 

「私の他にも、須藤の事件に関して目撃者や冤罪の証拠となるものを探している生徒がいるんだ。堀北って、知ってるか?」

「うん、知ってるよ。定期テストでも上位にいたよね」

「その堀北なんだが、須藤の勉強の面倒を見ていたのが彼女なんだ。きっと今回も手を尽くそうとするだろう。よかったら彼女のことも手伝ってほしい」

「いいけど……私たちが綾小路さんに情報を渡して、綾小路さんが堀北さんに伝える、っていうのじゃだめかな?」

「それなんだが……私の日本語がよくなかったのか、堀北に嫌われてしまったらしくてな……」

 

 表情筋が硬いせいでろくに表情が作れないのが悩ましいが、声のトーンを落としておけば困ってる風なのは演出できるだろう。

 実際には全く困っていない。

 堀北にあれこれ言われないのはこんなに快適なのか、と実感しているくらいだ。

 しかし、堀北にはそろそろ妥協する精神と、他人を使いこなすことを覚えてもらわなくてはならない。

 須藤の一件は、堀北に忠実な駒を作ってやる良い機会でもある。

 それに須藤の手綱を握るポジションは重要なものだからな。

 ……私が握れば良い? よしてくれ、私には堀北のように3年間須藤の片恋アタックを退(しりぞ)ける根性はない。

 

「堀北さんの件もわかったよ。任せて!」

「ありがとう」

「……それよりそれより! 神崎くんと付き合ってるってほんと!?」

「ゴホッ」

「大丈夫か神崎」

 

 盛大にむせる神崎。

 出会ったのは勉強会を始めた頃、つまり5月なのだが、それから2ヶ月経った今もまだ噂されているらしい。

 娯楽に満ち溢れているはずのここで、恋愛沙汰はなかなかのエンターテイメントだったようだ。

 BクラスとDクラスであること、それから毎週のように2人で勉強会を開いてることも噂が長引いている理由かもしれない。

 しかし露骨に反応すればするほど噂に尾鰭(おひれ)がつくものだからな、毅然とした態度を見せるのが大事なんだ。

 だから神崎、お前も初心(うぶ)なわけじゃあるまいにいちいち照れるな。

 オレの知ってる神崎はこう、もっとクールな感じ……いや、2年生になってからは常に追い詰められて憔悴してたからクールでもなんでもなかったか。

 だが噂された程度で赤くなるような男でもなかった。

 まだ1年生の序盤だから、というのもあるかもしれないが。

 

「一之瀬、それは単なる噂だから否定しておいてくれ。神崎の迷惑になるようなことはしたくないからな」

「……だってさ、神崎くん」

「……迷惑には思ってない」

 

 まあ神崎との勉強会も直に終わる。

 そう、須藤の暴力事件が過ぎたらすぐ── 南の島だから。

 神崎ももう噂に構う気力も、それに削ぐ時間も消えるだろう。

 今回の無人島試験、DクラスはBクラスさえ追い落とす予定なのだから。

 

 

 

 

 

 

 なんでもないいつも通りの放課後、カフェテリア。

 私はアフターヌーンティーを楽しみながら、頭上に落ちた影を見つめた。

 

「よお、うまくやってくれたもんだな、綾小路」

 

 その表情は楽しげで、それでいて青臭い。

 この男も、1年生のこの時期は単なる路肩の小石程度だったんだがな。

 だが着眼点も悪くなければ、素質は十分にある男だった。

 軽井沢の一件があった後も、こいつの退学を惜しむくらいには評価していたさ。

 2年生になってからも、3年生になってからも。

 

 お前はずっと面白いやつだったよな── 龍園。





次は龍園さんのターンだ!
いけっ! 綾小路さん!
海外在住あるあるスキンシップで龍園さんにダイレクトアタック!

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